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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチ。女装したルチに町中を引っ張られるTF主くんの話です。ルチに振り回されたい願望でできてます。

    ##TF主ルチ

    いたずら「ねえ、お兄ちゃん。今度はこっちのお店に行かない?」
     僕の隣から、甲高い声が聞こえてきた。女の子の出すような、ねっとりと甘い猫撫で声である。言葉が終わらないうちに、ぐいぐいと腕を引っ張られた。
     声のした方へ視線を向けると、そこにはルチアーノの姿がある。僕の腕に腕を絡ませて、ご機嫌な笑顔を浮かべていた。にやにやとした笑みはいつもと変わらないが、その格好は普段とは違っている。今日のルチアーノは、水色のワンピースに身を包んでいるのだ。
    「待ってよ。本当に、ここに入るの?」
     尋ねると、ルチアーノはにやりと笑う。力強く腕を引っ張ると、僕をお店の入り口へと引きずった。
    「本当よ。私、新しい髪飾りがほしいもの」
     女の子の声を保ったまま、ルチアーノは僕の顔を見る。キラキラと輝く緑の瞳が、真っ直ぐに僕を貫いた。ほんのりとメイクを施した彼の姿は、まるでおませな女の子だ。真正面から見つめられると、倒錯的な姿にドキドキしてしまう。
     ルチアーノの導く先は、女の子向けの雑貨店だった。アンティーク調の建物のショーウィンドーに、可愛らしい置物や髪飾りが展示されている。店内も女の子ばかりで、男が入るには勇気がいる感じだった。
    「僕は、外で待ってるよ。一人で買っておいで」
     馬鹿力に抗いながら答えるが、ルチアーノは引き下がらない。寂しそうな表情を見せると、甘えるような声色で言う。明らかに、僕をからかっている様子だった。
    「一緒に来て。お兄ちゃんに、似合うものを選んでほしいの」
    「えっと、それは、僕よりも適任がいるんじゃないかな」
    「ダメなの……?」
     上目遣いで見上げられたら、ダメだとは言いづらい。話も長くなってしまったし、周囲の視線が痛くなってくる頃だ。話を終わらせるために、覚悟を決めて返事をする。
    「分かったよ。ついていくから」
    「やったあ! ありがとう」
     可愛らしい声で言いながら、ルチアーノは僕を引っ張る。可憐な見た目とは裏腹に、信じられないほどの馬鹿力だった。

