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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチ。TF主くんとルチが仕送りのお肉で焼き肉する話。一応誕生日関連のネタです。

    ##TF主ルチ
    ##季節もの

    仕送り 建物の外に出ると、地上がオレンジ色に染まっていた。ビルの隙間から見える夕陽が、僕たちの姿を映し出す。手元の時計に視線を向けると、夕方の五時を少し過ぎた頃だった。少し前まではこの時間でも明るかったのに、いつの間にかすっかり夕方になっている。
    「今日は、そろそろ帰ろうか」
     隣に視線を向けると、僕はルチアーノに声をかけた。僕の方を見上げていた彼が、オレンジ色の太陽に視線を向ける。再び僕に視線を戻すと、少し不満そうな声で言った。
    「もう帰るのかよ。今日は、買い物ばかりで特訓してないだろ。せっかく町まで来たんだから、もう一戦くらいやろうぜ」
     手を引いて歩き出そうとするルチアーノに、僕は足に力を入れて抵抗する。今日、この日だけは、早く帰らなければならない理由があったのだ。ここで彼に屈してしまうと、他人に迷惑をかけることになってしまう。
    「六時を過ぎたら、実家から荷物が届くんだよ。不在にするのも申し訳ないから、今日は早めに帰りたいんだ」
     僕が答えると、彼は渋々手を離した。さすがのルチアーノも、人に迷惑をかけるつもりはないらしい。機嫌を損ねたようにそっぽを向くと、小さな声で呟く。
    「なんだよ。そういうことなら、もっと早く言えよ」
     そんなこんなで、僕たちは家に帰ることになった。眩い夕陽に背を向けると、住宅地を目指して歩いていく。厳しい夏の暑さも和らいできて、絶好の散歩日和だった。季節の移り変わりを感じて、自分が歳を取ったことを実感する。
     家の玄関を空ける前に、年のためにポストを確認する。当たり前だが、中に入っているのは積み上がったチラシやダイレクトメールだけである。鍵を開けて中に入ると、荷物を片付けて手洗いを済ませる。
    「じゃあ、僕は洗濯物を片付けてくるから。チャイムが鳴ったら教えてね」
     ルチアーノに一言だけ告げてから、僕はベランダへと向かう。生返事しか返ってこなかったが、ちゃんと伝わってはいるみたいだ。洗濯物を畳み終え、ついでにいくつかの雑用を済ませてから、僕は再びリビングに向かった。
    「まだ来てないぜ。本当に今日なのか?」
     ソファに腰を下ろしたルチアーノが、退屈そうに僕に声をかける。彼の視線の先では、夕方の情報番組が流れていた。左上に表示されている時計は、6:19の文字を示していた。いくら時間指定をしていると言っても、すぐに来るとは限らないだろう。苦笑いを浮かべると、僕はルチアーノの隣に歩み寄る。
    「そんなにすぐには来ないよ。時間指定って言っても、六時から八時までの間なんだから。もう少し待っても来なかったら、夜ご飯は別のものにしようか」
    「ふーん。届くのは食べ物なのか。道理で食いもんを用意してないと思ったぜ」
     前方のテレビに視線を向けながら、ルチアーノはそっけない口調で言う。視線を向けてはいるものの、テレビ番組を見ている様子はなかった。ただ待っているだけだと暇だから、退屈しのぎに見ているのだろう。僕の習慣に染まってくれたみたいで、少し嬉しく感じてしまう。
     十分ほどテレビ画面を眺めていると、ようやくチャイムの音が響き渡った。素早くソファから腰を上げると、小走りに玄関の方へと向かう。配達員のおじさんが抱えているのは、保冷用のケースである。手早く用紙にサインを書くと、うきうきした気持ちで箱を受け取った。
    「届いたよ。一緒に開けよう」
     床の上に箱を置くと、僕はルチアーノに声をかける。首だけを捻ってこちらを向くと、彼は呆れた声で答えた。
    「なんだよ。そんなに浮かれて。いいもんでも入ってるのか?」
    「そうだよ。これは僕への誕生日プレゼントだけど、ルチアーノへの贈り物でもあるんだから」
