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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチ。ルチがTF主くんの服をもらってぬいぐるみの服を作る話。ひとつ前の話の続きです。

    ##TF主ルチ

    ぬい服 モンスターの起こした鋭い旋風が、正面から全身を覆いつくした。衝撃に耐えきれなくて、僕はその場に尻餅をつく。風の勢いはまだ止まらずに、身体を押し付けながら大地を滑らせていった。砂の敷き詰められたグラウンドに擦り付けられて、腕に仄かな熱を感じる。衝撃で細かい砂が巻き上げられて、視界が茶色に染まっていった。
     吹き付ける風が収まると、僕はなんとか身体を起こした。ゆっくりと手足を動かして、怪我をしていないかを確かめる。打ち付けられた腕とお尻が痛むが、目立った外傷はないらしい。念のために擦り付けられた腕を見るが、服が少し破れただけだった。
    「僕の勝ちだ。……全く、人間って言うのはだらしないな。もっと衝撃に慣れないと、これからの戦いにはついていけないぜ」
     ゆっくりと僕の方へ歩み寄りながら、ルチアーノが楽しそうに言葉を吐く。僕の顔を覗き込むと、呆れたように手を伸ばした。目を白黒させている僕を見ても、決して心配する素振りはない。それもそうだろう。彼こそが、モンスターの突風で僕を吹き飛ばした犯人なのだから。
    「そんなこと言われても、僕はただの人間なんだよ。ルチアーノのように重くもなれないし、痛いものは痛いんだから」
     反論の言葉を並べながらも、僕はルチアーノの手を握る。彼の力を借りなければ、立ち上がることさえやっとだったのだ。痛む身体に力を入れると、勢いをつけて腰を上げる。地面に擦り付けられた肘の辺りが、チクチクと鈍い痛みを放った。
    「だからこそ、実践練習が必要なんだろ。受け身を取れるようになっておかないと、君もろとも倒れちまうぞ」
    「簡単なことみたいに言わないでよ。イリアステルのデュエルは物騒だなぁ」
     中身の無い軽口を交わしながら、僕たちはベンチへと移動する。固い座面に腰を下ろすと、上着の被害状況を確認した。派手に転んでしまったから、左腕は解れて穴が開いている。念のためにズボンの方も確かめたが、こっちは汚れただけで済んでいた。
    「もう。服に穴が空いちゃったじゃん。これで二着目だよ」
     穴の開いたジャケットを脱ぎながら、僕はぶつぶつと文句を流す。彼のデュエルに付き合っていたら、練習着がいくつあっても足りないのだ。モンスターの攻撃を受け止める度に、服は破れて穴が開く。特訓の度に買い換える羽目になっていたら、お金がかかって仕方ない。
    「別にいいだろ。君の普段着なんて、学生の時から着てる安物なんだから。いい機会だと思って、大人らしくちゃんとした服を買いな」
     そんな僕とは裏腹に、ルチアーノは余裕な態度を見せる。人のものを壊したと言うのに、まるで反省の気配がなかった。人の持ち物に無頓着なその態度に、少し感情を逆撫でされる。言い返したい気持ちを抑えると、気の利いた返しがないかを考えた。
    「なら、ルチアーノが新しいものをプレゼントしてよ。部下の身の回りの面倒を見るのも、上司の役目なんでしょう?」
     しばらく考えた後に、僕はそんな言葉を口にする。少し無茶な要求をすれば、さすがのルチアーノも分かってくれると思ったのだ。仮の肩書きは有名デュエリストチームのメンバーでも、その正体は神の代行者である。人間に授け物をするのは、プライドが許さないと思ったのだ。
     しかし、今日のルチアーノは、機嫌を損ねたりはしなかった。一度考え込むように視線を下げると、すぐに顔を上げて僕を見上げた。口元に笑みを浮かべると、明らかに裏のある声で答える。
    「分かったよ。君に合う練習着とやらを、僕が見繕ってきてやる。チームメンバーのユニフォームを揃えるのも、リーダーとしての役目だからな」
     違和感しか感じない返しに、僕の方が気圧されてしまった。ルチアーノ自ら僕の要求を飲むなんて、何か考えがあるに決まっている。警戒を悟られないように気を引き締めると、窺うように質問を重ねた。
    「本当にいいの? ルチアーノは、人間への施しなんて嫌いだと思ってたけど」
     僕の問いを聞くと、ルチアーノはきひひと笑い声を上げた。からかうような笑みを保ったまま、試すような声で答える。
