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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチ。無自覚に約束を破ってしまったTF主くんがルチに詰められる話。

    ##TF主ルチ

    約束 お風呂を済ませ、簡単に身支度を整えると、僕は真っ直ぐに自室へと向かった。用意していたペットボトルで水分補給を済ませると、すぐにベッドの上に寝転がる。マットレスのスプリングが大きく揺れて、隣にいた男の子の身体が大きく傾いた。不満そうな鼻息が聞こえてくるけれど、気にせずに両腕を上に伸ばした。
    「何するんだよ」
     横になったまま身体を伸ばす僕を見て、ルチアーノが尖った声を出す。腕を引っ込めながら視線を向けると、片方しか見えない眉を歪めていた。彼が体勢整えた時に、少しスペースを横取りしたことに気づいたのだろう。横になったまま身体を滑らせると、僕の隣へと身体をくっつけてきた。
    「何もしてないよ。疲れてたから、早く横になりたかっただけ」
     そんなルチアーノの姿を眺めながら、僕は何事も無かったように答える。隙間なく密着した肌からは、燃えるような熱が伝わってきた。既に夏の気配が近づいているから、それだけで表面が汗ばんでしまう。お風呂上がりであることもあって、僕も体温が高くなっているのだ。湯たんぽのような身体から逃れようと、僕は少しだけ隙間を空けた。
    「ふん。知らんぷりしてても、僕は気づいてるからな」
     布団を揺らして身体に風を送っていると、ルチアーノが隣で呟いた。先に取っていた領地を取り戻したからか、少しだけ上機嫌にも見える態度だ。
     完全に両方の瞳を閉じると、意識は眠りの世界へと落ちていく。少しずつ意識が遠のくと同時に、周囲の音が遠くなっていった。現実と夢の境目にいるような感覚のまま、僕は微睡みに身体を委ねる。しばらくそうやって横たわっていると、隣から声が聞こえてきた。
    「なあ、まだ起きてるか?」
    「ん? どうしたの?」
     半ば眠りの世界にいるような状態のまま、僕は聞こえてきた言葉に返事をする。彼も気を使ってくれているのか、そこにいつものような甲高い響きはなかった。僕の返事が聞こえたと分かると、迷ったように小さく身動ぎをする。しかし、それもほんの少しのことで、すぐに次の言葉が飛んできた。
    「明日は、少し早く帰ってきてくれないか。君に頼みたいことがあるんだ」
    「頼みたいこと?」
     いつもなら聞き慣れないような言葉が聞こえてきて、僕は思わず繰り返してしまう。普段のルチアーノならば、僕に頼みごとなどしなかったのだ。それに準ずるようなことがあったとしても、わざわざ予告するようなことはしない。唐突に僕の前に現れて、強引に現地へと引っ張って行くのだ。
    「そうさ。君にしか頼めない内容だから、こうして直接話をしてるんだ。詳しいことは明日話すから、夕方には帰ってきてくれ」
    「分かったよ。帰ってこればいいんだね」
     淡々と語られる話を聞きながら、僕は寝ぼけた頭で返事をする。反射で返事をしてしまったものの、はっきりとは認識できていなかったのだ。半分眠りの世界に落ちている脳では、言葉を上手く咀嚼することができない。そんな僕を見透かしたかのように、ルチアーノは尖った声で言った。
    「おい、聞いてるのかよ」
    「聞いてるよ」
     襲いかかる眠気に耐えきれなくて、間髪いれずに言葉を返す。何回目蓋を開こうとしても、数分も持たずに垂れてきてしまうのだ。まあ、話そのものはちゃんと聞いていたから、こう言っても嘘にはならないだろう。きちんと話を聞いたことを自覚しているから、後で忘れるとも思えない。
    「本当に聞いてるのか? まあいいか。そんなに眠いなら、とっとと電気を消せばいいのに」
     呆れたように吐き捨てると、ルチアーノはベッドから立ち上がる。マットレスが大きく揺れて、今度は僕が体勢を崩した。しかし、眠りの世界に落ちかけている僕は、姿勢を直す気力さえ持っていない。不意に薄暗くなる視界の中で、微睡みの中に身を委ねていた。
     こちらに戻ってくる足音が響くと、再びマットレスが大きく揺れる。二人で眠るには狭いベッドの中で、僕たちはしっかりと身を寄せあった。ルチアーノが引っ張ってきてくれたのか、上から布団をかけられる気配がする。僕の体温も下がってきたから、もう熱いとは思わなかった。
    「ルチアーノ」
    「今度は何だよ」
