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    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

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    TF主ルチ。ルチがTF主くんの本棚にあったミステリー小説を持ち出す話。

    ##TF主ルチ

    ミステリー お風呂から上がると、僕は真っ直ぐに自室へと向かう。先に入浴を済ませたルチアーノが、ベッドの上で僕を待っているのだ。『待っている』などという言葉を使っているが、そこに色っぽい意図は少しもない。いつの間にか、僕の部屋で夜更けまでの時を過ごすことが、日々の習慣になっていたのだ。
     室内に足を踏み入れると、僕はベッドの上に視線を向ける。子供用の寝間着に身を包んだルチアーノが、ど真ん中に寝転がっていた。僕の家の僕の部屋だというのに、遠慮する素振りは微塵も感じられない。彼らしいと言えば彼らしいが、これも心を許してくれている証拠なのだろう。
     彼はうつ伏せに寝そべったまま、手元に何かを広げていた。真っ直ぐに視線を向けるたまま、一定の間隔で手を動かしている。普段なら雑誌やゲームを手にしているのだが、今日はそのどちらでもないらしい。不思議に思って近づいてみると、その正体はすぐに分かった。
     彼が手に持っていたのは、文庫サイズの本だった。書店で買ってきたものらしく、背には茶色のブックカバーがかけられている。淡い色がシーツに落ちた影に紛れて、僕の視点からはよく見えなかったのだ。邪魔をしないように隅に腰を下ろすと、僕はルチアーノに声をかける。
    「珍しいね。ルチアーノが本を読んでるなんて。人間の書いたものなんて、興味ないんじゃなかったの?」
     尋ねると、彼はちらりと僕に視線を向ける。上目遣いで僕を見上げると、少し不満そうに鼻を鳴らした。
    「馬鹿にするなよ。僕だって、本くらいは読むんだ。人間の思考の一端を覗くのも、神の代行者としての役目のひとつだからな」
     少しトゲの籠った声で、ルチアーノは反論の言葉を告げる。僕としては純粋な疑問を口にしただけだったのだが、彼は悪い方向に受け取ったようである。大方、本を読まない若者と一緒にされたことが嫌だったのだろう。
    「そういうことじゃないよ。ルチアーノにとって、この時代の人間の知識は時代遅れなものなんでしょう。だったら、わざわざ本なんか読んでも、おもしろくないんじゃないかと思って」
     言葉を探しながら言い直すと、ルチアーノは再び顔を上げた。にやりと口角を上げると、楽しそうな声で言葉を続ける。
    「そんなことないぜ。人間の綴るエンターテイメントってやつは、なかなかに興味深いもんだからな。人間の視点を体験するには、人間の綴る文章を読むのが一番だ」
    「そういうものなのかなぁ。僕には分からないや」
     小さな声で呟くと、僕は本に視線を向ける。僕の手のひらに収まりそうな大きさの紙面には、真っ黒な文字がびっしりと並んでいた。文庫本の中でも、特に字の小さな部類のものなのだろう。普段の僕だったら、絶対に読まないような本だった。
    「それに、君がどんな本を読んでるか気になるからな。こんな小難しいミステリーを読んでるなんて、全くの予想外だったぜ」
    「えっ?」
     ルチアーノの口から零れた言葉に、僕は思わず目を見開く。間抜けな声を上げながら視線を向けると、ルチアーノも驚いたように僕を見上げた。
    「なんだよ。気づかなかったのか? これは、君の本棚にあった本だぜ」
     呆れたように言葉を漏らしながら、ルチアーノは手にしたものを差し出す。カバーのかけられた文庫本を手に取ると、本のタイトルを確認した。シンプルなフォントで印刷された横書きの文字列は、どこかで見たことがあるような気がする。パラパラと中身を捲ってみるが、全く覚えがなかった。
    「こんなもの、いつの間に買ったんだろう。本当に僕の家の本なの?」
    「君の本棚から出てきたものだぜ。その様子だと、開いてすらいないみたいだけどな」
     僕の呟きを聞いて、ルチアーノは冷めた声で言う。もう一度タイトルを読み上げたが、やはり心当たりはなかった。登場人物一覧に探偵の名前があるから、ミステリーであることは間違いない。片手で本を閉じると、再びルチアーノに差し出した。
    「全然覚えてないんだよ。調べたら分かるかな」
     独り言のように呟いてから、僕は端末に手を伸ばす。検索システムを起動すると、本のタイトルを打ち込んでみた。検索結果のトップ画面に、ドラマのキービジュアルらしきものが表示される。一番上に上がっているサイトも、ドラマのホームページみたいだった。
