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    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

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    TF主ルチ。二人がお店のアイスを食べるだけのお話です。

    ##TF主ルチ
    ##季節もの

    アイスクリーム 初夏に入り、気温が暖かくなると、アイスクリームが美味しくなる季節だ。練習をこなし、シャワーを浴びて汗を流すと、僕は冷凍庫からアイスを取り出す。たくさんの種類から選びたいから、この季節には複数のファミリーパックを買いそろえてあるのだ。涼しげな氷菓を手に取ると、袋を破って口に入れる。
     冷えた氷を口にすると、体感温度は一気に下がった。同時に糖分も補給されるから、頭が冴えてすっきりするのだ。ペロリとアイスを平らげると、ようやく重くなった腰を上げる。
     そんな僕を、ルチアーノはいつも呆れたように見つめていた。気温に影響を受けない彼は、夏にアイスを恋しく思う気持ちが分からないらしい。氷菓を齧る僕を見ると、呆れきった声色でこう言った。
    「そんなもの、ただのジュースの固まりだろ。そんなに食べたいなら、自分で作ればいいじゃないか」
     ありふれた言葉を語るルチアーノを、僕は正面から見つめた。彼の語る言葉は、まるで風情を知らない節約家のようだったのだ。アイスクリームというものは、そんな簡単なものではない。実際に作ったことがあるから、僕はそのことをよく心得ていた。
    「分かってないなぁ。アイスっていうのは、製菓会社の努力の結晶なんだよ。研究者が持てる知恵を振り絞って、もっとも美味しくなるように調整してるんだ。僕が見よう見まねで作っても、ボロボロの塊にしかならないんだよ」
     言葉を尽くして答えると、ルチアーノは大きく息を吐く。今度の呆れの原因は、僕の食に対する熱量らしい。冷めた瞳で僕を見下ろすと、さっきと変わらない声色で言葉を続ける。
    「人間って、やたらと食いもんに拘るよな。日本人は特に、料理のいろはとやらに細かいよ。そんなに面倒なことを言ってたら、口煩いやつだと思われちまうぜ」
    「だって、食は生命の源なんだよ。毎日食べるものなんだから、こだわらないともったいないでしょう」
    「どうせ消化されるだけのものなら、そこまでこだわる必要もないだろ。金にものを言わせるなんて、成金みたいで下品だぜ」
     何度力説しても、僕の思いはルチアーノには伝わらない。人間の面倒なこだわりとして、話の外に流されてしまうのだ。彼だって食事へのこだわりを持っているのに、僕だけが言われるなんて納得ができない。ちょっとむきになって、勢いよく言葉を返してしまった。
    「じゃあ、今度、ルチアーノをアイスクリームのお店に連れてってあげるよ。お店のアイスを食べたら、ルチアーノだって違いが分かるでしょ」
    「分かったよ。……そんなこと言って、本当は君が連れていきたいだけなんじゃないか?」
     売り言葉に買い言葉の要領で、僕はルチアーノに約束を取り付ける。流れるように指摘された本音だけは、悔しいから認めてあげなかった。結局のところ、僕はルチアーノに人間の楽しみを体験してほしいだけなのだ。少しわくわくしながら、片付けのためにソファから立ち上がった。

