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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチ。ルチ視点。ルチが何千年も生きていると思っているのは神が植え付けた記憶によるもので、本当はシティ以外を訪れたことはないのでは?みたいな話です。

    ##TF主ルチ

    世界五分前仮説 青年の部屋に向かうと、ベッドの隅に腰を下ろした。ぐるりと周囲に視線を向けて、足元に積まれた雑誌に手を伸ばす。一番上に置かれていたのは、デュエリスト向けの季刊雑誌だ。何気なく手に取ると、ページを捲って紙面に視線を向ける。
     巻頭に配置された記事は、プロデュエリストの特集記事だった。海外の大会で優勝したチームに、長尺のインタビューを行っているらしい。大きく掲載された写真に乗っているのは、体格の良い西洋人の男たちだ。どこかで見たことがある気がしたが、わざわざ記憶を探る気にもなれなかった。
     しばらくページを捲ると、僕は片手で雑誌を閉じる。他人のインタビューを見たところで、面白くもなんともなかったのだ。そもそも、僕は戦闘の手段としてデッキを与えられているだけで、プロデュエリストになりたいわけではない。デュエルを目的にシティに来た彼とは、根本的に違っていた。
     デュエル雑誌を放り出すと、再び雑誌の山を物色する。幾重にも重ねられた紙束を、上から順に確かめていく。彼はプロデュエリストを目指していると言っていたから、積まれているのもデュエルに関する雑誌ばかりだ。いくつか上のものを避けていくと、他とは傾向の違う表紙が視界に飛び込んできた。
     背表紙を掴むように持ち上げると、引きずるようにベッドの上に乗せる。そこに描かれていたのは、UFOと宇宙人のイラストだった。絵本の挿画のようなタッチだが、どこか不気味な雰囲気を纏っている。シャープな文字で印刷されたタイトルは、有名なオカルト雑誌の名前だった。
     どう見ても場違いな存在に、僕は僅かに眉を歪める。あの青年がオカルト雑誌を読むなんて、これまでにも聞いたことがなかった。確かに、彼は眉唾な迷信を信じるところがあるが、オカルトを面白がるような性格だっただろうか。彼の真意を探るように、僕は表紙に指をかける。
     ページを捲った先にあったのは、カラー印刷の巻頭記事だった。UFOと宇宙人を特集しているようで、画質の荒いカラー写真が掲載されていた。太字で書かれた見出しには、『UFO研究所の真実!』等と書かれている。いかにも眉唾な特集に、呆れてものも言えなかった。
     ろくに中身も見ずに雑誌を閉じると、遠くから足音が聞こえてきた。風呂から上がった青年が、自分の部屋へと戻ってきたのだ。雑誌から顔を上げると、入り口から姿を現す。ベッドの前まで歩み寄ると、僕の隣に腰を下ろした。
     様子を窺うかのように、彼は僕の手元に視線を向ける。僕の膝の上に乗っているのは、さっきまで見ていたオカルト雑誌だった。彼の様子を眺めていたら、戻しそびれてしまったのである。雑誌の表紙を視界に捉えると、彼は驚いたように言葉を発した。
    「ルチアーノも、そういう雑誌に興味があるんだね。オカルトは信じないと思ってたから、なんだか新鮮だな」
     弾んだ声が耳障りで、僕は小さく鼻を鳴らす。オカルト雑誌を見ていたのは、内容に興味があるからではなかったのだ。こんなことで勘違いされてしまうのは、機械生命体として納得がいかない。青年を見上げると、僕は正面から否定した。
    「僕が、こんなものに興味を持つわけないだろ。君こそ、こんな眉唾な雑誌を読むなんて、一体何を考えてるんだよ」
     問い詰めるように言うと、彼は困ったように苦笑いを浮かべる。一度手元の雑誌を見ると、再び僕の方に視線を向けた。少しの間を開けてから、説明するように言葉を発する。
    「僕だって、オカルトそのものを信じてるわけじゃないよ。でも、その雑誌には、ちょっと気になる記事があって……」
     そこまで言うと、彼は誤魔化すように言葉を切った。歯切れの悪い言葉尻に、余計に苛立ちが募ってくる。なかなか話を続けない青年を、横目で見上げながら急かした。
