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    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

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    TF主ルチ。AMと対立して遊星と協力するTF主ルチの話(共同戦線)の続きです。ルチとの約束を忘れたせいでルチに電撃尋問されるTF主くんの話でもあります。

    ##TF主ルチ

    お仕置き 建物から出ると、空の片隅が橙色に染まり始めていた。時刻は六時過ぎで、もうすっかり夕方だ。これくらいの時間になると、ルチアーノは僕の家へやってくる。今日は、二人で作戦会議をする予定だった。急いで帰らなければ、機嫌を損ねてしまうかもしれない。
     家に向かって歩き始めた時、端末が音を立てた。誰だろうと思い、画面を開いて、端末を落としそうになる。メッセージの差出人は遊星だったのだ。
    『例の件で、話したいことがある。ポッポタイムに来てくれ』
     画面に浮かび上がった文字列は、確かにそんな文章を構成していた。簡潔だが的確に用件を伝えるメッセージだ。一目見ただけで、僕はルチアーノとの約束を忘れてしまった。
    『今から行く。待ってて』
     僕は急いで返信した。身体の向きを変え、ポッポタイムに向かって走り出す。空の上では、太陽が雲の間に隠れ始めていた。

     ドアをノックすると、遊星はすぐに開けてくれた。躊躇いもなく、彼らの拠点となる建物に入っていく。いつもなら対戦相手となる相手の拠点になど入らないが、今はそんなことを言っている場合ではなかった。
    「すまない。わざわざ呼び出して」
     僕の顔を見ると、遊星はかしこまった態度でそう言った。相変わらず真面目な人だ。謝るのは僕の方でもあるのに。
    「大丈夫だよ。それで、何があったの?」
     話の先を急かすと、遊星は僕を室内へと案内する。壁際に並んだコンピュータのディスプレイには、ネオドミノシティの地図が表示されていた。
    「これを見てくれ」
     画面を示しながら、遊星は言う。よく見ると、地図には転々と赤い印が付けられていた。
    「これは……?」
     尋ねると、遊星は僕の方を向いた。真剣な表情で、ゆっくりと言葉を紡ぐ。その落ち着いた態度に、彼の踏んできた場数というものを感じた。
    「この印は、過去三ヶ月にデュエリスト襲撃事件が起きた場所だ。この前事件の犯人によるものもあるが、そいつが知らないと証言したものまで含まれている。共通点は、被害者がデュエルモンスターズの精霊によって怪我をしたことだ」
     僕は息を飲んだ。つまり、それは闇のカードを使用したデュエルか、サイコデュエリストによるデュエルが行われた場所だということである。現場付近なら、事件に関わった人間が現れるかもしれなかった。
     そう、遊星からの連絡は、この前の事件についてだったのだ。少し前に、この町では闇のカードによるデュエリスト襲撃事件が起きた。その犯人が使用していたのが、アルカディア・ムーブメントが製造した闇のカードだったのである。
     犯人が逮捕されたことで、事実上その事件は終わった。しかし、僕たちや遊星にとっては、何一つ解決していないのである。アルカディア・ムーブメントは、ダークシグナーの襲撃によってリーダーを失い、事実上の壊滅状態に陷っているはずである。拠点となっていた建物や、彼らが使っていた研究資材も、セキュリティの手によって捜索され、危険なものは回収されたと聞いた。そんな組織の製造した闇のカードが、この町に現れたのだ。遊星やイリアステルにとっては、見過ごせない大事件だったのである。
    「事件現場は、旧ダイモンエリア付近に集中している。ここは、かつてアキが黒薔薇の魔女としてデュエルをしていた場所だ。もし、犯人が意図を持ってこの地を選んだのなら、現地に行けば、何らかのコンタクトを取ってくるだろうと考えた」
    「それで、行ってみたの?」
     尋ねる声には、無意識に力が入ってしまった。僕にとっても、この事件は重要だ。アルカディア・ムーブメントは、ルチアーノにとっても敵勢力になるのだから。
     遊星はこくりと頷いた。
    「ああ。予想通り、いや、それ以上の結果だった。相手は自分から俺の前に出向いてきてくれた。俺に、デュエルを挑んで来たんだ」
    「犯人とデュエルを!?」
     声が大きくなってしまって、僕は慌てて口を閉じた。ポッポタイムは、時計屋の一部を間借りしている。あまり大きな声を出したら、ゾラに怒られてしまうかもしれない。
    「まだ、犯人だと決まったわけではない。ただ、相手は闇のカードを使っていた。この身に感じた衝撃は、アキのサイコデュエルと同じものだった」
    「やっぱり、アルカディア・ムーブメント……」
     僕は呟いた。遊星が、神妙な顔つきで頷く。どうやら、彼も僕と同意見のようだった。
    「お前をここへ呼んだのは、この話をするためだけではない。お前のタッグパートナーに頼みがあるからだ」
    「頼み? ルチアーノに?」
    「ああ、再び、イリアステルの力を借りたい」
    「一応、頼んではみるけど……。どんなことなの?」
    「大したことじゃない。ただ、カードの解析を頼みたいんだ」
     そう言うと、遊星は一枚のカードを差し出した。ビニールの袋に入った、シンクロモンスターである。一見するとなんの変哲もないカードだが、このタイミングで差し出されたのだから、ただのカードではないだろう。
    「これは?」
     嫌な予感を抱えながら尋ねる。遊星も、神妙な口調でこう告げた。
    「これは、俺にデュエルを挑んできた相手が使っていた闇のカードだ。このカードの解析を、イリアステルに頼みたい」