     僕が返す言葉は、期待で大きく弾んでしまう。事前にメッセージを受け取っていたから、僕には箱の中身が分かっていたのだ。荷物を送ったことを知らせる文面の後には、『ルチアーノくんと一緒に食べてね』という言葉が添えられていた。だから、この贈り物は二人で開けるべきだと思った。
    「僕への贈り物? なんだよ、それ」
     疑問符を浮かべながらも、ルチアーノはこちらへと歩いてくる。二人で箱を囲むと、満を持してケースの蓋を開けた。底に敷き詰められた保冷剤の上に、焼き肉用のお肉の詰め合わせが入っている。周囲を囲むように敷き詰められているのは、ハムやウインナーのような加工肉だった。
    「ふーん。肉の詰め合わせか。道理で飯の支度をしないわけだ」
     箱の中身を覗き込むと、ルチアーノは呆れたように言う。まるで自分には関係ないとでも言うような、気の抜けた声だった。立ち去ろうと腰を上げたルチアーノに向かって、僕はさりげなく声をかける。
    「じゃあ、今から焼肉の準備をしようか」
    「はあ? 焼き肉? 今からか?」
     僕に背を向けようとしていたルチアーノが、驚いたようにこちらを振り返る。箱の中のパックを手に取ると、僕は腰を上げながら答えた。
    「そうだよ。早く食べないと、お肉の鮮度が落ちちゃうでしょ。ルチアーノの分もあるから、一緒に食べようよ」
     真っ直ぐに冷蔵庫に向かうと、いくつかの加工肉をチルドルームに仕舞った。加工されたものは賞味期限が長いから、そこまで急いで食べなくてもいいのだ。ウインナーもいくつかは食べたいから、一袋だけ横に避けておく。もう一度箱の中に手を入れると、今度は生肉のパックを取り出した。
    「僕には、食事なんて要らないんだよ。君のための贈り物としてなんだから、君ひとりで食べな」
     忙しなく働く僕を横目に、ルチアーノは興味の無さそうな声を上げる。僕にはご馳走に値するお肉も、ルチアーノにとっては庶民の食事なのだろう。なんとか彼を説得するために、僕は奥の手を使うことにした。
    「そういうわけにもいかないんだよ。僕の母さんが、ルチアーノと一緒にって言ってるんだから」
    「…………分かったよ。食えばいいんだろ」
     僕の口から出た名前を聞いて、ルチアーノは渋々了承する。なぜかは分からないが、彼は僕の家族に対しては強く出られないのだ。母さんからの好意だと伝えると、必ずと言っていいほどおとなしく受け入れてくれる。僕にとっては助かることなのだが、少し罪悪感を感じた。
     中身の片付けを終えると、今度は物置きになっている部屋に向かった。押し入れの扉を開けると、中からホットプレートの箱を引っ張り出す。一年以上使っていなかったから、箱は埃を被っている。軽く手で払いのけると、両手で抱えてリビングへと運んだ。
     箱の中から本体を取り出すと、テーブルの真ん中に設置する。使うのもひさしぶりだから、肉を乗せるプレートは洗剤で洗った。お皿を二枚取り出すと、僕とルチアーノの席に並べる。箸休めに食べる野菜は、スーパーで売られているカット済みのものを用意した。
    「準備ができたよ。ルチアーノも一緒に焼こう」
     声をかけると、ソファに座っていたルチアーノが腰を上げた。少し不満そうな様子を見せながらも、僕の正面の席に座る。机の上に並んだ食材を見ると、小さな声で呟いた。
    「野菜が少ねーぞ。少しは栄養に気を使えよ」
    「いいんだよ。焼き肉って言うのは、お肉を食べるためのものなんだから」
     軽口に答えてから、僕はホットプレートの電源を入れる。しばらくして熱が行き渡ったら、軽く油を敷いて肉を広げた。牛と豚を数枚ずつ並べてから、空いているスペースに野菜を入れる。全部入れると焦げてしまうから、野菜は全体の半分くらいだ。パチパチと油の跳ねる音が響いて、香ばしい匂いが漂ってきた。
     しばらく片面を焼き上げてから、プレートの上のお肉をひっくり返す。分厚い牛肉の表面には、いい感じの焦げ目がついていた。同じように豚をひっくり返すと、裏面をじっくりと焼き上げる。こっちは牛ほどの厚みはないから、数分で食べ頃になった。
    「お肉が焼けたよ。ルチアーノは、塩とたれのどっちで食べる?」
