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    流菜🍇🐥

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    本編軸if。77話の不仲バージョンみたいな幻覚です。なぜあのシーンでプラ執事がジュースを持ってきたのかと考えているうちに思いつきました。

    ##本編軸

    飲み物 ルチアーノは上機嫌だった。軽快な足取りで車から降りると、くるりとターンして背後を振り返る。そこでは、緑の髪をツインテールにした少女が地面に足を伸ばしている。彼女が完全に降りたことを確認すると、優しい声で話しかけた。
    「こっちだよ」
     花の咲き誇る広い庭を、建物に向かって歩いていく。蝶や蜂が通りすぎる度に、少女は小さく声を上げた。
     建物の中に入ると、執事姿のプラシドが出迎えた。黒髪をオールバックにまとめ、黒いスーツに身を包んでいる。少しも似合わないその姿に、ルチアーノは笑い出しそうになってしまった。
    「お帰りなさいませ、お坊ちゃま」
     ルチアーノに向かって頭を下げると、プラシドは静かな声で言う。執事らしく、畏まった態度に、ルチアーノは目を見張った。この男にも、謙遜の態度は取れるのだ。普段の態度からは信じられない仕草である。
    「プラシド、お客さんにお茶とお菓子をよろしく」
     粗雑に言葉を投げると、プラシドは一瞬だけ険悪な空気を放った。すぐにそれを引っ込めて、澄ました声で言葉を返す。
    「かしこまりました」
     ルチアーノは、心の中でにやにやと笑う。普段なら言い返してくるプラシドが、今日は何も言い返して来ない。それもそうだろう。これは神からの命令なのだから。
    「こっちだよ、龍可ちゃん」
     プラシドの前を通り抜けると、戸惑ったように付いてくる龍可に声をかける。彼女を誘導するように、ルチアーノは建物の奥へと歩き出した。


     ●

    「次の任務は、ルチアーノに執行してもらう」
     二人の仲間を集めると、ホセは淡々とそう言った。名前を呼ばれたルチアーノが、嬉しそうな声を上げる。
    「やっと出番かよ。ずっと座ってるだけで退屈だったんだよな。で、任務ってのは何なんだ?」
    「龍可という娘の戦力調査だ。不動遊星、ジャック・アトラス、十六夜アキの三人は、フォーチュンカップでその実力を確認している。クロウ・ホーガンに大会成績はないが、サテライトでも札付きの義賊だ。しかし、アカデミアに通う双子の妹だけは、精霊の声を聞くという噂があるのみで、実力が判明していない。お前には、アカデミアに潜入して彼女に接触してほしい」
     ホセが語った言葉を、ルチアーノは頭の中で反芻した。学校に潜入するなら、適任なのはルチアーノだろう。彼は子供の姿をしているし、神への忠誠心も高い。プラシドよりも信頼されているのだろう。子供扱いされるのは癪だが、悪い話ではなかった。
    「ふーん。面白そうじゃないか。シグナーとも戦えるかもしれないしな」
     楽しそうに笑うルチアーノを、ホセは冷静な目で見下ろしていた。彼の返事を聞くと、今度はプラシドに視線を向ける。
    「プラシドには、執事としてルチアーノに付き従ってもらう」
     突然の言葉に、プラシドは僅かに眉を上げた。鋭い真紅の瞳が、真っ直ぐにホセに注がれる。
    「なぜだ。ルチアーノ一人でも良いだろう」
    「そうだよ。何でプラシドが付いてくるんだ?」
     仲間の言葉に重ねるように、ルチアーノも言葉を吐いた。二人の反抗など歯牙にもかけずに、リーダーの男は淡々と言葉を告げる。
    「ルチアーノは権力者の子息として潜入するのだ。屋敷に人がいなければ不自然だろう。片方が潜入している間は、もう片方が情報収集に当たるが良い」
     真正面から説得され、彼らは口をつぐんだ。お互いに、ホセの真意を理解したのである。この男は、お互いのお目付け役として二人を配置したのだ。
    「せいぜい上手くやるんだな、お坊ちゃま」
    「君こそ、ヘマしないでくれよ。執事さん」
     視線を合わせながら、二人はバチバチと火花を散らす。その姿を見て、ホセは呆れ顔を浮かべた。

