Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

    文章や絵を投げます

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💕 🍇 🐥 🍣
    POIPOI 668

    流菜🍇🐥

    ☆quiet follow

    TF主ルチ。心霊番組を見て眠れなくなるTF主くん概念の話です。ルチに張りつくTF主くんが見たくて書きました。

    ##TF主ルチ

    心霊番組 季節の変わり目は、特番の季節だ。この時期になると、テレビのレギュラー放送は息を潜め、放送時間を拡張したスペシャルや単発の長時間番組が放送される。中には過去の番組が復活したりもしていて、なかなかに見所があったりもするのだ。
     つい最近も、世間はそんな特番シーズンに入ったらしい。ニュース番組が終わって、夜のバラエティ番組の時間になったときに、テレビから見慣れない番組が流れてきたのだ。不気味なナレーションと共に流れ始めたのは、画質の悪いホームビデオである。子供の遊ぶ様子が流れた後に、ビデオ映像が一時停止した。
     お分かりいただけただろうか、の言葉と共に、ビデオは再び再生される。拡大されたシーンには、男の顔のようなものが映っていた。スタジオに集められたタレントたちが、口々に声を上げている。この見慣れた演出は、どう見ても心霊番組だった。
     夕食の魚を口に運びながら、僕はぼんやりとテレビを眺めた。映像は次のものに移っていて、若者グループの肝試しへと変わっている。その映像に映るのも、正体不明の人影である。リプレイが紹介されると、またもスタジオからも悲鳴が上がる。
     テンプレートそのままと言っていいほどに、見事な心霊番組だった。この手の番組が流れていると、身を持って夏の訪れを感じる。なぜだか分からないが、心霊現象をテーマにした番組は、夏の間にしか放送されないのだ。世間一般の言葉で言うと、風物詩というものなのだろう。
     ふとルチアーノに視線を向けると、彼もテレビに視線を向けていた。心霊映像が流れるテレビ画面を、冷めた瞳で眺めている。僕の視線に気がつくと、彼は冷めた声で言った。
    「人間っていうのは、下らないものが好きだよな。心霊映像なんて、合成すればいくらでも作れるのに」
     予想通りの冷めた言葉に、僕は思わず苦笑いを浮かべてしまう。ルチアーノの発言は、思春期の男の子そのものだったのだ。ある程度歳を取ると、子供は非科学的なものに冷めた視線を向けるようになる。子供の頃を思い出しながら、僕は口角を上げた。
    「こういうのは、真偽が分からないところを楽しむものなんだよ。何本かに一本くらいは、本物が混ざってるかもしれないでしょう?」
     諭すように答えると、ルチアーノは疑わしそうに目を細める。科学的知識の豊富な彼には、この手のオカルトは不向きなのだろう。疑いを隠しもしない表情で、退屈そうにテレビを眺めていた。
    「何言ってるんだよ。こういうのは、大抵全部作り物だろ。幽霊なんてものは、この世には存在しないんだよ」
     そんな話をしているうちに、テレビは次のコーナーに移っていた。ホラー雑誌の編集者が選んだ怪談を、再現ドラマにしたものである。体験者らしき男性のインタビューが流れると、本編のドラマが始まった。
     男性は、大学進学と共に都会へ引っ越してきたらしい。ワンルームのマンションを借りると、期待に胸を脹らませながら入学式に出席する。ところが、そのマンションこそが、恐怖のゴーストハウスだったらしい。
     翌日から、男性の回りで奇妙なことが起こった。部屋の中のものが散乱していたり、洗面所が水浸しになったりしているのだ。彼には心当たりはなかったし、部屋のシステムに異常はない。気味の悪さを感じているうちに、ついに犯人と遭遇することになる。
     ある晩、その男性は、得体のしれない気持ち悪さを感じて目を覚ました。時刻は深夜二時を少し過ぎた頃で、外は真っ暗に染まっている。もう一度眠りにつこうと寝返りを打つと、彼の視界には恐ろしいものが飛び込んできた。
