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    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

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    TF主ルチ。ルチに嘘を見抜かれる話です。復讐を掲げたモブの男の子が出てきます。

    ##TF主ルチ

    「お前、僕とデュエルしろよ」
     町を歩いていると、後ろから声が聞こえてきた。舌足らずで甲高い、小学生くらいの子供の声である。これくらいの歳の知り合いは多いが、聞き覚えのない声色だ。自分への言葉ではないと思って、そのまま通りすぎようとする。
    「聞こえなかったのか? 僕とデュエルしろよ」
     声の主は、続けてデュエルを挑んでいる。またしても、僕の近くから聞こえてきた。休日の昼間だから、相手に声が届かないのだろう。大変そうだとは思いつつ、振り返らずに目的地を目指す。
    「おい、無視するなよ。デュエルだ!」
     今度は、三度目の声が聞こえてきた。相変わらず、僕の真後ろからである。心当たりは微塵にもないが、この少年のお目当ては僕なのだろうか。無視するのも悪い気がして、恐る恐る後ろを振り返る。
     そこには、制服姿の男の子が立っていた。龍亞やルチアーノが着ているのと同じ、アカデミアの男子制服だ。歳も彼らと同じくらいで、くりくりとした瞳がかわいらしい。しかし、今この時だけは、その表情も好戦的に歪んでいた。
    「やっと挑む気になったのか? このまま逃げたら、臆病者だって言い回ってやったんだけどな」
     好戦的な声色で、男の子は言葉を続ける。ルチアーノに負けず劣らずの、大人びていて生意気な態度だった。もしかしたら、彼も秘密結社の幹部かもしれない。そんなことを考えてしまって、少しだけ身構える。
    「君は、誰? どうして、僕に声をかけたの?」
     尋ねると、少年は小さく鼻を鳴らした。鼻を抜けるような幼い声で、容姿に似合わない態度を見せる。
    「はぐらかしたって無駄だよ。お前がイリアステルのメンバーであることは、僕には分かってるんだから。また、町で悪さでもしてたんだろ」
     その言葉に、僕は身体を強ばらせた。少年の口から出た言葉には、イリアステルという単語が混ざっていた。その名前を知っているのは、一部の人間だけである。この少年は、ただ者ではないのだ。
    「イリアステルのことを知ってるの?」
     警戒を露に尋ねると、彼は敵意を剥き出しにする。今にも噛みつきそうな態度で、僕に向かって捲し立てた。
    「当たり前だよ。お前たちイリアステルは、父さんを殺した仇なんだから!」
     ようやく、話の流れが見えてきた。この少年は、イリアステルに親を奪われた復讐者なのだ。ルチアーノたちは目的のために、町の権力者を操っている。彼の父親も、失敗したか秘密を漏らしたかで、懲罰の対象になったのだろう。犠牲者の身内が復讐を企てるのは、彼曰く『よくある話』らしい。
     制服姿には似つかない物騒な言葉に、通行人がチラチラとこちらを見た。これ以上目立ったら、セキュリティに通報されてしまうだろう。場所を変えた方がいいと思った。
    「ちょっと、こっちに来て」
     少年に声をかけると、早足で路地裏へと足を踏み込む。威嚇するように小言を言いながらも、彼は僕の後をついてきた。
    「なんだよ。逃げるつもりなのか? そんなのは許さないぜ」
     威嚇の言葉を投げかけながら、少年はデュエルディスクに手を伸ばす。強気な態度を取っているが、その声は少し震えていた。復讐の炎に燃えていても、中身はただの男の子なのだ。イリアステルのメンバーに挑むのは、やっぱり怖いのだろう。
    「勝負は受けるよ。その代わり、僕が勝ったら復讐はやめてほしい。分かった?」
     そんな少年に言い聞かせるように、僕は静かに言葉を告げた。言い方が気に入らなかったようで、彼は不満そうな顔をする。眉を吊り上げる仕草も相まって、どことなくルチアーノに似ている気がした。
    「なんで、そんなこと決められなくちゃならないんだよ。僕の勝手だろ」
    「これ以上、犠牲を増やしたくないから」
    「は?」
     畳み掛けるように言うと、今度は少し怯んだらしい。すぐに気を取り直すと、デュエルディスクを起動する。僕がデュエルディスクで応じると、強気な態度で捲し立てた。
    「まあ、僕が勝てばいいだけだろ。デュエル!」

