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    流菜🍇🐥

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    TF主くんとルチが肝試しに行く話です。肝試しスポットで闇の組織の構成員と戦ったりもします。シーズン的には終わりが近いですが夏の季節ものです。

    ##TF主ルチ
    ##季節もの

    肝試し「なあ、今度、肝試しに行こうぜ」
     ある日の夜、ルチアーノは急にそう言った。
    「肝試し!?」
     僕は頓狂な声を上げてしまう。耳に入ってきた言葉に対して、聞き間違いじゃないかと思ってしまったのだ。彼が、肝試しなどというものを好むがない。
    「そうだよ。君が想像しているものと同じ、一般的な肝試しだ。夏の風物詩なんだろ?」
     ルチアーノは淡々と言う。よく見たら、少しにやにやしていた。彼なりに、何らかの企みがあるのだろう。
    「どうして、肝試しなの? ルチアーノって、こういう世俗的なものは好きじゃないんでしょ? わざわざやらなくてもいいのに」
     言い返すと、彼はにやにやと笑った。僕に詰め寄ると、からかうような声で言葉を続ける。
    「あんなに夏の風物詩にこだわってたのに、肝試しだけはやらないつもりなのかい? もしかして、幽霊が怖いの?」
     笑みを浮かべたまま、彼は煽り倒した。僕の反感を買うつもりだろうが、その手には乗らない。僕は、彼の煽りくらい何十回と見ているのだ。今さら怒ったりなんかしない。
    「そうだよ。僕は、ホラーが苦手なんだ。だから、肝試しは別の人と行ってきてね」
     素直に認めると、彼は甲高い笑い声を上げた。大きく息を吸うと、笑い声と同じくらいに高い声で言葉を続ける
    「幽霊が怖いなんて、君って子供みたいだよな。だったら、尚更面白いじゃないか。大の大人が怖がる様子を、間近で見られるんだぜ」
     彼には、逃がすつもりなど無いようだった。僕たちは、半年以上も一緒にいるのだ。僕がホラーを苦手としていることくらい、彼も知っているはずである。それでも誘いに来ると言うことは、何かの企みがあるのだ。
    「意地悪言わないでよ。僕は、本当にホラーが怖いんだから。どうせ、向こうで悪さをして僕をびっくりさせるつもりなんでしょう」
    「どうだかな。まあ、君に拒否権はないんだけどね。これは命令なんだ。黙って付いてこい」
     結局、断ることなどできなかった。反論しても、彼は一方的に話を進めていく。僕は、黙って彼の話を聞くことになった。

