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    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチ。夕食にルチが持ち込んだロシアンたこ焼きを食べる話。

    ##TF主ルチ

    ロシアンルーレット 家に帰ると、ルチアーノが待ち構えていた。テーブルの定位置に腰を下ろして、リビングの入り口を見つめている。視線は完全に僕を捉えていて、ある種の威圧感すら感じるくらいだ。リビングと廊下の境界に足を踏み入れると、彼は勿体ぶった様子で口を開いた。
    「お帰り。待ってたよ」
    「ただいま。どうしたの、そんな顔して」
     困惑しながら尋ねると、彼はきひひと笑い声を上げる。いたずらっぽいく眉を上げると、楽しそうな声でこう言った。
    「そんなに警戒するなよ。今日は、君のために夕食を用意してやったんだ。準備の手間が省けるんだから、感謝してくれよな」
     にやにやと口角を上げたまま、ルチアーノは楽しそうに言う。恩着せがましく語る姿に、僕は嫌な気配を感じた。彼が夕食を用意してるなんて、何かを企んでる以外あり得ないのだ。彼にとって食事というものは、生活に不必要な娯楽なのだから。
    「そんなこと言って、また変なことを企んでるんでしょ。ホラー映画を見せながらハンバーグとかは、絶対に嫌だからね」
     僕が顔をしかめると、ルチアーノは心外そうに鼻を鳴らす。唇を尖らせると、大袈裟な仕草で溜め息をついた。
    「その顔、信用してないな。この前のハンバーグは、君の脆さを読み謝っただけだよ。人間の感情っていうのは、厄介なものなんだな」
     全然反省していない素振りで、彼は淡々と言葉を重ねていく。やれやれといった顔をしているが、言いたいのは僕の方だった。苦手なホラー映画を見せられた上に、嫌な想像までさせられたのだ。平気でいる方がおかしいだろう。
    「厄介って、あれが普通の反応なんだよ。変ないたずらをするつもりなら、絶対に食べないからね」
    「安心しなよ。今回は、ホラー映画を見せたりはしないからさ。きっと君も楽しんでくれると思うぜ」
     自信ありげな表情を浮かべると、ルチアーノはおもむろに席を立った。真っ直ぐに歩を進めると、キッチン台へと向かっていく。そこに置かれていたのは、屋台でよく見かけるようなプラスチック製のパックだ。中には、茶色い食べ物が入っていた。
     中身をお皿の上に広げると、電子レンジの中へと放り込む。今にも転がりそうな姿を見て、それがたこ焼きだということに気がついた。科学の力で加熱されたたこ焼きが、レンジの中でパチパチと音を立てる。軽快な音を立てると、今度はアルミホイルを敷いたオーブントースターに転がした。
     表面が焼けるにつれて、室内に香ばしい香りが漂ってくる。空腹感を刺激されて、胃の中が締め付けられる感覚がした。一日中動き回った後だから、お腹が空いて仕方がないのだ。
     たこ焼きのお皿を机に置くと、ルチアーノは冷蔵庫へと向かう。扉を開くと、ボウルに入ったサラダを取り出した。出来合いのたこ焼きとは対称的に、こっちはなかなかに手が込んでいる。最後に取り皿と箸を並べると、彼は尊大な態度で指示を出す。
    「ほら、用意してやったぜ。とっとと手を洗ってこいよ」
     いかにもなどや顔で迫られて、僕は椅子の上に荷物を置く。洗面所へと向かうと、手洗いうがいと身支度を済ませた。急いで部屋に戻ると、ルチアーノは向かいの席に座って手を揃えている。彼らしくない期待の表情に、再び嫌な予感が込み上げてきた。
    「それにしても、なんか珍しいね。ルチアーノが、自分からたこ焼きを持ってくるなんて」
     自分の席に腰を下ろすと、僕は探るようにそう言った。その言葉を待ち構えていたのか、ルチアーノが嬉しそうに笑みを浮かべる。にやりと口角を上げると、嬉しそうな声で語り始めた。
    「そうだよ。これは、ただのたこ焼きじゃないんだ。いわゆる、ロシアンたこ焼きなんだよ」
    「ロシアンたこ焼き?」
