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    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチ。ルチが潜入してるメイドカフェに突撃するTF主くんの話。ケチャップでメッセージを書いてくれるシーンが書きたかっただけです。

    ##TF主ルチ

    メイドカフェ 町を歩いていると、誰かから声をかけられた。
    「お前、○○○じゃないか? 久しぶりだな」
     聞き慣れない声だった。振り返ると、中学時代の同級生が手を振っている。懐かしい顔に、僕は表情を緩めた。
    「久しぶりだな。一ヶ月ぶりくらいか?」
     挨拶を交わすと、僕たちは近くのファストフード店に入った。同じ町に住んでいるとはいえ、会うことはあまり無い。積もる話はあるのだった。
     ジュースとサイドメニューのデザートを頼むと、僕は空いている席に腰を下ろした。後ろから追ってきた友達が、ハンバーガーとナゲットの乗ったトレイをテーブルに置く。僕の運んできたトレイを見ると、彼はからかうような声で言った。
    「今日も控えめだな。また、彼女とデートなのか?」
    「そんなんじゃないって。あの子は、まだ子供なんだから」
     彼は、ルチアーノのことを『ナタリア』という名前の女の子だと思っている。ルチアーノが用意した偽造戸籍が、その名前で登録されているからだ。そういえば、以前に一度顔を合わせた時にも、ナタリアという名前を名乗っていた気がする。
    「お前はそう思ってても、ナタリアちゃんは違うんじゃないか? あの子は、お前の恋人になりたいんだろ?」
     僕の方をちらちらと見つめながら、友達は楽しそうに笑う。ルチアーノとの関係は秘密にしてきたから、こういう話をするのは新鮮だ。
    「そうだけど……子供の言うことだから、すぐに変わっちゃうかもしれないよ」
     これだけ子供子供と連呼して、ルチアーノが知ったら怒るだろう。そんなことを考えながら苦笑いすると、不意に彼が声を上げた。
    「そういえば、この前、町でナタリアちゃんを見たんだけどさ」
    「えっ?」
     僕は、間抜けな声を上げてしまった。ぽかんとした顔をして、友達の顔を見る。彼は、世間話をするような調子でこう言った。
    「ナタリアちゃんによく似た女の子が、メイドカフェに向かって歩いてたんだよ。あれは絶対にそうだと思ったんだけどな」
    「メイドカフェ!? ナタリアが!?」
     本気で驚く僕を見て、彼は首をかしげた。不思議そうな顔をすると、興味を失ったように言う。
    「お前が知らないなら、勘違いかもしれないな。ナタリアちゃんは小学生だから、そんな場所に用事はないだろうし」
    「そうだよ。きっと見間違いだよ」
     そう言いながらも、僕は不安になっていた。ルチアーノは、外見を自由に変える力を持っている。わざわざナタリアの姿になって町を歩くなんて、滅多なことがなければしないだろう。本当であれば、何か理由があるはずだった。
     僕の否定もあって、話題はすぐに別のものへと流れていく。彼のアカデミアでの話や、僕の近況についてだ。久しぶりだから、話に花が咲いてしまう。お店を出る頃には、空が暗くなり始めていた。
    「じゃあな。また遊ぼうぜ」
     そう言いながら、友達は家の方へと向かっていく。手を振りながら、僕もにこりと笑った。
    「またね」
     帰路を歩きながらも、僕の頭の片隅では、別のことを考えていた。友達の語った、メイドカフェに向かう『ナタリア』についてだ。
     この町でメイドカフェと言ったら、思い浮かぶのは一ヶ所だけだ。商店街の片隅にある、有名なチェーン店である。彼が見かけた場所と言ったら、そこしかあり得なかった。
    「メイドカフェ、か」
     僕は呟いた。ルチアーノとメイドカフェなんて、あまりにも不釣り合いだ。その目撃情報が本物なのか、気になって仕方なかった。

