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    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

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    TF主ルチ。昨日上げたテキストのルチ視点です。ルチが終始ツンデレしてます。

    ##TF主ルチ

    はぐれる ルチ視点 視界を埋め尽くすのは、無数の人間の頭だった。前も後ろも右も左も、色とりどりの毛髪で埋め尽くされている。人の移動した隙間を見極めると、僕は一歩前に足を進めた。同じように人の流れを読んで、さらに一歩足を進める。
     後ろを振り返ると、少し後ろに赤い帽子が揺らいでいた。僕をこの地に連れてきた張本人である、タッグパートナーの青年だ。彼は人混みに呑まれながらも、なんとか前に進んでいるようだった。安堵の息をつきながら、再び前に歩を進める。
     僕がこんな人混みに来ているのは、デュエルの大会に出るためだった。大会とは言っても、賞金の出るような公式大会ではなく、店舗開催の小さなものである。公式大会に出る前に、一度タッグデュエルの練習をしようと言われて、この大会にエントリーさせられたのだ。彼の頼みじゃなかったら、僕はこんなところになど来ていない。
     溢れ返る人間を掻き分けながら、僕は少しずつ前へと進んでいく。しばらく前へ進んだ後には、後ろを振り返って彼の姿を探すのも忘れない。特徴的な赤い帽子は、常に僕の後ろで揺らいでいた。ついてきていることを確認すると、再び前に足を進める。
     曲がり角を曲がる前に、僕は再び後ろを振り返った。赤い帽子を視線で追うと、その人物の前へと歩み寄っていく。こんな特徴的な帽子を被っているのは、シティでもあの青年だけだろう。そう思っていたのだが、それは大きな誤算だった。
     僕が目で追っていた人間は、似たような帽子を被った別人だったのだ。人を掻き分けて出てきたその男の顔は、彼とは全違っていたのである。予想もしていなかった展開に、僕は大きく目を開いてしまう。はぐれたのだと気づくまでに、しばらくの時間差があった。
     まだ、彼は近くにいるかもしれない。そう思って、慌てて背後に視線を向ける。赤い帽子を目印に来た道を眺めるが、それらしき人影は見えなかった。はぐれてしまったことを自覚して、心を焦りが覆い始める。思わず声を上げそうになったのを、すんでのところで留まった。
     しばらくその場に立ち尽くしたまま、僕は僅かに思考を巡らせる。この通りの途中までは、確かに僕たちは一緒にいたのだ。たとえはぐれてしまったのだとしても、彼はすぐ近くにいるのだろう。来た道を引き返していけば、合流できるかもしれなかった。
     蠢く人間を眺めながら、僕は人の隙間に身を捩じ込む。声を出せば聞こえるかもしれないが、僕のプライドが許さなかった。人間を探して歩いているなんて、それこそ迷子の子供である。セキュリティに引き渡されたりしたら、大会どころではなくなってしまう。
     しばらく引き返してみても、彼の姿は見当たらなかった。方向音痴なやつだから、曲がり角を間違えてしまったのかもしれない。目的地よりもひとつ前の角に向かうと、僕は右の路地に入り込む。メインの通りから離れたからか、横切る人間はさっきよりも少ない。首を巡らして周囲を見るが、彼の姿は見当たらなかった。
     こうなってくると、もしかしたらという気持ちが浮かんでしまう。青年が姿を消したのは、迷子ではないのかもしれないのだ。僕たちイリアステルの構成員は、常に敵対組織に狙われている。協力者である青年が狙われたとしても、何もおかしくはなかった。
     そうなったら、悠長に探してはいられない。一刻も早く取り返さないと、彼の命が危ないのだ。僕たちが手段を選ばないように、敵対組織も手段を選ばない。そんなやつらに命を狙われたら、彼は簡単に殺されてしまうだろう。
     こうなったら、最終手段を使うしかないだろう。情報データベースにアクセスすると、モニターの画面を点灯させた。視界に映し出されるのは、人混みの中で右往左往する青年の姿だ。時折僕の名前を呼んでいるところを見ると、彼もはぐれたことに気づいたらしい。ひとまず無事を確認して、僕は安堵の息をつく。
     しばらくキョロキョロした後に、彼は真っ直ぐに足を進めた。大通りの曲がり角を右に曲がると、迷いのない足取りで進んでいく。彼が目指しているのは、会場である建物の前みたいだ。モニターの電源を落とすと、後を追うように足を進める。
    「○○○!」
     大きな声で呼び掛けると、彼は安心したように笑みを浮かべた。少しも危機感を感じていない、ふにゃふにゃとした笑顔である。僕はこんなにも心配していたのに、こいつはへらへら笑っているのだ。お腹の底から怒りがこみ上げてきて、僕は彼に詰め寄った。
    「いったいどこに行ってたんだよ!」
     目と鼻の先まで顔を近づけると、彼は怯えたような表情で僕を見た。迷うように視線を揺らすと、気まずそうに下へと動かしていく。僕が心配していたことくらい、彼だって分かっているのだろう。分かっているから、こんな気まずそうな態度を取っているのだ。