     聞き慣れない言葉に、僕は大きな疑問符を浮かべた。そんな僕の反応が面白いのか、ルチアーノはきひひと笑い声を上げる。箸をたこ焼きの方に向けると、相変わらずの弾んだ声で続けた。
    「さすがの君も、ロシアンルーレットくらいは分かるだろ。銃にひとつだけ実弾を入れて、プレイヤーの運を試す闇のゲームだよ。ロシアンたこ焼きっていうのは、それのたこ焼きバージョンだ」
     要するに、ルチアーノが持ち込んだ夕食は、食べ物を利用した運試しのようなものらしい。彼らしいと言えば彼らしい、子供の遊びのようなメニュー選びである。外見相応ではあるのだが、そんなことを言ったら怒らせるから黙っておく。
    「そんなもの、いつどこで考えたの? ルチアーノって、こういう子供っぽい遊びは好きじゃないんでしょ?」
     正面から尋ねると、彼はきひひと笑い声を上げた。からかうように僕を見上げたまま、やけに饒舌に言葉を重ねる。
    「この遊びは、この前のカラオケで思い付いたんだ。料理のメニューの中に、これと同じものがあったんだよ。まあ、市販のたこ焼きの辛さなんて、高が知れてるけどな。僕が用意するんだから、もっと大人の辛さにしないと」
     楽しそうなルチアーノとは対称的に、僕は嫌な予感に押し潰されていた。つまり、彼が用意した外れのたこ焼きは、市販のものを軽々と越えるくらい辛いのだ。万が一引いてしまったら、口の中が焼けてしまうだろう。
    「嫌だなぁ。そんなものを食べるなんて。あんまり辛かったら、お腹を壊しちゃうよ」
    「だから、わざわざ野菜を用意してやったんだろ。そんなに辛いものが苦手なら、牛乳を用意してやろうか?」
    「それは……食べてから考えるよ」
     半ば煽るように説得されて、僕は渋々箸を手に取る。待ってましたと言わんばかりに、ルチアーノがたこ焼きに手を伸ばした。
    「じゃあ、まずはひとつ目だな。君も、とっとと選べよ」
     ルチアーノに急かされながら、僕はお皿に箸を近づける。無数に転がるたこ焼きの上で、ふわふわと手を彷徨わせた。たこ焼きはどれも同じような外見をしていて、どれが辛いのか検討もつかない。仕方がないから、一番近いところにあるたこ焼きを掴み取った。
    「選んだな。食べるぞ」
     期待に満ちた声で呟いてから、彼はたこ焼きを口に放り込む。嫌な予感を感じながらも、僕も同じように口に運んだ。温め直したたこ焼きは温かくて、舌を火傷しそうになる。外れを引いたらと不安だったが、中身は普通のたこ焼きだった。
    「僕はセーフだったぜ。君は?」
    「僕も大丈夫だよ」
     口の中のものを飲み込んでから、僕はルチアーノに言葉を返す。さすがに最初の一個目から外れを引くことはなかったようだ。僕の運の無さを期待していたのか、ルチアーノは不満そうに唇を尖らせる。
    「なんだよ。ここは、最初から外れを引くところだろ。つまんねー奴だな」
    「そんなこと言われても……」
     ルチアーノに罵倒されながら、僕は二個目のたこ焼きに手を伸ばす。少し悩んでから、真ん中のたこ焼きを手に取った。小さく息を飲んでから、僕は目の前のたこ焼きを口に運ぶ。
     正面では、ルチアーノも同じようにたこ焼きを掴んでいた。迷わずに箸を伸ばすと、一気に口元に運ぶ。
     二個目のたこ焼きも、ごく普通のたこ焼きだった。とろとろの生地に苦戦しながら、何とか咀嚼して飲み込んでいく。ルチアーノの方も、平然とたこ焼きを咀嚼していた。
    「今度も、普通のたこ焼きだったよ」
    「僕もだよ。やっぱり、五分の一は少なかったみたいだな。これじゃあ、ただのたこ焼きパーティーだ」
     不満そうに言葉を漏らすと、彼は次のたこ焼きに手を伸ばす。ルチアーノに置いていかれないように、僕もたこ焼きに手を伸ばした。徐々に少なくなっていくお皿の上から、適当なたこ焼きを選び出す。そろそろ当たりそうな予感がして、心臓がドクドクとなった。
     お互いに顔を見合わせてから、僕たちはたこ焼きを口に運ぶ。僕の選んだたこ焼きは、ごく普通のたこ焼きだった。激辛を回避したことで、僕は安堵の息をつく。正面に視線を向けると、ルチアーノが顔をしかめていた。
