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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチ。TF主くんと出かけたくて仕方のないルチと用事があって早起きしたTF主くんの話。

    ##TF主ルチ

    約束 微睡みの中を彷徨っていると、遠くから音が聞こえてきた。空気を切り裂くような、甲高くて鋭い電子音だ。それは少しずつ大きくなって、僕を追い詰めるように迫ってくる。なんとか腕を伸ばすと、音の発生源を叩きつけた。
     スイッチを押したことで、電子音は唐突に途切れた。大きく息をつくと、僕は再び温もりに身を委ねる。暖かい休日の朝といえば、惰眠を貪るのが定石だろう。そう思って束の間の平穏を楽しんでいると、再び音が聞こえてきた。
     再び腕を伸ばすと、目覚まし時計のスイッチを止める。目を開いて文字盤を見ると、午前の七時を指していた。重い身体を引きずると、なんとか布団の中から這い出す。少し肌寒さを感じて、椅子にかけていた上着を手に取った。
     真っ直ぐに洗面所まで向かうと、蛇口を捻って顔を洗う。冷たい水を顔に浴びると、ようやく目が覚めてきた。手早く服を着替えると、朝食を取るためにキッチンに向かう。パンが焼けるのを待ちながらベーコンを焼いていると、リビングに光が溢れた。
     僕が視線を向けた時には、光はひとつの人影を映し出している。白い布を身に纏った、小学生くらいの男の子だ。彼は黙ってこちらを見ると、足音を立てながら歩み寄る。ベーコンをお皿に乗せている僕を見て、珍しいものでも見たかのように瞬きをした。
    「なんだ。もう起きてたのか。君にしては珍しいな」
     よく通る声で呟くと、僕の手元を覗き込む。ベーコンを焼いたばかりのフライパンは、油によってテカテカと光っていた。ボウルに卵を割ると、よくかき混ぜてからフライパンに流し込む。何度も菜箸でかき混ぜると、いい感じに固まったところでお皿に移した。
    「今日は、用事があるからね。頑張って起きたんだ」
     別のお皿を取り出すと、トースターからパンを取り出す。こんがりと焼けた表面に、冷蔵庫から取り出したマーガリンを塗った。固まっていた油分が溶けて、室内に香ばしい匂いが漂う。お皿を机へと運ぶ僕を見て、ルチアーノに不満そうに呟いた。
    「なんだよ。せっかく僕が遊んでやろうっていうのに、君は一人で出かけるのか?」
    「仕方ないでしょう。今日は用事があるんだから」
     箸を動かしながら答えると、ルチアーノは正面の席に腰を下ろした。訝しそうに僕を見つめると、眉を歪めながら言う。
    「その用事ってのは、そんなに大切なものなのか? まさか、浮気とかじゃないだろうな」
    「そんなわけないでしょ。ただの事務手続きだよ」
     微かに苦笑いを浮かべながら、僕は朝食を口に運ぶ。今日の目的地は、セキュリティの受付窓口だった。いくらデジタル文化が浸透したと言っても、重要な手続きは窓口に行かないとできない。できるだけ早く片付けたいから、朝一番に向かうことにしたのだ。
    「本当だろうな。嘘をついてたら承知しないぜ」
     未だに怪しそうな顔を浮かべながらも、ルチアーノはそんなことを呟く。こうしてわざわざ詰め寄ってくるのは、僕を信頼している証なのだろう。彼は未来の技術を持っているから、その気になれば僕の居場所くらい突き止められるのだ。
    「本当だよ。嘘をついたって意味がないでしょ」
     食事を終えると、僕は再び洗面所に向かった。手早く歯磨きを済ませると、荷物を取りに自室に戻る。何だかんだで、家を出る頃には八時を過ぎてしまっていた。
    「なあ、本当に一人で行くつもりかよ。僕がついていかなくても大丈夫か?」
     僕が扉を開けようとすると、ルチアーノがおずおずと言葉を吐く。珍しいことに、今日は玄関までついてきたのだ。自分から口にすることはないものの、本心では甘えたくて仕方がないのだろう。しかし、今日を逃したら、僕は手続きの機会を逃してしまう。
