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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチ。TF主くんとルチがコンセプトレストランに行く話。

    ##TF主ルチ

    レストラン「ねえ、ルチアーノ。今度、ここに行ってみない?」
     入浴を済ませ、自室のベッドの上に腰を下ろすと、僕はルチアーノにそう言った。手元にある端末の画面には、レストランのホームページが表示されている。少し顔を上げると、ルチアーノはそれを覗き込んだ。
    「なんだ? デュエルモンスターズレストラン……?」
     サイトにを眺めながら、ルチアーノは小さな声で呟く。彼の言う通り、端末に表示されたサイトのトップには、『デュエルモンスターズ』の文字が並べられていた。少し下に載っているのは、有名モンスターのイラストである。ページを下にスクロールすると、今度は料理の画像が並び始めた。カレーやパスタといった定番のメニューだが、ひとつだけ普通のレストランと違うことがある。
    「そうだよ。ここは、デュエルモンスターズとタイアップしてるレストランなんだ。メニューもモンスターをモチーフにしてるし、一部の料理はカードがもらえるんだよ」
     そう言うと、僕は料理のひとつを拡大する。そこに映っていたのは、レッドデーモンズドラゴンがモチーフのラーメンだった。シティではお馴染みとなっている、レッドデーモンズヌードルを元にしたメニューなのだろう。少し辛めの味付けらしく、説明の横には唐辛子のマークがついていた。
    「なんだよ。シグナーの竜じゃないか。結局、飲食店とタイアップするモンスターなんて、シグナーや有名デュエリストのモンスターだけなんだろ」
     退屈そうに画面から視線を逸らすと、ルチアーノは吐き捨てるように言う。彼はシグナーを敵視しているから、今の町の状況がおもしろくないのだろう。遊星が英雄となって以来、町の至るところでシグナーの竜を見かけるのだ。
     そんな彼を横目で見ると、僕は端末を操作する。画面に映し出したのは、メニューブックの別のページだ。トップにある画像を拡大すると、ルチアーノの方へと差し出す。
    「そんなことないよ。ここのレストランは、たくさんのメニューがあるんだ。有名デュエリストの使うカードじゃなくても、採用されてる物はあるんだよ」
     僕が言葉を添えると、彼は少しだけ端末に視線を向けた。そこに映っているのは、六武衆やライトロードをイメージしたコンセプトメニューだった。他にも、植物族や機械族など、まとまったカデゴリーを持たないカードのメニューもある。このような内容のメニューブックが、十数ページに渡って続いているのだ。
    「ふーん。案外種類があるんだな。まあ、君がどうしてもって言うなら、ついていってやってもいいぜ」
     僕から視線を背けると、ルチアーノは投げ槍な態度で言う。はっきりとは口にしないが、興味を持ってくれたみたいだった。彼の気が変わらないうちに、店舗の予約を取ることにする。シティに一件しかないこのレストランは、常に予約でいっぱいなのだ。
    「ありがとう! じゃあ、早速予約を取るね。日付は、来週の月曜日でいい?」
    「好きにしろよ。どうせ、僕が嫌がっても連れていくつもりだったんだろ」
     端末を操作する僕の隣から、ルチアーノの呆れ声が聞こえてくる。正面から図星を突かれて、僕は一瞬だけ言葉に詰まった。すぐに気を取り直すと、開き直って言葉を返す。
    「そうだよ。どんなイベントだって、ルチアーノと一緒じゃなきゃ意味がないんだから。僕は、ルチアーノにも同じ楽しさを感じてほしいんだよ」
    「そこまでして僕を連れ出すなんて、君って本当に物好きだよな。まあ、退屈しのぎにはなりそうだし、付き合ってやるよ」
     渋々感を出すルチアーノの隣で、僕は端末のデータを送信する。予約完了の文字と共に、受付ナンバーが表示された。当日、店舗を訪れた時に、この番号を入力するらしい。
    「予約できたよ。月曜日の一時からだから、予定を開けておいてね」
    「開けるも何も、その日はデュエルの練習があるだろ」
     小さな声で呟くルチアーノを横目に、僕は端末の電源を落とした。片手で机の上へ放り投げると、ベッドの上に寝転がる。隣では、懐から端末を取り出したルチアーノが、真剣な顔で何かを操作していた。しばらくやり取りを重ねると、端末を片付けて僕の隣に寝転がる。彼に跳ね返されないように、僕はさりげなく距離を詰めた。
     それにしても、コンセプトレストランに行くのは初めてだ。以前からそういうものがあることは知っていたけれど、自分には縁の無いものだと思っていた。そんなところにルチアーノと一緒に行けるなんて、少し嬉しくなってしまう。うきうきした気分のまま、僕はゆっくりと目を閉じた。

