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    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

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    TF主ルチ。ルチがTF主くんのためにスイーツイベントのお菓子を持ってきてくれる話。

    ##TF主ルチ

    スイーツイベント 夕方の情報番組が終わると、ゴールデンタイムのバラエティが始まる。賑やかな音声が聞こえたかと思うと、しばらくしてから番組のタイトルが出てくるのだ。その、内容があるようで無いテレビ番組を、僕は夕食を取りながら眺めている。一人暮らしの家は静かになりがちだから、賑やかしのためにつけることが多かったのだ。
     とはいえ、そんなバラエティ番組も、すべてが無意味なわけではない。有象無象のテレビ番組の中にも、僕にとって有意義なものはあったのだ。テレビを見たことがきっかけで、新しい世界と出会えることだってある。そのテレビ番組も、そんな出会いのひとつだった。
     その日、テレビの中に映し出されたのは、シティ繁華街のデパートだった。フロアを丸ごと使った催事場に、取材班一行が足を踏み入れている。まだオープン前らしく、店舗ではスタッフが歩き回っていた。店舗の正面に設置されたショーケースには、色とりどりに飾られた洋菓子が並べられている。
     そう。テレビ番組が取材していたのは、デパートで開催されるスイーツの販売イベントだった。全国各地の人気スイーツ店が、シティ一の規模を持つデパートに集結するのだと言う。年に一度の大規模イベントということで、テレビ局も取材に走り回っているらしい。僕が目にしたのは、そんな番組のひとつだった。
     オープン時間が近づいてくると、店舗スタッフはそれぞれの位置につく。中には準備の間に合っていない店舗もあって、催事場はてんやわんやだ。しばらく内部の様子を映すと、映像は建物の外へと移った。
     遠くから撮影された映像に、一列に並んだ黒い影が見える。建物を取り囲むように続くそれは、開店を待つお客さんの列だった。開催初日ということもあって、他県からも人が集まっているらしい。マイクを持ったインタビュアーが、列に並ぶ人々に話を聞いていた。
     人々が待ちくたびれた頃に、満を持して建物の扉が開く。先頭に並んでいた人々が、我先にと催事場に向かっていった。開店から数十分も経たないうちに、フロアは人で埋め尽くされる。大盛況という言葉では足りないくらいの、凄まじい光景だった。
     最早別世界となった光景を眺めながら、僕は夕食を口に運ぶ。テレビの中の販売イベントは、半ば戦争の様相を呈しているのだ。いくら珍しいお菓子だとしても、この中に混ざりたいとは思わなかった。
     ぼんやりとテレビを見ていると、背後に気配を感じた。任務を終えたルチアーノが、ワープ機能を使って帰ってきたのだ。光の粒子が部屋を満たすと、徐々に男の子の姿を映し出す。目前へと現れた少年は、僕とテレビの間に立っていた。
    「帰ったよ。面倒な人間の相手をしてたら、すっかり遅くなっちまったぜ」
     身に纏った布を光に変えると、ルチアーノは面倒臭そうに言う。僕の正面へと歩み寄ると、どかりと音を立てて腰を下ろした。
    「おかえり、ルチアーノ」
     顔を見ながら答えると、僕はテレビに視線を移す。いつの間にか初日の取材は終わっていて、出店している店舗の紹介が始まっていた。番組の取材で名前の上がった商品が、ランキング形式で取り上げられていく。どれもこれも聞いたことのあるお店の名前で、とんでもないお値段をしていた。
    「おい、どうしたんだよ。箸が止まってるぞ」
     思わず動きを止めた僕を見て、ルチアーノが呆れたように尋ねる。テレビを観ることに夢中になって、食事がおろそかになっていたようだ。早く食べないと、せっかくのお弁当が冷めてしまう。
    「ちょっと、テレビが気になって。今日は、シティでやってるスイーツフェスの特集なんだって」
     簡潔に言葉を返すと、僕は再び手を動かす。食べ物を口に運んではいるものの、視線はテレビに向けたままである。洒落ていてお高いお菓子の数々は、僕には無縁な世界だと思えた。
    「ふーん。そういえば、君は甘味が好きだったな。この手の店の菓子くらい、治安維持局なら飽き飽きするほど出てくるぜ」
     ちらりと画面に視線を向けると、ルチアーノは気の無い素振りで言う。彼の言葉を聞いて、思わず顔を見つめてしまった。まさか、こんなにも身近に、人気ブランドのスイーツを食べた人がいたとは。とはいえ、彼も治安維持局の職員だから、おかしくはないのかもしれない。
    「ルチアーノは、ここで紹介されてるお菓子を食べたことがあるの?」
     正面から尋ねると、彼は呆れきった表情を浮かべる。片手を上げた落ち着くように促すと、淡々と言葉を続けた。
    「そんなに食いつくなよ。僕は甘味なんて好きじゃないから、出された箱を見てただけだぜ。取引先の人間たちなら、何個か摘まんでたんじゃないか?」
     彼の話を聞きながら、僕は唇の端を噛んでしまう。一般市民には滅多に食べられないお菓子なのに、ルチアーノは食べずに流してしまったのだ。勿体無いと思ってしまうのは、僕が庶民だからだけではないだろう。
    「そんなの、勿体ないよ。ここで紹介されてるお店のお菓子は、滅多に食べられないんだよ。店舗が限られてたり販売数が決まってたりして、買うことすら難しいって言われてるのに」
     甘党ゆえの熱が籠って、声が大きくなってしまう。言葉の半分は、テレビでの紹介を踏まえた受け売りだった。スイーツについて力説する僕を見て、ルチアーノはさらに呆れを見せる。大きくため息をつくと、半ば突き放すような口調でこう言った。
    「僕が食べたくないんだから、食べなくてもいいだろ。……そんなに言うなら、今度余りを持ってきてやろうか」
    「いいの!?」
     予想外の言葉が飛び出してきて、僕は身を乗り出してしまう。冷めた視線を向けていたルチアーノが、驚いたように目を見開いた。彼は何気なく告げただけで、本気にされるとは思ってもいなかったのだろう。しかし、それが本気だったかということは、僕には関係なかったのだ。
    「だから、そんなに食いつくなって。君は、本当に甘味が好きなんだな」
     宥めるように言葉を続けると、彼は黙って席を立つ。テレビのリモコンを手にすると、チャンネルをザッピングし始めた。三位までの発表を終えたランキングが、中途半端なところで途切れてしまう。慌てて視線を戻した時には、地方局のデュエルチャンネルに変わっていた。
    「ああっ……! 見てたのに!」
     慌てて抗議の声を上げるが、ルチアーノは取り合ってくれない。ソファに腰を下ろすと、テレビ画面を眺め始めた。一人テーブルに残された僕に、背中を向けたまま言葉をかける。
    「そんなもの見なくても、僕が実物を持ってきてやるよ。期待されたからには、相応しいものを用意しないとな」
     さっきまでの呆れが嘘のような、からかうような声色だった。僕が食いついたことで、変なやる気が起きているのだろう。とはいえ、ルチアーノが楽しそうにしている時は、大抵が大変な目に遭うのだ。変なことを考えてなければいいと、心の隅で思ってしまった。

