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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチ。ルチに「浮気者」って言われるシチュが書きたかっただけです。

    ##TF主ルチ

    「浮気者」 その日、僕は旧サテライトエリアを訪れていた。遊星たちの育ての親であるマーサから、施設管理の手伝いを頼まれたのである。いくら雑賀さんがいるとはいえ、女手ひとつで子供たちを育てる彼女には、建物の整備までしている暇はないだろう。僕もマーサの家にはお世話になっていたから、二つ返事で了承した。
     現地で雑賀さんと合流すると、二人で施設内の掃除を始める。家の中が綺麗になったら、今度は庭の手入れを手伝った。一通りの手伝いを済ませると、次に待っているのは子供たちの遊び相手である。夕日が建物の影に隠れる頃には、僕の身体はへとへとになっていた。
    「そろそろ日が暮れる頃だから、遊びに来た子はお家におかえり。また明日遊びにおいで」
     疲れた様子の僕を見かねたのか、マーサが子供たちに声をかける。口々に反論の言葉を並べながらも、彼らはおとなしくマーサに従った。簡単におもちゃを片付けると、客人は集まってそれぞれの家へと帰っていく。最後にポツンと取り残されたのは、低学年くらいの女の子だけだった。
     幼い顔に困ったような表情を浮かべると、少女は子供たちの間に入っていく。しかし、ハウスに住んでいる子供たちも、どうしていいのか分からないようだった。困ったように少女に声をかけると、家に帰るように伝えている。彼女は一人では心細いようで、不安そうに日の暮れかけた通りを眺めていた。
    「……どうしたの?」
     困った様子の少女を放っておけなくて、僕は思いきって声をかける。窓際から外を眺めていた少女が、驚いたようにこちらに視線を向けた。幸い、彼女の視界に映る僕の姿は、そこまで怪しくは見えなかったようだ。言葉を発しはしないものの、真っ直ぐに僕の方を見つめている。
    「今日は、一人でここまで来たの?」
     できるだけ優しい声で訪ねると、少女は首を縦に振った。昼間は遊び場に子供たちが集まるから、流れについてきてしまったのだろう。彼女はまだ幼いようだし、暗い中を一人で帰らせるわけにはいかない。こうなったら、誰かが送っていくしか無さそうだった。
    「じゃあ、僕と一緒に帰ろっか」
     さらに思いきって誘ってみると、少女は困ったように視線を泳がせた。いくらマーサハウスの手伝いをしているとは言っても、見ず知らずの男についていくのは怖いのだろう。しかし、不安には勝てなかったようで、彼女は僕の方へと歩み寄った。
    「この子が一人で来たみたいだから、家まで送ってくるね」
     別の部屋にいたマーサに声をかけると、僕は少女に向き直る。様子を窺いながら手を差し出すと、少女も握り返してくれた。二人で踏み出した建物の外は、さっきよりも暗くなっている。再開発が進んでいるとは言っても、まだスラムの名残は残っていた。
     薄暗い町の中を、僕は少女と一緒に歩いていく。彼女が何も話さなかったから、僕も話を振ったりはしなかった。しかし、少女の家がどこにあるのかは、本人に聞かないと分からない。交差点に辿り着くと、僕は少女に声をかけた。
    「お家はどっちかな?」
     そんなことを何回か繰り返していると、周囲の景色は住宅街へと変化していった。今も各地で工事が進んでいる、この地方の人口密集地である。どうやら、彼女の家も他の子達と同じように、このエリアの一角にあるらしい。周囲の景色を眺めながら歩いていると、不意に背後から声が聞こえた。
    「おや、○○○じゃないか」
     飛んできた声にびっくりして、僕は思わず足を止める。隣を歩いていた少女が、不思議そうに僕を見上げてきた。しかし、彼女に気を使っている余裕など、今の僕には残っていない。僕の予測が間違ってなければ、背後から聞こえてきた声はよく知っている人物のものなのだ。