     どうやら、初の激辛たこ焼きを引いたのは、ルチアーノであるようだった。苦しそうに顔をしかめたまま、しばらく動きを止めている。いくら戦闘用アンドロイドだと言っても、反応は子供のままなのだろう。苦しそうに野菜に手を伸ばす姿は、ただの子供にしか見えなかった。
    「ルチアーノも、外れの位置までは知らなかったんだね。もしかしたら、知ってて黙ってるんじゃないかと思ってたよ」
     僕が呟くと、彼は不満そうにこっちを睨む。相当心外だったようで、ふんすと鼻を鳴らしていた。
    「そんなせこいこと、僕がするわけないだろ。勝負っていうのは、フェアじゃないと成立しないんだから」
     その真剣な態度を見ていると、疑ったことが申し訳なくなってくる。何だかんだ言っても、ルチアーノはこの世界のデュエリストなのだ。デュエルに対してのプライドは、僕たちと変わらないのだろう。
     野菜を食べて口の中を整えると、ルチアーノは僕に視線を向けた。鋭い瞳で睨み付けると、対抗心剥き出しの表情を見せる。
    「ほら、とっとと次を食うぞ。君に当ててもらわないと、僕の気が済まないからな」
     ルチアーノって急かされて、僕はたこ焼きに手を伸ばした。お皿の上に残ったたこ焼きは、十四個のうち三個が外れである。確率が下がったとはいえ、僕が引かないとは限らないのだ。
     恐る恐るたこ焼きを手に取ると、口の中へと運んでいく。少し心配していたが、中身は普通のたこ焼きだった。ルチアーノに視線を向けるが、彼も引いている様子はない。
    「なんだよ。また当たらなかったのか? 君ばっか普通のを食べやがって……」
     ぶつぶつと呟くルチアーノを横目に、僕はサラダに手を伸ばした。いくらロシアンルーレットだと言っても、たこ焼きばかり食べていたら飽きてしまう。音を立てながら野菜を咀嚼すると、水分と一緒に胃の中に流し込む。しばらく箸を休ませると、再びたこ焼きに箸を伸ばした。
     覚悟を決めてから、口の中にたこ焼きを放り込む。生地に歯を立てると、燃えるような熱が溢れ出してきた。強烈な痺れに襲われて、僕は慌てて口元を抑える。それが辛味であると気がついたのは、生地を飲み込んだ後だった。
     燃えるような強烈な辛さが、食道を通って胃の中へと落ちる。息もできないほどの苦しさに、慌てて野菜に手を伸ばした。しかし、食べても食べても、口内の痺れは消えてくれない。足早に冷蔵庫に向かうと、コップに注いだ牛乳を飲み干した。
     そんな僕の姿を見て、ルチアーノはケラケラと笑う。僕が落ち着いた頃を見計らうと、笑みを含んだ声で言った。
    「やっと当たったんだな。どうだよ。激辛たこ焼きの味はさ」
    「辛すぎるよ。こんなの、人間が食べるものじゃないって」
     何とか返事をすると、僕は口を半開きにする。そうしていた方が、辛味が楽になる気がしたのだ。口呼吸をする犬みたいだと思ってしまって、慌ててその考えを振り払う。
    「外れなんだから、辛くしないとおもしろくないだろ。僕だって同じものを食べてるんだ。条件は平等だよ」
    「そうは言っても、ルチアーノは機械の身体でしょ。受けるダメージが違いすぎるよ」
     必死に説得を試みるが、彼は一切聞き入れてくれない。宙に箸を突き出すと、そっけない態度で僕を急かした。
    「文句ばっかり言うなよ。ほら、とっとと次を食べるぞ」
     言われるがままに、僕はお皿の上に箸を伸ばす。口の中の痺れを誤魔化すには、食べ物を入れた方がいいと思ったのだ。運悪く外れに当たったとしても、既に口が痺れているのだから傷は浅い。対して考えることもないまま、僕はたこ焼きを手に取った。
     中から溢れてきた生地は、ごく普通のたこ焼き生地だった。だいぶ時間が経っているから、噛みしめても火傷するほどの熱さはない。僕の目論見通り、ものを食べている間だけは、舌の痺れも収まってくれた。
     そうなると、今度は飲み込むことが億劫になってしまう。舌の痺れを誤魔化すように、僕はゆっくり口の中のものを咀嚼した。いつまでも口を動かしている僕を見て、ルチアーノが不満そうに鼻を鳴らす。
    「いつまで食ってるんだよ。とっとと飲み込みな」
