Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

    文章や絵を投げます

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💕 🍇 🐥 🍣
    POIPOI 431

    流菜🍇🐥

    ☆quiet follow

    TF主ルチ。TF主とルチが喧嘩する話です。ルチ視点。メンタルが弱くて寂しがり屋なルチがいます。シリアスです。

    ##TF主ルチ

    喧嘩 明け方の町は、まだ眠っているように静かだった。人気のない公園の、古びたブランコに腰を下ろして、僕は足を宙に上げる。身体を前後に動かすと、ゆっくりと台座が動き始めた。
     秋の冷たい風が、僕の身体に叩きつける。寒さなんて感じないはずなのに、なぜか寒くて仕方なかった。明け方の冷気は僕の心に入り込み、心臓の奥を冷たく凍りつかせる。震える身体を押さえ付けるように、力一杯ブランコを漕いだ。

     きっかけは、些細な言い争いだった。
     僕が挑発するようなことを言って、彼が買い言葉で言い返す、いつものやり取りだ。僕たちにとっては日常茶飯事になりつつある、他愛の無い言葉遊びである。僕はそんなやり方でしか彼に甘えられないし、彼もそれをよく分かっている。だから、喧嘩になんてなるはずもなかったのに。
     気がついたら、僕は頭に血が上っていた。彼を睨み付けると、激情のままに言葉を吐く。彼は、傷ついた顔をしてから、僕に何かを言い返した。お互いに一歩も譲らないまま、僕たちは日頃の不満をぶつけ合う。

    ──君なんて大っ嫌いだ!

     そう言ったのは、本当に本心からだったのだろうか。激情に流されたままの、冷静さを失った言葉だったのだろうか。それすらも、その時の僕には分からなかった。
     彼は、傷ついた顔をしていた。顔を歪めて、泣いているような、怒っているような顔で僕を見ていた。彼のそんな顔を、僕は今まで見たことがなかったのだと、その時になって初めて気がついた。
     彼は真っ直ぐに僕を睨み付けた。いつもの優しい態度が嘘のような、鋭い視線だった。そこに『大人の威圧』を感じ取って、僕は心臓が止まりそうになる。この期に及んでも、この肉体は大人に弱いのだ。

    ──もういいよ。ルチアーノなんて知らない

     それから、僕はどんな行動を取ったのだろう。気がついたら、ひとりぼっちで繁華街を歩いていた。時刻は夜の九時を過ぎているのに、町の中は昼間のように明るい。酔っ払ったサラリーマンの集団が、大声を上げながら僕の隣を通り抜けた。
    「君、一人で何してるの?」
     不意に、真上から声が聞こえてきた。見上げると、警備員の男が僕を見下ろしている。一人で歩く僕を見て、迷子か何かだと思ったのだろう。人の良さそうな笑みを浮かべると、宥めるような声で言う。
    「パパとママはどこにいるのかな? はぐれちゃったなら、探してもらおうか」
     その言葉も、今の僕には心を貫くトゲにしかならなかった。目の前の男を睨み付けると、突き放すような声で言う。
    「パパもママも、とっくの昔に死んじゃったよ」
     男が虚をつかれたような顔をした。動きが止まった隙を見て、駆け足で男の前から立ち去る。後ろから、慌てたような声が聞こえてきた。
    「待ってよ、ひとりだと危ないよ!」
     一目散に駆け抜けると、大通りから少し外れた公園に辿り着いた。砂が敷かれただけの何もない空間に、ブランコだけがぽつんと置かれている、味気ない公園である。ひとりぼっちで佇むその姿は、まるで今の僕のようだ。
     僕は、ひとりぼっちだった。同じ存在から作られた仲間はいても、それは家族という関係ではない。いや、同じ目的を持ち、同じ行動を取っているだけで、仲間であるかすら怪しいのかもしれない。僕たちに帰属意識などはなく、ただ神の命に従っているだけなのだから。
     だから、僕にとって仲間と呼べる相手は一人だけだった。ネオドミノシティで出会った、謎の青年である。彼は僕の誘いに乗ってタッグパートナーの契約を交わし、僕を人生のパートナーにまでしようとした。僕を本気で愛する物好きなんて、彼以外にはいないだろう。
     ブランコに座ると、僕はゆっくりと地面を蹴った。身体に力を入れ、ゆらゆらと前後に揺らす。脳裏に浮かんでくるのは、僕の言葉を受け止めた時の青年の表情だ。あれほどまでに苦しそうな顔は、これまでに一度も見たことがない。
     どうして、あの青年は僕の側にいてくれるのだろう。こんなにも我が儘で、面倒臭い僕のことを、側に置いていてくれるのだろう。彼はモテるのだから、僕と別れたところで恋人になってくれる女の子は山ほどいる。だったら、そっちに流れてしまえばいいはずなのに。
     空を見上げると、星がキラキラと輝いていた。ここは街灯から離れているから、上空の景色もよく見える。
     彼も、この星空を見ているのだろうか。そんなことを考えて、すぐに意識を頭から追い出す。これ以上あの青年のことを考えたら、僕は泣き出してしまうかもしれない。
     地面に足を付けると、そっとブランコから立ち上がる。彼の家に帰れなくても、僕には別の拠点があるのだ。わざわざ、こんなところに留まっている理由はない。
     ワープ機能を起動すると、座標を玉座の間に設定した。ふわりと身体が浮かぶ感覚がして、僕の身体は時空の隙間へと吸い込まれた。

