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    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

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    TF主ルチ。TF主くんの帰りを待つルチが退屈したり心配したりする話。

    ##TF主ルチ

    待ちぼうけ「明日から、しばらく家を開けるからな」
     部屋の電気を消し、並んで布団の中に潜り込んだ後に、僕は小さな声でそう言った。背後に迫っていた青年の気配が、少しの間だけ動きを止める。僕の身体へと伸ばされていた腕が、ずるずると音を立てながら後ろに下がった。
    「そうなんだ。ルチアーノは大変だね」
     何気ない態度を装いながら、彼は無難な言葉を返す。声色に探るような仕草が混ざっているのは、どう答えていいのか分からないからだろう。僕が家を開けると告げる時は、大抵が任務に向かう時なのだ。そして、その任務の内容というのは、彼にとって嬉しいことではないはずである。
    「僕がいないと、君は寂しくなるだろうね。まあ、今回は二日だけだから、そこまで寂しい思いはさせないよ」
     彼の様子を探りながら、僕はわざと茶化すような言葉を返す。彼も安心したのか、再び腕を伸ばしてきた。月明かりの差し込む部屋の中で、僕たちはそっと距離を詰める。彼の手のひらが僕に触れたかと思うと、服の下へと伸びてきた。

     翌日は、僕の方が先に目を覚ました。朝日が眩しく差し込む部屋の中で、静かに布団から身体を引き出す。音を立てないように気を使ってしまうのは、すぐ隣で青年が寝入っているからだ。彼はこんなことで起きるような人間ではないのだが、やはり気は使ってしまう。
     足音を立てないように部屋から出ると、洗面所に向かって身支度を整えた。身に纏っていた寝間着を脱ぐと、粒子を構築して白装束を纏う。簡単に見映えを整えると、今度は装甲に染み付いた匂いを確かめた。いくらタッグパートナーだと言っても、同じ匂いを纏ったまま任務に向かうのは気が引けたのだ。
     匂いがなくなったことを確かめると、僕は再び青年の部屋へと向かった。まだ時刻は六時前だから、彼はぐっすり寝入っている。これが八時や九時だったとしても、きっと彼は起きていなかっただろう。普段から寝坊助なこの男は、僕より先に起きることなどほとんどなかったのだ。
     足音を立てないように室内に入ると、ベッドの横に歩み寄る。こんもりと膨らんだ布団の中から、青年の寝顔が覗いていた。人を警戒したことが無い人間特有の、呑気でだらしない表情を浮かべている。そっと寝顔を覗き込むと、口に出さずに言葉を発した。
    ──行ってきます
     眠ったままの青年に背を向けると、僕は静かに部屋から出る。時空を歪めてワープゲートを開くと、左側から足を踏み出した。身体が揺らぐ感覚がすると共に、一瞬だけ視界が揺らぐ。次の瞬間には、僕は目的地へと辿り着いていた。