    「わざわざついてきたって、ルチアーノは楽しくないでしょ。帰ったら付き合ってあげるから、おとなしく家で待っててよ」
     正面から反論すると、彼は悔しそうに身を引いた。自分が長時間待てないことは、彼自身がよく分かっているのだろう。その場で下を向くと、小さな声で答える。
    「分かったよ。約束だからな」
     妙にしおらしいルチアーノの姿は、子供らしくてかわいかった。微笑ましさを感じると同時に、心苦しさを感じてしまう。彼の甘えたがりな態度は、満たされなかった欲望の現れなのだ。できることなら、僕が包み込んであげたかった。
     後ろ髪を引かれる思いで家を出ると、真っ直ぐにシティ繁華街へ向かう。数十分で着く道のりが、妙に遠く感じた。

     用事を全て済ませた頃には、すっかりお昼を過ぎていた。賑わい始めた繁華街に背を向けると、僕は足早に家路へと急ぐ。お腹が空いて仕方なかったが、昼食を摂るのも後回しだ。今頃、僕の家の中では、ルチアーノが待ちわびているのだから。
     数十分かけて家に帰ると、玄関の扉を開けた。手を洗って室内に上がると、ルチアーノが出迎えてくれる。彼はソファの上に座って、こちらに視線を向けていた。僕の姿を視界に捉えると、待ちくたびれたように声を上げる。
    「なんだよ。やっと帰ってきたのか」
    「ごめんね。窓口が混んでて、思ったより遅くなっちゃったんだ」
     どうやら、ルチアーノは機嫌を損ねてはいないらしい。少し安心しながら答えると、僕は真っ直ぐにキッチンへ向かった。冷凍庫を物色すると、ストックしていた冷凍食品を取り出す。裏面の注意書きを読むと、電子レンジの中へと押し込んだ。
    「何してるんだよ。とっとと出かけるぞ」
     昼食の支度をする僕を見て、ルチアーノが怪訝そうに声を上げた。朝からずっと待っていたから、早く出かけたくて仕方ないらしい。しかし、人間である僕には、エネルギーの補給が必要なのだ。食器の用意を整えながら、彼の方へと言葉を返す。
    「待ってよ。急いで帰ってきたんだから、お昼ご飯を食べてないんだ。すぐに食べ終わるから、ちょっと待っててよ」
    「エネルギー補給か。仕方ないな。すぐに済ませろよ」
     電子レンジから袋を取り出す僕を見て、ルチアーノは呆れたように呟いた。彼も僕との付き合いが長いから、人間の仕組みのことは理解しているのだろう。大盛りパスタをつつく僕を、冷めた目で見つめていた。
     フォークで麺を巻き付けると、口の中へと押し込んでいく。なかなかに量があるから、食べ終わるまでには時間がかかった。黙って待つことに飽きたのか、ルチアーノが僕の前へと移動してくる。他愛の無い雑談を交わしながら、僕はパスタを食べ続けた。
     お皿の上が空になると、ルチアーノは満足そうに僕を見つめた。食器を片付ける間すら与えずに、僕を引きずり出そうとする。
    「食べ終わったな。ほら、とっとと出かけるぞ」
    「待ってよ。食器を洗っておかないと、後で大変なことになるんだから。そんなに急がなくても、僕は逃げたりしないよ」
     彼を諭すように言葉を告げると、僕はキッチンへと移動する。ソースのついたお皿を洗うと、横に置かれていたコップに手を伸ばした。おそらく、僕を待っているうちに、ルチアーノが何かを飲んだのだろう。感性は機械的なままだが、嗜好は人間に寄ってきている気がする。
     手早く洗い物を済ませると、僕はソファへと腰を下ろした。柔らかいクッションに身を沈めると、お腹の底から息を吐く。今日は早起きして出かけたから、少し眠くなってしまった。ソファの上に横たわると、ルチアーノの膝に頭を乗せる。
    「おい、何してるんだよ。出かける約束はどうしたんだ」
     僕の頭の上から、ルチアーノの不満そうな声が飛んでくる。何度か頭を小突かれるが、襲いかかる眠気は消えなかった。膝の上で目を閉じると、小さな声で懇願する。