    「ごめんね。上手く人混みをかわせなくて、気づいたら一人になっちゃってたんだ。今日は、人が多いから」
     なんとか吐き出した言葉は、そんな曖昧なものだった。僕が悪いとでも言いたげな言葉選びに、さらに怒りが込み上げてくる。鋭い瞳で彼を睨み付けると、人目も憚らずに声を上げた。
    「なんだよ。僕のせいだって言うのか? 君が勝手にいなくなったのに?」
    「違うよ。違うんだけど、ルチアーノについていけなかったんだ。僕は、そんなに器用じゃないから……」
     手を揺らしながら弁明しているが、やはり僕のせいにしている。こんなにも心配をかけたというのに、少しも反省の色が見えなかった。
    「やっぱり僕のせいにしてるじゃないか。こんなに心配をかけたのに、全く反省してないんだな」
    「違うって……!」
     詰め寄れば詰め寄るほど、彼は慌てた様子で言葉を重ねる。何度も怒りをぶつけているうちに、ようやく彼も反省を示してきた。ここで仲間割れしても仕方ないから、このくらいで許してやることにする。大きくため息をつくと、僕は彼の前から離れた。
    「分かったよ。次からは気を付けな」
     話を終わらせると、僕たちはショッピング施設へと入っていく。エレベーターで一気に八階に上がると、受付を済ませる青年の姿を眺めた。フロアの奥には、複数のデュエルコートが並んでいる。そこに集まっている人々が、今日の大会の参加者らしかった。
     簡単にデッキを確認すると、僕たちはコートへと入っていく。既に他のチームは揃っていたようで、すぐに大会が始まった。大会という名称をつけてはいるものの、その本質はただの店頭イベントだ。腕に自信のあるプレイヤーとやらも、僕たちの敵ではなかった。
     あっさりと対戦相手を倒すと、僕たちは優勝の座へと登り詰める。簡易的な表彰式を受けた後に、印刷されただけの賞状を受け取った。なぜかあの男が遠慮したから、僕が用紙を受け取ることになってしまう。
    「まあ、こんなもんだな」
     元いた場所へと引き返しながら、僕は青年に目配せをした。今日のデュエルの戦略は、大部分を僕が考えていたのだ。彼も分かっているようで、笑みを浮かべながら礼を言う。
    「ありがとう。ルチアーノが一緒に来てくれて、心強かったよ」
    「そうだろう。もっと誉めてくれてもいいんだぜ」
     彼にも戦略を誉められて、僕は誇らしい気持ちになった。いつも面倒を見ているのだから、もっと礼を言われてもいいくらいだ。踵を返してフロアを出ると、エレベーターに乗って下へと降りる。
     建物を出ると、僕は青年に手を伸ばした。手首を掴むと、僕の隣へと引き寄せる。こうして縛りつけておかないと、この男はまたいなくなるのだ。手を引っ張るように通りへと踏み出すと、彼は困ったように尋ねてくる。
    「どうしたの? 急に腕なんか掴んで」
     声が震えているあたり、本気で困惑しているのだろう。自分が原因を作ったのに、察しの悪い男だった。仕方ないから、人混みをかわしながら答えてやる。
    「君が迷子になるから、捕まえておくんだよ。こうすれば、勝手にいなくなったりできないだろ」
     こんなにはっきりと口に出したら、少し恥ずかしくなってしまった。手を繋いで町を歩くなんて、まるでデートか何かである。頬の熱を感じながらも、僕は真っ直ぐに前を見つめた。
    「そうだね。ありがとう」
     僕の斜め後ろからは、小さな声が帰ってくる。顔を見られるのは恥ずかしいから、後ろを振り返ることはしなかった。黙々と通りを歩いていると、不意に彼が呟く。
    「なんか、こうしてると恋人同士みたいだね。手を繋いで歩くの、ずっと前から夢だったんだ」
     能天気すぎる言葉に、身体中の熱が冷めるのを感じた。もしかしたらこの男は、僕と手を繋ぐために迷子になったんじゃないだろうか。一度浮かび上がった感情は、僕の中で膨れ上がっていく。彼の方へと視線を向けると、冷めきった声で言葉を投げる。
    「まさか、手を繋いで歩くために、わざと迷子になったとかじゃないよな?」
    「違うよ!」
     問いかけに対する返答は、驚くほどに早かった。さすがのこの男も、そんな悪趣味なことは考えなかったようだ。とはいえ、僕の中に燻る疑惑は、完全に消え去った訳ではない。口角を上げると、小さな声で呟いた。
    「本当か? 怪しいなぁ」
     嫌疑の瞳を向けられて、彼は慌てたように顔を上げる。前髪に隠れた両の瞳は、確かにこっちを見つめていた。小動物のような空気を漂わせると、懇願するような声で言う。
    「本当だって。信じてよ」
     前に視線を向けると、僕は早足で先を急ぐ。とっとと人混みを通り抜けて、彼の手を離したかったのだ。こんな恩知らずな男のために、わざわざ手を繋いでやる必要などない。手首の温もりを感じながらも、僕は小さく鼻を鳴らした。
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