     翌日の午後、僕はメイドカフェへの道を歩いていた。心臓をドクドクと鳴らしながら、おぼつかない足取りで商店街を進む。妙に緊張してしまって、手が汗ばんでしまった。
     メイドカフェは、ビルの一階に入っていた。扉の前にはメイド服の女の子が立っていて、道行く人々にチラシを配っている。下着が見えそうなほどに短いスカートと、綺麗に整えられたツインテールを揺らしながら、笑顔と愛想を振り撒いていた。
     門の前へと歩み寄ると、チラシを配っていた女の子が歩み寄ってくる。にこにこと営業スマイルを浮かべると、アニメのような声で言った。
    「ご帰宅ですか?」
    「えっ?」
     一瞬だけ、言われていることの意味が分からなかった。しばらく頭を巡らせて、それが来店の意味をしてしているのだと理解する。
    「はい。そうです」
    「お帰りなさいませ。すぐにご案内いたします」
     そう言うと、女の子は入り口の扉を開けた。ぐるりと店内を一周すると、近くにいたスタッフに呼び掛ける。
    「ご主人様のお帰りです!」
     パタパタと足音を立てながら、女の子が僕の前に駆け寄った。その少女の姿を見て、僕は言葉を失ってしまう。彼女は深く頭を下げると、可愛らしい声で決まり文句を述べた。
    「お帰りなさいませ、ご主人様」
     顔を上げて、目の前に佇む僕を見る。それが僕であると認識すると、顔を真っ赤に染めた。
    「えっ……!」
     絶句すると、パクパクと口を動かす。何も言えなくなっている彼に、迷いながらも声をかけた。
    「ナタリア、こんなところで何してるの?」
     僕の前に現れたメイドさんは、女の子に変装したルチアーノだった。小柄な身体はいつもよりも少し大きくなっていて、顔にはほんのりと化粧を施している。身体を包んでいるのは、フリルいっぱいのメイド服だった。
     彼は、真っ赤な顔で僕を睨んだ。スカートの裾を押さえると、さっきまでの愛想が嘘のように尖った声で言う。
    「なんで、こんなところにいるんだよ!」
     ルチアーノの甲高い声が、小さな店内に響き渡る。近くで接客をしていた女の子が、慌てた様子で駆け寄ってきた。
    「ナタリアちゃん? どうかしたの?」
     声をかけられて、ルチアーノは慌てた様子で咳払いをした。僕から離れると、可愛らしい女の子の声で言う。
    「なんでもないよ。知り合いが来たから、ちょっとびっくりして」
    「へー。ご主人様、ナタリアちゃんの知り合いさんなんですか」
     そう言うと、女の子は僕を眺めた。上から下まで舐めるように視線を向けられて、少し恥ずかしくなる。こんなことなら、もっとちゃんとした服で来ればよかった。
    「じゃあ、ご案内はナタリアちゃんにお願いしようかな。ご主人様も、それでいいですよね?」
    「はい」
     答えると、女の子はルチアーノに目配せをした。渋々と言った様子で、ルチアーノが僕を見上げる。
    「ご案内します」
     少し上ずった声で言うと、彼は部屋の奥へと歩いていった。空いている席の前で立ち止まると、片手を動かして着席を促した。
    「では、料金とメニューをご説明します」
     そう言うと、彼はメニューブックを差し出した。恥ずかしそうに頬を染めながらも、手順通りにシステムを説明していく。
     このカフェでは、一時間ごとに基本料金がかかるらしい。ワンオーダー制でもあるから、必ず何かのメニューを頼む必要があるらしい。メイドカフェらしくオムライスにはお絵描きをしてくれるし、食べ物にはおまじないをかけてくれるそうだ。特別メニューを選ぶと、メイドさんとチェキを撮れるみたいだった。
    「じゃあ、僕はオムライスとドリンクのセットにしようかな」
     メニュー表を指差しながら、注文内容を伝えていく。せっかくのメイドカフェなのだ。お絵描きをしてもらわないと勿体ないだろう。
    「かしこまりました。少々お待ちください」