     プライベートジェットから降りると、外はほんのりと明るくなっていた。向こうでは昼間だったが、こっちでは明け方らしい。上空に視線を向けて、紫とオレンジの混ざりあった空を眺める。僕たちに時間の感覚は無いから、これまでは空の色など気にしていなかった。
     今頃、彼は眠っている頃だろう。寂しがり屋な彼のことだ、不安で眠れない夜を送っているかもしれない。朝はちゃんと起きているのだろうか。食事だって、僕が見ていないとまともなものを食べないのだ。喧嘩のショックで生活が破綻しているかもしれない。
     彼と喧嘩してから、今日で三日になる。その間、僕は一度も彼の元を尋ねなかったし、彼から連絡が来ることもなかった。思えば、僕から彼への連絡手段は持っていたものの、彼から僕への連絡手段は与えていなかった。連絡しようにも、方法が無かったのかもしれない。
     僕は歩き出した。今すぐに彼の元を尋ねたかったが、この時間だと起きていないだろう。どこかで時間を潰さなければならない。
     気がついたら、町外れの公園に辿り着いていた。静かにブランコを漕ぎながら、時間が経つのを待つ。冷たい風に身を委ねながら、僕は静かに下を向く。瞳からは、ポタポタと熱い水が溢れてきた。
     帰りたいと思った。彼の温もりは、いつでも僕を包み込んでくれる。僕に、人間の温もりを与えてくれる。いつの間にか、僕は彼の温もり無しでは生きられなくなっていたのだ。
     彼は、僕を許してくれるだろうか。ひどいことを言った僕を、受け止めてくれるだろうか。僕を、好きでいてくれるだろうか。

