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    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

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    TF主ルチ。TF主くんがルチからもらったぬいぐるみを可愛がってルチを怒らせる話です。

    ##TF主ルチ

    ぬいぐるみ「君に、プレゼントを持ってきたぜ」
     ある日の夕方、僕の前に姿を現すと、不意にルチアーノはそう言った。何かを見せつけるかのように、僕の前で仁王立ちに構えている。不思議に思って視線を向けると、後ろ手に何かを抱えていた。
    「プレゼント?」
     いかにも怪しげな仕草を見ながら、僕は小さな声で呟いた。これまで、彼がプレゼントという言葉を使う時には、あまりいいことがなかったのだ。何度もからかわれてきたこともあって、さすがに警戒してしまう。
    「なんだよ、その顔は。わざわざ、僕が君のために見繕ってやったんだぞ。もっと喜ぶべきじゃないのか」
     そんな僕の様子が気に入らなかったのか、彼は不満そうに唇を尖らせた。細められた瞳でこちらを見ると、拗ねた声で言葉を並べる。
    「そんなこと言われても、嫌な予感がしちゃうんだよ。ルチアーノが僕に持ってくるものは、いつもいたずらの道具ばかりだから」
     そう。彼が僕の元に持ち込むのは、大抵が僕をからかうための道具なのだ。それは女装のコスプレ衣装だったり、罰ゲームのためのアイテムだったりする。以前には、黙ってワインを飲まされたこともあった。
    「それは、君が僕に変なものばかり着せたりするからだろ。自分の日頃の行いが悪いんだ。僕のせいにしないでくれよ」
     僕を返り討ちにするかのように、ルチアーノはさらに言葉を重ねる。正面から僕を刺す鋭い言葉に、何も言い返せなくなった。僕が彼にコスプレを要求しているのは、紛れもない事実なのである。そこを突かれたら、僕には反論の余地など無かった。
    「安心しなよ。今日持ってきてやったのは、君を辱しめるための道具じゃないからさ」
     僕を言いくるめたことで機嫌を直したのか、ルチアーノは弾んだ声で言う。満を持してとでも言わんばかりに、後ろに隠していたものを差し出した。目の前に突き出されたそれを、僕はまじまじと見つめる。それは、シティの繁華街で見かけるような、よくあるゲームセンターの袋だった。
    「どうしたの、それ」
     一通り一瞥してから、僕は小さな声で言葉を紡ぐ。差し出された袋の中身は、景品でパンパンに膨らんでいた。少し開いた口から見えるのは、ぬいぐるみのような柔らかい物体である。とりあえず受け取ると、袋から中身を取り出してみた。
    「見ての通りだよ。ゲームセンターで取ってきた、くまのぬいぐるみだ。君は寂しがり屋だから、こういうものがあると落ち着くんだろう」
     ルチアーノの言葉を聞きながら、僕は取り出したものを検分する。確かに、彼が持ち込んできたものは、景品のぬいぐるみらしかった。量産された品らしく、ところどころに作りの粗さが見える。大きさは、僕が両手で抱えられるくらいには大きかった。
     それよりも、僕にとって気になったのは、ルチアーノが語った言葉だった。彼の中での僕のイメージは、恋人がいないと悲しむ寂しがり屋になっているらしい。確かに一緒にいたいとは言っていたが、そんな印象になっていたとは思わなかった。
    「確かに、ルチアーノがいないと寂しいけど、ぬいぐるみを代わりにするほどじゃないよ。ただ、一緒にいられたら嬉しいってだけで…………」
     僕が言葉を重ねると、ルチアーノはにやりと口角を上げる。さっきまでの不機嫌が嘘のように、いたずらっぽい声で言葉を重ねた。
    「そんな見え透いた嘘を吐かなくてもいいんだぜ。君が寂しがり屋だってことは、僕は十分分かってるんだから」
    「嘘じゃないんだけど……」