     定型文を告げると、ルチアーノはキッチンの奥に去っていく。彼が仕事をしている間に、僕は店内の様子を眺めた。
     メイドカフェの店内は、カラフルな装飾に彩られていた。壁には芸能人のサインや、メイドさんのチェキなどが並んでいる。なかなかに賑わっているようで、ほとんどの席が埋まっていた。
     しばらくすると、ルチアーノがキッチンから出てきた。銀色のお盆の上に、動物のパフェを乗せている。男の人の座る席へと向かうと、可愛らしい声で言った。
    「お待たせいたしました、ご主人様。くまちゃんのパフェでございます」
     パフェを机の上に乗せると、お盆を机の隅に立て掛ける。お客さんに向き直ると、女の子らしい声と仕草で言った。
    「これから、美味しくなる呪文をかけますね。一緒に唱えてください。……『おいしくなーれ!』」
    「おいしくなーれ!」
     ルチアーノの声に合わせて、男の人も大きな声で唱える。端から見てると、なかなかにすごい光景だった。
    「ありがとうございます」
     ルチアーノが言うと、男の人はにこりと笑う。彼に顔を近づけると、あまり隠れていない声で何かを聞いた。
    「ナタリアちゃん、お友達が来てるって本当?」
    「本当だよ。あの席に座ってるの」
     こそこそと話ながら、二人ちらりとこっちを見る。目が合わないように、急いで視線を逸らした。
     それにしても、ルチアーノはどうしてこんなところで働いているのだろう。常連もいるくらいだから、そこそこ長いのだろう。恋人が知らない男の人と仲良くしてるのは、あまり嬉しくはなかった。
     そんなことを考えていると、ルチアーノがオムライスを持ってきた。銀色のお盆の上に、昔ながらのオムライスとチューブのケチャップが乗っている。
    「お待たせいたしました、ご主人様。お絵描きオムライスです」
     机の上にオムライスを乗せると、彼はケチャップを手に取った。僕の方に視線を向けると、少し強ばった笑顔を浮かべる。
    「こちらに、ケチャップで魔法のお絵描きをしますね。書いてほしいメッセージなどはありますか?」
     僕には、何も思い付かなかった。生まれてからこの方、メイドカフェのような空間には無縁な生活を送っていたのだ。オムライスに文字を書いてもらうなんて、少しも考えたことがなかった。
    「ナタリアの好きな絵でいいよ」
     答えると、彼はにやりと笑った。何かを企むような笑顔に、少し嫌な予感がした。
    「おまかせですね。じゃあ、書きます」
     ケチャップの蓋を開けると、ルチアーノはさらさらと手を動かす。黄色の卵の上に現れた文字は、このようなものだった。
    『チクったら○す』
     僕は、再び絶句してしまった。呆然とルチアーノを見上げると、彼は口元に人差し指を当てる。ぽかんとする僕を横目に、お盆とケチャップを手に取った。
    「それでは、ごゆっくりどうぞ」
     楽しそうにメイド服を翻して、ルチアーノは奥へと去っていく。僕の目の前には、恐ろしい文字の書かれたオムライスだけが残された。

     味は、ごく普通のオムライスだった。ケチャップの文字を崩し、卵に塗りたくりながら、大きなスプーンで口の中へと運んでいく。三分の一ほど平らげた頃に、入り口でルチアーノと話していたメイドさんがジュースを運んできてくれた。
    「お待たせいたしました。こちらがアイスティーです」
     机の上に飲み物を置くと、彼女は僕に顔を近づける。小さく笑みを溢すと、周りに聞こえないくらい小さな声で言った。
    「ナタリアちゃんは、ご主人様にあの姿を見られたくなかったみたいですよ。あんなに動揺してるところなんて、私も初めて見ました」
     そう言うと、彼女はすぐに顔を話した。表情を営業スマイルに戻して、メニュー表の片隅を示す。
    「セットのチェキですが、どの子と撮影したいですか? 本日お給仕しているメイドちゃんはこちらのメンバーになりますが」
