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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチ。TF主くんに反射ベストを着せたいルチと絶対に着たくないTF主くんが言い合いする話。

    ##TF主ルチ

    反射ベスト 家に帰って身支度を整えると、僕は必ずテレビをつける。決まった局のボタンを押して、夕方のニュースを確認するのだ。新聞を取っていない僕にとって、夕方の情報番組は貴重な情報源である。小難しいニュースばかりではないことも、僕の視聴のハードルを下げてくれた。
     しかし、どれだけ平和な番組だと言っても、悲しいニュースが無いわけではない。コーナーとコーナーの間に挟まれるニュースには、社会的で重いものが混ざっていた。政治や外交の話だったり、事件や事故の顛末についてだ。あまりにも痛ましい話を聞いた時には、夕食を食べる箸が止まってしまうこともあった。
     その日僕たちが目にしたニュースも、そんな痛ましい事件の一つだった。ネオドミノシティの郊外で、Dホイールと車の衝突事故があったらしい。現場は見通しの悪い交差点で、時刻は周囲が真っ暗になるほど遅かったらしい。車に乗っていた男性は軽傷で済んだが、Dホイールの男性は重症だという。
     ニュースを伝えた情報番組のキャスターは、事故の原因が夜道にあると語っていた。街灯を頼りに夜道を走る車からは、歩行者や自転車、Dホイールなどの姿が見えづらいのである。実際に、黒い服を着ていると、その姿は闇に同化してしまうという。その対策として、反射ベストなどを身につけることが有用だと語っていた。
     事故を伝えるニュースが終わると、テレビは次のコーナーへと移っていった。シティで開催されたイベントを紹介する、平和なバラエティコーナーである。テレビに映るキャスターの女性は、楽しそうに参加者にインタビューをしていた。老若男女の笑顔と楽しそうな笑い声は、さっきまでの話題とは正反対だ。
    「なあ」
     しばらく黙って画面を見た後に、不意にルチアーノが口を開いた。急に発せられた声にびっくりして、思わず彼の方へと視線を向ける。僕の視界に映ったのは、妙に真面目な顔をしたルチアーノの姿だった。
    「どうしたの?」
     その真剣な表情が気になって、僕も真面目な声を返した。彼が笑みを見せずに話を切り出すのは、真面目な話をする時だけなのだ。だから、今から口に出す話も、任務に関わるものだと思ったのだ。
    「君も、反射ベストを着けた方がいいんじゃないのか?」
    「え?」
     しかし、僕の予想とは対称的に、ルチアーノはそんなことを口にした。斜め上の発言に、僕は呆然と口を開けてしまう。そのまま動きを止めていると、彼はさらに言葉を続けた。
    「君は、夜道をDホイールで走ることがあるだろ。反射ベストをつけてないと、いつか車に轢かれちまうぜ」
     普段の彼からは想像もできない、真面目くさった声だった。冗談のようにも見えれば、本気のようにも見える発言である。彼の真意が分からなくて、僕は言葉を選びながら返事をした。
    「僕は大丈夫だよ。あのDホイールは、誰から見ても走ってるって分かるから」
     僕がそう言うのには、明確な理由がある。僕の乗っているDホイールは、人から譲り受けた特別製だからだ。車体も普通のものより大きければ、走行音も並外れて大きい規格外品だ。外を走っていて事故に遭うなど、地球がひっくり返らなければ起きないだろうと思った。
     しかし、ルチアーノはそう思ってはいなかったようだ。僕の方に身を乗り出すと、鋭く両目を吊り上げる。今にも、机を叩きそうな勢いだった。
    「余裕かましてる場合じゃないだろ。そんなこと言ってるから、さっきみたいな事故が起きるんだ。もっと危機感を持ちな」
     正面から詰め寄られて、僕は思わず言葉を失う。僕を問い詰めるルチアーノの語調は、どう見ても真剣そのものだったのだ。ルチアーノは本気で僕を心配して、反射ベストの着用を勧めている。僕のDホイールが規格外であることは、少しも考慮に加えていなかった。
    「それは、普通のDホイールだったからだよ。僕は規格外だから、そこまで気にしなくても大丈夫だって」
     なんとか安心させようと試みるが、ルチアーノは聞き入れてくれない。真っ直ぐに僕を見つめたまま、確信に迫る言葉を突きつける。
    「そんなことないだろ。そもそも、なんでそこまで反射ベストを嫌がるんだ?」
    「それは…………」