     それから数日が経ったある日、僕たちは繁華街を歩いていた。もちろん、ショッピングビルに入っているアイスクリーム屋に向かうためである。天気はからっと晴れていて、絶好のアイスクリーム日和だ。軽い練習を済ませた後だから、身体はいい感じに温まっている。アイスを味わうには、かなりいい条件と言えるだろう。
     平日のアイスクリームショップは、人がまばらにいるだけだった。通りすがりの買い物客が、アイスの並んだショーケースをちらりと眺めていく。彼らの動きとは対称的に、僕たちは真っ直ぐにショーケースへと向かった。ルチアーノに視線を向けると、パンフレットを取りながら声をかける。
    「これが、ここのお店のメニューだよ。ルチアーノは何が食べたい?」
     差し出されたパンフレットを一瞥すると、彼はあからさまに視線を逸らす。子供のように手を引かれるのが、恥ずかしくて仕方ないのだろう。無理に渡しても受け取ってもらえないから、代わりに僕が中を見た。
     ショーケースを覗き込む僕たちを見て、内側にいた店員さんが動き始める。試食用のスプーンを取り出すと、ひとつのフレーバーを掬い上げた。
    「こちら、期間限定メニューのグレープソーダです」
     にこやかに笑みを浮かべながら、僕たちの方へと差し出してくれる。お礼を告げてから、僕は二人分のアイスを受け取った。ルチアーノのいる方へと歩み寄ると、試食用のスプーンを差し出す。むすっとした顔をしながらも、彼はそれを受け取って口へと運んだ。
     その時のルチアーノの表情が僅かに変化したのを、僕の瞳は見逃さなかった。食べ終えたスプーンを店員さんに渡すと、僕はルチアーノにメニューを示す。三段に積み重ねられたアイスクリームを指差すと、僕は彼に声をかけた。
    「何を頼むか決まった? 僕は、トリプルのカップにしようと思うんだけど……」
    「トリプル? 君は、三つもアイスを食べるのか?」
     僕が語り終えないうちに、ルチアーノは驚きの声を上げる。三段のアイスを選んだことが、彼にとっては理解のできないことだったらしい。確かに、甘いものの苦手な彼からしたら、僕の行動は異常なものなのだろう。
    「三つって言っても、市販のカップアイスよりもちょっと多いくらいだよ。ルチアーノだって、トリプルを頼んでいいんだからね」
    「僕はひとつでいいよ。そんな甘いもの、三つも食べたら胃もたれしちまう」
     子供らしからぬ物言いをするルチアーノを、店員さんが不思議そうに眺めている。何も知らない他人から見たら、ルチアーノは早熟な小学生なのだろう。苦笑いしながらも、僕は店員さんに声をかけた。
    「トリプルのカップで…………」
     手早く注文を済ませると、今度はルチアーノに視線を向ける。彼はショーケースの隅を眺めたまま、身体の動きを止めていた。視線の先に陳列されているのは、さっき試食をもらったアイスクリームだ。一点を眺める横顔に、僕は隣から声をかける。
    「ルチアーノは何にする?」
    「シングルのカップで、グレープソーダ」
     彼の口から発せられたのは、視線の先にあったアイスクリームだった。試食でもらった一口が、よほど美味しく感じたのだろう。微笑ましく思いながらも、会計を済ませて商品を受け取る。ショーケースの前から離れると、僕はルチアーノの手を取った。
    「こっちで食べよう」
     僕が向かった先は、フロアの片隅の飲食スペースだ。机と椅子をいくつか並べただけの、即席感溢れるスペースである。休日は人で溢れているこのエリアも、今日は僕たち二人しかいない。四人がけの席に荷物を置くと、向かい合わせに椅子に座った。
    「じゃあ、食べようか。いただきます」
    「……いただきます」
     食前の挨拶を済ませると、僕は一番上のアイスクリームにスプーンを伸ばした。真上からスプーンを差し込むと、三分の一くらいを一気に掬い上げる。お店のアイスは絶妙な柔らかさで、力を入れなくても簡単に掬える。大口を開けてかぶりつくと、濃厚な甘味が口に広がった。
     隣に視線を向けると、ルチアーノがアイスをつついている。少しずつ食べるつもりなのか、外側を削り取るように掬っていた。口に運ぶところまで見届けると、僕は優しく声をかける。
    「美味しいね」
    「甘いな。砂糖を食ってるみたいだ」
     小さな声で呟きながらも、彼は手を動かしている。カップを持つ手が温かいから、アイスは外側が溶け始めていた。自分のカップに視線を戻すと、こっちも溶け始めている。慌ててスプーンを握り直すと、柔らかくなったアイスを掬った。
     食べ終わる頃には、アイスはかなり溶けていた。底にできたマーブル模様を掬うのも、こういうアイスの醍醐味だ。フレーバーが混ざった色はとんでもないことになっているが、味は以外と悪くないのだ。最後の一滴まで掬おうとする僕を見て、ルチアーノが呆れた顔を見せる。
    「そんなところまで食べるのかよ。貧乏人みたいでみっともないぞ」
     冷たい視線を向けながら、ルチアーノは恥ずかしそうに言う。権力者との食事しか知らないルチアーノにとって、深追いは恥ずかしい行為に見えるようなのだ。人前でこういうことをしていると、彼は嫌そうに嗜める。
    「いいんだよ。これがアイスの醍醐味なんだから。溶けたあとのアイスも、けっこう美味しいんだよ」
     液体を口内に流し込むと、空になったカップを押し潰した。ルチアーノが食べていたアイスのカップも、同じように縁を押し潰す。隙間から流れてきた雫に触れて、僕の手はベトベトになってしまう。トイレで手を洗わないと、触ったものがベタベタになってしまうだろう。
     隣に並ぶと、ルチアーノは手のひらを伸ばしてきた。手を繋ごうとしているのだと気がついて、慌てて手を引っ込める。不満そうな視線を向けてきたルチアーノに、小さく頭を下げながら釈明する。
    「ごめんね。アイスで汚れちゃったから、手を繋ぐのは洗ってからでもいい?」
     僕の言葉を聞くと、ルチアーノは慌てて手を引っ込めた。こちらに向けられた顔は、頬がほんのりと赤く染まっている。不意に図星を突かれたことが、恥ずかしくて仕方なかったのだろう。
    「別に、繋ごうとしたわけじゃないさ。君が迷子になるから、捕まえておこうと思って……」
     取り繕う声は、心なしか辿々しい。そんな姿が可愛らしくて、僕は僅かに口角を上げた。
    「ありがとう。ルチアーノは優しいね」
     余計に恥ずかしかったのか、今度は視線を逸らされてしまう。トイレの洗面台で手を洗うと、僕たちは改めて手を繋いだ。
    「それにしても、アイスっていうのはなかなかに面倒くさいな。わざわざ食べに来るなんて、君もなかなかに物好きだ」
     僕の隣を歩きながら、ルチアーノは小さな声で呟く。彼には、お店のアイスクリームは馴染みが薄かったようだ。今度はテイクアウトを買ってみようかと、僕は頭の隅で考えた。
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