     女の子は、壁にかけられているボードを示した。ホワイトボードに、メイドさんの顔写真と名前がズラリと並んでいる。そこには『ナタリア』という文字もあった。
    「じゃあ、ナタリアにしようかな。いつもは、写真なんて撮らせてくれないから」
     僕が答えると、メイドさんはいたずらっぽく笑った。メニューを折り畳むと、にこにこと笑いながら繰り返す。
    「ナタリアちゃんですね。かしこまりました」
     ぺこりと頭を下げると、彼女はキッチンの方へと去っていった。再びスプーンを手に取ると、アイスティーを飲みながらオムライスを口に運ぶ。食べ終わってしばらくすると、キッチンの方からルチアーノが歩み寄ってきた。柔らかい営業スマイルを浮かべながら、不自然なまでに丁寧に言う。
    「ご主人様、チェキの撮影スポットにご案内してもよろしいでしょうか?」
    「はい」
     答えると、僕はゆっくり席を立った。鞄を手に取ると、彼の後に続いて店内を移動する。部屋の隅にある階段を上ると、三階の撮影スポットに向かった。
     そこには、本格的なセットが二種類並んでいた。パステルカラーのソファやクローゼットが並ぶスペースと、人の入れるプレゼントボックスが置かれたスペースがあった。
    「どちらで撮影しますか?」
     ルチアーノは真っ直ぐに僕を見上げる。真緑の綺麗な瞳が、僕の瞳を貫いた。
    「じゃあ、プレゼントボックスで……」
     答えると、彼は僕の手を取った。いつものルチアーノのような仕草だ。ここでは二人きりだから、彼も気にしていないのだろう。
    「ほら、入れよ」
     かける言葉も、いつものルチアーノそのものだ。聞き慣れたツンツン声に、妙な安心感を感じた。
     小さなプレゼントボックスの中で、僕はルチアーノと向かい合った。声を潜めると、小さな声で疑問をぶつけた。
    「ねぇ、聞いてもいい? どうしてルチアーノがこんなところにいるの?」
     僕の言葉を聞くと、彼は目を吊り上げた。鋭い瞳で僕を射抜くと、トゲのこもった声をぶつけてくる。
    「それはこっちのセリフだよ! なんで、君がこんなところに来てるんだ!?」
     その勢いに気圧されて、僕は少しだけ身体を後ろに下げた。不機嫌な時のルチアーノは、迫力がすごいのだ。彼を宥めるように、僕はここに来た経緯を語った。
    「友達に聞いたんだよ。ルチアーノが、メイドカフェに向かうところを見たって。それで、本当なのか気になったから来てみたんだ」
     僕の言葉を聞くと、彼は小さく舌打ちをした。僕にこの姿を見られたことが、悔しくて仕方ないらしい。音が鳴りそうなほどに奥歯を噛むと、苦々しい声で言った。
    「あいつか……!」
    「僕は話したから、今度はルチアーノの番だよ。どうして、メイドカフェで働いてるの?」
     尋ねると、彼は面倒臭そうにため息をついた。オブジェの縁に手をかけると、ちらりと僕に視線を向ける。
    「そんなの、考えなくても分かるだろ。任務だよ」
    「任務?」
     僕が間抜けな声を出すと、彼は呆れ顔を見せた。信じられないと言った様子で、淡々と言葉を続ける。
    「観察対象のターゲットが、ここの常連客なんだよ。人間相手に言葉を交わすなら、カフェの店員は適役だろ。それで潜入することになったんだ」
    「そうだったんだ……」
     ようやく、全ての謎が解けた。彼がメイドカフェで働いていたのは、僕をからかうためではなかったらしい。実を言うと、これは仕組まれた罠なんじゃないかと思っていたくらいなのだ。
    「それにしても誤算だったな。お前が、ここまで追いかけて来るなんてさ。もっと用心するべきだったぜ」
     ルチアーノが小さな声で言う。僕が返事を考えていると、階段を駆け上がってくる足音がした。
    「ごめんなさい。遅くなっちゃいました。今から、カメラの準備をしますね」
     声と共に、メイドさんが部屋へと入ってきた。ミニスカートが危なげに揺れて、下のドロワーズが裾を覗かせている。僕たちの前に立つと、急いでカメラの調整を始めた。