     予想はしていたが、彼は闇のカードを持っていた。それも一枚ではなく、三枚はあるらしい。イカサマをしていたのか、初手から闇のカードを引いていたから、開始早々物理ダメージをお見舞いされることになった。
     バーンダメージを正面から受けて、僕は大きくバランスを崩す。無意識についた手のひらが、地面に擦れて血が滲んだ。少年は満足そうに笑って、追撃を仕掛けてくる。一瞬のうちに、僕のフィールドはがら空きになってしまった。
     少年の使うカードは、僕の知っている闇のカードとは違っていた。ルチアーノとのデュエルで物理ダメージには慣れているはずなのだが、上手く受け身が取れないのだ。少年の畳み掛けるような猛攻に、僕の身体は傷だらけになってしまった。
     しかし、闇のカードを持っているからと言って、デュエルの腕が上がるわけではない。僕はすぐにモンスターを召喚し、相手の守りを崩していった。ダメージによる怪我は防げなくても、痛みそのものは大したことないのだ。あっという間に形勢は逆転し、僕は有利を取っていった。
     僕の繰り出す数々の攻撃は、少年にダメージを与えたりはしないようだ。年端もいかない子供を傷つけるのは忍びないから、これには安心した。
     相手のライフをゼロにすると、僕は正面から少年を見つめた。物理的なダメージを受けてもけろっとしている僕が恐ろしいのか、少年は怯えたように視線を向ける。なんで、という呟きが、小さな唇から零れ落ちた。
    「僕の勝ちだね。約束通り、復讐をやめてもらうよ」
     畳み掛けるように言葉を放つと、少年は悔しそうに下を向いた。泣いているような鼻声で、絞り出すように言葉を発する。
    「嫌だよ。お前らみたいな人殺しを、野放しにしておけるもんか。お前らは、僕が始末するんだ……!」
     悲痛な叫びだった。心臓が締め付けられるように痛んで、一瞬口を閉じてしまう。この少年も、心に悲しみを抱えているだけのただの男の子なのだ。イリアステルが世界を救おうとすると、小さな悲しみがいくつも生まれる。
    「これは、君のために言ってるんだよ。復讐を企んでる人間がいたら、イリアステルは放っておかない。君も、お父さんと同じ目に遭うよ」
     声が震えないように気合いを入れながら、僕はなんとか言葉を続けた。目の前の男の子が、怯えた様子で僕を見上げる。間接的にとは言っても、死を突きつけたのだ。ただの小学生である彼には、恐ろしくて仕方ないだろう。
     黙り込む男の子を残して、僕は路地裏を出た。これ以上ここに留まって、セキュリティを呼ばれたら困る。ルチアーノの手を煩わせることだけは、絶対に避けたかった。