     正面から急かされて、渋々たこ焼きを飲み込んだ。お皿の上には、まだ八個のたこ焼きが残っているのだ。恐ろしいことに、そのうちの二つは激辛である。一個食べただけでも、舌が痺れて息ができなくなるほどだ。
    「ほら、次だぜ」
     ルチアーノに急かされて、僕は次のたこ焼きへと箸を向ける。外れのたこ焼きを引かないように、真剣にお皿の上を睨み付けた。しかし、どれだけしっかり観察しても、中身までは分からない。仕方ないから、またしても勘で選ぶことにした。
     震える指でたこ焼きを掴むと、覚悟を決めて口へと運ぶ。何度か口の中で転がしてから、思いきって生地に歯を立てる。中から溢れてきたのは、痺れるほどの辛さだった。痺れを蘇らせる衝撃に、僕は口に手を当てる。
     今度は、なかなか飲み込むことができなかった。口に手を当てたまま、僕はその場で動きを止める。さっき感じた痛みを思い出すと、歯を立てることすらできないのだ。
    「ほら、とっとと飲み込めよ。吐き出すなんて許さないからな」
     にやにや顔のルチアーノに急かされながら、僕はなんとか覚悟を決める。大きく息を吸って呼吸を止めると、熱を発する生地に歯を立てた。えずきそうになるのを堪えながら、必死の思いで中のものを飲み込む。口を開けると、その場で大きく咳き込んだ。
    「君は、また外れを引いたんだな。この調子で、次も外れを引くかもしれないぜ」
     にやにやと笑いながら、ルチアーノは僕に向かって言う。ここまでずっとプレーンを引いているから、口の痺れも取れていることだろう。余裕綽々な態度を見せられて、対抗心が沸き上がってきた。牛乳を口の中に流し込むと、僕はルチアーノに視線を向ける。
    「冗談じゃないよ。次は、絶対にルチアーノに食べさせるからね」
    「そうなるといいな。ひひっ」
     お互いに睨みあったまま、僕たちはたこ焼きに箸を伸ばす。お皿に残っているのは六個で、激辛はひとつだけだ。思い思いの位置に手を伸ばすと、転がっているたこ焼きを拾い上げる。無言で目配せをすると、同じタイミングで口へと運んだ。
     黙ったまま咀嚼すると、お互いに顔を見合わせる。平然とした顔の僕を見ると、ルチアーノは不満そうに唇を尖らせた。
    「またなんだよ。また引かなかったのか?」
    「ルチアーノこそ、命拾いしたみたいだね」
     喧嘩を売るような言葉を吐くと、次のたこ焼きに手を伸ばす。残りは四個まで減っていて、いつ外れを引いてもおかしくなかった。慎重に選ぶと、目配せをしてから口に運ぶ。しかし、今回のたこ焼きも、外れを引くことはなかった。
    「ついに、最後だな」
     お皿に残ったたこ焼きを見ると、ルチアーノはしみじみと呟く。お皿に転がるたこ焼きを見ながら、僕も同じトーンで答えた。
    「そうだね」
    「君は、どっちのたこ焼きがいいんだよ」
     僕の方に視線を向けると、彼は真面目な様子で言う。いつもは強引に決めてしまうのだが、今日は僕にも選択権をくれるみたいだ。お皿の上のたこ焼きを眺めてから、これだと思った方に箸を向ける。正面に座っていたルチアーノが、止めるように手を伸ばしてきた。
    「奇遇だな。僕も、そっちがいいと思ってたんだよ。ここは、公平にじゃんけんで決めないか?」
     挑戦的な態度で言われて、僕は思わず手を引いた。ルチアーノが勝負を提案する時には、必ず何か裏があるのだ。このロシアンルーレットだって、持ち出してきたのはルチアーノである。ここに罠があったとしても、何もおかしい話ではない。
    「そのじゃんけん、裏があったりしない?」
     直接尋ねると、彼は眉をつり上げた。冷めた目でこちらを見つめると、瞳と同じくらい冷たい声で言う。
    「ふーん。君は、恋人のことを疑うんだな。せっかくチャンスをやるって言ってるのに」
     彼の口から零れる言葉は、全て本物であるようだった。浮かべられた表情に、一切怪しいところはない。疑ってしまったことに対して、罪悪感が混み上がってくる。居ずまいを正すと、僕はルチアーノと向かい合った。
    「ごめん。勝負に対しては、正々堂々やるんだったね」
    「分かればいいんだよ。ほら、やるぞ」
