集合写真 人気者になるというのは、楽なことではない。その日、任務で訪れた建物を見て、ルチアーノはそう思った。
彼らチームニューワールドは、撮影スタジオを訪れていた。本格的な機材が並び、プロのカメラマンが常駐している、モデル御用達の施設である。世界的有名チームとしてインタビューを受けた彼らは、そこで雑誌に掲載される写真を撮ることになったのだ。
彼らが案内されたのは、こじんまりとした撮影スペースだった。テレビ番組の撮影シーンでよく見るような、オーソドックスな撮影スタジオだ。スペースの前には、雑誌のスタッフやカメラマンが待ち構えていた。
「よろしくお願いします」
チームのマネージャーとして雇われている男が、代表らしき男性に声をかける。男性はちらりと彼らを見ると、にこやかな笑顔で返事をした。
「よろしく」
「チームニューワールドの皆さんはこちらへ」
スタッフに案内され、三人は撮影用のスペースへと移動する。大柄な二人が後ろに並び、ルチアーノが前に出る位置取りが、彼らの定番になっていた。緑の布の前に立つと、いつもと同じように佇んだ。
大柄な男が二人も並んだことで、スペースは一瞬にして満員になった。こんなんで撮影ができるのかと訝しみながら、ルチアーノはカメラを見据える。カメラマンがモニターを操作すると、何度かレンズを覗き込んだ。
撮影は、まだされなかった。カメラマンが機材から手を離すと、近くにいたスタッフを手招きする。駆け寄ってきた男性スタッフに、耳打ちで何かを話した。
何があったのだろうか。そう思って見ていると、男はルチアーノの方に視線を向けた。背後の二人とルチアーノの姿を見比べると、淡々とした声で言う。
「ルチアーノくんは、台に乗ろうか」
ルチアーノは耳を疑った。目の前の男が告げた言葉が、彼には理解できなかったのだ。首を傾げていると、スタッフが踏み台らしきものを持ってきた。
そこまできて、彼はようやく理解した。ルチアーノの小さな身体では、後ろの二人と高さが合わないのだ。同じレンズに映すために、彼らはルチアーノを台に乗せようとしているのである。
数人のスタッフが、慣れた手付きで台を設置しようとする。その姿を見て、ルチアーノは不満そうに唇を尖らせた。
「別に、そんなもの要らないよ。後ろの二人が屈めばいいだろ」
彼の発言に、スタッフたちが苦笑した。ルチアーノの元まで歩み寄ると、優しい声で語りかける。
「そうはいかないんだよ。雑誌の撮影は何枚も撮るから、ずっと屈んでたら疲れちゃうんだ」
子供に話しかけるような声色に、彼は余計に腹を立てた。この男は、自分をなんだと思っているのだろう。正体を明かせないことがもどかしかった。
「でも……!」
反論しようとすると、ホセが一歩踏み出した。二メートル越えの長身でルチアーノを見下ろすと、低い声で諭す。
「ルチアーノ」
リーダーに諭されたら、それ以上の反論はできなかった。プラシドの子供を見るような視線も不快で、仕方なく言葉を引っ込める。
しかし、スタッフの男性は踏み台を横に動かした。不服そうなルチアーノの様子を窺いながら、機嫌を取るように言う。
「じゃあ、少しだけそのまま撮ってみようか。写真を見てから、踏み台を使うか考えようね」
スタッフの男性が、カメラマンに合図を送った。機材の準備が整えられ、レンズが三人に向けられる。
「では、撮りますよ」
カシャカシャと音を立てながら、レンズが三人の姿を捉えた。正面から撮影すると、今度は斜め前からレンズを構える。
何枚か撮り終えると、カメラマンはモニターに画像を映した。二人の大男と一人の正面を写した画像が、大画面に表示される。
三人は、モニターの前に歩み寄った。目の前に並んだ写真を見て、ルチアーノは何も言えなくなった。
ルチアーノの姿は、写真から切れていた。二メートル越えの大男を捉えようとすると、彼らの腹部までしか背丈のないルチアーノは、画面から外れてしまうのだ。反対に、ルチアーノを捉えようとすると、二人の大男は画面から外れてしまう。どうすることもできなかった。
「分かっただろう。お前には踏み台が必要だ」
プラシドの勝ち誇ったような声が、頭の上から響いてくる。悔しさに襲われて、ルチアーノは強く唇を噛んだ。
「分かったよ。台に乗ってやる」
頬を膨らましながら、ルチアーノは撮影スペースに戻っていく。用意された台に乗ると、彼の頭はプラシドの胸元に並ぶほどになった。
スタッフたちが、安心したように胸を撫で下ろしているのが分かる。彼らも、仕事を全うするために気を使っていたのだ。
「では、撮りますよ」
カシャカシャと音を立てて、カメラマンが写真を撮っていく。言われるがままにポーズを決めながら、ルチアーノは不満を抱えていた。
どうして、自分は子供の姿をしているのだろう。プラシドとホセは長身の大男なのに、ルチアーノだけが未成熟な子供の姿をしている。この外見のせいで、彼は子供扱いばかり受けているし、取引の際には見下されることまであった。どうせなら自分も成人の姿が良かったと、何度考えたか分からないことを考える。
撮り終えた写真は、編集で背景をつけられて雑誌に掲載された。当たり前ではあるが、写っているのは胸から上だけで、踏み台は少しも写っていない。ルチアーノの頭は、プラシドとホセの胸元に並んでいた。
写真に目を通すと、ルチアーノはすぐに雑誌を閉じた。屈辱を感じて、これ以上見ていたくなかったのだ。
どうして、神はルチアーノを子供の姿に造ったのだろうか。自身の器のことを考える時だけは、絶対的であるはずの主人のことを、少しだけ厭んでしまうのだった。