     彼の眠るベッドの真横に、見慣れない女が立っていたのである。長い髪を下へと垂らしながら、ただその場に立っている。恐る恐る視線を上げると、その瞳は彼を睨んでいた。それがこの世のものでは無いことは、一目見ただけで分かったという。
     女が現れた時の演出が恐ろしくて、僕は小さく悲鳴を上げてしまう。目敏く見咎めたルチアーノが、にやりと意地悪な表情を浮かべた。
    「今、怖がってただろ。君はホラーが苦手だからな」
    「怖がってたんじゃないよ。ちょっとびっくりしただけ」
     からかわれたことが悔しくて、僕は小さな声で言い返す。ルチアーノの甲高い笑い声が、向かい側から響いてきた。面白いおもちゃを見つけたとでも言うように、楽しそうな声で僕をからかう。
    「同じことだろ。強がっちゃってさ」
     このままだと、僕は彼のおもちゃにされてしまうだろう。嫌な予感に襲われて、僕はそそくさと席を立つ。食器を流しに移動させると、そのままの足でリビングを出た。
    「そんなに見たいなら、ルチアーノはテレビを見ててよ。僕はお風呂に入ってくるから」
     しかし、ルチアーノは許してはくれなかった。早足で僕を追いかけると、手首を掴んで動きを止める。強い力で手を引っ張ると、凄みを帯びた声で言った。
    「もしかして、怖いからって逃げる気かよ。サレンダーなんて許さないぜ?」
     くすくすと笑い声を上げながら、僕をソファの前まで引きずっていく。逃げる手段が見つけられなくて、僕は仕方なく腰を下ろした。次に始まったのは、平和な一家を襲った怪談話である。既に嫌な予感を感じながら、僕はテレビに視線を向けた。
     それからというもの、僕はルチアーノの気が済むまで心霊番組を見せられた。僕は驚かすようなシーンが苦手だから、幽霊が出てくる度に悲鳴を上げてしまう。何度も顔を伏せたりしながら、二時間の特番を乗りきった。
     番組が終わる頃には、僕はへとへとになっていた。頭の中は怪談でいっぱいで、意味もなく周囲を警戒してしまう。お風呂に入っている間も、さっき見た幽霊の映像が頭から離れてくれなかった。
     なんとか身支度を整えると、僕はベッドの上に雪崩れ込む。先に入浴を済ませていたルチアーノが、ベッドに座ったまま僕を見下ろしていた。今にも眠りそうな僕を見ると、からかうように声を上げる。
    「どうしたんだよ。そんなに疲れたアピールしちゃってさ。今日はそんなに練習してないだろ」
    「練習してなくても疲れたんだよ。びっくり系のホラーを見せられたし、幽霊の話は怖いし……」
     なんとか答えると、彼はくすくすと笑い声を上げる。彼が余裕の態度を見せていることに、言いようの無い悔しさを感じた。
    「全く。君はだらしないなぁ。まあいいか。今日はやることも無いし、早く寝かせてやるよ」
     呟くルチアーノを横目に、僕はベッドの中に潜り込む。一人で起きていても退屈なのか、彼もベッドの中に潜り込んできた。夏の夜は暑いから、布団はペラペラのタオルケットだ。体温が籠らないように、少しずつ距離を開けている。
     電気を消すと、部屋の中は一気に暗くなった。室内を向くように身体を横たえると、僕はうっすらと目を開ける。視界に入ってくるのは、当たり前だがいつもの僕の部屋だ。変なことを考えないように、頭を空っぽにして目を閉じる。
     しかし、どんなに考えないようにしていても、脳裏をあの光景がよぎってしまう。夜のテレビ番組で流れていた、怪談話の再現ドラマだ。この手の話の幽霊というものは、必ずと言っていいほど夜に現れるものなのだ。電気を消したこの時間は、彼らの活動領域なのだろう。まさかこの部屋に現れるとは思わないが、やっぱり気になってしまう。
     意識をホラーから背けるために、デュエルについてを考えることにした。今日のルチアーノとのタッグは、なかなかにいい感じに回っていたのだ。一度破壊されたスキエルを、僕が引いたツインボルテックスで破壊した。トラップゾーンにはゴーストコンバートを伏せてあったから、条件さえ整えてしまえばこっちのものである。万能の妨害カードに阻まれて、敵の作戦は一気に崩壊したのだ。
     そこまで考えて、僕は不意に目を開けた。視界に入ってくるのは、薄暗い部屋に並べられた勉強机である。視線がベッドの高さに固定されているから、目に入るのは椅子や引き出しだ。いかにも学生の部屋といった光景を見て、また怪談話を思い出してしまった。