     その問いを突きつけられると、僕は何も言えなくなってしまった。僕が反射ベストの着用を拒むのは、子供じみた見栄でしかなかったからだ。というのも、僕にとって反射ベストというものは、工事現場等の作業員が身につけるものなのだ。僕がそんなものを着ていたら、職業不詳の不審者にしか見えないだろう。
     しかし、そう思っていたとしても、素直に口に出すことはできない。僕がそんなことを考えてると知ったら、ルチアーノは確実に怒り出すからだ。僕の命を第一に考えている彼を前にして、怪しく見られるからという理由が許されると思わなかった。
    「なんだよ。はっきり言えないなら、大人しく着ればいいだろ。事故に遭って吹っ飛ばされたら、文字通り全てを失うんだから」
     口ごもる僕を説得するように、ルチアーノは言葉を重ねる。そこまで言われてしまったら、もう嫌だとは言えなかった。万が一不審者に見られたとしても、職質されて困るような前科があるわけではないのだ。それなら、ベストを着て安心してもらった方がいいだろう。
    「分かったよ。ベストを着ればいいんだね」
     しぶしぶ頷くと、彼は納得したように身を引いた。安堵したように大きく息をつくと、そのままテレビに視線を戻す。テレビ画面に映し出される番組は、いつの間にか夜七時からのバラエティに移っていた。そんなルチアーノの横顔を見ながら、僕も再び箸を手に取った。
     
     しかし、そんな会話を交わした後だというのに、僕は反射ベストを買わなかった。いくつかのホームセンターを巡ってはみたものの、これだと思うものがなかったのである。店頭に並んでいる反射ベストは、どれもこれもシンプルで単調なデザインだったのだ。要するに、年頃の男の子が身につけるには、ダサいと言わざるを得ないのである。
     そんなこんなで、実物を購入する機会を失ったまま、しばらくの時間が経ってしまった。最初は頭の隅で覚えていた僕も、時間が経つにつれてベストのことを忘れていってしまう。僕のDホイールは喧しいから、ベストがあろうとなかろうと、事故の危険性は限りなく低いのだ。誰だって、近くで大地を揺さぶるほどのエンジン音が聞こえていたら、真っ先に自分の安全に気を遣うだろう。
     とはいえ、僕が忘れてしまったとしても、ルチアーノは忘れていなかった。ある夜、テレビを見ながら夕食を食べていた時に、再びこの話題を持ち出したのである。つけっぱなしだったテレビから視線を逸らすと、彼は唐突に声をかけてきた。
    「なあ、君」
    「どうしたの?」
     さりげない物言いだったから、僕はいつも通りに返事をした。真剣な相談事を持ち出す時は、もっと真面目な言葉選びをするのはずである。この日も、ただの冗談か軽口だと思った。
    「反射ベストは買ったのかよ」
     だから、そこから飛び出した言葉に、僕は箸を落としそうになってしまった。まさか、ルチアーノが前の会話を覚えているなんて、思ってもいなかったのである。動揺して口を開ける僕を見て、ルチアーノは呆れたように言葉を続けた。
    「君は、僕が自分の言ったことを忘れるとでも思ったのか? 僕たち神の代行者は、全ての出来事を記憶しておけるんだぞ」
     そんな僕を嗜めるように、彼は淡々と言葉を紡ぐ。対する僕はと言うと、何を答えるべきか考えていた。さすがの僕だって、ルチアーノが自分の発言を忘れると思っていたわけではない。ただ、彼の発言を、そこまでの本気だと思っていなかったのだ。
    「僕だって、ルチアーノが忘れたと思ってたわけじゃないよ。ただ、半分くらいは冗談だと思ってたんだ」
     ひとつひとつ言葉を選びながら、僕はなんとか返事をする。オブラートに包んだ表現ではあったが、ルチアーノには全く伝わらなかった。不満そうに唇を尖らせると、真っ直ぐに僕を睨み付ける。僕の方へと身を乗り出すと、鋭い声で言葉を重ねた。
    「君は、僕の発言が冗談だと思ってたのか? こんなに心配してやったっていうのに、本気じゃないとでも?」
     低い声で語りながら、彼は僕の前へと顔を近づける。怒りの籠った瞳で睨み付けられて、背筋が凍えるような感触がした。無意識のうちに、少しだけ身を引いてしまう。なんとか彼の怒りを沈めようと、必死の思いで言葉を探した。
    「だって、僕のDホイールは、ものすごいエンジン音がするんだよ。周りに気を遣わなきゃいけないくらいなんだから、夜道を走ってたらすぐに分かるよ」
     しかし、そんなありきたりな説明では、彼は納得しなかった。むしろ、さっきよりも鋭い視線で僕を睨んでいる。