     小さな声で呟くが、彼は全く聞き入れてくれない。にやにやとした笑みを浮かべたまま、僕の腕に抱えられたぬいぐるみに触れた。
    「だから、そんな君のために、僕がプレゼントを持ってきたんだ。このぬいぐるみを僕だと思って、毎日大切にしなよ」
     僕の言葉を完全に無視して、彼は淡々と言葉を重ねる。結局、彼が僕に言いたかったのは、今の一言だったらしい。僕のことを寂しがり屋だと言ったのも、これを渡すための前置きだったのだろう。それなら、僕もおとなしく受け取るだけだ。
    「ありがとう。大切にするね」
     再びぬいぐるみを持ち上げると、正面から全身を眺めてみる。こうして眺めてみても、何の変哲もないくまのぬいぐるみだ。少し歪んではいるものの、中々に可愛らしい顔をしている。首に青いリボンを巻いていることだけが、唯一の彼との共通点だった。
    「よろしくね。ルチアーノ」
     物言わぬくまに語りかけると、僕はそれの右腕を動かす。魂を持たないはずのぬいぐるみが、その瞬間だけは生きているように感じた。

     翌日から、僕はくまのぬいぐるみと一緒に暮らし始めた。ルチアーノに大切にするように言われた以上、従わずにはいられなかったのだ。夜は一緒の布団で眠り、食事の時には向かい側の席に座らせる。それだけでは物足りない気がして、ぬいぐるみの分の食事も用意してみた。小さなお皿にご飯やおかずを取り分けると、正面の席に並べてみる。ただものを並べただけなのだが、それだけでも命が宿っているように見えた。
     ぬいぐるみと行動を共にする生活は、案外悪いものでもなさそうだった。そこに人形のものがあるというだけで、一人の寂しさは紛れるのだ。ルチアーノと同じようにとはいかないが、抱き枕のように抱え込むこともできる。ぬいぐるみを抱き締めて眠る夜は、いつもよりも寝付きがいいような気がした。
     ルチアーノが僕の家にやってきたのは、ぬいぐるみを持ち込んでから三日ほど経った頃だった。いつも通り、シティが夜の闇に包まれ始めた頃に、彼は僕の家のリビングにワープしてした。室内に光の粒子が広がったかと思うと、次の瞬間には人の姿が浮かび上がっていく。僕が後ろを振り向いた時には、そこには小柄な男の子の姿があった。
    「ただいま。僕がいなくて寂しかったかい?」
     にやにやと笑みを浮かべながら、彼は楽しそうな声色で言う。身を捻って纏っていた布地を消すと、テーブルの方へと歩いてきた。僕は夕食の支度中だったから、定位置となっている席にはぬいぐるみが置かれている。ちらりと下に視線を向けると、彼は呆れた声で言った。
    「なんだよ。これ」
    「何って、ルチアーノだよ。ルチアーノが大切にしてって言ったんでしょ」
     温めた食事を席に運びながら、僕は淡々とした声で言う。再びキッチンの方へと向かうと、小皿を二枚取り出した。ぬいぐるみの前に並べると、温めたばかりの野菜炒めを取り分ける。もうひとつのお皿には、下のトレイに入っていた白米をよそった。
    「そんな説明で分かるわけないだろ。君は、いったい何をしてるんだよ。僕にも分かるように説明しな」
     乱暴な態度で言うと、彼は席に置かれていたぬいぐるみを持ち上げた。力いっぱい掴んだようで、指先が顔に食い込んでいる。少しかわいそうにすら感じる姿に、僕は思わず声を上げた。
    「あぁっ! ルチアーノが!」
     しかし、そんな僕の悲鳴も、彼の不機嫌を煽るだけだ。鋭い瞳でこちらを睨み付けると、彼は甲高い声で言う。
    「なんだよ。お前、こいつに僕の名前を付けてるのか?」
     彼が気を抜いた一瞬の隙に、僕は両手からぬいぐるみを奪い取る。顔に僅かに残った窪みを、指先で触れて整えた。空いている席に座らせると、一息つきながら背後を振り返る。
    「そうだよ。そもそも、これはルチアーノが言ったことでしょう?」
    「はあ? いつそんなことを言ったんだよ」
    「ぬいぐるみを渡す時に、自分だと思って大切にしてって言ったでしょ。だから、このくまはルチアーノなの」