     眠りに落ちつつある意識の中で、僕は小さく声を上げる。執拗に声をかけられたルチアーノが、尖った声を飛ばしてきた。しかし、眠気に負け始めている今の僕が、そんな威嚇に怯えるわけがない。ふわふわとした意識のまま、僕はお礼の言葉を口にした。
    「ありがとう」
    「別に、礼を言われるようなことはしてねーよ」
     予想外の言葉に驚いたのか、彼は小さな声で答える。布団の中に潜り込んでいるのか、ごそごそと衣擦れの音が聞こえてきた。機械の音だけが響く部屋の中で、僕たちはしばらく黙り込む。数分も経たないうちに、僕の意識は眠りの奥へと落ちていった。

     次に目を覚ました時には、太陽が天高く昇っていた。窓の外から差し込んだ日差しが、真っ直ぐに僕の顔を照らしている。瞳を突き刺すほどの眩い光に、僕は思わず目を瞑った。布団の中に潜り込むと、手探りで目覚まし時計を引き寄せる。
     デジタルで表示された文字盤は、午前十時を示していた。いつも昼近くまで寝ている僕にとっては、少し早い目覚めである。昨夜は早くに寝落ちしてしまったから、目を冷ますのも早かったのだろう。二度寝をするような気分ではなかったから、おとなしく布団から出ることにした。
     キッチンに向かい、簡単な朝食の用意を整えながらも、僕はぼんやりと考える。昨夜、僕が寝落ち同然に眠りに落ちてしまう前に、ルチアーノと交わした会話を思い出していたのだ。何か、彼の任務に関わる、大事な約束をしていた気がする。詳しいことは思い出せなかったが、早く帰る必要があることは理解できた。
     とりあえず、帰宅の時間を指定したということは、家を空けること自体には問題がないのだろう。僕が自由に行動できる日は限られているから、今日は繁華街に向かうことにした。ルチアーノは待つのが苦手だから、僕の用事には付き合ってくれないのだ。おかげで、ルチアーノと一緒に町に出る時は、大抵がデュエル三昧になってしまう。
     簡単に身支度を整えると、鞄を片手に家を出る。ちょうど暑さの厳しい時刻なのか、屋外には熱気が漂っていた。風もほとんど吹いていないから、籠った熱を流すものは何もない。日差しを避けるように帽子を被ると、目的地を目指して前進する。
     汗を流しながら向かった先は、いつもの商店街の片隅だった。大通りを少し離れたところに、カードショップが多く集まる通りがあるのだ。個人経営やローカルチェーンも多いため、大規模なショップでは見ないカードも並んでいる。その代わりにあまり環境がよくないから、ルチアーノを連れていくには抵抗があったのだ。
     小さなビルの階段を登ると、扉を開けて店内へと足を踏み入れる。正面に飾られたショーケースを覗くと、目的のカードがないかを探した。次にぐるりと店内を巡って、目ぼしいものがないかを見て回る。目立った収穫が無いと分かると、今度は次の店舗に向かった。
     そうして向かった3軒目の店舗で、僕は思わず足を止めた。いつもは人のまばらなデュエルスペースに、多くのデュエリストが集まっていたのだ。店員らしき人が声をかけているところを見ると、何らかのイベントがあるらしい。賑わいの理由が気になって、僕はそちらへと足を向けた。
     簡素な机を並べただけのデュエルスペースは、集まった人々で入り口が塞がれている。それでも、近くに張り出されたポスターによって、人混みの理由はすぐに把握できた。手作りらしきカラフルなポスターに、対戦イベントを示す文字が踊っているのだ。その下に書かれている解説には、アナログ形式のデュエルを紹介する文字が書かれていた。
    「すみません。このイベントって、予約しなくても参加できますか?」
     人混みを掻き分けて中央に向かうと、僕は店員さんに声をかける。輪の中央に立っていた男性店員が、くるりとこちらを振り向いた。顔に微かな笑みを浮かべると、手にしていた端末を差し出してくる。モニターに表示されているのは、デュエリストIDの登録画面だ。これはデュエルディスクを使わないイベントだから、代わりにIDを使っているのだろう。
    「参加できますよ。こちらの端末に、データの登録をお願いします」
    「ありがとうございます」
     簡潔にお礼の言葉を伝えると、僕はポケットに手を突っ込んだ。手探りで端末を引っ張り出すと、デュエルツールのシステムを起動する。いつもはデュエルディスクから登録していたから、確認しないと分からなかったのだ。プロフィールから数字を確認すると、丁寧に端末に打ち込んでいく。
     イベントへのエントリーを済ませると、後は時間まで待機するだけだ。この機会に目的のカードを探そうと、狭い店内を一周する。十分ほどショーケースを眺めていると、すぐに店員さんの呼び出しが聞こえた。店内の人の流れに従うように、僕はデュエルスペースへと足を進めた。