    「焦るなよ。話はまだ終わってないんだぜ。君のユニフォームを見繕う代わりに、僕からも条件をつけさせてもらうつもりだったんだ」
    「条件?」
     さらに怪しい言葉が飛び出してきて、僕は余計に警戒してしまう。そんな僕のことは気にもかけずに、彼は淡々と言葉を続けた。
    「そうだよ。君の今着ている服を、僕に譲ってほしいんだ。再利用するつもりだから、できれば洗濯を済ませた後でね」
     さらに突飛な言葉を重ねられて、僕は頭上に疑問符を浮かべる。ルチアーノが言葉を重ねる度に、話の着地点が分からなくなるのだ。いったい、この男の子は、何を考えているのだろう。嫌な予感が胸をよぎって、僕はさらに質問を重ねる。
    「それくらいならいいけど、いったい何に使うの? まさか、変なことじゃないよね?」
     しかし、僕の質問の真意は、彼には伝わらなかったようだ。怪訝そうに表情を曇らせると、投げ槍な口調で問う。
    「変なことってなんだよ」
    「それは、まあ……」
     さすがに、それを口に出せるほど、僕もその手に話題には慣れていなかった。モゴモゴと口を動かすと、曖昧な言葉で話を濁す。ルチアーノも少し不審に思ったみたいだが、深入りはしてこなかった。まだ警戒心の残った表情のまま、念を押すように言葉を重ねる。
    「まあいいや。そういうことだから、その服は取っておけよ。洗濯も忘れないようにな」
     そこまで念を押されたら、僕も頷かざるを得なかった。真意はまだ分からないが、どうしても服がほしいらしい。変なことに使われたら困るのだが、自分が言い出したことだから引き下がれなかった。
    「分かったよ。洗濯したら、ルチアーノに渡すね」
     僕がそう宣言すると、彼は満足そうに笑みを浮かべる。その嬉しそうな顔を見て、彼を信頼してみようと思った。

     その謎が解けたのは、服を渡してから数日後のことだった。僕の家にやって来たルチアーノが、懐から熊のぬいぐるみを出したのである。体に巻き付けられている布地は、僕の服と同じ赤色だ。しかし、その布地の形状は、プレゼントで渡したときのものと少し違っていた。
    「なあ、見ろよ、これ。何か気がつかないか?」
     僕にぬいぐるみを突きつけると、彼は自信満々な態度で言う。よく見ようと手元のぬいぐるみに顔を近づけると、その違いはすぐに分かった。
    「分かったよ。ぬいぐるみの着てる服が、僕の服と同じになってるね。これは、ルチアーノが作ったの?」
     そう。彼の持っていたぬいぐるみは、服が別のものに変わっていたのだ。それは僕の普段着をそのままミニチュアにしたような、オーダーメイドの一着だった。こんなものをお店で売っているわけがないから、ルチアーノが一から作ったのだろう。平らな胸を精一杯に張ると、彼は誇らしげな声で答えた。
    「そうだよ。君にもらった服を切って、型紙通りに縫い合わせたんだ。細かいパーツが多かったから、だいぶ時間がかかったぜ」
    「すごいね。ちょっと触ってみてもいい?」
    「いいけど、壊したりするなよ」
     自慢げなルチアーノに許可を取ると、僕は静かに手を伸ばした。手渡しでぬいぐるみを受けとると、まじまじと服の構造を見つめる。ジャケットの合わせの部分に指を伸ばすと、その布地は左右に捲れた。そのまま指を後ろに回すと、つっかえることなく滑っていく。
     どうやら、このTシャツとジャケットは、別々で作られているようだ。細部に取り付けられた風変わりな装飾まで、丁寧に再現されている。ズボンは市販のものなのだろうが、腰回りに付けられたベルトは僕のものと同じだ。これも彼が加工して、後からつけたものなのだろう。
    「それくらいにしておけよ。うっかりパーツが取れたりしたら、君に作り直してもらうからな」
     ルチアーノに脅されて、僕は慌てて服から手を離す。作り直せと言われても、僕は裁縫なんてしたことがないのだ。不格好な何かが出来上がって、ルチアーノに笑われることだろう。いや、彼のことだから、自分でやらせておいて怒り出すかもしれない。
     服の形を整えると、僕はぬいぐるみをルチアーノに手渡した。彼の手のひらに戻ったぬいぐるみは、光の粒子に包まれて消えていく。何もなくなった空間に視線を向けると、僕は小さな声で呟いた。
    「ルチアーノって器用だよね。こんなことまでできちゃうなんて。僕にも裁縫ができたら、ぬいぐるみにルチアーノの服を着せてあげられたのにな」
     その言葉を聞くと、ルチアーノはにやりと口角を上げた。僕に顔を近づけると、自信満々な声で言葉を発する。
