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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチ。TF主くんはルチの名前の由来を聞いても何も分からないだろうなって思った話。

    ##TF主ルチ

    名前の由来「ねえ、ルチアーノって、名前の由来があったりするの?」
     僕が尋ねると、彼はあからさまに顔をしかめた。触れられたくないとでも言いたげな顔で、威圧するように僕を見上げる。どう見ても機嫌を損ねた態度だった。
    「なんでそんなことを聞くんだよ。テレビでそんな番組でも見たのか?」
     図星を突かれて、僕は一瞬だけ黙り込んだ。彼の言う通り、この問いはテレビに影響されたものなのだ。ルチアーノがお風呂に入っている時に、企業を取材するバラエティ番組が放送されていたのである。今週のテーマが、商品につけられた名前の由来だった。
    「ほら、やっぱりテレビの影響じゃないか。僕は神の代行者なんだよ。与えられた名前も、人間の名付けとは違うのさ」
     さっきよりも上機嫌な態度で、ルチアーノはそんなことを言う。僕を黙らせられたことが、彼にとっては嬉しかったのだろう。しかし、彼はひとつだけ勘違いをしている。僕が見ていたテレビ番組は、人間の名前の由来など扱っていなかったのだ。
    「違うよ。僕が見てたのは、企業の商品のネーミングの解説なんだから」
     そう言うと、ルチアーノは目を鋭く吊り上げた。自分の発言を思い出して、背中に冷や汗が流れる。流されるままに言葉を紡いで、余計なことを口走ってしまった。慌てて繕おうとするが、ルチアーノは真っ直ぐに僕を睨み付けている。
    「なんだって!? お前は、僕がそこら辺の売り物と同じだと思ってるのか?」
    「違うって。テレビで紹介されてた名前は、ロボットの商品名だったんだよ。ものとかじゃなくて、命の宿った機械の名前なんだ」
     彼の怒りを収めるように、僕は慌てて言葉を続ける。番組内で紹介されていたのは、ペット型ロボットや思考システムを持つロボットの名前だったのだ。仮にも生き物として扱われるものだから、名前にも気を使う必要がある。商品イメージを固定するための名前選びに、各企業は苦戦しているらしい。
    「命の宿った機械なんて、この世のどこにもないんだよ。君が命だと思って接してるのは、ただの部品の詰め合わせでしかないのさ」
     僕の必死のフォローも、ルチアーノには通用しなかった。にやりと口角を上げると、正面から僕を追い込んでいく。一度言葉を切って息をつくと、彼は笑みを浮かべながら言葉を続けた。
    「それに、僕をロボットと同じにするなんて、失礼千万じゃないのかい? 僕は、神に作られた機械生命体なんだから」
     そこまで言われてしまったら、僕もおとなしく言葉を引っ込めるしかない。反論を諦めると、僕は小さな声で謝った。
    「そうだね。ごめん」
     そのまま、しばらく沈黙が訪れる。無言が気まずかったのか、彼は黙って体勢を直した。ベッドのマットレスが揺れて、スプリングがぎしりと音を立てる。僕が布団の中に潜り込むと、彼も隣に寝転がった。
     何も考えずに横たわっていると、やっぱり思い出してしまう。テレビ番組で紹介されていたロボットの命名は、奥が深くて面白かったのだ。命を持たない存在だとしても、企業にとって開発した商品は我が子にも等しい。消費者に愛される名前にするために、何度も会議を重ねていたのだ。
     そういうことを知ってしまうと、やはり気になってきてしまう。ルチアーノの名前の由来は、どのようなものなのだろうか。他者によって産み出され、名を与えられた存在なら、そこには意図というものが含まれているはずだ。彼らの創造主は、何を思って彼にルチアーノと言う名をつけたのだろうか。一度気になってしまったら、聞かずにはいられなかった。
    「ねえ、やっぱり教えてよ。ルチアーノの名前の由来」
     寝返りを打ちながら呟くと、隣から小さな溜め息が聞こえてくる。鬱陶しがっているような、呆れたような吐息だった。もぞもぞと身体を動かすと、面倒臭そうな声で言う。
    「まだ言ってるのかよ。しつこいやつだな。人に名前の由来を聞くのなら、まずは自分の名前の由来を話したらどうだ?」
     またもや言い返されて、僕は言葉に詰まってしまう。自分の名前の由来を話すなんて、小学校の宿題以来だ。改めて問われるとなると、なんだか少し恥ずかしい。でも、ここで答えないと、ルチアーノは教えてくれないのだ。
    「嫌なんだろ。なら、人の名前の由来も……」
    「嫌じゃないよ。ちょっと、意外だっただけで」
     話を終わらせようとするルチアーノを、言葉を重ねて押し止める。声が大きくなってしまう僕を見て、彼は呆れきった笑い声を上げた。
    「そこまでして知りたいのかよ。変なやつだな」
    「知りたいよ。だって、名前には、名付け親からの愛が込められてるんだから」
     僕が言うと、ルチアーノは笑い声を引っ込めた。急に訪れた沈黙に、心臓がドクドクと音を立てる。僕は、何か変なことを言ったのだろうか。言葉を反芻してみるが、思い当たることはなかった。
    「どうしたの……?」
     恐る恐る尋ねると、彼は再び身じろぎをした。表情が見えないから、彼がどんな顔をしているのかは分からない。こちらに視線すら向けずに、淡々とした声で答える。
    「何でもないよ。とっとと話しな」
    「えっと、僕の名前の由来はね…………」
     少し緊張しながらも、僕は言葉を紡ぎ始めた。子供の頃に何度も聞いた、記憶に刻みついた話である。一部始終を聞くと、ルチアーノは興味深そうにこちらを見た。
    「ふーん。君の名前は、そんな意味を持ってたんだな」
    「ほら、僕は話したよ。今度はルチアーノの番だ」
     言葉を返すと、彼は再びためいきをつく。面倒臭そうな様子を見せながらも、約束通り教えてくれた。
    「僕の名前の由来は、仲間の名前を知れば分かると思うぜ。偉そうな男がプラシドで、じじいの方がホセだ。ここまで言えば、ヒントとしては十分だろう」
     言うべきことは言ったとばかりに、彼は再び寝返りを打つ。しかし、そんなヒントを与えられたくらいじゃ、僕には何も分からなかった。ルチアーノの背中に視線を向けると、抗議の言葉を投げ掛ける。
    「待ってよ。それじゃあ、名前の由来の説明にならないでしょ。ちゃんと教えてよ」
    「なんだよ。こんなものも分からないのか? 全く、最近の若者ってやつは、教養が足りないな」
     向こう側から返ってくるのは、呆れたような声だった。最近の若者は~という言い回しは、長生きしてきた老人のようである。まあ、彼も長い時を生きていたのだから、感覚的には老人に近いのかもしれない。
    「そんなこと言われても、分からないものは分からないよ。誰もが知ってるような教養なの?」
    「少なくとも、僕は知ってたぜ。まあ、分からないなら調べるんだな」
     そう語ったっきり、彼は口を閉ざしてしまう。これ以上は尋ねられなかったから、僕もおとなしく眠ることにした。