     言葉を交わすと、僕は食事の用意に取りかかる。僕の説明を聞いて、ルチアーノは怒る気すらなくしたようだった。呆れたようにため息をつくと、定位置となった椅子に腰をかける。僕とくまのための食事を眺めると、気の抜けた声で言葉を発した。
    「そういうことじゃないだろ。変なやつ」
     そんな彼の言葉を聞きながら、僕は野菜炒めに手を伸ばした。そういう意味じゃないとしたら、いったいどういう意味だったのだろう。ルチアーノの考えることは、僕にはあまりよく分からない。とはいえ、下手に尋ねると機嫌を損ねるから、真意は聞かないでおくことにする。
     自分の分の食事を終えると、僕は取り分けた小皿に手を伸ばした。ほんの少しだけ置かれていたおかずと白米を、ひとつにまとめて口に運ぶ。こっちは量が少ないから、既に冷めきってしまっていた。もそもそと咀嚼する僕の姿を、ルチアーノは呆れ顔で眺めていた。
     食事が終わると、後はお湯張りが済むのを待つだけだ。給湯器を操作してスイッチを入れると、僕たちはソファに腰を下ろす。もちろん、時間を潰すために移動するソファにも、くまのぬいぐるみは連れていく。僕が膝の上にぬいぐるみを座らせると、ルチアーノは不満そうに鼻を鳴らした。
    「こんなところにも連れてくるのかよ。ずいぶん気に入ってるんだな」
    「気に入ってるというか、大切にしてるんだよ。これは、ルチアーノにもらったプレゼントだから」
     くまの頭を撫でながら答えると、ルチアーノは恥ずかしそうに顔を逸らす。くまの扱いに対して思うことはあっても、大切にされていること自体は嬉しいみたいだ。そんな彼を横目で眺めながら、僕はテレビのリモコンを操作する。見るともなしにテレビ画面を眺めていると、キッチンからメロディが聞こえてきた。
    「お風呂、入ったよ」
     僕が声をかけると、ルチアーノは静かに席を立った。彼が部屋を出ていったのを確かめると、僕はぬいぐるみを抱き上げる。少し身体を浮かせると、空いた隣の席に座らせた。再びソファに腰を下ろすと、大して面白くもないテレビに視線を戻す。
     しばらくそうして座っていると、ルチアーノがお風呂から上がってきた。ソファの近くへと歩み寄ると、僕とぬいぐるみに視線を向ける。しばらく二つを見比べた後に、呆れたように言葉を紡いだ。
    「君は、一体何をしてるんだよ」
    「ルチアーノと一緒にテレビを見てるんだよ。こうしてると、一人でも寂しくないでしょう」
     僕が答えると、彼は一瞬だけ言葉を切る。すぐにいつもの調子に戻ると、突き放すような声で言った。
    「それは良かったな。ほら、とっとと風呂に行けよ」
     ルチアーノに急かされて、僕はソファから腰を上げる。さすがに濡らしたくはなかったから、ぬいぐるみはソファに置いていくことにした。部屋に入って着替えを取ると、真っ直ぐに洗面所まで歩いていく。着替えを洗濯機の上に置くと、手早く服を脱いで浴室に入った。
     入浴を済ませると、今度は自室へと移動する。特に示し合わせたわけではないが、いつの間にかそうする習慣になっていたのだ。キッチンで水分補給を済ませると、部屋の電気を消してから自室へと向かう。その前にソファに向かうと、忘れずにぬいぐるみを手に取った。
     自分の部屋に足を踏み入れると、ルチアーノがベッドの上に転がっている。シーツにうつ伏せの状態で横たわると、一心に携帯ゲーム機を操作していた。邪魔をしないように気を付けながら、僕は彼の隣に腰を下ろす。両手でくまのぬいぐるみを抱えると、手を添えながら膝に乗せた。
    「またそいつを持ってきたのかよ。ずいぶん気に入ってるんだな」
     ちらりとこちらに視線を向けると、ルチアーノは冷やかすように言う。全ては彼の言葉がきっかけなのだが、肝心の彼は理解していないようだった。ぬいぐるみを大切にするように言われたから、もう一人のルチアーノとして重んじているのに。少し意地悪な気持ちになって、僕もからかうような言葉を返す。
    「そうだよ。この子は、もう一人のルチアーノだからね」