    「そう言うと思って、君の分も用意してやったぜ」
    「へ?」
     予想外の言葉が飛び出してきて、僕はぽかんと口を開けてしまった。そんな僕を横目に、彼は服の布地に手を突っ込む。光の粒子を放つと、そこからは袋に入った布地が滑り出してきた。
    「ほら。ぬいぐるみサイズの僕の服だ。ちゃんと、表面装甲と同じ素材で作ってあるんだぜ」
     恩着せがましく言葉を並べながら、ルチアーノは袋を僕へと差し出す。その態度に応じるように、僕も両手でそれを受け取った。丁寧に袋の口を開けると、中に入っていたパーツを取り出す。それは彼の言う通り、ぬいぐるみサイズに縮小されたルチアーノの衣服だった。
    「すごいね。ひらひらとか首の輪っかまで、綺麗に作られてる。これも、ルチアーノが作ったの?」
     中身を手のひらに転がしながら、僕は感嘆の声を上げる。ルチアーノの用意したコスチュームは、息を飲むほどに精巧だったのだ。特に、首回りの金属の輪っかは、取り外しができるように作られている。服も多少のアレンジは加えられているが、ルチアーノの着ているものとほとんど変わらなかった。
    「あんまり広げるなよ。うっかり落として壊したりしたら、僕の努力が水の泡だ」
     手のひらで輪っかを転がしていると、横から鋭い声が飛んできた。背筋が震えるような威圧感を感じて、慌ててパーツを袋の中に戻す。
    「そうだね。気を付けるよ」
     改めて思い出すが、この衣装はルチアーノの手作りなのだ。着せる前に壊されたりしたら、彼じゃなくても嫌な思いをするだろう。劣化を避けるためにも、必要な時以外はしまっておいた方がいい。そう思って袋をつまみ上げると、再びルチアーノが言葉を発した。
    「なあ、それをぬいぐるみに着せてくれないか?」
    「え?」
     予想外の言葉が飛んできて、僕は頓狂な声を上げてしまう。まさか、ルチアーノの方から催促されるとは思ってもいなかったのだ。僕が口を開けていると、彼は呆れた声で言う。
    「え?じゃないだろ。これはぬいぐるみのために作った服なんだから、ぬいぐるみに着せるのが当然だ。そんなことも分からないのか?」
    「分かってるけど、ちょっと勿体ない気がするんだよ。せっかくの貰い物だから、ここぞという時にだけ着せたいでしょ」
    「そんなこと言ってたら、一生出番が来ないだろ。壊れたら作り直してやるから、とっとと着せてきな」
     そこまで言われてしまったら、大人しく着せに行くしかない。直すと言ってくれたということは、傷をつけることに抵抗はないのだろう。自室からぬいぐるみを取ってくると、今まで着ていた服を脱がせる。細かいパーツの取り扱いに苦戦しながらも、なんとかもらった服を着せた。
    「ほら。着せてみたよ。どう?」
     僕が尋ねると、ルチアーノは満足そうに熊を眺めた。にやりと口角を上げると、妙に上から目線な態度で言う。
    「思った通りだな。これで、少しはイリアステルのメンバーらしくなっただろ。これを僕だと思って、毎日大切に傅きな」
     何だかんだ言って、彼もぬいぐるみを気に入っているらしい。僕と同じように、この熊を自分の分身のように思っているようだ。それは素直に嬉しいから、僕も正面からお礼を言う。
    「ありがとう。この子をルチアーノだと思って、大切にするよ」
     それでも足りない気がしたから、ぬいぐるみを大切に抱き締めた。胸元の金属が当たって、ごつごつとした感触が身体に伝わる。とはいえ、あまりぬいぐるみばかり可愛がっていても、ルチアーノは機嫌を損ねるだろう。とりあえず、この子には部屋に戻ってもらうことにする。
    「なあ、ひとつ聞いていいかい?」
     僕が部屋を出ようとすると、不意にルチアーノが問いかけてきた。くるりと後ろを振り向くと、僕は何も考えずに言葉を返す。
    「どうしたの?」
    「服を譲ってくれるとき、本当は何て言おうとしてたんだ?」
     不意に飛んできた質問に、僕は肩を震わせてしまった。この事については、できることなら触れられたくなかったのだ。ルチアーノはぬいぐるみの服を作ろうとしてたというのに、僕はいかがわしいことを考えていたのだ。自分の発想が浅ましくて、顔から火が出そうだった。
    「それは、秘密だよ」
     誤魔化すように言葉を返すと、僕は自分の部屋へと向かう。こんな下らない発想など、ルチアーノが知る必要はないのだ。
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