    「なんだよ、気になる記事って」
    「これだよ」
     僕の手から雑誌を取り上げると、青年はページを捲っていく。中央くらいで手を止めると、僕の方へと差し出してきた。
     そこに書かれていたのは、例に漏れない眉唾な話題である。数ページに渡って特集されているようで、最初の二ページは見開きだった。宇宙に浮かぶ地球のイラストと共に、大きな見出しが書き込まれている。

    ──世界五分前仮説は真実だった!? 神と世界創造の謎

    「はあ?」
     わけの分からない文字列に、僕は甲高い声を上げてしまった。世界五分前仮説とは、一体どのようなものなのだろう。それに、神と呼ばれる存在が、この世界に存在しているはずがない。ましてや、世界を創造しただなんて、簡単に信じられるわけがなかった。
     呆気に取られる僕の姿を見て、彼は満足そうに口角を上げる。僕に雑誌を押し付けると、自信ありげな顔で解説を始めた。
    「ルチアーノは、世界五分前仮説って知ってる? この世界は五分前に今の姿で作られたんじゃないかって仮定する、有名な思考実験なんだって。僕たちの持っている記憶も、神が天地創造の時に与えたものかもしれないんだ。過去を証明することができない限り、この説を否定することはできないでしょ」
     次々に捲し立てる言葉を、僕は雑誌片手に聞き流していた。またしても、彼は妙な説に踊らされているらしい。世界が五分前に作られたなんて、笑い話にもほどがあった。
    「君は、また変なことを調べてきたんだな。世界の歴史が真実であることは、僕たちの存在が証明してるじゃないか。僕たちは未来から来た神の代行者で、この時代の存在には干渉していないんだ。世界が五分前に作られたものなら、僕はここにいないだろ」
     正面から言い返すと、彼は納得したように頷く。言葉を否定されたとは思えない、妙に落ちついた態度だった。
    「そうだね。少なくとも、世界そのものにおいては、眉唾ものの域を出ないのかもしれない。でも、僕がこの説に興味を持ったのは、別のことが理由だったんだよ」
     そこで一度言葉を切ると、彼は迷ったように視線を彷徨わせる。またしても焦らすような間を開けられて、再び苛立ちを感じ始めた。
    「なんだよ。早く言いな」
    「……僕がこの説に興味を持ったのは、これがルチアーノに当てはまると思ったからだよ。ルチアーノという存在こそが、世界五分前仮説で作られた存在なんじゃないかって思ったんだ。ルチアーノが記憶を持った状態で作られていたとしても、誰も証明することができないでしょ」
     覚悟を決めたように息を吸うと、彼はそんなことを語り始めた。僕の記憶を否定するような言葉に、苛立ちが込み上がってくる。神の創造を否定するなんて、許されない大罪だ。これが一般市民だったら、この場で始末していただろう。
    「君は、イリアステルの神を否定するのか? 神は僕たちを創造して、未来を守るための任務を与えたんだ。僕は神の代行者として、有史以前から人間の生活を見てきたんだよ。この記憶が作り物だなんて、簡単に言わないでくれるかい?」
     凄みを効かせて言うと、彼は少し怯んだ顔を見せた。しかし、すぐに気を取り直すと、正面から反論の言葉を告げてくる。
    「でも、その記憶が本物だって、本当に自信を持って言えるの? ルチアーノは過去を知ってるって言うけど、昔の人の暮らしは知らないよね。それは、作られた記憶だからなんじゃないの?」
     そこまで言われたら、さすがの僕も言葉に詰まってしまう。彼の語る言葉は、あながち間違いでもない気がしたのだ。僕は神の代行者として、遥か昔の地球で任務をこなした。でも、その時に見たはずの人々の暮らしは、朧気にしか覚えていないのだ。
    「一般市民の暮らしなんて、わざわざ覚えてるはずがないだろ。僕たちは人間と取引をしていただけで、社会から離れた場所にいたんだから」
     なんとか言い返すが、自信はどんどんなくなっていく。僕の持っている記憶は、本当に自分の見聞きしたものなのだろうか。自分自身の記憶だとしたら、どうしてこんなにも曖昧なのだろう。一度疑問に思ってしまうと、疑いは次々と生まれてくる。
