Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

    文章や絵を投げます

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💕 🍇 🐥 🍣
    POIPOI 422

    流菜🍇🐥

    ☆quiet follow

    TF主ルチが相合傘をするだけの話。ルチは絶対に傘を持ち歩かない(確信)。

    ##TF主ルチ
    ##季節もの

    相合傘 扉の外に出ると、地を引き裂くような轟音が聞こえてきた。商店街の大通りは、いつの間にか薄暗くなっている。屋根のある歩行者用通路に足を踏み出すと、何かを叩きつけるような音が聞こえてきた。
     空が、一瞬だけ光を放つ。しばらくの間を置いて、地面を貫くような轟音が襲いかかってきた。その音は僕にの身体響き渡り、足元をぐらぐらと揺らす。通路の端にたどり着くと、大粒の雨が地面に飛沫を作っていた。
    「降ってるね」
     僕は呟いた。最近は台風が近づいていて、天気が不安定なのだ。少しの間の外出でさえ、傘を持っていないと大変なことになる。
    「雨か。さっきまでは晴れてたのに、この時期の天気は分からないものだな」
     そう言うと、ルチアーノは黒い雲の積み重なる空を見上げた。宇宙と地上を隔てる分厚い雲から、大粒の雨粒が次から次へと降り注いで来る。通りを行く人たちは傘を差しているが、それでも殴り付ける雨粒に身体を濡らしていた。
     僕は鞄の中を見た。そこには、小さな折り畳み傘が入っていた。広げても僕の肩幅くらいしかない、到底この雨には太刀打ちできない傘である。
     ルチアーノは、傘を持っているのだろうか。一見したところでは荷物を持っている気配はないが、彼は四次元ポケットのような収納の仕方をする。見ただけでは分からなかった。
    「ルチアーノは、折り畳み傘とか持ってたりする?」
     尋ねると、彼はちらりと僕に視線を向けた。僅かに目を細めてから、呆れたような声色を返してくる。
    「そんなもの、僕が持ってるわけないだろ」
     予想通りだった。ルチアーノが傘なんて持っているわけがないのだ。生身の身体を持たない彼は、身体が濡れることを気にしない。梅雨の季節なんて、ずぶ濡れになって返ってきたこともあったのだ。それくらい無頓着な子供が、折り畳み傘を持ち歩いているはずがない。
    「じゃあ、収まるまで時間を潰そうか」
     そう言うと、彼はぴくりと反応した。僕を見上げると、からかうような笑みを浮かべる。
    「なんだよ。またホテルに行くのか? 君は変態だなぁ」
     僕をからかうつもりだったのだろうが、彼の目論みは外れだ。今日は、そんなつもりは微塵もなかったのだ。
    「今日は行かないよ。そんなに手持ちもないし、この辺りにはそういう場所はないから」
     彼は分かっていないようだが、ここは健全な商店街である。近くに休憩ができるようなホテルはない。
    「なんだよ。また、からかってやろうと思ったのに」
     ルチアーノの声が、思ったよりも悲しそうだったことに、少しだけ驚いてしまった。彼は、あの日のことを好ましい記憶として捉えているのだろうか。僕は散々な目にあったのだが。
    「ルチアーノは、ホテルに行きたかったの? えっちだね」
    「別に、そんなんじゃねーよ」
     からかうような言葉を返すと、彼は悔しそうに顔を逸らした。かわいい反応に、僅かに笑みを浮かべてしまう。
     僕たちは、屋根の並んだ通路へと引き返した。商店街を歩いて、時間を潰せそうなところを探す。とは言っても、用事は済ませてしまっているし、ゲームセンターくらいしか思い付かなかった。対戦ゲームの並ぶ階へと移動し、ひとつひとつの筐体を見て回る。リズムゲームやシューティングゲームのような定番のゲームから、エアホッケーやもぐら叩きなど、いつもは遊ばないようなゲームにまで手を伸ばしてみた。
    「君って、懲りないやつだよな。勝てもしないのに僕に挑むなんて」
     ルチアーノはにやにやと笑う。今日の戦績も、僕の全敗だったのだ。
    「ルチアーノが楽しんでくれたら、僕は十分なんだよ。ルチアーノは、いつも退屈そうにしてるから」
     僕が答えると、彼は僅かに頬を膨らました。突き放すような声で口を開く。
    「当たり前だろ。人間どもは、弱すぎて相手にならないからな」
     しれっとそんなことを言ってしまう彼は、少しだけ遠くの存在のように感じる。彼は人智を超えた神の使いで、僕たち人間には想像もできないほどの力を持っているのだ。僕だって、デュエルで対等に戦えなければ、彼のパートナーになどなれなかった。