     ●

     龍可は、戸惑いながらもDボードを受け取った。ルチアーノの講釈を聞きながら、なんとか乗りこなそうと悪戦苦闘している。双子の兄が追ってきたのは想定外だったが、ある意味では好都合だ。上手くいけば、シグナーにイリアステルの力を示すことができるだろう。
     計画は上手く行っていて、寸分の狂いもない。一人で練習を続ける龍可から離れ、花壇のレンガに腰を下ろすと、彼はほくそ笑んだ。
     そんな彼の元に、建物の方から足音が近づいてきた。彼のお目付け役であり、共犯者でもあるプラシドだった。手には丸盆を持っている。
    「お飲み物をお持ちしました」
     表情ひとつ変えずに、プラシドは告げた。彼の持つ丸盆の上には、見慣れないものが乗っている。ちらりと視線を向けると、ルチアーノは眉を潜めた。
     それは、確かに飲み物だった。深めのグラスの中に、橙色をしたジュースが注がれているのである。上にはクリームが絞られ、ストローと赤い花が添えられていた。
    「なんだよ。それ」
     ルチアーノが尋ねると、プラシドは淡々と答えた。
    「お飲み物ですが何か?」
    「そんなことは見たら分かるよ。何でそんなものを持ってきたんだ? 僕はお茶とお菓子って言っただろ」
     不満そうに声を上げるルチアーノに、プラシドはちらりと視線を向けた。執事の態度を保ったまま、反論するように告げる。
    「こちらの方が、女性には好まれるかと思いまして」
    「はぁ?」
     ルチアーノは、遠くに見える龍可に視線を向けた。当然のことだが、彼には女の子の気持ちというものが分からない。ジュースと龍可の姿を交互に見ると、執事姿のプラシドに声をかけた。
    「そういうものなのかよ」
    「そういうものなのです」
     そういうと、彼はジュースの乗った盆を手渡した。軽く頭を下げると、カツカツと音を立てて去っていく。
     盆を両手で抱えると、ルチアーノは龍可の元へと向かった。なんとか、ボードの操作に慣れてきた少女の後ろ姿に、少し離れたところから声をかける。
    「龍可ちゃん、少し休憩しない?」
     龍可はDボードを降りると、ルチアーノの元へと歩いてきた。練習で疲弊しているようで、深く深呼吸をしている。そんな彼女に、隣からジュースを差し出した。
    「良かったら、これを飲んで」
    「ありがとう」
     嬉しそうに受け取ると、彼女はストローに口を付けた。中身の液体を吸い込むと、弾んだ声で言う。
    「おいしい! わざわざ用意してくれたの? ありがとう」
    「転校してから、初めてのお客さんだからね。僕も嬉しいんだ」
     そう答えながらも、ルチアーノは感心していた。プラシドの言ったことはもっともだったのだ。龍可は、この甘そうなドリンクに喜んでくれた。
     彼も、恐る恐るストローに口を付ける。過激な色をしたジュースを、思いきって口に含んだ。さっぱりとしたジュースの味と、クリームの溶けるような甘さが、同時に口の中に入り込んでくる。それは、ルチアーノには甘すぎた。
    「ごちそうさま。おいしかったわ」
     嬉しそうに微笑みながら、龍可は空になったグラスを返した。彼女の手前、残すわけにはいかなくて、ルチアーノも残りのジュースを飲む。
    「運動ばかりでも疲れちゃうから、今度は僕の部屋に行こうか。見せたいものは、まだまだたくさんあるんだ」
     グラスを置くと、ルチアーノは龍可に声をかけた。まだ、日暮れまでには時間がある。戸惑いながら後を追う龍可を従えて、ルチアーノは建物の中に戻っていった。

     ●

     日が暮れると、龍可は家へと帰っていった。さすがに、年端の行かない少女を引き留めるわけにはいかない。最低限の目的は果たしたのだ。車を手配すると、家の近くまで送り届ける。
     建物に戻ると、プラシドが待ち構えていた。向かってくるルチアーノに頭を下げると、淡々とした声色で言う。
    「お帰りなさいませ、お坊ちゃま」
    「もう、その演技はいいよ。調子が狂う」
    「そうか」
     ルチアーノの言葉を聞くと、プラシドは急に態度を変えた。いつもと同じ、尊大な神の代行者の態度だ。腹が立つのと同時に、妙な安心感があった。
    「作戦は順調か?」
    「ああ。まずまずの結果だよ。後は、龍可をデュエルに巻き込むだけだ」
     答えると、ルチアーノはプラシドの隣に並んだ。長身のプラシドの隣に並ぶと、ルチアーノの身体は子供のように小さい。必然的に、彼はプラシドを見上げる体勢になった。
    「それにしても滑稽だったな。澄まし顔でジュースを飲むお前の姿は」
     プラシドの発言に、ルチアーノは動きを止めた。一瞬の間に、先程の出来事を反芻する。龍可を喜ばせるためだと言って、ジュースを持ち込んだのはプラシドだ。作戦に熱心なものだと感心したが、どうやら違ったらしい。
    「お前、もしかして、始めからそのつもりで……!」
     ルチアーノが声を上げると、プラシドはにやりと口角を上げた。からかうように目を細めると、笑みを含んだ声で言葉を続ける。
    「気に入ったか? トロピカルジュースというものは」
    「気に入るわけないだろ! あんな甘ったるいもの!」
     反論するが、プラシドはにやにやと笑って受け流してしまう。隙を見せてしまったことに屈辱を感じて、ルチアーノは強く唇を噛んだ。これは神の使命だと言うのに、なぜそんな余計なことを企んでいるのだろう。
     この男は、信用ならない。鼻を鳴らし、黙ってプラシドに背を向けながら、ルチアーノはそんなことを考えた。
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