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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチ。TLに流れてきたネタ。TF主くんが死ぬ夢を見たルチが心配になって鼓動を確認する話です。

    ##TF主ルチ

    鼓動 シティ繁華街の大通りは、今日もたくさんの人間でざわめいていた。歩道は行き交う人間で溢れ返り、四方から賑やかな声が響いてくる。騒音に顔をしかめながらも、僕は青年の身体に手を伸ばした。手のひらに触れると、彼も何も言わずに握り返してくれる。しっかり手を繋いだまま、僕たちは繁華街を歩いていく。
     人にぶつかりそうになりながらも、僕たちは目的地を目指して歩を進める。温かな太陽の日差しが、表面装甲の温度を上昇させた。空は雲ひとつない晴天で、絶好のデュエル日和だ。彼の用事が済んだら、デュエルに向かうのもいいだろう。
     そんなことを考えていると、不意に青年が足を止めた。苦しそうに呻き声を漏らすと、繋いでいた手を振り解く。不審に思って視線を向けると、今度はお腹の辺りを押さえ始めた。倒れそうになる彼の身体を、慌てて両手で抱え込む。
    「どうしたんだよ!」
     身体に腕を回した時、手のひらに違和感を感じた。そこにあるはずのない感触が、僕の表面装甲を濡らしているのである。それは生温かくねっとりとして、嫌な臭いを放つ液体だ。恐る恐る手のひらを離してみると、そこは赤い液体がこびりついていた。
    「っ……!?」
     声にならない悲鳴を上げながら、僕は彼の身体を引き寄せる。どうして血を流しているのか、さっぱり理解できなかったのだ。彼は健康体そのもので、さっきまで普通に歩いていた。周囲は人で溢れているから、何者かに襲撃されたとも思えない。
     混乱する思考領域を押さえつけて、彼を歩道に横たわらせる。明らかに異常なことが起きているのに、人々は気にも留めていなかった。まるで僕たち二人だけが、この世界から切り離されてしまったみたいだ。透明になった世界の片隅で、僕は青年の身体を見物する。
     血液が溢れているのは、臍の少し上辺りだった。服の上から状態を確認するが、傷のようなものは見当たらない。服を剥がして素肌を覗いても、やはり結果は同じだった。傷ひとつない綺麗な肌のまま、彼は血を流している。
     何が起きているのか分からなかった。彼が倒れた理由も、どこから血が流れているのかも、僕には微塵にも分からない。ただ、彼が死にそうになっていることは、顔色の青さから伝わってきた。少しずつ息も浅くなっていて、今にも動きが止まってしまうそうだ。急いで脈を計ると、その鼓動はゆっくりになっていた。
     このままでは、彼は命を落としてしまう。そんな絶体絶命の状況にいるのに、僕には何もすることができなかった。大きな声で名前を呼ぶが、反応は一切返ってこない。恐る恐る心臓に手を当てると、その鼓動は止まっていた。
     横たわる青年を前に、僕は呆然とその場に座り込む。あまりにも急すぎる死に、状況が理解できなかった。目の前の光景を否定したくて、僕は彼の身体に耳を当てる。心音は一切聞こえず、冷え始めた肌の感触だけが伝わってきた。
     彼は、本当に死んだのだ。自覚した瞬間に、瞳から涙が零れ落ちてくる。喉からは嗚咽が溢れ始めて、息が苦しくなってきた。彼の身体に覆い被さるように突っ伏すと、冷えた身体の上で泣き続ける。
     僕は、彼を失ってしまったのだ。世界で一番大切な人を、何もできないままに死なせてしまった。もう、彼を起こすこともできなければ、彼に触れられることもできないのだろう。彼の温もりがない世界で、僕はどう生きればいいのだろうか。
     一人で泣き続けていると、身体からエネルギーが抜けていく感触がした。無理矢理モーメントとの接続を切ると、青年の顔に自分の顔を近づける。涙でぼやけた視界の中で、彼の唇に唇を重ねた。肌に伝わる感触は、やはり彼の死を物語っている。
     もう、何もないのだ。僕の生きるたったひとつの理由は、この世から永遠に失われてしまった。今の僕にできることは、命を終えることだけなのだろう。覚悟を決めると、彼に寄り添うように身体を横たえる。
     残されたエネルギーは、数えるほどに少なくなっていた。電力が行き渡らなくなったパーツが、少しずつ動きを止めていく。視界が真っ暗になると、やがては身体の感触が消えていった。

