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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチ。子供扱いされたくないのに子供のような振る舞いをしてしまうルチと、自分がルチに向ける感情が子供への愛なのか恋人への愛なのか分かってないTF主くんの話。

    ##TF主ルチ

    子供扱い その日、ルチアーノはご機嫌斜めだった。ドスドスと足音を立てながらリビングに上がると、ドスンと音を立ててソファに腰を落とす。見せつけるような仕草で足を組むと、今度は大きく鼻を鳴らした。彼らしいと言ったら彼らしい、怒りを露にした態度である。それでも指摘することができなかったのは、原因が僕にあったからだ。
     机の上に買い物袋を置くと、僕はルチアーノに視線を向ける。溜め息が漏れそうになるのを、すんでのところで押し込めた。僕が疲労を見せたりしたら、ルチアーノはさらに機嫌を損ねるだろう。これ以上関係が拗れることは、何としてでも避けたかった。
     とはいえ、このまま放っておくのは、もっと都合が悪いだろう。決して口に出したりはしないが、こういう時のルチアーノは僕の反応を窺っているのである。知らんぷりをして過ごしたら、後が怖くて仕方がない。
     買い物袋の口を開くと、中のものを取り出した。今夜の夕飯にと買ってきた、スーパーの出来いの品である。ルチアーノの機嫌を取るために、今日のメニューはお寿司とたこ焼きを用意した。冷蔵庫の中に入れるのは、果汁百パーセントのぶどうジュースだ。
    「ねえ、ルチアーノ。ご飯を食べない?」
     恐る恐る声をかけると、彼はちらりとこちらに視線を向けた。机の上に並んだ食べ物を見て、あからさまに顔をしかめる。僕の買い物を覗いていた時から、薄々感づいてはいたのだろう。小さく鼻を鳴らすと、再び前へと視線を向けた。
    「要らないよ。……そもそも、僕には食事なんて必要ないんだ。わざわざ食べてやる義理もないね」
     吐き捨てるような物言いからは、確かな怒りが感じられる。今日のご機嫌斜めは、なかなかに手強そうだった。とはいえ、話をつけないまま食事を始めてしまったら、彼は余計に怒るだろう。口元に苦笑いを浮かべながらも、僕は再びルチアーノに向き合う。
    「そんなこと言わないでよ。お寿司を買ってきたんだよ。デザートには、ぶどうジュースも用意してあるんだから」
     しかし、僕のこの誘いは、いい判断とは言えなかった。僕の言葉を聞いたルチアーノは、鋭い瞳でこちらを睨んできたのだ。勢いよく席から立ち上がると、足音を立てながら歩いてくる。僕の目の前で立ち止まると、威嚇するような声色で言った。
    「君は、僕を子供扱いしてるのか?」
    「えっ?」
     唐突に投げ掛けられた言葉に、僕は間抜けな声を上げてしまう。ゆっくりと視線を上げると、吊り上がった瞳が視界に入った。どうやら、僕の子供じみた目論みは、焼け石に水だったようだ。僕の前まで来たことを考えると、むしろ火に油なのかもしれない。
     そんな僕の動揺を、彼が見逃すはずがなかった。僅かに口角を上げると、威圧的な視線で僕を見上げる。
    「図星なんだな。君は、僕のことを子供扱いしてるんだ。食事で機嫌が取れると思ったから、わざわざ寿司とジュースを買ったんだろ」
    「それは…………」
     一度口を開いてから、僕は再び口を閉じる。違うと言い切れなかったのは、僕の中に迷いがあったからだ。僕は彼のことを恋人として愛していて、恋人としての付き合いをしているつもりだ。でも、僕が彼に対して向ける仕草が、子供扱いでないとは言い切れないのだ。
     そもそも、ルチアーノは子供なのだ。彼は子供の姿をしていて、子供の人格を持っている。人前ではあまり見せていないようだけど、子供のような振る舞いだって多いのだ。そんな相手に接しているのだから、僕の振る舞いも子供相手のようになってしまう。でも、それは、決して彼を子供扱いしているからではないのだ。
    「言い訳しないんだな。つまり、君も僕を子供だと思ってるわけだ。恩情でパートナーになってやったのに、舐められたもんだぜ」
     僕の気持ちを知りもしないまま、ルチアーノはそんな言葉を吐く。苛立たしげに踵を返すと、部屋から出ていってしまった。部屋に響き渡る足音が向かうのは、僕の部屋の方向である。家を出ていかないということは、お風呂に向かうつもりなのだろう。
     リビングに一人取り残されて、僕は大きくため息をつく。どうやら、僕はまた、ルチアーノのご機嫌取りに失敗してしまったようだ。付き合ってから数か月立つというのに、彼の気持ちはまだ分からない。それもそうだろう。僕とルチアーノでは、歩んできた人生が違いすぎるのだから。
     棚から食器を取り出すと、ルチアーノの分のお寿司を取り分ける。せっかく買ってきたのだから、彼にも食べてほしかったのだ。冷蔵庫に入れておけば、お風呂上がりに食べたりするだろう。一人でゆっくりお湯に浸かれば、心の整理もつくはずだ。
     机の上に食事の用意を並べると、手を合わせて食前の挨拶をした。シンプルな黒い箸に手を伸ばすと、お寿司をひとつずつ口に運ぶ。いつもはルチアーノと一緒に食べるから、一人の食事は少し寂しい。静かな部屋の中で、僕は静かに食事を咀嚼した。