     こうして、神から長期の任務を与えられることは、僕たちにとっては日常茶飯事だった。神の代行者として産み出されたに僕らにとって、神の命令とは絶対的な使命である。断るという選択肢など存在しなかったし、そもそも考えることもなかった。関わりを持った人間と引き裂かれることだって、本来なら苦痛にもならないはずなのだ。
     しかし、彼とパートナーになってからというもの、僕はおかしくなってしまった。彼が隣にいない夜が続くことが、心に空白を感じさせるようになったのだ。改めて考えると、それは根本からおかしな話である。僕たち機械生命体には、そもそも心と呼べるものなどないのだから。
     淡々と任務をこなしながら、僕は心の隅で考える。僕が一人の人間のことを考えているなんて、誰が想像できるのだろうか。しかも、その人物との再会だけを楽しみにして、面倒な任務を片付けているのだ。僕の本来の存在意義を考えると、エラーが起きているとしか思えない。
     動かしていた手を止めると、僕は頭を左右に振った。余計なことを考える余裕があるなら、とっとと任務を片付けるべきである。しかし、考えることをやめようと思えば思うほど、頭の中は彼でいっぱいになってしまった。人間の話を聞き流すと、頭の片隅で思考を巡らせる。
     今頃あの青年は、家で一人の時間を過ごしていることだろう。スキンシップの相手を失って、寂しい想いをしているのかもしれない。一晩僕に触れられなかったせいで、欲望を抱えていることは確実だろう。あまり待たせるのも可哀想だから、終わったらすぐに帰ってやることにする。
     そんなこんなで、二日間に及ぶ任務を終えると、僕は足早に建物を出た。路地を歩いて人気の無い場所へ向かうと、急いでワープ機能を起動させる。目的地の座標として設定したのは、もちろんあの青年の家だ。時空が繋がったことを確かめると、光の中に足を踏み入れる。
     片足ずつ大地に着地すると、僕は室内を見渡した。灯りが点いていないところを見ると、彼は帰ってきていないのだろう。もうすぐ六時半になるというのに、どこで道草を食っているのだろうか。言い様の無い不満を感じながらも、灯りをつけてソファに腰を下ろす。
     テレビのリモコンを手に取ると、夕方の情報番組にチャンネルを合わせた。例の青年は、この時刻になるといつもこの番組を見ていたのだ。同じ番組を見ながら待っていれば、そのうち彼も帰ってくるだろう。さすがに、恋人の帰りを待たずに遊び回るほど、彼は心臓の強い男ではないはずだ。
     ソファの中央で足を組むと、見るともなしにテレビに視線を向ける。ほとんど名ばかりの情報番組は、賑やかな音声と共に呑気な映像を流していた。シティの片隅でイベントが開催されていたようで、祭りを楽しむ人々の様子をリポートしている。リポーターらしき若い女性がインタビューを申し込むと、実行委員の男はにこやかな笑みで答えていた。
     バラエティコーナーが終わると、次に流れるのは天気予報だ。たっぷり時間を取って翌日の天気を伝えると、今度は手短に一週間の天気を伝える。こんなもの、わざわざ放送しなくても、端末を使えば調べられるのだ。このような番組の何が面白いのか、僕にはさっぱり分からなかった。
     頬杖をつきながら画面を眺めていると、情報番組のエンディングが流れ始めた。ほとんど聞こえてこないJ-POPをBGMに、スタジオの人々が番組の予告をしている。途切れるように放送が終わったかと思うと、今度はさらに賑やかな音が聞こえてきた。しかし、こんな時刻になるというのに、まだあの男は帰ってこない。
     苛立ちと不安を押し込めるように、僕はソファから立ち上がった。意味もなくその場から離れると、大きな窓の前で足を止める。カーテンを開いて外を眺めたが、そこに青年の姿はなかった。転々と立てられた外灯の下には、人影ひとつ通りすぎはしない。しばらくその場で立ち止まった後に、僕は再びソファへと戻った。
     中央に腰を下ろすと、リモコンを手にとってチャンネルを変える。代わる代わる表示されていくバラエティ番組は、その全てに見覚えがあった。彼が退屈しのぎにテレビを着けた時にも、同じような番組が放送されていたのだ。結局、心を惹かれるもの等ひとつもなくて、僕は静かにリモコンを置いた。
     大きく息をつくと、僕は壁掛け時計に視線を向けた。音を立てて進んでいく時計の針は、短針が七の文字を指していた。普段通りのスケジュールであったら、彼はとっくに帰宅しているはずである。呆れるほどに寂しがり屋な彼が、僕を放っておくわけがないのだ。