     そこで、目が覚めた。
     視界に映る光景は、いつもの青年の部屋である。モーターが勢いよく回転し、僕の身体の熱を上げていた。冷却水が体内を駆け回って、妙な気持ちの悪さを感じさせる。自分が夢を見ていたのだと気づくまでに、数秒のタイムラグがあった。
     ゆっくりと身体を動かすと、僕は室内の様子を見渡す。なんの変哲もない、薄暗い部屋の中だった。隣に横たわっている青年も、穏やかな寝息を立てている。さっきまで見ていた光景は、ただの夢だったのだろう。冷静になって考えたら、何もかもがおかしい体験だった。
     眠る彼の姿を眺めながら、僕は大きく深呼吸をする。何度心を落ち着けようとしても、胸の底から不安が込み上げてきた。こうして眠っていると、人間は生死の判断がつかなくなる。悪夢で弱った僕の心は、もしかしたらという感情を浮かび上がらせた。
     音を立てないように気を付けながら、僕は彼の身体に顔を寄せる。胸元に耳を近づけると、服の上から肌へと押し当てた。燃えるような温もりを感じると共に、体内の稼働音が聞こえてくる。一際大きく響き渡るのは、心臓の鼓動の音だった。
     低くて重い音を聞きながら、僕は大きく息をつく。耳に伝わる心音こそが、彼の生を証明する全てだった。大丈夫、彼は生きている。そう自分に語りかけながら、生命の脈動に耳を傾ける。
     結局、体内の蠢きが落ち着くまで、僕はその音を聞いていた。モーターの動きが収まったことを確かめてから、ゆっくりと胸から身体を離す。あまり長い間張り付いていると、彼を起こしてしまうかもしれない。下手に心配をかけるのは、僕のプライドが許さなかった。
    「ルチアーノ……?」
     布団の中で身体を動かしていると、彼の声が聞こえてきた。僕が耳を押し当てた感触で、目を覚ましてしまったらしい。いつもは叩いても起きてくれないのに、変なときだけ目覚めがいいものだ。黙って体勢を直していると、彼はさらに言葉を重ねる。
    「眠れないの?」
    「……違うよ。ちょっと、悪い夢を見ただけだ」
     小さな声で答えると、彼はもぞもぞと身体を動かした。僕の背中に腕を回すと、自分の腕の中に抱き寄せる。子供をあやすように背中を叩くと、優しい声で囁いた。
    「大丈夫。僕はここにいるよ」
     心の中を見透かしたような発言に、僕は黙って頬を膨らませる。こうして夜中に目を覚ましたときには、彼は必ず僕をあやすのだ。彼の腕の温もりを感じていると、悔しいけれど安心してしまう。僕の凍った心を溶かせるのは、彼の命の温もりだけなのだ。真実を浮き彫りにされる度に、僕は何も言えなくなってしまう。
    「そんなことしなくても、一人で眠れるよ」
     僕の呟きは、彼には届いていなかった。頭の上からは、深い呼吸の音が聞こえている。僕を抱き締めたはいいものの、また眠ってしまったのだろう。全く、どっちが子供なのだろうか。
     振り払うこともできないから、仕方なくそのまま瞳を閉じる。彼の心臓の音を聞いていたら、すぐに眠たくなってしまった。エネルギーを補給するために、意識をスリープモードへと移行する。温もりに身体を包まれたまま、僕の意識は微睡みの中に落ちていった。
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