     予想通り、店内は女の子ばかりだった。それも若い子が多くて、全体的にキラキラとしたオーラに満ち溢れている。内装もリボンやレースに溢れていて、僕には縁の無い空間だった。
     隣では、ルチアーノがしきりに話しかけてくる。似合う? かわいい? という問いが聞こえてくるが、僕には答える余裕もなかった。僕たちが店内を移動する度に、女の子がちらりとこちらを見る。それもそうだろう。キラキラとした空間に、明らかにおしゃれに興味のない男が紛れ込んだのだ。浮いて浮いて仕方ない。
     これは、ルチアーノのいたずらなのだ。時々、僕をからかいたくなった時に、ルチアーノは女の子の格好で僕の前に現れる。強引に僕を引っ張ると、おませな女の子を演じる恋人ごっこで、女の子しか行かないような場所に連れ回すのだ。慣れない環境に挙動不審になる僕を見て、周囲の通行人には見えないところでにやにやと笑っている。非常に迷惑な遊びだった。
     散々からかわれながら買い物を済ませると、ルチアーノは僕の腕に抱きついてきた。強い力でぐいぐい引っ張りながら、女の子らしい声で言う。
    「次は、あっちに行こう!」
     バランスを崩しながらも、僕は大人しく彼についていった。本気で引っ張られたら、人間である僕には到底太刀打ちできない。大型犬を散歩する飼い主のようになりながらも、通行人をかわして先へと進む。
     ルチアーノが向かった先は、大きなゲームセンターだった。賑やかな店内へと足を踏み入れると、真っ直ぐに階段を上っていく。どこに向かうのかと思っていると、プリクラコーナーの前で足を止めた。
    「お兄ちゃん、一緒にプリクラを撮ろうよ」
     僕だけに見える角度で笑みを浮かべながら、彼は可憐な声で言う。声色のあどけなさとは対称的に、その言葉は恐ろしいものだった。ルチアーノにとってプリクラとは、僕をからかうための道具なのだ。
    「え? プリクラ?」
     逃げ腰になる僕を見て、ルチアーノは楽しそうに笑う。僕の腕を引っ張ると、女の子の声で言葉を続ける。
    「そう。プリクラ。思い出になるでしょ」
    「でも、僕は映りが悪いから……」
     拒絶の言葉を重ねると、ルチアーノは寂しそうに下を向く。可愛らしい女の子の声を作ると、寂しそうに呟いた。
    「撮ってくれないの? 私、思い出が欲しかったな……」
     そんなことをされたら、さすがの僕も罪悪感を感じてしまう。相手がルチアーノであることは分かっているのだが、女の子の擬態が上手すぎるのだ。周囲の人々から女の子を悲しませる大人と思われるのも印象が悪い。
    「分かったよ。一回だけね」
     結局、僕は彼の提案に乗ってしまった。機体の中に入ると、投入口にお金を入れる。機械と格闘する僕を見て、ルチアーノは楽しそうに笑っていた。なんとか撮影を終えると、隣の落書きコーナーへと移る。
     ここでも、ルチアーノはやりたい放題だった。パネルを操作すると、僕の写真に落書きを載せていく。化粧をつけたり装飾をつけたりと、やりたい放題に飾っていた。
    「見て見て、メイクができるよ」
    「かわい~。リボンも似合ってるよ」
    「スタンプも押せるんだって。いろいろ載せちゃおう」
     楽しそうに笑いながら、彼は一心に手を動かす。僕の写真は厚化粧に飾りだらけなのに、自分の写真は適度な薄化粧だ。悔しくなってルチアーノの顔を飾ろうとするが、元がいいから何をしてもかわいくなってしまう。プリントされたシールを受け取りながら、悔しさに唇を噛んだ。
     最後に連れていかれたのは、興業施設のお化け屋敷だった。建物の空いているフロアを利用した、期間限定のアトラクションである。入り口前の看板には、おどろおどろしいイラストが描かれている。いかにも僕の苦手なジャンルだった。
    「次はここに行こうよ」
     建物の前で足を止めると、彼は強引に僕の手を引っ張る。大抵のいたずらには付き合える僕だが、さすがにこれは無理だった。
    「お化け屋敷!? 僕は無理だよ」
     全力で拒絶するが、彼は引き下がらなかった。僕の手を引っ張りながら、説得するように言う。
    「お願いだから、ついてきてよ。一緒に入ろう」
    「無理だって。びっくりして叫んじゃうし、他の人の迷惑になっちゃうよ。一人で行ってきて」
     今度も断ると、彼はわざとらしく下を向いた。両手を胸元に添えると、小さな声で呟く。
    「だって、一人だと怖いんだもん」
     嘘だった。ルチアーノはお化け屋敷を怖がらないし、むしろ作り物として楽しんでいる。怯えて震える僕を見て、にやにやしているくらいなのだ。
    「怖いなら、無理して入らなければいいんじゃないかな」
     揚げ足を取るように抵抗の意を示すと、ルチアーノはこちらへと顔を上げた。キラキラした瞳で僕を見ると、上目遣いで懇願する。
    「怖くても、気になるものは気になるの。本当にダメ……?」
     ここまでされたら、これ以上は拒めなかった。恋人のあざとい仕草を見て、拒める人などいるはずがないだろう。再び看板に視線を向けると、覚悟を決めて口を開く。
    「……分かったよ」
    「ありがとう! さっそく行きましょ!」
     僕が了承すると、ルチアーノはくるりと後ろを向いた。さっきまでの弱気が嘘のように、率先して建物に入っていく。ため息をつきながら、僕も彼の後を追った。
     お化け屋敷は、子供でも入れるカジュアルなものだった。置かれたオブジェはどう見ても作り物だったし、仕掛けも単純で分かりやすい。だからといってびっくり系が克服できる訳ではないから、仕掛けが飛び出す度に悲鳴を上げてしまった。
     そんな僕を見て、ルチアーノはくすくすと笑い声を上げる。僕とは対称的に、余裕に満ちた態度だった。子供に先導されるなんて恥ずかしいが、ルチアーノの腕にしがみつくしかない。お化け屋敷を出る頃には、疲労でへとへとになっていた。
    「お兄ちゃんって、本当に怖がりなのね。子供みたい」
     にやにやと笑いながら、ルチアーノは楽しそうに語る。分かってて連れ込んだのに、散々な言い草だった。
    「怖さを感じるのに、大人も子供もないでしょ」
     息を切らしながら答えるが、ルチアーノからの反応はない。ただくすくすと笑いながら、僕の様子を眺めている。
     いつの間にか、空はオレンジ色に染まっていた。猫の形の腕時計に視線を向けてから、ルチアーノが僕の方を振り返る。ふわりとスカートを揺らすと、弾んだ声で言った。
    「私、そろそろ帰らなきゃ。また明日ね」
     一方的に告げると、踵を返して僕の前から去っていく。相変わらず、嵐のような女の子だった。本当は女の子ではないのだけど、容姿の可憐さにつられてしまう。
     とはいっても、彼が子供らしい振る舞いを見せるのは、僕の前にいる時だけなのだ。からかったり甘えたりするのも、僕の前だけである。そうと知っているから、彼の行為を嫌だとは思わない。
     今度は、どんないたずらを仕掛けてくるのだろうか。そう考えてしまう自分がいることに、僕は苦笑いをするのだった。
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