    ──僕を嫌いにならないで

     そんな言葉が心を横切って、僕は愕然とした。僕は、彼にすがっているのだ。彼の優しさに甘えて、許しを求めている。苦笑してしまうほどに、人間じみた感情だった。
     人間に好意を向けるなんて、僕には信じられないことだった。そんなの、神の代行者らしくない。僕たちは、常に冷徹でいなくてはならなかったのに。
     静かに涙を流していると、空が明るくなってきた。ブランコから降りると、歩いて彼の家へと向かう。ワープを使えば一瞬の距離だが、そんな気にはなれなかった。今は、時間をかけて彼の元を目指したい。すぐに顔を合わせられるほど、心の整理がついていなかったのだ。
     玄関の前に経つと、人間のようにチャイムを鳴らした。パタパタと足音がして、玄関の扉が開く。目の前に、彼の姿が現れた。
    「ルチアーノ……」
     彼が、小さな声で言った。扉を半分開いたまま、呆然としたように口を開ける。固まったままの彼を見ていたら、少し気持ちが緩んできた。
    「なんだよ。そんな間抜けな顔してさ」
    「もう、会えないかと思った……」
     泣きそうな声で言うと、ゆっくりと僕の方に歩み寄る。ぎこちない仕草で手を広げると、僕の身体を抱き締めた。
     彼は、泣いていた。さっきまでの僕のように、弱々しい声で嗚咽の声を漏らしている。抑えようとしているみたいだが、少しも堪えられていない。彼の泣き声を聞いていたら、僕まで泣きたくなってしまった。
    「何泣いてるんだよ。子供みたいだぞ」
     からかおうとしても、途切れ途切れの鼻声になってしまう。僕を抱き締めたまま、彼も震える声で言った。
    「ルチアーノだって泣いてるでしょ」
     それからしばらくの間、僕たちは抱き合ったまま涙を流していた。少し落ち着いてくると、彼が僕の身体を離す。玄関の扉を開くと、まだ震えている声で言った。
    「とりあえず、中に入ろう」
     彼に先導されて、僕は家の中へと足を踏み入れる。三日ぶりの彼の家は、僕を拒んでいるように感じた。この建物は知っているのだ。僕が、家の主人を傷つけたことを。
     彼は僕を座らせると、キッチンの奥へと向かった。食器棚からマグカップを取り出すと、こちらを振り向いて声をかける。
    「ルチアーノも飲む?」
     頷くと、彼はもうひとつマグカップを取り出した。牛乳を温めると、ココアの粉を溶かしていく。カップを二つ抱えると、片方を僕の前に差し出した。
    「ありがとう……」
     小さな声で言うと、まだ熱いココアに口を付ける。彼は猫舌だから、何度も息を吹きかけてから、液体を口に含んでいる。それでも熱かったのか、苦しそうに顔をしかめた。
    「ルチアーノ」
     彼に声をかけられて、僕はドキリと心臓を鳴らす。何を言われるのかと、居ずまいを正しながら身構えた。
    「この前はごめんね」
     意外にも、それは謝罪の言葉だった。驚いて顔を上げると、彼も僕を見つめている。柔らかい表情で微笑むと、優しい声で言った。
    「ルチアーノは僕に甘えてくれてたんだよね。僕なら受け止めてくれると思ってくれたのに、受け止めてあげられなかった。ずっと、後悔してたんだ」
     彼は語る。僕はひどいことを言ったのに、責任を感じて悩むなんて、彼は本当にお人好しだ。そんなことだから、僕みたいな存在に捕まるのだ。
    「僕も、悪かったよ」
     なんだか申し訳なくて、僕は小さな声で言った。驚いたように目を開く彼を見て、僕は小さな声で言い訳をする。
    「僕だって、君にひどいことを言っただろ。そんなの、嫌われて当然だ」
     後半は、声が震えてしまっていた。泣き出しそうになる僕を見て、青年が優しく微笑む。
    「嫌いになんてならないよ。僕は、ルチアーノのことを信じてるから」
     その言葉に、余計に波だが溢れてしまった。抑えたいのに、次々と熱い水が零れ落ちていく。嗚咽を漏らしながら、僕は涙を流していた。
     不意に、彼が席を立った。僕の側に近寄ると、指先で顔を上げさせる。自分の顔を近づけると、唇と唇を重ね合わせた。
    「んっ……」
     予想もしていなかった行動に、僕は驚いて動きを止める。顔が離れる頃には、流れていた涙も止まっていた。呆然と目を見開く僕を見て、彼が優しく笑う。
    「泣き止んだね。これが、仲直りのキスだよ」
    「なんだよ、それ」
     僕が言い返すと、再び唇を押し付けられた。やられっぱなしでは悔しくて、口の中に舌を差し込んでやる。今度は、彼が驚く番だった。
    「びっくりした……。急に舌を入れるのはやめてよ」
    「君だって、急にキスしてきただろ」
     こそこそと言い合ってから、僕たちは顔を見合わせて笑う。もう、涙は止まっていた。
    「ねぇ、知ってる? 恋人同士っていうのは、喧嘩するほど仲良くなれるんだよ」
     青年が優しい声で言う。その声を聞いていたら、恐れるものは無いように思えた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🙏🙏💒💞💞💞
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works