     片手を握って覚悟を決めると、僕は背後を振り返る。予想通り、そこに立っていた人物は、僕のタッグパートナーのルチアーノだった。薄暗い住宅地の景色を背景に、僕の前で仁王立ちのポーズを取っている。その顔に浮かべられた表情を見て、僕の背筋に冷たいものが走った。
    「ルチアーノ……? どうして、ここに……?」
     真っ直ぐに彼の顔を見つめながら、僕は小さな声で呟く。言葉の端に動揺が滲んで、その声は微かに震えてしまった。そんな僕の微かな違和感を、彼が見逃すようなことはしない。口角に笑みを浮かべると、鋭い口調で言葉を返した。
    「なんだよ、そんな怯えた顔をして。もしかして、楽しい浮気の真っ最中だったのか?」
    「違うよ……!」
     予想通りの追及が飛んできて、僕は声を荒らげてしまう。隣で僕たちを眺めていた少女が、びっくりしたように肩を震わせた。ルチアーノが浮気と言っているのは、確実にこの少女のことなのだろう。誤解だと告げることすら面倒に感じるくらいの、明らかな言いがかりだった。
    「何が違うんだよ。仲良く手を繋いで歩いてるなんて、どこからどう見ても浮気じゃないか。それとも、何か言い訳があるって言うのか」
    「どこからどう見ても違うでしょ! この子は、マーサハウスに遊びに来てたお客さんなんだよ。外が暗くなったから、家まで送ってあげてるの」
    「そうか。君は、またあの孤児院に行ってたのか。子供たちに囲まれるのは、さぞかし楽しかったことだろうな」
     案の定、僕がどれだけ説明したとしても、ルチアーノは頑として聞き入れてくれない。結局のところこの男の子は、僕をからかいたいだけなのだろう。今は女の子を送り届けなきゃいけないし、あまりやりあっている場合でもない。
    「だから、そんなんじゃないって。話は後で聞くから、先に帰って待っててよ」
     無理矢理話を切り上げると、僕は少女の手を引いて歩き出す。戸惑ったような表情を浮かべながらも、彼女はおとなしくついてきてくれた。早足で前へと進む僕たちを、ルチアーノは不満そうな顔で眺めている。背後からは、捨てゼリフのような言葉が聞こえてきた。
    「おい、逃げるなよ! 全く、後で追及してやるからな」
     あくまでも、僕が浮気をしているという前提で話をしているようだった。厄介なことになったと思いながらも、僕は歩みを止めたりはしない。少女の方へと向き直ると、苦笑いを浮かべながら言った。
    「ごめんね。あの子は、僕とは家族みたいな関係なんだ。僕が町にいるのを見かけると、こうしてからかってくるんだよ」
     弁明するように言葉を並べるが、少女は何も答えなかった。子供たちに声をかけられなかったところを見ると、初対面の相手と話すのが苦手らしい。マーサハウスにもそのような子供はいるから、特に珍しいことでもないのだろう。交差点で進路を聞き出すと、住宅街の奥地へと進んでいく。
     入り組んだ通りに入ると、少女は不意に足を止めた。腕を引っ張ってしまいそうになって、僕も慌てて足を止める。彼女の視線の先に目を向けると、そこには新しげなアパートが建っていた。どうやら、ここが彼女の家なのだろう。
    「ここなの?」
     確認のために尋ねると、彼女は小さく首を縦に振る。僕が手を離すと、今度は深く頭を下げた。くるりと踵を返すと、早足で扉の方へと歩いていく。少しずつ離れていく背中を見て、慌てて別れの挨拶をした。
    「また来てね。僕は、あんまり遊びに行けないかもしれないけど」
     しかし、僕の言葉に振り返ることもないま、少女は扉の奥へと消えていってしまう。音を立てながら扉が閉まっていく様子を、僕は呆然と見つめていた。とりあえず、彼女を送り届けることができたのだから、僕の使命は果たされたと見ていいだろう。後はマーサの家に戻って、任務の報告をするだけだ。