    「ご主人様、ポーズはどうしますか? ピースでもハートマークでもいいですよ」
     他のメイドさんが入ってきたからか、営業スマイルに戻ったルチアーノが言う。この状況なら、多少攻めたポーズをお願いしても断られないだろう。意地悪な気持ちになって、彼が嫌がりそうなリクエストをしてしまった。
    「じゃあ、ハートマークをお願いしようかな」
     ルチアーノの表情が、一瞬だけ悔しそうに歪む。気づかない振りをしながら、彼の前で片手をハートの片割れを作った。
    「後で、覚えてろよ」
     小さな声で言いながら、ルチアーノが片手をハートにする。ぴたりと手を合わせると、メイドさんが声を上げた。
    「じゃあ、撮りますね。はい、チーズ」
     チェキを撮り終わると、僕たちは下へと降りていった。入れ替わるように、別のお客さんが女の子と一緒に上がってくる。印刷したチェキには、メイドさんがメッセージを書いてくれるらしい。ルチアーノに小さく手を振ってから、僕は自分の席に着いた。
     食事を終え、チェキも撮り終わってしまうと、やることがなくなってしまった。ぼんやりと周囲のお客さんを見ながら、チェキが完成するのを待つ。しばらくすると、ルチアーノが僕の方へと歩いてきた。
    「お待たせいたしました。こちらがチェキになります」
     写真用のフィルムに入ったチェキが、僕の前に差し出される。下には、彼のナタリアとしてのサインと、僕へのメッセージが書かれている。その文字列を見て、思わず笑みを浮かべてしまった。
    「じゃあ、そろそろ帰ろうかな。楽しかったよ」
     そう言うと、僕は荷物を抱えて席を立った。僕を案内しようと近づきながら、ルチアーノが小さな声で言う。
    「もう、来なくていいからな」
     会計を済ませると、メイドさんに見送られながらお店を出る。僕の方を見てお辞儀をすると、明るい声で決まり文句を告げた。
    「行ってらっしゃいませ、ご主人様!」
     お店の外は、まるで別世界のようだった。人々が町を歩く足音と賑やかな音声が、一斉に僕の耳へと突き刺さる。店内とは形の違うその賑やかさは、僕に俗世の気配を感じさせた。
     通路を曲がると、僕は建物の影で立ち止まった。鞄に手を伸ばすと、ルチアーノから受け取ったチェキを広げる。そこには、プリクラのような落書きと共に、僕へのメッセージが書かれていた。
     ルチアーノは、僕の写真に落書きをしていた。頭には猫の耳を書いていて、顔には動物の髭が書かれている。自分の周りにはキラキラマークを書いている辺りに、意地でもかわいい演出はしないという気概を感じた。写真の下には、可愛らしい丸文字でこんなコメントが書かれている。
    『萌え萌えキュン♥️』
     普段のルチアーノからは考えられない、可愛らしいメッセージだった。嬉しくて、ついつい顔がにやけてしまう。写真を鞄の奥にしまうと、笑みを引っ込めて大通りを歩いた。
     いつものルチアーノだったら、絶対に写真など撮らせてくれないだろう。彼は正体を隠さなきゃいけないから、迂闊に写真に映ることができないのだ。
     でも、メイドカフェなら、彼も写真を撮ってくれる。写真だけじゃない。僕へのメッセージまで書いてくれるのだ。コンセプトカフェ店員のお仕事として、いつもならしないようなサービスをしてくれる。
     この写真は、僕の一生の宝物になるだろう。正体を隠している恋人とのツーショットである上に、手書きのメッセージまで書いてあるのだ。この世の中で、こんなに貴重なものはない。思わぬ副産物だった。
     人生で初めてのコンセプトカフェは、僕にとって忘れられない思い出になった。家に帰ったら、チェキを額縁に入れて飾ってみよう。そんなことを考えながら、僕は弾んだ足取りで帰路へとついたのだった。
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