     そのレストランは、繁華街の真ん中にあった。多数の店舗が出展するショッピングビルの上階に、フロアをまるごと借りて運営しているらしい。エレベーターを降りた瞬間から、デュエルモンスターズの看板が視界に入ってきた。
     ルチアーノを連れて受付へと向かうと、店員さんに予約番号を伝える。何度か端末を操作した後に、別の店員さんによって席へと案内された。お店の奥へと向かう道中にも、魔法カードやモンスターのイラストが散りばめられている。周囲を一望しようと、顔を上げて首を回した。
    「すごいね。辺り一面モンスターだ」
     僕が呟くと、ルチアーノは少しだけ視線を上げる。周囲の景色を見渡すと、またすぐに下に視線を戻した。
    「賑やかな空間だな。こんなところじゃ、落ち着いて食事もできやしない」
    「こういうイベント系のレストランは、ゆっくりご飯を食べる場所じゃないんだよ。空間やメニューを見て、雰囲気を味わうところなんだ」
     苦笑いを浮かべながら答えると、店員さんがお水を運んできた。机の上に並べると、お盆に乗っていた袋に手を伸ばす。
    「こちらは、予約特典と入場特典です」
     机の上へと差し出されたのは、袋に入ったカードだった。外からは中身が見えないように、片面に印刷を施した袋に入れられている。取り出して中を見てみると、背景にレストランのイラストが印刷されていた。一緒に入っている特典カードも、通常とはイラストの違うカードだ。
     カードを鞄の中にしまうと、僕はメニューに手を伸ばす。滞在時間が決まっているから、早めに注文を済ませたかったのだ。一通りメニューを確認すると、ルチアーノの方へとメニューを差し出す。
    「僕は、スープパスタとパフェにしようかな。ルチアーノはどうする?」
    「なんでもいいよ。シグナーの竜じゃなければな」
     目の前に迫るメニューを押し返すと、彼は退屈そうにそう答える。あまり興味がないみたいだから、僕が適当に注文することにした。ボタンを押して店員さんを呼ぶと、手早く注文を伝えていく。
     料理の注文が一段落すると、僕はホッと息をついた。後は食べ物が届くのを待ってから、一皿ずつ平らげていくだけだ。忙しくなるのは分かりきっているから、今のうちに店内を見回しておく。
     平日の昼ということもあって、店内は半分くらいしか埋まっていなかった。席に座っているお客さんは、大人から子供まで様々である。座席の間隔も考えられているのか、近くに通されたお客さんはいなかった。すぐ近くに設置された壁には、ガジェットモンスターが肩を並べている。
    「それにしても、本当にモンスターだらけなんだな。隅から隅まで全部デュエルモンスターズだ」
     ぐるりと周囲の壁を眺めてから、ルチアーノは呆れたように呟く。彼の背後に見える柱には、ヒーローモンスターのイラストがあった。このカードも、過去の英雄のエースモンスターだったらしい。
    「コンセプトレストランだからね。デュエルモンスターズの世界観に浸れるように、色んな工夫がしてあるんだよ」
    「どう考えてもやりすぎだろ。こんなに四方に目があったら、人間は食べづらいんじゃないのか?」
     ルチアーノに言い返されて、僕はぐるりと周囲を見渡す。僕の周囲を囲んでいるのは、どれも生物を象ったモンスターだ。確かに、これだけキャラクターに見つめられていたら、少し気まずいかもしれない。ルチアーノに指摘されたことで、余計に意識してしまった。
     そんなことをしているうちに、奥からは料理が運ばれてくる。最初に僕たちの席に届いたのは、僕の頼んだスープパスタだった。カラフルなトッピングの野菜の上には、イラストを印刷したもなかが乗せられている。僕には馴染みがないが、この手の飲食店ではお馴染みらしい。
     お皿と一緒に差し出されたのは、ノベルティのコースターだった。ひっくり返して絵柄を見ると、僕にも見覚えのあるイラストが印刷されている。僕にも分かるということは、カテゴリーの主要なモンスターなのだろう。
    「僕の方が先に届いたね。麺が伸びるから、先に食べさせてもらうよ」
     ルチアーノに断りを入れてから、僕は机の隅のカトラリーに手を伸ばす。大きめのフォークを取り出すと、パスタを巻き付けていった。しっかりとスープを絡ませると、口の中へと運んでいく。
     少しぬるめのスープパスタは、それでもちゃんとおいしかった。デュエルモンスターズとのタイアップなのだから、そこには力を入れているのだろう。お皿の上のパスタを巻き付けると、続けて口の中へと押し込む。そうこうしているうちに、すぐにルチアーノの分のメニューが届いた。
