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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチ。片想い時代のTF主くんがルチにからかわれて誘惑される話です。

    ##TF主ルチ

    からかい ソリッドビジョンを前にした僕たちに、痺れるような緊張感が走った。手札を持っている左腕は、不安で小刻みに震えている。一方のルチアーノはと言うと、恐ろしい形相で相手を睨み付けていた。ここで失敗してしまったら、その怒りの矛先は僕へと向かうのだろう。震えそうになる声を絞り出すと、なんとかエンドを宣言する。
    「ターン、エンド」
    「俺のターン!」
     僕とは対照的に、相手の声は弾んでいた。それもそのはず、目の前に広がる盤面は、圧倒的に彼らが有利なのである。相手のフィールドにはシンクロモンスターが三体も並んでいて、僕たちのフィールドにはモンスターが一体伏せられているだけだ。順当にデュエルを続けたら、間違いなく彼らが勝てるだろう。
     でも、僕たちには逆転の望みがあったのだ。これでも歴戦のデュエリストなのだから、何もしないまま倒されるつもりはない。フィールドに伏せられているモンスターは、もちろんスカイコアだった。魔法・罠ゾーンには、ルチアーノが伏せたツイン・ボルテックスが待ち構えている。これで相手モンスターとスカイコアを破壊したら、スキエルがフィールドに現れる。
     ターンを受け取った相手は、堂々とモンスターを召喚した。肝心の攻撃力は、スキエルよりも下である。今、このタイミングで召喚したら、相手は手も足も出ないだろう。口角を上げると、僕は高らかに宣言する。
    「トラップ発動! ツイン・ボルテックス!」
     しかし、一筋縄ではいかないのは、相手の方も同じだった。彼らは彼らで、僕たちの反撃に備えた秘策を用意していたのである。僕よりもハッキリと口角を上げると、男は周囲に響き渡る声で宣言する。
    「トラップ発動! 誤作動!!」
    「えっ?」
     これには、僕も大きく口を開けてしまった。デュエリストとしてあるまじきことだが、僕はついさっきまで、そんな反撃が飛んでくるなんて考えもしなかったのだ。当然、何も対策を取ることができないまま、トラップを戻されてしまう。
     そこから先は、目も当てられない状況だった。
     相手は何度も特殊召喚を重ね、ずらりとモンスターを並べてしまう。一度だけなら攻撃を凌げるスカイコアでも、ここまでの大軍はどうにもできなかった。次々にダイレクトアタックを叩き込まれ、一気にLPを削られてしまう。肌に突き刺さるダメージの激しさに、僕はその場に座り込んだ。
    「おい、何やってんだよ!」
     なかなか立ち上がれない僕を見て、ルチアーノはこちらへと駆け寄ってくる。手を差し伸べてくれるのかと思ったが、彼に限ってそんなことはなかった。鋭い瞳で僕を見ると、不満そうに鼻を鳴らす。
    「ほら、とっとと立てよ」
     フラフラしながら立ち上がると、僕たちは対戦相手と向かい合った。何度か言葉を交わすと、挨拶をしてからその場を離れる。二人組が見えなくなったところで、ルチアーノは再び僕に視線を向けた。
    「全く、何やってるんだよ!」
     甲高い怒声に襲われて、僕は思わず顔をしかめる。予想はしていたが、ルチアーノは相当ご機嫌斜めなようだった。それもそうだろう。僕がもう少し考えて行動していたら、僕たちは挽回できたかもしれないのだ。
    「ごめん。あんなトラップが仕掛けられてるなんて、思い付かなくて……」
    「なんだよ! 言い訳なんかして!」
     素直に謝ると、ルチアーノは僕の手首を掴んできた。予想もしていなかった行動に、心臓がドクンと音を立てる。彼が直接僕の身体に触ることなんて、数えるほどしかなかったのだ。
    「いいから、こっちに来な」
     低い声で吐き捨てると、彼は僕を引っ張っていく。子供のような見た目からは信じられないことに、その力は驚くほど強かった。僕はずるずると引きずられ、路地裏へと連れ込まれてしまう。
    「君は、何も反省してないみたいだな」
     建物の影で足を止めると、ルチアーノは低い声で言う。こうして正面から睨まれると、やはり圧倒されてしまうのだ。いくら子供の姿をしていると言っても、彼は秘密結社の幹部である。身に纏う気迫は大人顔負けだ。
    「ごめんって……」
     迫り来る威圧感に圧されながらも、僕はなんとか言葉を返す。ここで何も答えないと、後々の反応が怖いのだ。とはいえ、怒りに支配されたルチアーノが、こんな返事で納得するわけがない。僕をビルの壁まで追い詰めると、至近距離まで顔を近づけてきた。
    「お前は、それでもデュエリストなのか? 相手の伏せカードを警戒するのは、デュエルの基本だろ?」
     僕の顔の目の前に、ルチアーノの顔が映っている。怒りに表情を歪めていても、その顔立ちは美しかった。怒りの言葉を投げられているが、少しも耳に入ってはくれない。仮にも想いを寄せる相手なのだから、平然としてはいられないだろう。