     宣言するように言うと、僕はくまを抱えたまま布団を捲る。くまを枕に寝かせると、その隣に横たわった。ルチアーノを隣に残したまま、僕はくまの頭を撫でる。小さな頭に顔を近づけると、わざとらしく耳元で囁いた。
    「ルチアーノ、今日も一緒に寝ようね」
     そんな僕の挑発は、十分効果を発したようだった。ゲーム機に夢中だったルチアーノが、静かに手を止めてこちらを見る。くまと一緒に寝転がる僕を視界に収めると、あからさまに機嫌を損ねた。
    「いったい、どういうつもりだよ」
     お腹の底から出るような声で言うと、彼はぬいぐるみを持ち上げる。夕食の時と同じような、顔を押し潰すような掴み方だった。今度は本気で怒っているのか、手のひらに力が籠っているのが分かる。自分で挑発したことなのに、背筋に冷たいものが走った。
    「君は、僕よりもこのくまが大切なのか?」
     ルチアーノの低くて冷たい声が、さらに僕を追い詰める。それが任務で相手を追い詰める時のような声色を帯びていて、僕は自分の失敗を悟った。
    「そういうつもりじゃないけど…………」
     しかし、そんな歯切れの悪い否定の言葉では、ルチアーノの怒りを止めることなどできない。むしろ、不用意な弁明として、火に油を注いでしまう。瞳を吊り上げると、彼は静かな声で言った。
    「なら、どういうつもりなんだよ。僕のことを差し置いて、こんなものとイチャコラしやがって。肌触りの悪い機械と寝るくらいなら、布でできたぬいぐるみの方がいいっていうのか?」
     その言葉を聞いて、僕はようやく思い至った。ルチアーノにとっては、ぬいぐるみも彼と同じものなのだ。人間によって作られたヒト型の器で、そこに生命は宿っていない。だからこそ、彼は僕の行動を嫌がるのだろう。
    「違うよ」
     彼を正面から見つめると、僕ははっきりとした声で言った。彼が何を言おうと、これだけは譲れなかったのだ。僕にとって、一番大切なのは本物のルチアーノだ。それを否定されたら、相手が誰だろうと黙ってはいられない。
    「僕がぬいぐるみを大切にしてたのは、ルチアーノを大切にしたかったからだよ。これをルチアーノだと思ってたから、人間と同じように接してたんだ」
     僕が答えると、彼は不満そうに鼻を鳴らした。さっきよりは温かみを取り戻した声で言う。
    「だからって、僕の前で同じことをする必要はないだろ。目の前に本物がいるんだから」
    「そうなんだけど、やっぱり見せたかったんだ。僕がどれくらいルチアーノを大切に思っていて、ぬいぐるみを大切にしてるかを。僕がどれくらい、ぬいぐるみをルチアーノと同じだと思っているかを」
     真剣に言葉を返すが、ルチアーノの表情は変わらない。どれだけ言葉を並べても、僕の気持ちは正確には伝わらないようだった。ルチアーノとぬいぐるみに対する想いは、言葉にするのは難しいのだ。それでもなんとか伝わったのか、彼はくまを掴んでいた手を離した。ベッドの上に転がったぬいぐるみを、僕は布団の中に寝かせる。そんな僕の姿を、ルチアーノは静かに眺めていた。
    「全く、君ってやつは、いつも変なことばかり考えるよな」
     小さな声で呟くと、僕の隣に潜り込んでくる。ぬいぐるみはまだそこにあるから、僕たちは川の字の状態になった。ぬいぐるみを両手で抱えると、顔がルチアーノに向くように向きを返る。
    「そうだよ。ルチアーノのことが好きだから」
     ストレートに言葉を告げると、ぬいぐるみで彼にキスをする。すぐ目の前にある彼の顔が、呆れに崩れる様子が見えた。大きくため息をつくと、彼は小さな声で呟いた。
    「僕がいる間は、僕のことを優先しろよ」
    「分かってるよ。こんなことをするのは、今日だけだから」
     小さな声で答えると、僕はぬいぐるみから手を離す。とりあえず、今回の件については、なんとかなったみたいだ。心の底から安心したら、眠気が襲ってきてしまう。ぬいぐるみを間に挟んだまま、僕はゆっくりと目を閉じた。
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