     机の上に並べられたのは、平皿に盛られたカレーライスだった。こっちもカラフルな野菜がトッピングされ、イラストが印刷されたもなかが乗せられている。
    「ふーん、カレーか。君にしては考えたな」
     小さな声で呟くと、彼はコースターに手を伸ばす。ひっくり返して印刷面を見ると、すぐに僕の前へと放り投げた。
    「やっぱりシグナーの竜じゃないかよ」
     投げつけられたコースターに印刷されていたのは、レッドデーモンズドラゴンの姿だった。一押しメニューにラーメンがあるから、その関係で選出されているのだろう。確かに、ルチアーノにとっては、一番の大外れだった。
    「ほんとだ。シグナーの竜だったね。僕のと交換してあげようか?」
     もらったばかりのノベルティを差し出すが、ルチアーノはすぐに顔を背ける。乱雑な仕草でカトラリーを掴むと、先端をカレーの中に押し込んだ。
    「そんなもの要らないよ」
     正面から断られてしまったから、僕はおとなしくコースターをしまう。まあ、ノベルティをもらったからといって、何かに使うわけではないのだ。イベントの思い出のひとつとして、部屋の隅に積まれるだけである。そもそも、彼には俗世の思い出など要らないのだろう。
     正面に視線を向けると、ルチアーノがカレーを口に入れていた。音を立てずに咀嚼すると、小さな声で呟く。
    「まあまあだな」
     そのまま食事を続けていると、デザートのパフェが運ばれてきた。星座をモチーフにしたカテゴリーだから、カラフルな金平糖が煌めいている。ソースも青色に着色されていて、まるで天の川のようだった。
     急いでパスタを平らげると、僕はパフェへと手を伸ばす。ケースから細長いスプーンを取り出すと、器の奥まで差し込んだ。土台のコーンフレークと一緒に、中のアイスを掻き出していく。正面で僕を見ていたルチアーノが、呆れたように口を開いた。
    「おとなしく上から食べろよ。そんな食べ方してたらみっともないぜ」
     辛辣な言葉を投げ掛けられて、僕は頬を膨らませてしまう。スプーンをパフェの奥へと突っ込むと、再び中身を掻き出した。
    「せっかくのパフェだもん。全部一緒に食べたいんだよ。誰も見てないんだからいいでしょ」
    「少なくとも、僕は見てるぜ」
    「それくらいいいでしょ。ルチアーノは家族なんだから」
     僕が言うと、ルチアーノは恥ずかしそうに頬を染めた。僕から視線を逸らすと、少し湿った声で呟く。
    「何変なことを言ってるんだよ。恥ずかしいぞ」
     そんなルチアーノの反応を見て、僕は首を傾げてしまった。彼は僕の恋人なのだから、れっきとした家族であるはずた。それなのに、どうしてここまで恥ずかしがるのだろう。
     黙り込むルチアーノの姿を眺めながら、僕はパフェをつついていく。山のように盛られていたアイスやクリームは、すぐに胃の中に消えていった。僕がパフェを食べ終える間に、ルチアーノもカレーを片付けている。最後に水で喉を潤すと、僕は両手を合わせた。
    「ごちそうさまでした」
    「……ごちそうさま」
     正面に座るルチアーノも、同じように両手を合わせる。机の上の伝票を手に取ると、真っ直ぐにレジへと向かった。食事とデザートだけだとはいっても、それなりの金額になってしまう。少し離れたところに立っているルチアーノが、冷めた瞳で僕たちを見ていた。
     お店の外に出ると、再び繁華街の中を歩いていく。さっきまでデュエルモンスターズの空間に居たから、現実に帰ってきた気分になった。ルチアーノと手を繋ぐと、次の目的地へと歩を進める。ビルが見えなくなると、ルチアーノが小さな声で言った。
    「それにしても、異様な空間だったな。フロアの全てがデュエルモンスターズなんてさ」
    「それがコンセプトレストランなんだよ。デュエルモンスターズの世界に入り込んだみたいで、面白かったでしょ?」
    「そうか? 明らかに人工物って感じで、全然らしくなかったじゃないか。あんなもので喜ぶなんて、人間は変なやつらだよ」
     僕の言葉を突き放すように、ルチアーノは言葉を並べていく。彼の辛辣な評価に、僕は苦笑いを浮かべることしかできなかった。やはり、彼にとってコンセプトレストランは、子供だましの施設でしかないのかもしれない。彼らの技術を使えば、もっとリアリティのある空間を作れるのだから。
    「でも、少しは楽しかったでしょ。よかったら、また行こうね」
     ルチアーノの手を握ったまま、僕はそんなことを言う。しばらく待ってみても、返事は返って来なかった。
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