     どれだけ逃げたいことがあっても、時間は平等に過ぎていってしまう。あっという間に、肝試しの当日がやって来た。
    「ねぇ、本当に行くの?」
     僕が尋ねると、ルチアーノはにやりと笑いながら僕を見上げた。
    「当たり前だろ。僕は、ずっと楽しみにしてたんだから」
     最後の抵抗も虚しく、手を引かれて連行されてしまう。逃げることもできないまま、僕はDホイールに乗った。
     目的地は、サテライトの片隅にあるトンネルだった。サテライトの市街地と未開発地帯の間に設置されていて、かつては資源の運搬に使われていたらしい。シティとサテライトの統合によって町が発展すると、トンネルも大きなものに作り替えられ、ここは役目を失った。それからというもの、若者たちの間で心霊スポットとして人気が出ているらしいのだ。元々治安の悪い地区だったこともあって、あることないこと語られているらしい。時には傷害事件も起きていると、過去に牛尾さんが語っていた。
     僕たちは、トンネルから少しだけ離れた場所でDホイールを停めた。トンネルの前に停めなかったのは、ここが未だに治安の悪い地域だと言われているからだ。ルチアーノには移動能力があるから、万が一壊されたりしても帰れるのだが、気分のいいことではなかった。
     夜の郊外は、静まり返っていた。周囲を囲む森から蝉の鳴き声が響いている以外は、物音ひとつ聞こえてこない。街灯はほとんど無く、持ち込んだ懐中電灯の灯りだけが頼りだった。
    「ほら、行くぞ」
     ルチアーノが僕の背中を押した。真っ暗な通りを、足元を懐中電灯で照らしながら歩いていく。風が吹く度に、葉っぱが揺れてざわざわと音がする。心なしか、シティよりも周囲の温度を低く感じた。怖くなって、ぴったりとルチアーノに寄り添う。
    「怖いなら、僕の手を握ってろよ。それとも、抱き付いて行くか?」
     声に笑みを含みながら、ルチアーノが僕に声をかけた。馬鹿にされているのは見え見えだが、今はそんなことを言っている場合ではない。僕は、物音が聞こえただけで叫び出してしまいそうなほどに心細いのだ。例え子供だと言われても、すがれるものにはすがりたかった。
     僕は、ルチアーノの手を握った。それでも心細くて、細い腕に自分の腕を回す。さすがに大人だから、抱きついたりはしなかった。
    「本当に握ってくるとはね。君って怖がりだな」
     からかうように笑うと、彼は暗闇に足を踏み出した。懐中電灯は持っていないが、確実な足取りで歩を進めていく。彼はアンドロイドだから、暗闇でも目が見えるのだ。
     僕は、ビクビクしながら彼の後に続いた。足元を懐中電灯で照らしながら、キョロキョロと周りを見回す。足元よりも上は、怖くて照らせなかった。そんなことをして、もし人影なんかが映ったら、僕の心臓は止まってしまうだろう。
     しばらく歩いていくと、ルチアーノが僕の方を向いた。遠くの方を指差して、耳元で何かを囁く。
    「見ろよ。見えてきたぜ」
     僕は、ルチアーノの指差した方向に視線を向けた。ぼんやりと何かは見えているが、それが何かは分からなかった。恐怖を押し殺しながら、人差し指の先へと懐中電灯を向ける。確かに、トンネルの入り口が真っ暗な穴を開けていた。
    「やっぱり、やめておこうよ。危ないし、管理してる人に怒られるかもしれないよ」
     僕が言うと、ルチアーノは不満そうに唇を尖らせた。僕の腕を引っ張ると、強引にトンネルの入り口を目指す。
    「逃げるなんて許さないぜ。君の心配事くらい、僕にはどうとでもできるんだ」
     真っ暗なトンネルの中に、一歩ずつ足を踏み入れていく。当たり前のことだが、トンネルの中には灯りひとつついていない。ブラックホールのような暗闇が、どこまでも続いているだけだった。
     僕たちが足を踏み出す度に、かつかつと足音が響き渡る。ルチアーノの履くスケートの底がコンクリートに当たって、カシャンカシャンと乾いた音を立てた。どちらも言葉を発することのないまま、先へ先へと進んでいく。
    「廃トンネルっていうのは、案外何もないんだな。面白いものが見つかるかと思ったのに」
     静寂を切り裂くように、ルチアーノが言葉を発した。僕が飛び上がるほど驚いているのを見て、呆れたように息を付く。
    「なんでそんなに驚いてるんだよ」
    「だって、急に喋るから……」
     トンネルの中では、人の声がよく響くのだ。彼にとっては普通の音量でも、僕にとっては大音量に聞こえるのである。びっくり系が苦手な僕にとって、それは何よりも怖いものだった。
    「分かったよ。小さな声で喋ればいいんだろ」
     ぶつぶつと呟きながら、ルチアーノは僕を引っ張っていく。彼の囁きを聞きながら、トンネルの出口を目指した。
     トンネルの半分を過ぎた頃、地面の何かに足を取られた。大きく身体が傾いて、懐中電灯の光が正面を照らし出す。そこに、あるはずのないものを見てしまった。
    「うわぁ!」
     大声を上げながら、ルチアーノの身体にしがみつく。勢い余って倒れそうになるが、彼はびくりともしなかった。
    「どうしたんだよ。そんな声を出して」
     ルチアーノの呆れ声が、僕の耳元で響き渡る。顔がある当たりに視線を向けると、訴えかけるように言った。
    「向こうに、人影が見えたんだ!」
    「はあ? 人影? そんなもの、どこにも見えないぜ。見間違いじゃないのか」
     ルチアーノは淡々と返す。暗視能力を持つ彼が言うのだから、僕の勘違いなのかもしれない。でも、さっき見たシルエットは、確かに人影だと思ったのだ。
    「そんなことないって。本当に見えたんだよ」
     訴えながら前に光を向けて、僕は動きを停止した。そこには、何の姿も見えなかったのだ。照らす角度を変えて見ても、人の姿などどこにもない。不思議に思って、僕は首を傾げた。
    「あれ……?」
    「ほら、ただの見間違いだろ。とっとと行くぞ」
     身体を引き剥がされ、おとなしく言葉を引っ込めた。絶対に見間違いなどではないと思ったのだが、証拠がないなら仕方ない。
     先へ進むと、トンネルの出口が見えてきた。光の差す方向へ、真っ直ぐに歩を進める。この先は、使われなくなった資源の保管施設があると言われていた。
     トンネルの外の景色は、妙に明るく感じた。暗闇に目が慣れて、星明かりだけでも視界を捉えられるようになったのだ。大きな施設へと続く通りも、出口の近くに建つプレハブ小屋も、しっかりと視認できた。
    「次は、あの小屋だな。行くぞ」
     ルチアーノに手を引かれ、プレハブ小屋へと連行される。何を言っても無駄なのは分かりきっていたから、黙って彼の後に続いた。当たり前のように鍵を壊すルチアーノを、少しの呆れと共に見守る。
    「大胆なことするんだね。それって、犯罪じゃないの?」
    「所有者がいないんだから、訴えるやつもいないだろ。そもそも、肝試しこそが不法侵入だから、何を言っても今さらだぜ」
     鍵が壊れると、彼はゆっくり扉を開いた。軋んだ音を立てながらも、途中で止まることなく扉は開いてくれる。窓ひとつない小屋の中は、トンネルと同じくらい真っ暗だ。ルチアーノは僕から懐中電灯を奪い取ると、小屋の中を照らし出した。
     そこに写し出された光景を見て、僕は息が止まりそうになった。懐中電灯の光に照らし出されたのは、人間の姿だったのだ。Tシャツにジーパンというラフな格好をした男が、真っ直ぐに僕たちを見つめていた。
    「ひっ…………!」
     悲鳴を上げそうになる僕を残して、ルチアーノは室内へと入っていく。男の目の前に立つと、自信満々な声で言った。
    「やっぱり、ここだったんだな。怪しいと思ってたんだよ」
    「見つかってしまったのなら仕方ない。お前たちを、デュエルで倒してやる」
     男が淡々と答えた。暗闇の中で、デュエルディスクをセットする。ディスクの機械的な光が、ぼんやりと周囲を照らした。
    「ほら、君も戦うんだよ。デュエルディスクを用意しな」
     ルチアーノに急かされ、何も分からないままデュエルの用意をする。男が、アンカーのようなもので僕のデュエルディスクを捉えた。強制的にデュエルが開始される。物質を操るということは、この男は幽霊ではないのだろう。そんなことを考えながら、僕はデュエルに応じた。