     焼けたお肉をお皿の上に乗せると、僕は机の隅に置いていたたれへと手を伸ばした。ルチアーノが取りやすいように、席から近い位置に置き直す。豚肉を分配している間に、牛の方も食べ頃になったみたいだ。ホットプレートの温度を保温に合わせてから、取り分けたお肉に箸を伸ばす。
    「別に、どっちでもいいよ。どんな味をつけようと肉は肉だろ」
     少し面倒臭そうに呟いてから、彼は焼肉のたれに手を伸ばす。特別好みなわけではなくて、単純に近いから取ったのだろう。お皿の上にたれを垂らすと、お肉を浸してから口に運ぶ。何も文句を言ってこないから、味に関しては及第点らしい。
     そんなルチアーノの様子を眺めながら、僕もたれに手を伸ばした。同じようにお肉をたれにつけると、たれを落とさないように口に運ぶ。口の中に広がる肉は、柔らかくて香ばしかった。咀嚼してから飲み込むと、僕はルチアーノに声をかける。
    「おいしいね。お高いお肉の味がするよ」
     齧っていた牛肉を咀嚼すると、彼は少し顔を上げた。一瞬だけこちらに視線を向けると、呆れたように口を開く。
    「君には、違いなんて分からないだろ」
     辛辣なツッコミに、僕は苦笑いを浮かべることしかできなかった。彼の言うことはもっともなのだが、少し厳しすぎるだろう。
    「そうだけど、こういうのは気分なんだよ。お高いお肉を味わって食べるのも、庶民の楽しみのひとつなの」
    「要するに、背伸びする自分に酔ってるってことか。人間ってのは、変な楽しみ方をするよな」
     冷たい言葉を吐きながらも、ルチアーノは箸を進めていく。分配したばかりのお肉は、すぐにお皿の上から消えてしまった。再びホットプレートを温めると、新しいお肉を並べていく。隅でシナシナになっていた野菜を掴むと、それぞれのお皿の上に乗せていく。
    「僕は要らないよ。君だけで食べな」
     たれに浸された野菜を見て、ルチアーノは不満そうに声を上げる。突き返そうとする手の動きを、片手を上げて制止した。
    「お肉ばっかり食べてると、栄養バランスが崩れるんじゃなかったの?」
     小さな声で呟くと、ルチアーノは悔しそうに唇を噛む。勝利を確信しながら、僕はお肉をひっくり返した。パチパチと音を立てながら、香ばしい匂いが漂い始める。野菜を置いていたスペースが空いたから、お高そうなウインナーを転がしてみた。
     しばらくお肉をひっくり返すと、新しいお肉を分配する。お皿の上の野菜を平らげると、僕は白米を手に取った。焼き肉とのお供と言ったら、やはり炊きたての白米だ。お肉をひと口齧ると、湯気を立てるお米を口に入れる。
    「それで、どうしてこんな肉が届いたんだよ。これまでの誕生日には、何も届いてなかっただろ」
    「仕送りの代わりに、母さんが送ってくれたんだよ。今年はルチアーノと一緒に過ごすって言ったから、ルチアーノの分も届いたんだ」
     僕が答えると、ルチアーノは一瞬だけ箸を止める。お肉の入ったお皿を見つめると、小さな声で呟いた。
    「いいよな。君には、贈り物をしてくれる家族が居てさ」
     彼の言葉を聞いて、僕は何も言えなくなってしまった。ルチアーノにとって、親の存在とは過去のトラウマそのものなのだ。彼の元になった人間は、幼い頃に両親を無くしている。コピーロボットである彼自身にも、親に値する存在はいないのだ。
    「だから、ルチアーノの分も届いたんだと思うよ。母さんは、ルチアーノのことも家族だと思ってるから」
     彼の孤独を慰めるように、僕は言葉を並べた。僕が語った内容は、その場しのぎの言い訳ではなかったのだ。母さんはルチアーノのことを、僕の恋人として受け入れている。彼にもおいしいものを食べてほしいと思ったから、こうしてお肉を送ってくれたのだ。
    「僕は、君の家族にはなれないよ。僕は神の代行者で、人間のような成長はできないんだ。今は家族として認められていても、いつかは異変に気づかれる。そうしたら、僕は君の実家にはいられない」
    「その時のことは、その時に考えればいいんだよ。今は、一緒にいる時間の方が大事なんだから」