    「ルチアーノは、身体の機能が飛び抜けてるからね。人間の僕たちには太刀打ちできないんだよ」
     答えながら、僕たちは建物の外に出た。屋根のある大通りを歩くと、商店街の外を覗き込む。
     目論み通り、雨足はさっきよりも弱くなっていた。ポトポトと流れ落ちる水滴は、目に見えて小さくなっている。風も弱まっていて、雨粒の軌道も真っ直ぐになっていた。
    「これなら帰れるね。行こうか」
     そう言うと、僕は鞄から折り畳み傘を取り出した。袋から出すと、骨を広げて形を整える。片側に頭を入れると、空いているスペースをルチアーノに示した。
    「ほら、入って」
    「はぁ?」
     ルチアーノは素っ頓狂な声を出した。目を大きく開くと、僕の翳した傘を見上げている。口も大きく開いていて、子供らしい表情になっていた。
    「傘に入らないと濡れちゃうでしょ。ほら、入って」
     急かすと、ようやく意味を理解したようだった。表情を戻すと、拗ねたような態度で視線を逸らす。
    「別に、傘なんて要らないよ。僕は、風邪なんて引かないんだから」
    「ダメだよ。子供が雨に濡れてたら、周りの人たちに心配されちゃうんだから」
     拒否しようとするルチアーノに、なんとか説得を試みる。今は雨が降っていて、僕たちの間には傘が一個だけあるのだ。相合傘をする絶好のチャンスだった。
    「だったら、もう一本買えばいいだろ。それは僕が使ってやるから、君は大きな傘に入りな」
    「そんなことしなくても、同じ傘に入ろうよ。家まではそんなに遠くないんだから」
    「…………分かったよ。入ればいいんだろ」
     何度か言葉の応酬を繰り返して、ようやくOKを取り付けた。渋々と言った様子で、ルチアーノが僕の隣へと入ってくる。小さな傘に二人の人間が入ったから、僕の身体は押し出されるように外へとはみ出した。肩に雨水を受けながらも、商店街の外へと歩きだす。ルチアーノの身体が濡れないように、傘を斜めに差し出してあげた。
    「僕のことはいいから、自分が濡れないようにしなよ。君は、濡れたら風邪を引くんだろ」
     正面を向いたまま視線だけをこちらに向けて、ルチアーノが抗議の声を出す。そう言われても、周囲から見た彼は幼い男の子なのだ。雨に晒すわけにはいかない。
    「大丈夫だよ。家までは近いし、濡れたらシャワーを浴びればいいから」
    「なんだよ。せっかく人が気を遣ってやったのに。濡れたいなら勝手に濡れてろよ」
     隣から返ってくる不満そうな声に、僕は苦笑いしてしまう。彼には、僕の意図が分かっていないのだろう。わざわざ言うのも恥ずかしいから、何も言わないでやり過ごす。
     家に着く頃には、左半分がしっとりと濡れていた。洗面所からタオルを引っ張り出すと、濡れた服を脱いで洗濯カゴに入れた。
    「やっぱり、濡れちゃったね。シャワーを浴びようか」
     恥じらいなく服を脱いでいく僕を見て、ルチアーノが呆れ顔を浮かべた。タオルで身体を拭いながら、浴室に入っていく僕を眺める。
    「もしかして、僕と風呂に入るためにこんなことをしたのか? だとしたら残念だな。僕は、シャワーなんて要らないんだぜ」
     光の粒子で服を再構築しながら、ルチアーノはにやにやと笑う。あっという間に服が乾き、湿っていた髪はさらさらに戻った。
    「じゃあ、一人でシャワーを浴びてくるよ。ルチアーノはリビングで待ってて」
     そう言うと、僕は浴室の扉を閉める。蛇口を捻ると、温かいお湯が身体を流れ落ちた。
     ルチアーノは、僕の目的に気づいていないようだった。博識な彼でも、俗世の文化には疎いようである。何も疑うことなく、僕との相合傘を受け入れてくれた。
     身体を拭き、新しい服に着替えると、僕はリビングへと向かった。ソファに座るルチアーノを見ると、笑みを浮かべて話しかける。
    「お待たせ。今日は、何をする?」
     僕を一瞥すると、彼は眉をぴくりと動かした。訝しそうに顔を歪めて、湿った声を出す。
    「なんだよ。妙にご機嫌だな。そんなにいいことがあったのかよ」
    「それは、秘密だよ」
     答えると、僕はルチアーノの隣に腰を下ろした。体重を預けると、小さな肩に頭を預ける。
    「変なやつ」
     隣からは、呆れたような声が返ってくる。その響きが愛おしくて、僕はにこりと微笑んだ。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💞🌂💞🙏💞💞
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works