     男の操るカードは、闇のカードだった。物理的なダメージを伴う攻撃が、僕とルチアーノに襲いかかる。しかし、どんなに闇のカードで攻撃しても、ルチアーノのデュエルに慣れている僕には想定内のダメージでしかない。困惑する男を横目に、僕たちはコンボを繋いでいった。
     ルチアーノの強烈な一撃が、男にダイレクトアタックを決める。思いっきり壁に叩きつけられて、彼は意識を失った。気絶していることを確認してから、ルチアーノがデュエルディスクを畳む。僕に付いていたアンカーも、自然消滅してしまった。
    「確か、この辺に電気があったはずだな。ほら」
     小屋の入り口付近に戻ると、ルチアーノが小屋の灯りをつける。急な明暗の変化に目を細目ながらも、なんとか小屋の中を眺める。経年劣化は目立つが、机の上には飲食物のゴミが置いてあり、人の居た形跡を物語っている。
    「ここは、何のための設備なの?」
     僕は、ルチアーノに尋ねた。建物中に乗り込んだときには、彼は男の正体を知っていたのだ。ここが何に使われているのかも知っていると思った。
    「昔は、トンネルの管理人が使う小屋だったみたいだね。今は、闇の組織のアジトに成り下がってるけどな」
     当たり前のことを言うかのように、ルチアーノは言葉を続ける。僕の頭は、疑問符だらけになってしまった。
    「闇の組織? それって、どういうこと?」
     尋ねると、彼は面倒臭そうにため息を付いた。突き放すような声を出しながらも、丁寧に説明してくれる。
    「闇の組織は闇の組織だよ。闇のカードを入手して、一般人に売り捌いてるやつらさ。秘密結社でも非合法組織でもない、ただの不良の集まりだよ」
    「そんなものが、こんなところに……」
     僕は呟いた。確かに、かつてのサテライトは常軌を逸するほどに治安が悪かったらしい。しかし、今は、普通の町になっていたと思っていたのだ。
    「サテライトが綺麗になったら、黒いやつらは暮らしていけない。やつらが逃げ込む先なんて、幽霊の住み処しかないんだよ」
     つまり、噂で広まっている幽霊というのは、闇の組織の構成員だったのだ。『幽霊の正体見たり枯尾花』などと言うが、実際には枯尾花よりもしょうもないものである。
    「もしかして、ルチアーノはこのために僕をトンネルに誘ったの? 闇の組織を倒すために?」
     ふと思い出して尋ねると、ルチアーノは一瞬だけ申し訳無さそうな顔をした。彼なりに、思うことはあったようである。僕は、ホラーが苦手なのだから。
    「騙すようなことして悪かったよ。闇の組織なんて言ったら、君は通報を進めると思ったからさ。嘘を吐かしてもらったよ」
     確かに、治安維持局に任せたい案件ではあった。イリアステルが絡むものならまだしも、相手が一般の闇組織であるなら、隠し事をする必要がないのだ。わざわざ、僕たちが危険に身を晒す必要はない。
     まあ、ルチアーノなりに考えがあったのだろう。知られてはいけない何かが、この場所にはあったのかもしれない。彼も彼で事情があるから、ある程度は許容しよう。
    「いいよ。結果として、無事に終わったわけだし」
     僕の答えを聞くと、ルチアーノは安心したように顔を背けた。室内に足を踏み入れると、小屋の中をガサ入れする。妙に慣れた手つきなのが恐ろしい。
     ルチアーノの目的のためとは言え、あのトンネルを歩くのは恐ろしい体験だった。帰りは、ワープを使うように打診してみよう。ルチアーノの後ろ姿を見ながら、僕はそんなことを考えるのだった。
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