     洗面所を出ると、真っ直ぐに自分の部屋へと向かった。タオルで包んだだけの髪の毛は、まだ少し水が滴っている。ルチアーノの様子が気になって、身の回りのこともそこそこに出てきたのだ。喧嘩をしてからしばらく経っているし、冷静になって凹んでいるかもしれない。
     部屋の近くまで歩み寄っても、明かりのついている気配はなかった。中を覗き込んで様子を窺うが、人の待っている気配は少しもない。布団の右半分が膨らんでいるのは、ルチアーノが潜り込んでいるからだろう。音を立てないように近づくと、彼の隣に腰を下ろす。
     何も言葉を発せないまま、僕たちはお互いの様子を窺った。急いで出てきたはいいものの、僕には彼にかける言葉がなかったのだ。静まり返った部屋の中を、時計の音だけが単調に響いている。沈黙に耐えきれなくなった頃に、ルチアーノが口を開いた。
    「なあ、君は、僕のことを嫌いになったかい?」
     その声は、少し震えているように聞こえた。心臓を貫くような言葉に、全身が凍りつくように冷えてしまう。低く響き始めた鼓動を抑えながら、平然を装って言葉を返す。
    「どうして、そんなことを思ったの?」
    「僕が君にしてることは、子供の癇癪と同じだろ。僕が勝手に機嫌を損ねて、君に八つ当たりしてるんだ。そんなことばかりしてたら、君は僕を嫌いになるだろ?」
     後に続く言葉も、さっきまでの態度が嘘のように落ち着いていた。一人の時間を過ごしたことで、気持ちが落ち着いたのだろう。不安になっているのは、自分の言動に対して思うところがあったからだ。
    「嫌いになんてならないよ。悪気がないって分かってるから」
     ルチアーノに視線を向けながら、僕は優しい声で答える。こうして本心を話してくれることが、嬉しくて仕方なかったのだ。親しい関係になったと言っても、彼は神の代行者だ。人間に弱みを見せるなんて、恥ずかしくて仕方ないのだろう。
    「本当は、分かってるんだ。こんなことを言うなんて子供みたいだし、君は僕を嫌いになるって。でも、上手く抑えられないんだ。他の人間たちの前では、いくらでもいい子を演じられるのにな」
     そう語る声色には、さっきよりも震えが混じっていた。言葉を切った後には、微かな啜り泣きの声が聞こえてくる。彼は、きっと不安になっているのだろう。自分が本心を見せることで、僕が彼を嫌いになるんじゃないかと思っているのだ。
    「それは、ルチアーノが僕を信じてくれたからでしょう。僕に心を許してくれたから、本心を見せてくれてるんだよね。君が本当の気持ちを教えてくれて、僕は嬉しいよ」
     できる限りの優しい声で語りながら、僕はルチアーノの方へと手を伸ばす。頭を撫でようとして、宙に浮いたままの手を止めた。今ここで頭を撫でたりしたら、彼を子供扱いしてるみたいになってしまう。
     幸い、ルチアーノは気がつかなかったようだった。布団にくるまったまま、再び小さく鼻を鳴らす。本人は隠しているつもりなのだろうが、僕にははっきりと聞こえていた。
    「怖いんだ。このまま、僕が気持ちを抑えられなかったら、君は僕を嫌いになるんじゃないかって」
     しばらく間を開けてから、ルチアーノは小さな声で呟く。まだ気にしているなんて、心配性な男の子だ。ルチアーノの精神が不安定なことくらい、ずっと前から分かっているのに。
    「大丈夫。嫌いになったりしないよ」
     答えると、ルチアーノは一度言葉を切る。小さく呼吸を整えると、再び質問を投げかけてきた。
    「でも、僕のことを、面倒だと思ってるんだろ」
    「思うこともあるけど、それも含めて好きなんだよ」
     僕の返す言葉は、全てが偽りのない本心だった。抱えている好意を自覚した時から、僕は彼のことを受け止めたかったのだ。彼の狂気や強気な言葉は、全てが寂しさから来ているものである。その事に気づいた時、僕はいても立ってもいられなくなってしまった。それは子供扱いだったのかもしれないけど、それだけではないと思ったのだ。
    「君は、本当に変なやつだなぁ」
     数分の間を開けてから、ルチアーノは小さな声で呟く。返ってきた声は、さっきよりも緩んでいた。年相応の子供のような声が愛おしくて、僕は彼の頭に手を伸ばす。精一杯の強がりなのか、彼は不満そうに鼻を鳴らした。
    「子供扱いするなよ」
    「子供扱いじゃないよ。家族だからしてるんだ」
     そう言うと、僕は彼の隣に潜り込む。小さく丸まった身体を、背後からしっかりと抱き締めた。燃えるような温もりに触れていると、もっと深くに触れてみたいと思ってしまう。それには精神的な意味だけではなくて、身体的な意味も含まれているのだ。
     ルチアーノのことをどう捉えているのかは、僕にもまだ分からない。幼子のように慈しみたい時もあれば、恋人として求めたいと感じる時もある。きっとどっちでもあると同時に、どっちでもないのだろう。僕が彼に求めている関係は、家族以外にはないのだから。
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