     くるりと真横に身体を向けると、マーサハウスを目指して歩き始める。この辺りの地理には詳しくないから、元来た道を戻ることにした。黙々と歩を進めていくと、ルチアーノに声をかけられた通りへと辿り着く。もしかしたらと覚悟をしていたものの、彼の姿は見えなかった。
     マーサの家に帰る頃には、すっかり夜になっていた。少女を送り届けた旨を伝えると、挨拶を済ませて建物を出た。自分の家に帰ったら、真っ先にルチアーノの追及を受けることになるのだろう。人工の灯りに照らされたダイダロス・ブリッジを駆け抜けながら、僕は小さくため息をついた。

     ガレージにDホイールを止めると、僕は室内の様子を伺った。予想通り、カーテンのかかっていないリビングからは、煌々と灯りが零れている。先に家に帰ってきたルチアーノが、リビングで僕の帰りを待っているのだ。これから起きることを考えると、廊下を進む足取りも重くなってしまう。
    「ただいま」
     リビングの中へと足を踏み入れると、僕は小さな声で呟いた。ソファに座っていたルチアーノが、ゆっくりとこちらを振り返る。仮面に覆われていない方の横顔が、真っ直ぐにこちらを捉えてくる。光を反射する緑の瞳には、試すような笑みが浮かんでいた。
    「おかえり、浮気者」
     さりげなくも重みを含んだ声で、ルチアーノは淡々と言葉を返す。その挑発的な言葉選びから、僕を試していることがはっきりと分かった。ここで上手く答えないと、僕は痛い目に合ってしまうだろう。椅子の上に鞄を置きながら、必死に頭を回転させる。
    「だから、浮気じゃないよ。さっきも言ったでしょう」
     結局、僕が口に出すことができたのは、そんな簡単な言葉だけだった。どれだけ思考を巡らせたとしても、僕には駆け引きのようなことはできないのである。今の僕にできることは、正面から彼の誤解を否定することだけである。そもそも、僕を問い詰めているルチアーノ本人だって、本気で僕が浮気をしているとは思っていないのだろう。
    「まだ言い訳するつもりなのか? 他の女と二人きりで出かけるなんて、どう見ても浮気に決まってるだろう。それにしても、女と手を繋いで歩くなんて、君もなかなかやるじゃないか」
     にやにやとした笑みを浮かべながら、ルチアーノはさらに言葉を重ねる。どこからどう見てもそうと分かるほどに、からかっているのがバレバレな態度だった。結局のところ、退屈が嫌いなこの男の子は、僕をおもちゃにしようとしているのだろう。帰りを待たせてしまったこともあるから、もうしばらく付き合ってあげることにする。
    「手を繋いでたって、はぐれないようにしてあげただけでしょう。旧サテライトエリアは舗装されてない場所もあるから、気を付けないと転んじゃうかもしれないし」
    「そんなの、ただの言い訳にしかならないだろ。君が幼い子供を好きだってこと、僕は知ってるんだからな」
    「違うよ! そもそも、どうしてそんな話になるの? ルチアーノが子供じゃないことは、ルチアーノが一番よく分かってるでしょう」
    「ふーん。こういうときだけ大人扱いするのか。君って都合がいいよな」
     僕が弁明の言葉を返すと、ルチアーノは揚げ足を取るように言葉を並べる。しばらく同じようなやり取りを繰り返したが、会話は同じところを巡るばかりだった。埒の明かない言葉の応酬をしているうちに、彼の方が飽きてきてしまったらしい。僕から顔を背けると、吐き捨てるような声で言った。
    「まあいいや。今回は特別に許してやるよ。でも、次に同じようなことがあったら、後でお仕置きしてやるからな」
     言いたいだけ言葉を投げつけると、彼はテレビのリモコンに手を伸ばす。彼らしいと言ったら彼らしい、一方的な態度だった。まあ、それで彼の気が済んだのなら、僕にとっては充分だろう。置きっぱなしだった鞄を手に取ると、僕は自分の部屋へと向かったのだった。
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