     端末の画面とにらめっこをしながら、僕は僅かに首を傾げる。画面に表示されたドラマのポスターも、どこかで見覚えがあるような気がしたのだ。必死に思考を巡らせるが、決定打となるような記憶は出てこない。さらに情報を得ようと、僕はホームページのリンクを開いた。
    「ああっ!」
     登場人物のページを開いたところで、僕は思わず声を上げる。隣で読書に戻っていたルチアーノが、驚いたように肩を震わせた。本から視線を上げると、僕鋭い瞳で僕を睨む。
    「急にどうしたんだよ。びっくりしたじゃないか」
     鋭い声で怒鳴るルチアーノを、僕は正面から見つめ返した。彼が機嫌を損ねていることなど、僕の閃きに比べたら大したことなかったのだ。頭の中の点と線が繋がって、ひとつの形を描いていく。唇を尖らせるルチアーノに、僕は弾んだ声で言った。
    「思い出したんだよ。どうして、この本を買ったのか」
     そう言うと、僕は間髪入れずに語り始める。この小難しい小説は、数年前に放送されたドラマの原作だったのだ。それは警察もののミステリーで、警官の知り合った女子高生が難事件を解決するという内容だった。主人公とヒロインを売り出し中の人気アイドルが演じたことと、二人の絶妙なタッグが話題になって、高視聴率を獲得していたらしい。
     当時中学生だった僕にとって、流行りのドラマは話についていくためのツールだったのだ。内容が面白かったこともあって、僕も毎週欠かさず見ていた。僕がこの小説を買ってきたのも、そのドラマを見ていたからである。人気ドラマの原作小説として、書店の入り口付近に山積みされていたのだ。友達と一緒に書店に向かった僕は、話の流れでその本を購入した。
     しかし、その書店の平積みこそが、僕たちを惑わせる罠だったのだ。一面に並べられていた小説は、全てが関連作品だったわけではなかったのである。ドラマの原作として使用されていたのは、雑誌に掲載されていた短編連作のものだけだったのだ。僕が買ってきた長編作品は、女子高生の出番がほとんどない本格ミステリーだったのである。
     そんなことだから、僕たちは誰もこの本を読めなかった。読書慣れしていない男子中学生が読むには、その本は難しすぎたのである。買ったからには読もうと中身を開いたが、四分の一も読めずに飽きてしまった。その後、本棚の奥に仕舞いこんだまま、今日になるまで忘れられていたのだ。
    「つまり、当時の君たちには、この本は読めなかったのか。まあ、中学生なんてガキみたいなもんだから、小難しい話は分からないよな」
     僕の話を聞き終えると、ルチアーノは呆れたように呟く。話を聞いて答えるまでの間も、彼の指は本のページを捲っていた。器用なことに、聴覚情報と視覚情報を分けているらしい。彼はアンドロイドだから、そういうこともできるのだろう。
    「読めなかったって言っても、三年は前の話だからね。今はもう高校生だから、ちょっとくらい 難しくても分かるよ」
     ルチアーノの手元を眺めたまま、僕は小さな声で言う。一応言い切りはしたものの、あまり自信はなかった。こっちに来てからはデュエル漬けの生活をしているから、本を読む機会などほとんどない。学校にも通っていないから、文学に対する知識も中学止まりなのだ。
    「本当か? そんなこと言って、ちっとも読めなかったりするんじゃないのか?」
     僕の心を読んだかのように、ルチアーノは意地悪な言葉を返す。わざとらしく僕に視線を向けると、にやりと口角を上げて見せた。そこまで煽られたのなら、僕だって引くわけにはいかない。ルチアーノに向き直ると、正面から宣言する。
    「本当だよ。ちゃんと読んで、ルチアーノに感想を教えるから」
     その言葉を聞くと、ルチアーノは満足そうに笑い声を上げた。文庫本の表紙を見せると、さっきよりも弾んだ声で言う。
    「なら、僕がこの本を読み終わったら、直接君に渡すからな。一週間以内に読んで、感想を聞かせろよ」
     何事もないように口にするが、僕には無理難題でしかなかった。直近の僕たちの行動は、その大半がデュエルに占められていたのだ。自由時間があると言っても、その全てを読書に裂けるわけではない。そんな状態で、一週間で本を読むなんて不可能だった。
    「一週間は無理だよ。せめて二週間にして」
    「仕方ないな。二週間で許してやる」
     ダメ元でお願いをしてみると、ルチアーノはあっさりと許可をくれた。付き合いの長い彼のことだから、僕に読破はできないと思ってるのかもしれない。悔しさに唇を噛むと同時に、彼の手のひらの上で踊らされているような滑稽さを感じた。