    「ごめん……。僕が悪かったよ」
     彼から視線を逸らすと、僕は小さな声で答える。挙動不審になってしまうのを、隠すことができなかった。僕のそんな行動は、彼にはどのように映ったのだろう。僕を睨み付けたまま、腹立たしげに声を荒らげた。
    「おい、聞いてるのか?」
    「聞いてるよ」
     尚も目を逸らす僕を見て、ルチアーノは強行突破を考えたようだった。こちらへと手を伸ばすと、手のひらで頬を挟んできた。強い力で首を動かされ、無理矢理向かい合わされてしまう。熱い手のひらに包まれて、僕の頬まで熱くなった。
    「今は、君の失敗についての話をしてるんだ。ちゃんと聞くのが礼儀ってもんだろ?」
     恐ろしい表情を浮かべながら、ルチアーノは僕を問い詰める。左右から顔を固定されて、僕には逃げ道がなくなってしまった。彼の威圧から逃れるためには、正直に白状するしかない。覚悟を決めると、僕は思いきって口を開いた。
    「分かってるよ。分かってるんだけど、ルチアーノの距離が近いから……!」
    「はあ?」
     突然の言葉に、今度はルチアーノが気圧されたようだった。大きく口を開くと、呆れた顔で僕を見る。僕の顔を掴んでいた手のひらが、ゆっくりとその場から離れていった。
    「何言ってるんだよ。これくらいの距離、人間のパートナーなら普通なんだろ」
    「普通じゃないよ!これくらい近づいていいのは、恋人同士か家族だけなんだって。そうじゃない相手に近づいたら、誘惑してると勘違いされちゃうよ!」
     無防備な発言をするルチアーノに、僕は正面から言葉を告げる。正体はどうであれ、彼は少女と見紛うほどの可憐さを持っているのだ。不用意に男に近づいたりしたら、危ない目に遭ってしまうかもしれない。現に、僕自身が彼にそういう感情を持っているのだから。
     そんな僕の心配も、ルチアーノには伝わらないようだった。さっきまでの怒りが嘘のように口角を上げると、からかうような口調で言葉を告げる。
    「ふーん。人間の常識っていうのは、面倒臭いもんだな。君も、僕に近づかれたら、そういう気があると勘違いするのかい?」
    「えっ?」
     話の流れが見えなくて、僕は間抜けな声を上げてしまう。頭上に疑問符を浮かべていると、ルチアーノは楽しそうに言葉を続けた。
    「君みたいなやつのことを、人間の社会では『童貞』って言うんだろ。そういうやつは、こういうことをされると弱いんだってな」
     くすくすと笑い声を浮かべながら、ルチアーノは僕の方へと顔を近づける。さっきまでの怒りはどこへやら、すっかりからかいモードだった。しかし、こうなると困るのは僕の方である。嗜虐的な笑みを浮かべているルチアーノは、誰よりも妖艶で美しいのだ。
     ルチアーノの細い指先が、僕の太ももへと触れる。そのまま下へ降りてくると、再び上へと上がってきた。僕の勘違いでなければ、その触れ方は愛撫するかのように優しかった。突然与えられた甘い誘惑に、触れられたところが熱を持つ。
    「ルチアーノっ!? 何してるの?」
    「何って、君をからかってるんだよ」
     いたずらっぽく目を細めながら、ルチアーノは堂々とした態度で言う。そんな表情を見せられたら、僕の身体は熱くなってしまう。誘惑しながら僕に触れてくるなんて、まるで僕の想像の中のルチアーノそのものだ。変な連想をしてしまって、身体の中に火が灯った。
     まずい。このままだと、本当にその気になってしまう。僕が本気だと知ったら、ルチアーノは気持ち悪がるだろう。もしかしたら、パートナーを解消されてしまうかもしれない。そうなったら、困るのは僕の方なのだ。
     覚悟を決めると、僕はルチアーノの腕を掴んだ。無理矢理引き離すと、身体を引いて彼から距離を取る。なんとか平静を保つと、言い聞かせるような声で言った。
    「だめだよ。こういうことは、付き合ってからやらないと」
    「ふーん。なら、付き合ってからならいいんだな」
     返ってくるのは、そんな生意気な言葉である。状況が状況なだけに、一瞬本気にしてしまった。彼が僕をからかっているのは、僕と本当のパートナーになりたいからなのだろうか。そんなことを考えてしまって、頬が熱くなる。
    「冗談だよ。こんなリップサービスを本気にするなんて、君は本当に童貞だな」
     しばらく間を空けた後に、ルチアーノはそんな言葉を吐いた。本気にしてしまったことが恥ずかしくなるような、呆れきった声色である。僕の顔が赤くなったのは、今度は甘い理由ではなかった。羞恥心が胸を満たして、僕の身体を火照らせる
    「ルチアーノ!」
     僕の怒りの声は、彼には届いていなかった。返ってくるのは、からかうような笑い声だけである。結局、僕はいつまでたっても、彼にからかわれる運命らしい。自分が情けなくなって、僕は大きく息を吐いた。
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