     翌日、夕食を済ませた僕は、ルチアーノと向かい合っていた。彼の名前の由来について、話の続きをするためだ。彼も何となく察しているようで、緊張したような面持ちを浮かべている。真っ直ぐに視線を向けると、深呼吸をしてから切り出した。
    「調べたよ。ルチアーノの名前の由来」
    「……そうかよ」
     さりげない様子を装いながら、ルチアーノは短く返事をする。それ以上の深入りを拒むような、小さく尖った声だった。自発的な解説は望めないと、僕の方から言葉を続ける。
    「ルチアーノは、テノール歌手の名前なんだね。ルチアーノだけじゃなくて、仲間のみなさんも。過去の有名人の名前なんて、かっこよくていいなぁ」
     褒めるように言葉を重ねると、彼は不満そうに息を吐いた。機嫌を取ろうとしたのに、逆に損ねてしまったらしい。斜め下から僕を見ると、不機嫌を隠さない声で語る。
    「僕たちの名前は、そんないいもんじゃないぜ」
    「どうして? 有名人の名前をもらえるのは、創造主に愛されてる証じゃない?」
     優しく聞こえるように問いかけるが、彼は少しも表情を緩めない。小さく鼻を鳴らすと、トゲのある声で言葉を吐き出す。
    「僕たちの名前は、創造主がつけたんじゃないんだよ。僕のオリジナルである人間が、コードネームとして残したものだ。僕の本当の名前は、『ルチアーノ』なんて輝かしいものじゃない。誰にも救うことのできない、絶望の具現化なんだよ」
     一気に捲し立ててから、彼は恥ずかしそうに下を向いた。想定以上に語ってしまったことで、恥ずかしくなっているのだろう。どれだけ美しいものだとしても、名前の由来を語るのは恥ずかしいことだ。僕が昨夜感じた羞恥心を、彼も感じているのだろう。
    「名付け親が創造主じゃなかったとしても、それはルチアーノがもらった大切な名前でしょう? ルチアーノのオリジナルだった人は、きっと音楽が好きだったんだね。だから、その名前を祈りとして残したんだ」
     語ってくれたことが嬉しくて、僕も揚々と言葉を続ける。しかし、どんなに言葉を重ねても、彼の表情は晴れなかった。瞳に暗い光を湛えたまま、ゆっくりと僕から目を離す。
    「違うよ。君は、何も分かっちゃいない。僕に与えられた名前は、呪いでしかないんだ。僕に名前の由来を聞くことは、僕の与えられた呪いを引っ張り出すことなんだよ」
     彼が語る言葉の意味は、僕には分からなかった。それでも、彼の悲しそうな表情を見ていると、僕には何も言えなくなってしまう。きっと、彼が受けてきた心の傷は、呪い同然の苦しみだったのだろう。そんな彼にかけてあげられる言葉を、僕が持ち合わせているはずもなかった。
     静かに席を立つと、彼は洗面所へと向かっていく。その姿を見つめながら、僕は大きくため息をついた。結局、僕はまた失敗してしまったのかもしれない。いつまでたっても、未熟な恋人にしかなれなかった。
     やがて、僕はルチアーノの組織についての真実を知り、彼の言葉の意味を知るのだが、それはずっと先の話だ。
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