     ルチアーノが僕の家を訪れたのは、それから二日後のことだった。ワープ機能を使ってリビングへ上がると、僕の前に箱を差し出してくる。よくある洋菓子の箱の側面には、有名店のロゴが印刷されていた。見覚えのあるその文字列は、この前のテレビで紹介されていたお店だろう。
    「ほら、お望み通り持ってきてやったぜ。珍しいものなんだから、僕に感謝しなよ」
     空の食器を持ったまま動きを止める僕を見て、ルチアーノは尊大な態度で語る。状況を把握するまでに、少し時間がかかってしまった。洋菓子の箱とルチアーノの顔を見比べると、食器を置いて箱を受け取る。恐る恐る中身を覗き込むと、僕は再び顔を上げた。
    「ねえ、これって……!」
     言葉すら出てこない僕の姿に、ルチアーノは満足げな笑みを浮かべる。縦に歪んだ唇から、きひひと笑い声が漏れた。
    「そうだよ。君が見てたテレビのランキングに入ってた、チョコレートのマカロンだ。イベントでも一日百個しか販売されない、ものすごく貴重な品らしいな」
     『ものすごく』の部分を強調しながら、ルチアーノは自慢げに言葉を続ける。彼が威張るのも頷けるほどに、このスイーツは貴重だったのだ。販売個数が限られている上に、値段も普通のマカロンの比ではない。一般市民である僕にとっては、到底手の届かない品だろう。
    「僕のために、わざわざ買ってきてくれたんだね。ありがとう!」
     両手を合わせてお礼を言うと、僕はゆっくりと箱の中に手を伸ばす。繊細な生地の間に山のようなクリームが挟まれたマカロンは、プラスチックのケースに覆われていた。ケースごと箱から取り出すと、震える手つきで蓋を開ける。両手で挟むように持ち上げると、クリームがはみ出しそうになった。
    「ほら、零れそうになってるぞ。貴重なものなんだから、もっと丁寧に扱えよ」
     危なっかしい僕の手つきを見て、ルチアーノが口を挟んでくる。形を崩してしまうのは勿体ないから、慌てて力加減を調整した。クリームが零れないように気を付けながら、生地ごとクリームを齧ろうとする。
     しかし、歯の力に押されたクリームは、潰れてはみ出していってしまった。持ち方や食べ方を工夫しながら、なんとか溢さずに食べようと努力する。結局、僕が思い付いた方法は、上下の生地を分けて食べる方法だった。こうすればクリームと一緒に食べられるし、はみ出してしまう心配もない。
     生地とクリームを口に含むと、舌で転がしながら咀嚼する。高級洋菓子店のマカロンは、上品な甘味に満たされていた。クッキー部分はカリッとしていて、クリームはとろけるように柔らかい。飲み込んでしまうのが名残惜しくて、時間をかけて味わった。
    「ありがとう。すごくおいしいよ」
     真っ直ぐにルチアーノを見つめると、僕は真剣にお礼を言う。彼が持ってきてくれなければ、このようなものは一生食べられなかったのだ。貴重な体験をさせてもらえたことが、純粋に嬉しかった。
    「こんなもので喜ぶなんて、君って本当に単純だよな。こんなもの、治安維持局ならいくらだって取り寄せられるのに」
     呆れたように顔を逸らすと、ルチアーノは小さな声で言う。その頬が赤く染まっていることに気がついて、僕はこっそりと口角を上げた。
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