     ルチアーノが本を渡してきたのは、それから二日後の夜だった。夕食を済ませ、ソファに腰を下ろした僕の元に、彼の方から歩み寄ってきたのである。懐に手を突っ込んで本を取り出すと、乱暴な態度で差し出した。
    「ほら、僕は読み終わったぜ。今度は君の番だ」
     態度と同じくらい素っ気ない声で言うと、僕の手に本を押し付ける。すぐに部屋を出ていこうとする彼を、僕は慌てて呼び止めた。
    「待ってよ。本の内容はどうだったの? ネタバレにならない範囲で教えて」
     僕のざっくりとした問いかけに、ルチアーノは呆れたような表情を見せる。瞳を細めて僕を見つめると、面倒臭そうにしながらも答えてくれた。
    「君は難しいことを言うんだな。ミステリーでネタバレをせずに感想を言うなんて、無理難題に決まってるじゃないか。……まあ、一言で言うとしたら、どんでん返しが予想外だったってところかな。実際のところは、自分で読んで確かめなよ」
     申し訳程度に感想に告げると、彼は部屋の外へと足を踏み出す。当然と言えば当然なのだが、これ以上は教えてくれないみたいだった。まあ、ミステリー小説である以上、自分で読んで確かめるしかない。本のページを捲ると、小さな文字を追い始めた。
     物語のプロローグに当たる部分は、犯人視点の導入が語られていた。恐らく最初の事件となるであろう殺人が、怪しい人物の手で行われているのだ。被害者が無惨な死体を晒すと、話は本編へと進んでいく。章の始めには、事件の通報を受けた警察が会議をする様子が描かれていた。会話を追いながらページを捲っていると、奇妙なものを見つけた。文字を書き込まれた細長いふせんが、本の行に沿うように貼られているのである。僕が書き込みをした記憶はなかったから、これはルチアーノによるものだろう。不思議に思って目を凝らすと、そこにはこんなことが書かれていた。

    ←こいつが犯人

     矢印の示す先に書かれているのは、登場人物の名前である。前後の繋がりから察するに、警察組織の偉い人なのだろう。このふせんの内容が本当なら、僕はとんでもないネタバレを食らわされたことになる。黙って本を閉じると、僕は薄暗い廊下へと視線を向けた。
    「ルチアーノ……!」
     口から絞り出した悲鳴も、彼の元には届かない。僕の近くから離れたがっていたのは、このいたずらがバレないためだったのだろう。いかにも彼らしい、用意周到で意地悪なトラップだ。まだ一割も進んでいない本を手にしたまま、僕は大きく息をついた。
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