     たこ焼きを挟んで向かい合うと、ルチアーノの合図でじゃんけんをする。公正なるじゃんけんの結果は、ルチアーノの勝ちに終わった。勝ち誇った顔で箸を伸ばすと、彼は目の前のたこ焼きを拾い上げる。嫌な予感を感じながら、僕は残されたたこ焼きに手を伸ばした。
    「これが、最後の勝負だ。食べるぞ」
     ルチアーノの合図と共に、僕たちはたこ焼きを口へと運ぶ。恐る恐る歯を立てると、痺れるような熱が溢れ出してきた。吐き出しそうになるのを堪えながら、僕は必死で咀嚼する。喉が焼けるように熱くて、慌てて牛乳を流し込んだ。
     生地を飲み込んだ後も、口の中には痺れが残っている。三度も同じ刺激を与えられたせいで、胃の中まで熱く痺れていた。濃縮された強烈な辛さは、痛いのか熱いのかすら分からないくらいだ。慌てて野菜を掻き込む僕の姿を、ルチアーノは笑いながら眺めていた。
    「なんだよ。君は、また外れを当てたのか? 本当に運のない奴だなぁ」
     きひひと甲高い声で笑われて、僕は思わずむっとしてしまう。ルチアーノに視線を向けると、思ったままに言葉を吐いた。
    「ねえ、本当に、中身が何か知らなかったの? 本当は分かってたのに、知らない振りをしてたんじゃないよね」
    「なんだよ。君は、僕のことを疑うのか? 嫌な奴だなぁ」
     冷たい火花を散らしながら、僕たちはしばらく睨み合う。先に敵意を引っ込めたのは、なんとルチアーノの方だった。おもむろに席から立ち上がると、冷蔵庫の方へと向かっていく。取り出したのは、シティで有名な洋菓子店の箱だった。
    「僕が用意する夕食が、ロシアンたこ焼きだけなわけないだろ。君が喜ぶと思って、いいもんを用意してやったんだ」
     恩着せがましくそう言うと、彼は箱の蓋を開ける。そこに入っていたのは、フルーツがふんだんに使われたケーキだった。普段の僕であれば、到底手の届かないものである。贈り物の豪華さに、さっきまでのモヤモヤは消え失せてしまった。
    「これ、僕のために買ってきてくれたの?」
    「そうだよ。シティ繁華街のデパートまで、わざわざ買いに行ってやったんだ。感謝しろよ」
     偉そうなルチアーノを横目に、僕はケーキを取り出した。一人分の小さなケーキだが、そうとは思えない存在感を放っている。ゆっくりとフォークを手に取ると、片隅を掬い上げてみる。スポンジはふわふわで、簡単にほぐれてしまった。
     ゆっくりと口に運ぶと、華やかな甘味が口に広がる。激辛に侵食された口の中に、その優しさはひしひしと染み渡った。もう一度フォークを伸ばすと、さっきよりも多くスポンジを掬う。果物を上に乗せると、一気に口の中に押し込んだ。
    「おいしいよ。ありがとう」
     フォークを口に運びながら、僕はルチアーノにお礼を言う。正面で僕を見ていたルチアーノが、呆れたように息を吐いた。
    「そんなもんで機嫌が直るのかよ。相変わらず単純だなぁ」
    「そんなものじゃないよ。これは、シティ繁華街にしか出店してないケーキ屋さんのケーキなんだから」
     勢い込んで答えると、ルチアーノはさらに呆れ顔を見せる。仮にも権力者である彼にとって、高級ケーキなど食べ慣れたものなのだろう。でも、僕はシティの一般市民なのだ。こんなものを食べられる機会など、そうそうあるわけではない。
     黙って手を動かしたまま、僕は考えてしまう。ルチアーノがケーキを用意したのは、こうなることを予測していたからなのだろうか。彼のことだから、始めから僕に外れを食べさせるために、ロシアンルーレットを用意したのかもしれない。本当はどうだったかなんて、今さら確かめることもできないのだ。
     とはいえ、今回の催しもが悪いものだったかと言うと、そうとは限らない気もしてしまう。ルチアーノが変なことを考えたから、僕はこのケーキを食べられたのだ。彼と知り合うことがなかったら、こんなものは一生食べられなかったかもしれない。何よりも、彼が僕のことを考えてくれただけで、飛び上がるほど嬉しいのだった。
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