     それからしばらく後のこと、僕は家への帰り道を歩いていた。空はすっかり暗くなっていて、街灯が煌々と道を照らしている。話をしているうちに、すっかり夜になってしまった。鞄の中には、袋に入ったカードが潜んでいる。ルチアーノなら引き受けてくれると思って、遊星から借りてきたのだ。
     家が近付くにつれて、僕の足取りは早くなった。早くルチアーノに会って、例のカードを渡したかったのだ。早歩きで路地を抜けて、住宅の並ぶ角を曲がる。門を潜り抜ける頃には、完全に駆け足になっていた。
     玄関を開けると、足先で靴を脱ぎ捨てた。急いで廊下に上がり、リビングへと駆け抜ける。勢いよくドアノブを掴むと、音を立てて開いた。
     リビングには、誰もいなかった。真っ暗な室内に、電子機器の光だけが浮かんでいる。普段ならばルチアーノが帰ってきている時間なのだが、今日は来ていないらしい。電気をつけようと壁に手を近づけた時、背後から何かを押し付けられた。
    「っ!?」
     身体が痺れ、身動きが取れなくなる。足が動かなくなって、真横へと倒れ込んだ。地面に倒れそうになったところを、誰かに支えられる。
    「帰ってきたね、裏切り者」
     耳元で、囁き声が聞こえる。吐息を含んだ。甘ったるい声だった。声の主について考えようとした瞬間、再び衝撃に襲われる。何も考えられないまま、僕は意識を失った。