     家に帰る頃には、すっかり日が暮れてしまった。あの少年とデュエルをしたことで、用事を終えるのに時間がかかってしまったのだ。出会った人々は普通に接してくれたが、今の僕は全身が傷だらけだし、服も所々ほつれている。どう見たって怪しい人だっただろう。
     これは、ルチアーノに気付かれる前に着替えなくてはならない。そう思ったけど、物事は上手く運ばなかった。こういう日に限って彼は帰りが早くて、僕の帰宅を待ち構えていたのだ。こっそり着替えを取りに行こうとするが、すぐにルチアーノに見つかってしまう。
    「帰ってたのか」
     僕の前に立ちはだかると、ルチアーノは低い声で言った。僕がこっそり離れようとしたことが、彼には気に入らなかったらしい。咎めるような声色だった。
    「帰ってたよ。服が汚れちゃったから、先に着替えようと思って」
     平然を装いながら言うと、僕は自室に足を踏み入れる。電気はつけずに、廊下の光だけを頼りにタンスを探る。薄暗い部屋では目立たないかと思ったが、機械である彼には関係ないようだった。
    「どうしたんだよ、その傷」
     僕の背中に、ルチアーノの鋭い声が突き刺さる。どう答えようかと悩んで、僕は僅かに口を閉ざした。素直に答えてしまったら、あの少年はイリアステルに狙われてしまうだろう。余計な悲しみを増やすことだけは、どうしてもしたくなかった。
    「ちょっと、町で転んじゃったんだ。土もついちゃったから、早めに着替えようと思って。ご飯を食べるのに、汚れた服のままじゃあ嫌でしょう」
     考えていた言い訳を告げると、そのまま服を脱ぎ捨てる。暗闇の中で晒された身体は、ルチアーノの瞳にはどう映ったのだろうか。その視線を遮るように、新しい服を頭から被る。うっかり青痣に触れてしまって、ピリピリと痛みが走った。
    「……それ、嘘だろ」
     少し遅れてから、ルチアーノが冷たい声で言う。鋭い言葉に、背筋が凍るような思いがした。あまりにも真っ直ぐな言葉だったから、何を言われているのか分からなかったくらいだ。
    「えっ?」
    「本当は、転んだ傷じゃないんだろ。誰にやられた? 何が目的だった?」
     畳み掛けるような語調で、ルチアーノは言葉を続ける。僕の決死の隠し事は、彼の前では無意味だったようだ。瞳は真剣そのもので、今にも犯人を捉えようとしている。その瞳に恐怖を感じて、僕は慌てて答えた。
    「大丈夫だよ。こんな傷大したことないから、気にしないで」
    「これが気にしないでいられるか? 君を襲った相手は、イリアステルに手を出したんだ。これは宣戦布告と捉えられてもおかしくはないんだぜ。見つけ出して、相応の罰を与えないと」
     本気の怒りを含んだ声で、ルチアーノは淡々と言葉を続ける。彼がここまで怒っているのは、僕が傷つけられたからなのだろうか。それとも、イリアステルに宣戦布告をされたと感じたからなのだろうか。ともかく、彼を落ち着かせなくては、あの男の子が危険に晒されてしまう。
    「大丈夫だよ。僕からも忠告したし、ちゃんとデュエルで倒してきたから。相当怖がってたみたいだし、これ以上は挑んで来ないよ。だから、何もしないでおいてあげて」
    「そうはいかないよ。イリアステルの存在を突き止めたなら、相応の報いを受けなきゃいけない。それが、僕たちの決まりなんだから」
     僕の前で仁王立ちをしながら、ルチアーノは言葉を続ける。少しも引く気は無さそうだった。仕方なく、僕は自分の本心を語る。
    「ルチアーノが手を下そうとするのなら、僕はルチアーノを止めるよ。僕は、これ以上悲しむ人を増やしたくはないんだ」
     僕の言葉を聞いて、ルチアーノは口を閉ざした。彼にも、僕の言いたいことは分かるのだろう。元々は、彼自身も悲しみを背負った子供だったのだから。
    「……分かったよ。今回は見逃してやる」
     しばらく間を開けた後に、ようやくルチアーノは言葉を吐いた。悲しみに震えているような、迷うような声だった。彼は思い出しているのかもしれない。自分が、両親を無くした子供であった頃のことを。
     部屋から出ると、僕たちはリビングへと向かった。全身を覆う痛々しい傷を、ルチアーノが手当てしてくれる。消毒液を流し、絆創膏を貼り終えると、僕は夕食の準備に取りかかった。
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