     参加者が集まったことを確かめると、今度は対戦カードの発表が始まる。今はデジタルが主流の時代だから、座席指定も端末経由だった。画面に表示されている番号を確認すると、指定された席へと足を運ぶ。向かい側の席に歩いてきたのは、僕と同じくらいの歳の青年だった。
    「よろしくお願いします」
    「よろしくお願いします」
     どちらからともなく挨拶を済ませると、鞄の中からデッキを取り出す。僕がイベント用に登録したのは、普段からデュエルで使っているデッキだった。アナログデュエルでは全ての効果を自分で処理する必要があるから、使い慣れているデッキじゃないと難しいのだ。相手も同じように考えているようで、年季の入ったデッキを使っていた。
     デッキのシャッフルとカットを済ませると、規定の位置にカードを配置する。店員さんのアナウンスを合図に、最初の対戦が始まった。端末のシステムで先攻後攻を決めると、目の前に並べた手札を手に取る。一枚ずつ内容を確認すると、今度は相手のフィールドに視線を向けた。
     ターンの開始を宣言すると、相手はフィールドにカードを置く。モンスターゾーンの中央に置かれたのは、僕が見たことのないカードだった。相手に声をかけて許可を取ると、モンスターの効果を確認する。カードを元の位置に戻すと、今度は次のモンスターがフィールドに出てきた。
     何度かカードの効果を確認しながら、僕は相手の展開を見届けた。もちろん、これはデュエルだから、相手を妨害することも忘れない。場に出されたカードの効果を確認すると、トラップやモンスター効果を発動させる。久しぶりのアナログデュエルだったから、効果処理をするのにももたついてしまった。
     不慣れなカードの扱いに戸惑いつつ、何度かターンが回った頃に、中央で店員さんが声を張り上げた。どうやら、僕たちのデュエルの決着が着かないうちに、一回戦の制限時間が来てしまったらしい。手短に対戦終了の挨拶を交わすと、フィールドに広げていたカードを片付ける。近くに置いていた端末を手に取ると、次の座席を確認した。
     二回戦の対戦相手は、僕よりも歳上の男の人だった。仏頂面のまま正面の席に近づくと、椅子を引いてその場に腰を下ろす。対戦の用意をしながらアナウンスを待っている間も、何も話をする様子はない。ひしひしと感じる冷たいオーラに、少し不安を感じてしまった。
     しかし、そんな僕の心配も、全くの杞憂でしかなかった。挨拶を交わして対戦が始まると、相手は表情を崩したのだ。にこやかに僕に話しかけると、楽しげな様子でカードに手を伸ばす。
     二回戦の結果は、僕の勝利に終わった。お互いの使っていたデッキの相性が、僕の方が少しだけ有利だったのだ。一度はピンチに追い込まれたものの、なんとか巻き返して勝利を収めた。
    「ありがとうございました」
    「ありがとうございました」
     簡単に挨拶を交わすと、僕は次の席に移動する。この手のイベントは三戦が主流だから、次のデュエルで最後だった。僕の前に現れたのは、まだ年若い女の子だ。シティでもイベントに出る女性デュエリストは少ないから、少しだけ驚いてしまった。
    「お願いします」
    「……お願いします」
     対戦の挨拶を済ませると、僕たちはカードに手を伸ばす。彼女が使っているデッキは、大会常連者が使うような上級デッキだった。複雑な効果処理を持つデッキだが、安定した手つきで展開を続けていく。
     最後のデュエルの結果は、僕の敗北に終わってしまった。僕の不慣れなカード操作では、彼女の盤面を攻略できなかったのだ。デュエルディスクがあれば違っていたかもしれないが、これはアナログデュエルなのである。こういう技量の差が出てしまうところも、アナログ対戦の醍醐味だった。
     対戦終了のアナウンスがかかると、イベントは参加賞の配布に移った。一人一人参加者の名前を確認しながら、店員さんがトークンパックを配っていく。印刷されている番号が少し古いのを見ると、過去のイベントのあまりなのだろう。とはいえ、この手のグッズの入手機会は少ないから、ありがたく受け取ることにする。
     片付けを終えて店内から出る頃には、太陽の日差しが傾いていた。腕時計に視線を落とすと、時刻は夕方の六時を指している。夏がすぐそこまで近づいているから、日が暮れるのも遅くなっているのだ。まだ明るいからと油断していると、すぐに七時をすぎてしまうだろう。