     気がついたら、自室のベッドの上に寝かされていた。電気がついていないから、室内は真っ暗だ。力を入れてみるが、身体はぴくりとも動かなかった。手足に感じる違和感は、ロープか何かなのだろう。
    「目が覚めたかい?」
     不意に、どこからか声が聞こえた。視線を向けると、ベッドの隅に人影が見える。その影は僕の上に乗ると、お腹を跨ぐように座った。
     相手がルチアーノであることは、考えなくても分かった。こんな時間に僕の家に上がっているのは、ルチアーノしか考えられない。しかし、なぜ彼は僕を縛り上げたのだろう。今の状況が全く理解できなかった。
    「ルチアーノ? どうして、こんなことを……?」
     僕が尋ねると、彼はにやりと口元を歪めた。両の瞳に、怪しい煌めきが宿る。薄明かりの中で見るルチアーノの姿は、怪しくも美しかった。
    「君が、僕を裏切ったからだよ」
     ルチアーノは言う。淡々とした声だが、そこには静かな怒りが滲んでいた。
    「裏切り……?」
     心当たりがなかった。僕は、常にルチアーノのことを一番に考えている。彼の機嫌を損ねることなど、あるはずがなかった。
     疑問符を浮かべる僕を見て、ルチアーノは瞳を曇らせた。光の失った瞳で僕を見ると、感情の消えた声を発する。
    「そうか、君は忘れてるんだね。それなら、お仕置きが必要だな」
     ルチアーノが、ベッドの片隅に手を伸ばした。何かを手に取ると、僕の首に取り付ける。それは、冷たくて重たかった。
     嫌な予感がした。ルチアーノは猛烈に怒っている。このままでは、僕は痛い目に遭うだろう。なんとか避けられないかと思考を巡らせるが、何も思い付くものはなかった。
    「なぁ、どうしてシグナーなんかに会ってたんだい? 僕よりもシグナーが大事だったのか?」
     装置に手をかけながら、ルチアーノが冷たい声で言う。その声は、絶対零度という言葉を思い起こさせるほどに冷えきっていた。本能的な恐怖を感じて、背筋がぞくりと凍る。
     ルチアーノは、僕が遊星に会っていたことに怒っているらしい。遊星からの呼び出しは、ルチアーノにとっても意味のあることだったのだ。話をすれば、分かってもらえるかもしれないと思った。
    「違うよ。僕は、遊星に呼ばれて……」
     しかし、彼は聞いてくれなかった。首筋に、ピリリとした刺激が走る。僕が言葉を切ると、さっきよりも大きな声で言った。
    「言い訳は聞いてないよ。なんでシグナーなんかに会ってたのか、理由を話せって言ってるんだ」
    「話してるよ。だから、遊星に呼び出されたんだ」
     今度は、もっと大きな衝撃だった。頭が痺れ、視界が一瞬だけ暗くなる。
    「そんなことで、僕が納得すると思うのかい? 洗いざらい白状しないと、もっと痛い目に遭うからな!」
     ルチアーノは、冷静さを失っているらしい。理由を話せと言いながらも、僕の話を聞いてはくれなかった。
    「話を聞いてよ。これは、ルチアーノにも関係のあることなんだよ。遊星が、事件のことを教えてくれたんだ」
     必死に言うが、ルチアーノは表情を歪めただけだった。電流が流され、頭が真っ白になる。涙が溢れ、視界が歪んだ。
    「なんだよ。そんなに話したく無いのかよ。なら、脅してでも聞くまでだ」
     首筋に、冷たいものが触れる。それが刃物であることは、考えなくても分かった。
    「話せよ。隠し事をしたら、動脈が切れるからな」
    「隠し事なんてしてないよ。本当に、遊星からの事件の続報を聞きに行ってたんだ。どうして信じてくれないの?」
     僕が言うと、ルチアーノは顔をぐしゃぐしゃに歪めた。瞳の奥から涙が溢れて、僕の顔の上に落ちる。本気で傷ついているようだった。
    「信じられるわけないだろ。君は、僕との約束を破ったんだから!」
     ナイフが、僕の首筋の表面をなぞった。痛みが走り、背筋が凍りつく。自分が何を忘れていたのかを、今になって思い出した。
    「君は、僕よりもシグナーが大切だったんだろ。僕との約束を破るほどに、シグナーとの密会が大切だったんだ。そうなんだろ!」
    「違うよ。アルカディア・ムーブメントの新情報を掴んだって聞いたから、遊星のところに行ったんだ。ルチアーノの力になりたかったからなんだよ」
    「嘘ばっかり。僕との約束を破ったくせに」
    「それは、謝るよ。ごめん。本当に悪かった」
     僕が言うと、ルチアーノはナイフを首筋から離した。ふらふらと手を下ろすと、ポロポロと涙を流した。
     僕は、ルチアーノと作戦会議の約束をしていた。今日の夜に、敵への対策について考えようという話になっていたのだ。その作戦会議の議題こそが、アルカディア・ムーブメントへの対処だった。
    「なんなんだよ。そこまで言うなら、証拠を出せよ。僕のためだっていう証拠を」
    「分かったよ。僕の鞄を見てみて。そこに、遊星から解析を頼まれたカードがあるから」
     僕が言うと、彼はふらふらとリビングに向かった。しばらくすると、僕の鞄を手に戻ってくる。がさごそと中身を探ると、袋に入ったカードを取り出した。
    「これかよ」
    「そうだよ。遊星から借りたんだ。アルカディア・ムーブメントが作ったカードなんだって」
     ルチアーノはまじまじとカードを見つめた。表面をじっくり観察すると、鞄の中に押し込む。僕に手を伸ばすと、手足の拘束を解いた。
    「分かったよ。解放してやる」
     僕は、ゆっくりと身体を起こした。まだ鼻を啜っているルチアーノを、正面から抱き締める。彼は頬を膨らませながらも、僕の抱擁を受け入れてくれた。
    「ルチアーノ、ごめんね」
     ルチアーノは、プイとそっぽを向いた。頬をぷっくりと膨らませたまま、涙声で言う。
    「絶対に許さないからな」
     僕は、まだまだ未熟だ。未知の敵との戦いに気をとられて、恋人との約束を忘れてしまったのだ。自分のことでいっぱいいっぱいになって、我を忘れるほどに、ルチアーノを不安にさせてしまった。
     こんなことで、アルカディア・ムーブメントと戦えるのだろうか。先のことを思うと、少しだけ不安だった。
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