     一気に背筋が寒くなり、閉じていた瞳が開いてしまう。怖いのにそうしないと気が済まなくて、キョロキョロと室内に視線を向けた。何度確認したところで、部屋の中に幽霊なんていない。ホッと息をつくと、僕はごろんと寝返りを打った。
     僕の目の前には、ルチアーノの背中が広がっている。長い髪を掻き分けると、その小さな身体に腕を回した。急速に伝わった体温によって、僕の身体は汗をかき始める。暑くて仕方がなかったけど、僕は手を離さなかった。
    「あんまりくっついてくるなよ。汗でベタベタするだろ」
     僕の腕の中から、ルチアーノの不満そうな声が聞こえてくる。彼は機械の身体を持っているから、体温の上昇は気にならないのだろう。それでも僕から離れたがるのは、汗が肌につくからだ。嫌がられているとは分かっていても、僕には手を離すことができなかった。
    「ごめん。今日だけは、こうやって寝てもいい?」
     ルチアーノの背中に顔を埋めると、僕は小さな声で言う。ホラーを思い出していたことは、恥ずかしくて口にできなかった。とはいえ、僕が口にしなくても、彼には伝わっているのだろう。長い付き合いを経て、彼も僕のことは分かるようになったのだ。
    「暑いのにくっついてくるなんて、君も物好きなやつだな。もしかして、心霊番組が怖かったのか?」
     被せられた布団を剥がしながら、ルチアーノは湿った声で言う。図星を突かれてはいるのだが、僕にはそんな気はしなかった。自分の家が心霊家屋ではないことは、自分が一番よく分かっている。怖いという言葉で表すのは、少し違う気がするのだ。
    「怖いってわけじゃないんだけど、なんか気持ち悪くて」
     布団の中に顔を埋めたまま、僕はさらに言葉を重ねる。顔から流れた汗が首筋を伝わって、Tシャツの方へと流れ込んできた。かなり熱が籠ってきているが、僕は布団を剥がさない。なぜだか分からないが、この布地が自分を守ってくれている気がするのだ。 
    「それは、怖いって言ってるのと同じだよ。得体の知れない感覚のことを、人間は『恐怖』って言うんだろ」
     僕に身体を抱かれたまま、ルチアーノは小さな声で呟く。耳に伝わる声色は、どこか呆れているように聞こえた。確かに、言われてみればそうかもしれない。人間が恐怖を感じるものは、どれも解明されていないものばかりだ。
    「そうだね。分からないってことが、人間にとっては怖いんだ」
     答えると、僕はゆっくりと目を閉じる。ルチアーノの体温に触れたことで、さっきまでの気味の悪さは薄れていた。生きている人間に触れていると、自分が一人ではないことがはっきりと分かる。まあ、ルチアーノは人間ではないのだけど、僕にとってはそこまで重要ではない。
    「君は、僕が怖くないのか?」
     うとうとと船を漕いでいると、不意にルチアーノがそう言った。唐突に質問を投げかけられて、僕の意識は眠りから引き剥がされる。少し思考を巡らしてから、返事の代わりの問いを返した。
    「どうして?」
    「僕は、意思を持つロボットなんだぞ。端的に言えば、現代の科学では解明のできない存在だ。人間にとっては、一番怖い存在だと思わないか?」
     感情を極力まで抑えた声で、ルチアーノは言葉を続ける。幽霊の存在を怖がる僕を見て、少し不安になったのかもしれない。彼はお化けとは全く違うのに、なんだかおかしな問いだった。
    「怖くないよ。ルチアーノが優しい男の子だってことは、僕が一番よく分かってるから」
     答えると、彼は身動きも取らずに黙りこんだ。僕の返した言葉が、返事もできないくらいに恥ずかしかったのだろう。一緒に過ごした時間が長いから、僕にもルチアーノの気持ちが分かるのだ。
     再び目を閉じると、今度はすぐに眠気が訪れた。さっきまで感じていた恐ろしさは、もうどこにも残っていない。燃えるような温もりを感じながら、僕は微睡みの中に落ちていった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💞💞💞
    Let's send reactions!
    Replies from the creator