     ルチアーノの言葉を覆すように、僕は言葉を並べていく。今の僕にできるのは、彼の孤独を埋めることだけなのだ。彼の孤独を上書きするほどの、大きな愛を捧げればいい。十分な時が経てば、彼の孤独も薄れていくだろう。
     静まり返る僕たちの前で、ウインナーがパチパチと音を立てた。喋っているうちに、食べ頃まで焼けていたようである。ぱっくりと割れた皮の間から、艶やかに光る脂が垂れている。箸の先でつまみ上げると、お互いのお皿に分配する。
    「だから、今は一緒にお肉を食べよう。この焼き肉は、ルチアーノのためのものでもあるんだから」
     口角を上げながら言うと、ルチアーノもそのまま食事に戻った。肉汁の溢れる焼きたてのウインナーを、平然とした顔で口に運んでいる。同じようにウインナーを口に運んで、僕は大きな声を上げた。
    「熱っ…………!」
     はふはふと口を動かす僕を見て、ルチアーノは呆れたように笑った。ウインナーに苦戦する僕の姿が、滑稽で仕方なかったのだろう。さっきまでの湿っぽさが嘘のように、弾んだ声で僕をからかう。
    「なにやってるんだよ。君は、本当に食べるのが下手だなぁ」
    「だって、焼きたてのウインナーって熱いんだよ。ちゃんと冷ましてから食べないと、口の中を火傷しちゃうよ」
     必死に弁明するが、ルチアーノはくすくすと笑うだけだ。僕が醜態を晒したことで、すっかりいつもの調子が戻ったようである。楽しそうに笑みを浮かべながら、ウインナーと格闘する僕を眺めている。手元の箸を動かすと、残っていたお肉を口に運ぶ。
     何だかんだ言いながらも、ルチアーノは焼き肉を楽しんでくれたようだ。分配されたお肉を咀嚼しながらも、僕の様子を眺めてにやついている。気分が乗ってきたのか、途中からは自ら箸を伸ばし始めた。
     パックの中に残っていたお肉は、あっという間に消費されていく。一時間ほど焼き続けると、中身は全て胃の中に収まった。
    「おいしかったね。お腹いっぱいになっちゃった」
     空になったパックを片付けると、僕は膨らんだお腹を擦った。お高いお肉をたくさん食べたから、満腹で気持ち悪いくらいだ。慣れない油を口にするのは、庶民には負担にもなりうるのである。
    「君、すごい量を食べてたよな。そんなに食べたら、油で胃を痛めるぜ」
     ふらつく足取りでソファに倒れ込む僕を見て、ルチアーノはきひひと笑い声を上げる。そういう彼だって、僕と変わらないくらいの量を食べていたのだ。平然とした顔をしているが、体内はお肉のたんぱく質ですし詰めになっていることだろう。
    「ルチアーノだってたくさん食べてたでしょ。そんなに食べたら、身体に影響が出るんじゃないの?」
    「僕はいいんだよ。いくら食べても太らないし、消化不良も起こさないんだ。人間とは違うんだよ」
    「うぅ……。神の代行者って便利なんだね。一日だけでも代わってほしいよ」
     小さな声で呟きながら、僕はソファの上で寝返りを打つ。しばらく横になっていれば、満腹感も落ち着くと思ったのだ。呆れ顔のルチアーノを見上げながら、ホットプレートの片付けのことを考える。
    「ねえ、ルチアーノ。ホットプレートを片付けるの、手伝ってくれない?」
     ダメ元で尋ねてみると、彼はあからさまに嫌な顔をした。冷たい瞳で僕を見下ろすと、突き放すような声で答える。
    「嫌だよ。これは君が勝手に始めたことなんだ。君が責任を持って片付けな」
     そのまま踵を返すと、彼は洗面所へと向かっていく。食事を済ませたから、次は入浴を済ませるつもりなのだろう。相変わらずの冷めた態度だったが、いつものことだから気にならなかった。
     ルチアーノが部屋から去ると、僕は大きく息をついた。少し休んだ後には、ホットプレートの片付けをしなくてはならない。そこかしこに油が跳ねているから、机全体を拭かなければならないだろう。少し面倒だったが、自分の用意したものだから仕方ない。それよりも、ルチアーノと誕生日祝いの品を共有できたことが、僕にとっては嬉しかった。
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