    「そんなもの、理由になんかならないだろ。車を運転してるやつが、必ずしも慎重なやつとは限らないんだ。音が聞こえても突っ込んで来るやつだっているし、よそ見してるやつも普通にいるんだぞ」
    「それは、そうかもしれないけど……」
     彼の勢いに押されて、僕は反論の言葉を失ってしまった。そんな僕を納得させるように、彼はさらに言葉を続ける。
    「それに、僕が心配してるのは、Dホイールに乗ってる時だけじゃないんだぜ。町を歩いてる時だって、轢かれるリスクは変わらないんだ」
     確かに、この件に関しては、彼の語る通りなのかもしれない。身の安全を一番に考えるなら、ベストを着る以外に選択肢はないのだ。彼を安心させるためにも、それが一番の得策である。
    「でも…………」
     どれだけ詰め寄られても、僕は肯定の言葉を告げられなかった。頭では分かっていたとしても、感情で納得できなかったのである。僕だって年頃の男の子だから、見た目には気を使いたい。そんな見栄っ張りな精神が、どうしても引っ込んでくれなかったのだ。
    「なんだよ。まだ何かあるのか?」
     まだ口ごもっている僕を見て、ルチアーノは鋭い声で問い詰める。そこまで言われたら、素直に白状するしかなかった。お皿の上に箸を置くと、小さな声で呟いた。
    「だって、反射ベストって、あんまり見た目が良くないから…………」
     僕の呟きを聞くと、ルチアーノは一瞬だけ動きを止めた。表情を緩めると、ぽかんとした顔で僕を見つめる。しかし、それも一瞬のことで、すぐにケラケラと笑いだした。
    「なんだ、そんなことかよ」
    「そんなことなんて言わないでよ。ルチアーノにとっては些細なことでも、僕にとっては一大事なんだよ」
     お腹を抱えんばかりに笑うルチアーノを見て、僕は勢いよく言い返した。今こうして彼が笑い転げていることが、僕が反射ベストを嫌がる理由そのものなのだ。しかし、僕の真意を知らない彼は、そんなことなど全く気がついていないようだった。
    「だって、ダサいから着たくないなんて、あまりにも子供の理由じゃないか。大人だって言うんなら、見た目よりも身の安全を選ぶだろ」
     まだくすくすと笑いながら、ルチアーノはからかうように言葉を並べる。その他人事みたいな物言いに、さすがの僕も苛立ちを感じ始めた。
    「ただ見た目が悪いだけならいいんだよ。でも、ルチアーノは、ベストを着た僕を笑うでしょ。それが分かってるから、僕はベストを着たくないんだよ」
     鋭い声で言い放つと、彼は微かに手を止める。一瞬だけ表情を曇らせると、迷ったように視線を下に向けた。
    「それは…………そうかもしれないけどさ…………」
    「でしょう。ルチアーノのことだから、散歩中の犬とか言い出すんだ。いつもそうだったでしょう」
     さらに言葉を続けると、彼は不意に顔を上げた。真っ直ぐに僕を睨み付けると、鋭い声で言い放つ。
    「だからって、わざわざ危険に身を置く必要はないだろ! 僕は本気で心配してるんだ。分からないのかよ!」
     その剣幕が真剣そのもので、僕は思わず黙ってしまった。笑われるかもしれないという思いも、その顔に押されて消えてしまう。何だかんだ言っても、彼は本気で僕を心配してくれるのだ。だからこそ、彼は僕のことをからかったりする。
    「分かってるよ。ルチアーノは、本気で僕を心配してくれてるって。僕のことをからかうのは、その照れ隠しなんでしょう」
     そう。彼が僕をからかうのは、僕を心配したことに対する照れ隠しだ。神の代行者として生きている彼にとって、人間を心配することは恥なのだろう。それを悟られないように、僕をからかうことで隠している。
     実際に、僕の言葉を聞くと、彼は恥ずかしそうに視線を逸らした。ほんのりと頬を赤く染めると、消え入りそうな声で呟く。
    「なんだよ。分かってるなら、そんなに怒るなよ」
     そんな顔をされてしまったら、僕にもこれ以上怒ることはできなかった。置いていた箸を手に取ると、再び食事に手を伸ばす。ここまで心配されているのに、格好が悪いから着たくないなどとは言えないだろう。そんな返事をしてしまうのは、彼の誠意に対して失礼だ。
     とりあえず、明日はホームセンターに行ってみよう。ベストの形に拘らなくても、光を反射するアイテムはいくつもあるのだ。それっぽいものを身に付けたなら、ルチアーノも納得すると思った。
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