    「ちょっと眠たくなっちゃったんだ。三十分だけ寝かせて……」
    「何言ってるんだよ。昼飯を食ったら出かけるって言ってただろ。僕との約束を破るのか?」
    「破らないよ。仮眠を取ったら出かけるから……」
     しかし、そんな説得では、ルチアーノは納得してくれない。僕の頭を掴むと、ぶんぶんと左右に揺さぶった。頭の中を揺さぶられて、瞼に映る光が揺れる。瞳を開けずに粘っていると、彼は大人しく手を離した。
    「なんだよ。好き勝手しやがって……」
     小さな声で呟きながらも、彼は僕の頭に手を当てる。髪を分けるように指を突っ込むと、無造作に左右に動かした。手のひらの温もりを感じながら、僕は微睡みに身を委ねる。数分もしないうちに、僕の意識は微睡みの中に溶けていった。

    「おい、起きろよ」
     眠りの世界を漂っていると、不意に誰かに頭を揺さぶられた。朦朧としていた意識が、一気に現実世界に引き戻される。そんな僕の頭の上を、小さな手のひらが小突いてきた。容赦ない痛みが身体を走って、僕は渋々目を開ける。
    「どうしたの? もう朝?」
     寝ぼけた頭で呟くと、ルチアーノは呆れたように溜め息をついた。冷めた瞳で僕を見ると、吐息の混じった声で呟く。
    「なに寝惚けてるんだよ。昼寝するって言ったのは君の方だろ」
     彼の言葉を聞いて、僕はようやく思い出した。今日は早起きをして疲れていたから、お昼ご飯を食べた後に仮眠を取ることにしたのだ。その時に溢した口実が、『三十分だけ』だったのである。律儀なルチアーノは、ちょうど三十分後に起こしてくれたのだ。
    「そういえば、そうだったね。起こしてくれてありがとう」
     まだくらくらする頭のまま答えると、僕はゆっくりと身体を起こす。何度か目をしばたたかせると、思いきってソファから立ち上がった。一歩踏み出そうとしたところで、バランスを崩して立ち止まる。歩みの危うい僕を見かねて、ルチアーノが手を差しのべてきた。
    「危なっかしいな。転ぶなよ」
     ぶっきらぼうな声で言いながらも、彼は僕の手を引いてくれる。ここだけ見れば優しい行動だが、早く出かけたいだけなのだろう。強引に僕の手を引っ張ると、部屋の外まで出て行こうとする。慌てて彼を止めると、手早く水分補給を済ませた。
    「もう、やり残したことはないか? じゃあ、早速出かけるぞ」
     玄関へと僕を引っ張りながら、ルチアーノは弾んだ声で言う。うきうきしながら外へ向かう姿は、年相応の子供のようだった。それにしても、今日のルチアーノは、どうしてここまで出かけたがるのだろう。普段の斜に構えた彼からは、到底想像もできなかった。
    「ねえ、ルチアーノ」
     門を通って大通りに出ると、僕はルチアーノへと問いかける。しばらく歩いたことで、眠気はずいぶんましになっていた。しっかりとした足取りで歩きながら、僕はルチアーノへと視線を向ける。
    「なんだよ」
     頭に疑問符を浮かべながら、ルチアーノは真っ直ぐに僕を見上げる。何か裏があるようには見えない、純粋な疑問の表情だった。少し戸惑いを感じながらも、僕は疑問を問いかける。
    「どうして、そんなに張り切ってるの?」
     僕の言葉を聞いて、ルチアーノは頬を赤く染めた。目を大きく見開くと、すぐに僕から顔を背ける。耳まで真っ赤に染まったまま、彼は大きな声で答えた。
    「別に、張り切ってねーよ!」
     どうやら、当のルチアーノは、自分の態度に気がついていなかったようだ。僕の手を引っ張って歩いていたのは、彼の本心からの行動だったらしい。子供らしい姿を見せてくれるなんて、僕も信頼してもらえるようになったようだ。彼の真っ赤な耳を眺めながら、僕は僅かに口角を上げた。
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