     そんなことを考えた時に、胸の奥に嫌な予感が沸き上がった。こんなにも彼の帰りが遅いのは、何らかのトラブルに巻き込まれたからではないかと思ったのだ。彼もイリアステルと手を組んだ協力者なのだから、常に外敵に狙われているはずである。急に外敵に襲われたとしたら、一般人である彼には対処ができないと思った。
     ポケットに手を突っ込むと、僕は小さな機械を取り出した。彼の首輪に取り付けている、GPSの受信装置である。これは僕の意識と繋がっていて、彼の居場所を把握することができる。おまけに、あの青年に危険が迫った時には、直接僕に教えてくれるのだ。
     機械の電源を落とすと、継ぎ目を剥がして蓋を開けた。中身の基盤をスキャンすると、配線やコードを確かめる。しかし、一通り確かめても、そこに異変は起きていなかった。元通りに蓋を閉じると、僕は再び電源を入れる。
     やはり、機械が示している彼の居場所は、シティの繁華街で間違いなさそうだった。明確な反応がないことを考えると、危険が迫っているわけではないのだろう。とはいえ、いくら機械が無事を伝えていたてしても、心配なものは心配である。GPSの緩やかな動きが焦れったくて、ついにモニターを起動してしまった。
     宙に浮かび上がったモニターの中に、繁華街の風景が映し出される。その中央を呑気に歩いているのは、紛れもない彼の姿だった。家路へと向かい始めたところなのか、歩道の上を外に向かって進んでいる。相変わらず人間を避けるのが苦手なのか、何度もぶつかりそうになっていた。
     しばらく画面を眺めてみたが、彼の様子に怪しげなところは見えない。何者かに襲われたのかという心配は、僕の杞憂で終わったみたいだった。彼の無事に安心すると同時に、腹の底から怒りの感情が浮かび上がってくる。この男は、大切な恋人の帰りを放ったらかしにして、繁華街で遊び回っていたのだ。
     怒りのままに拳を握りしめると、僕はモニターの電源を落とす。宙に浮かび上がっていた粒子の塊が、無数の光になって虚空に消えた。再びソファに腰を下ろすと、GPSで彼の居場所を把握する。少しずつ近づいている気配を感じながら、僕は彼に告げる言葉を考えていた。
     数十分もしないうちに、彼は家の近くへと辿り着いた。GPSの気配が途切れると同時に、玄関の扉が開く音がする。廊下を歩いて現れた彼は、呑気な声で僕に言葉を吐いた。
    「ただいま。今日は早かったんだね」
    「おかえり。ずいぶん遅かったな」
     そんな彼とは対照的に、僕の声は暗く淀んでいる。彼がどうしてこんなに呑気でいられるのかが、僕にはさっぱり分からなかった。恋人をこんなに待たせていたのだから、謝罪のひとつくらいあってもいいはずである。しかし、彼の口から零れたのは、またしても呑気な言葉だった。
    「どうしたの? なんか、怒ってる……?」
     その一言を聞いた瞬間に、僕の中で何かが弾ける気配がした。怒りが体内を駆け抜けて、衝動のままに席から立ち上がる。黙ったまま彼の前まで向かうと、真正面から彼を睨み付けた。
    「怒ってるに決まってるだろ。散々僕を待たせやがって、謝罪の言葉もないんだからさ」
     冷たい声で言い放つと、彼は驚いたように動きを止めた。僕がここまで怒っているなんて、想像もできなかったようである。困ったように視線を彷徨わせると、弁解するような口調で言った。
    「ごめんね。寄り道してたら、ついつい遅くなっちゃったんだ」
    「その程度で納得できるかよ。僕は、君が外敵に襲われたんじゃないかって心配してたんだぞ。もっと誠意を持って謝れよ」
    「ごめんね。本当に、そんなに心配されるとは思わなかったから」
     感情のままに捲し立てると、彼は困った様子で言葉を重ねる。その能天気な言葉を聞いていたら、余計に怒りが込み上げてきた。これ以上問い詰めても仕方ないから、僕は彼に背を向ける。足音を立てながらソファに戻ると、怒りのままに腰を下ろした。
    「ごめんって。許してよ、ルチアーノ」
     僕の後ろからは、青年の困りきった声が聞こえる。しかし、どれだけ謝罪を重ねられたとしても、僕には許せる気などしなかった。彼が寄り道をしている間、僕はずっと彼の身を案じていたのである。心配を無駄にされたのだから、少しくらいは怒ってもいいと思えた。
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