     長く影を落とす繁華街に背を向けると、僕は大通りへと歩を進める。人混みを掻き分けて向かったのは、Dホイール専用の駐輪場だった。この辺りはデュエリストのお客さんも多いから、こういう設備が充実しているのである。エンジンをかけてDホイールを起動させると、僕は真っ直ぐに家を目指した。
     ガレージを開けてDホイールを停車させると、僕は家の中を覗き込む。明るいからはっきりとは分からないが、室内は電気が付いているようだった。ソファの辺りに人影が見えるのは、ルチアーノが座っているからだろう。何度もカーテンを閉めるように伝えているのに、彼は聞き入れてくれないのだ。
     扉を開いて玄関に上がると、僕は真っ直ぐにリビングに向かう。足音は聞こえているはずなのに、ルチアーノは立ち上がる気配を見せなかった。微かな違和感を感じながらも、僕は室内へと足を踏み入れる。彼のすぐ後ろまで歩み寄ると、斜め後ろから声をかけた。
    「ただいま。今日は早かったんだね」
    「そういう君は、妙に遅かったな」
     一切こちらを振り返らないまま、ルチアーノは淡々と言葉を紡ぐ。そこに冷えきった響きを感じて、僕は動きを止めてしまった。この冷たくて落ち着いた響きは、本気で怒っているときの声色だ。嫌な予感が胸を満たして、背筋を冷や汗が伝わった。
    「ルチアーノ…………? なんか、怒ってる……?」
     彼の反応を探るように、僕は恐る恐る声をかける。しかし、僕のこの選択は、あまり得策ではなかったようだ。ソファに座っていたルチアーノが、黙ったままその場から立ち上がる。くるりとこちらを振り向くと、冷たい瞳で僕を睨んだ。
    「ルチアーノ…………?」
     迫り来る視線から逃れるように、僕は小さな声で呟く。威圧するようなオーラに耐えきれなくて、声を出さずにはいられなかったのだ。そんな僕を追い詰めるかのように、ルチアーノはこちらへと歩いてくる。一切の表情を失った顔からは、燃えるような怒りが伝わってきた。
    「そうか。君は、何も覚えてないんだな。だから、こんな時間まで遊び回ってたんだ」
     冷たい声で言葉を並べながら、彼は一歩ずつ距離を詰める。周囲を凍てつかせるほどの冷たいオーラに、僕は思わず後ずさった。開いた距離を埋めようと、彼は再び足を進める。そんな攻防戦を繰り広げているうちに、僕は壁際まで追い詰められてしまった。
    「ほら、君は、僕に言うことがあるんじゃないのか?」
     恐怖に震える僕の姿を見て、ルチアーノは淡々と口を開く。普段は表情豊かな彼からは信じられないほどの、冷えきって威圧的な態度だった。僕を睨み付けるその瞳には、何の光も宿っていない。込み上げる焦燥感に突き動かされて、状況すら理解できないまま言葉を返す。
    「え? えっと…………ごめん…………」
    「ただ謝っても意味がないだろ。どうして謝る必要があるのか、その理由を言わないと」
    「えっと……なんだっけ…………?」
     半ば強引に促されて、僕は必死で思考を巡らせる。まだはっきりとは思い出せないが、頭の中で引っ掛かる記憶があったのだ。微睡みの中で交わした会話の中に、何か重要な話が混ざっていた気がする。そこまで考えたところで、僕はようやく思い出した。
    「あっ…………!」
     唐突に大声を上げる僕を見て、ルチアーノが大きく目を見開く。すぐに表情を戻すと、問い詰めるような口調で言った。
    「やっと思い出したんだな。で、理由は何なんだよ」
    「昨日の夜に、今日は夕方までに帰ってくるって約束してた……」
     正面からルチアーノの顔を見つめると、僕は消え入りそうな声で呟く。こんな大事なことを忘れるなんて、僕にとっては一大事だった。しかも、完全に忘れていたわけではなくて、朝までは覚えていたのである。どう考えても、あの時のイベント参加が原因だった。
    「そうだよ。君は昨日の夜、自分の口で約束をしてたんだ。それなのに忘れて遊び回ってるなんて、いい度胸をしてるよな」
    「ごめん。そんなつもりじゃなかったんだ。ただ、忘れちゃってて…………」
     自分の失敗を弁明するように、僕は必死に言葉を重ねる。しかし、謝った程度で許してくれるほど、ルチアーノは優しい相手ではないのだ。抵抗を続ける僕を見ると、彼は挑発するように口角を上げる。少しだけ甲高い笑い声を上げると、どこか楽しそうな声色で告げた。
    「なんだよ。言い訳をする気か? そんなやつには、お仕置きが必要みたいだな」
     ルチアーノの小さな手のひらが、真っ直ぐに僕の元へと伸びてくる。嫌な予感が胸を満たして、僕は大きく息を吸った。
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