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    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

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    誕生日ネタの続きのTF主ルチ。ルチに『あーん』をしてもらいたいという願望です。

    ##TF主ルチ

    『あーん』 翌朝は、いつもより早く目が覚めた。隣で服を着替えていたルチアーノが、退屈そうに視線を向ける。軽く頬を膨らますと、拗ねたような声で言った。
    「なんだ。もう起きたのかよ。からかってやろうと思ったのに」
     僕は、ゆっくりと布団から這い出した。顔を洗い、服を着替えると、キッチンへ移動して冷蔵庫の扉を開ける。中には、深皿に移されたマスカットのタルトが、昨日の食べかけのまま収まっている。僕の食べていたものは三分の一ほどが綺麗に残っているが、ルチアーノの食べていたものはほとんどがクリームだ。どうしようかと考えて、コーヒーに入れることにした。
    「ルチアーノも食べる?」
     尋ねると、ルチアーノはちらりとこちらに視線を向けた。すぐに視線を戻してから、興味の無さそうな声色で返事をする。
    「要らないよ」
     仕方なく、一人分だけ食器を用意した。スプーンを取り出すと、大量に残ったクリームに突き刺した。
     生クリームを掬い取り、コーヒーの海に落としていく。真っ黒だったカップの表面は、すぐに茶色のまだらになった。液体からスプーンを取り出すと、そのまま口に含む。こんなに砂糖の味がするのに、思ったより甘くない。
     ケーキをつついていると、ルチアーノがそろそろと近づいてきた。形の崩れたケーキを見ると、にやにやと笑いながら声をかける。
    「貸せよ」
     返事も聞かずに、無理矢理スプーンを奪い取った。ケーキに刺し込むと、クリームとマスカットを掬い取る。
    「どうしたの?」
     尋ねると、彼はにやにやと笑った。何かを企んでいる顔だ。少し嫌な予感がする。
    「せっかくだから、イイコトをしてやろうと思ってさ」
     そう言うと、彼はスプーンをこっちに差し出した。顔の前に突きつけると、にやにや顔を保ったまま言う。
    「はい、あーん」
    「えっ……?」
     僕は、呆然とその姿を眺めていた。目の前の光景が理解できなかったのだ。彼は何をしているのだろう。この構えはどう見ても、俗世に伝わる『あーん』というものだ。
    「なんだよ。食べないのかよ」
     頭を巡らしていると、ルチアーノは急かすように言った。考えている暇がなくなって、慌てて顔を突き出す。スプーンを口に入れようとすると、すぐに躱されてしまった。
     重力に導かれるままに、僕は体勢を崩す。前に倒れそうになったところを、直前で持ち直した。ルチアーノに視線を向けると、声を上げて非難する。
    「何するの? 危ないでしょう」
    「引っ掛かったね。僕が『あーん』なんてすると思うかい? 君は、少し人を信じすぎる癖があるみたいだね」
     ケラケラと笑いながら、ルチアーノは弾んだ声で言う。マスカットを乗せたスプーンを口に運ぶと、一口で平らげた。見事な間接キスだ。
    「あっ」
     声を上げると、彼は怪訝そうな顔で僕を見た。奇妙なものを見たような声で言う。
    「なんだよ」
    「間接キス……」
     僕が呟くと、今度は呆れたような表情を見せる。付き合ってられないとでもいうような態度で、再び言葉を発した。
    「そんなの、今さら気にすること無いだろ。僕たちは、これまでにも散々口づけをしてるじゃないか」
    「そうだけどさ……」
     そんなことは分かっている。それでも、やっぱり気にしてしまうのだ。僕は年頃の男の子なんだから。
    「ほら、こいつを返してやるよ。とっとと続きを食べな」
     僕に興味を失ったのか、ルチアーノがスプーンを差し出してくる。その姿を見て、僕の欲望は膨れ上がってしまった。
    「あのさ」
    「なんだよ」
    「『あーん』してほしい」
     僕の言葉を聞くと、ルチアーノは動きを止めた。眉を真上に吊り上げると、甲高い声を上げる。
    「はあ?」
    「だから、その、『あーん』してほしい」
     もう一度言うと、今度は呆れたように眉を沈める。相変わらず、表情豊かな男の子だ。
    「嫌だよ。君はもう結婚できる歳なんだろ? ケーキくらい一人で食べな」
    「誕生日だったんたから、それくらいいいでしょ。特別にお祝いしてよ」
     嫌そうに眉を動かすルチアーノを、真正面から見つめる。眼力に押されたのか、彼は渋々受け入れてくれた。
    「分かったよ。一口だけだからな」
     そう言うと、彼はクリームとマスカットを掬い上げた。スプーンの先を、真っ直ぐに僕の方へと差し出す。心なしか、頬が赤く染まっているように見える。
    「はい、あーん」
     僕は、大きく口を開いてスプーンを飲み込んだ。クリームのこってりした甘味が、口の中いっぱいに広がる。身体を引いてスプーンを引き抜くと、マスカットを噛み砕いた。果実のさっぱりとした甘さは、クリームの重みを軽減してくれる。いくらでも食べられそうだった
    「満足したかよ」
     呟いて席を立とうとするルチアーノを、僕は腕を掴んで引き留めた。大きく口を開くと、『あーん』のおかわりを催促する。
    「もっと食べさせてほしい」
    「ああもう! ガキかよ!」
     怒ったように答えながらも、彼はクリームとマスカットを掬い上げた。乱暴に突き出すと、僕の口の中に押し込んでくる。
    「うぐっ……」
     かなり奥まで押し込まれて、喉から声が出てしまった。口を押さえながらえずいていると、ルチアーノが怒ったように宣言する。
    「こうなったら、全部食べてもらうからな。途中で気持ち悪くなっても知らないぞ」
     どうやら、怒らせてしまったらしい。不満そうに鼻を鳴らしながら、タルトのクリームを掬い上げている。差し出されたスプーンを咥えながら、僕は必死ににやけを押さえていた。
     ルチアーノは、僕のために『あーん』をしてくれているのだ。理由はどうであれ、その事実が嬉しかった。
     そのあとも、彼は淡々とスプーンを動かして、僕は次々とクリームを飲み込んでいった。山のようにあったクリームも、食べさせてもらえばあっという間になくなってしまう。すぐにお皿の上は空っぽになった。
    「食べたな。これで満足だろ」
    「うん。ありがとう」
     口元を拭いながら、僕はルチアーノにお礼を言う。僕の方をちらりと見ると、彼は不敵な笑みを浮かべた。
    「君の要望を聞いてやったから、今度は僕のお願いを聞いてもらおうか」
     散々『あーん』を求めておいて、今さら断ることなどできない。不安な気持ちになりながらも、僕は二つ返事で答えた。
    「いいよ。ルチアーノのお願いを聞いてあげる」
     せめて、難しい要求ではありませんように。そんなことを祈りながら、僕は次の言葉を待った。
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