    「それに、ルチアーノには、元になった人がいるんだよね。死者の模造品として生まれたなら、産み出した人も人間なんでしょう。その人は、ルチアーノが生きていた時間と同じ時を、生身のまま生きていられるの? それとも、神様もアンドロイドなの?」
     僕の反論には答えもせずに、彼は淡々と言葉を続ける。疑念に満ちた僕の脳裏に、神の姿が浮かび上がった。Dホイールに搭乗し、球体のまま宙を移動する神の姿は、僕たちと同じ機械生命体にしか見えない。しかし、仮面の下から見える瞳は、紛れもない人間のものなのだ。
    「それは……」
     口を開いたは良いものの、言葉はひとつも出てこなかった。僕の脳裏に浮かぶのは、堂々と佇む神の姿だ。瞳の周りに見える肌は、皺の寄った老人のものだったはずだ。どのくらいの年月を生き続けたら、人間はあの姿になるのだろう。
     僕たちは、偽物の記憶を植え付けられているのかもしれない。普通に考えたら、ただの人間でしかない神が、悠久の時を生きられるはずがないのだ。僕たちの動向を見守るなんて、どう考えても不可能だろう。記憶が偽物であると考えた方が、理論的には正しいとさえ思える。
     だとしたら、この記憶はなんなのだろう。僕の記憶メモリーには、確かにデータが残されているのだ。僕が覚えている出来事は、神の代行者としてのシステムの一部でしかないのだろうか。自身の体験を否定することは、何よりも恐ろしかった。
     黙ったまま俯いた僕の姿を、青年が心配そうに覗き込む。自分から話を振ったのに、反応を見て心配になったのだろう。あるいは、話を持ち出した彼自身も、僕がここまで動揺するとは思わなかったのかもしれない。それは、僕自身も同じことだった。
    「ルチアーノ……?」
     青年の少し震えた声が、僕の耳へと入り込んでくる。心配されていることは分かったが、返事をする気にはなれなかった。データの処理が追い付かなくて、思考システムが揺らいでいるのだ。もしかしたら、彼の話が引き金になって、エラーを起こしているのかもしれない。
     ノイズの原因を遠ざけるように、僕は雑誌を放り出した。何も言わずに立ち上がると、ふらつく足取りで部屋の外に向かう。異変に気がついたのか、青年が立ち上がる気配がした。足を踏み出す音と共に、心配そうな声が飛んでくる。
    「ルチアーノ……? 大丈夫……?」
    「来るなよ」
     返す言葉は、少しとげのある響きになってしまった。頭がぐるぐるしていて、冷静に考えることができそうにない。僕の言葉に驚いたのか、彼はその場に立ち止まっている。自分の発言を思い返して、再び口を開いた。
    「少し、一人にさせてくれ」
     簡潔に言葉を残すと、僕は廊下へと足を踏み出す。電気のついていない廊下は薄暗かったが、僕には全てがはっきりと見えた。リビングへと辿り着くと、窓の外の光景を眺める。四方を一軒家に囲まれた住宅街でも、空には月が浮かんでいた。
     微かに星が浮かぶ空を眺めながら、僕は思考を巡らせる。僕が見聞きしてきた風景は、全て作り物だったのだろうか。しかし、どれだけ考えようとしても、頭には靄がかかってしまう。まるで、僕の思考を阻害しているみたいだと考えて、慌てて頭を左右に振る。
     だって、信じたくなかったのだ。僕の記憶が作り物で、任務を全うするためのシステムでしかないなんて。そんなの、まるで都合のいい道具じゃないか。神の代行者どころか、人間よりも下の存在だろう。
     でも、という言葉が浮かび上がって、僕はまた思考を乱される。身体が震えだして、立っていられなくなってしまった。その場に座り込むと、僕は大きく深呼吸をする。胸のうちを占めるのは、人間で言う恐怖の感情だった。
     神は、僕たちのことを道具としか思っていないのだろうか。目的を達成するための、使い捨ての機械の塊だと。一度疑ってしまえば、疑念は次から次へと溢れてくる。信じた相手に裏切られた気がして、僕は静かに涙を流した。
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