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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチのいい夫婦の日ネタ。ルチがTF主くんを喜ばせようと夫婦ごっこをしてるだけの話です。

    ##TF主ルチ
    ##季節もの

    夫婦ごっこ 家に帰ると、リビングに明かりがついていた。白くて淡い光が、カーテンの隙間から覗いている。今日は、ルチアーノが先に帰っているみたいだ。暖房の温もりを恋しく思いながら、僕は玄関の鍵を開けた。
     廊下を通ると、リビングの扉を開ける。暖かい空気と共に、肉が焼けるいい匂いが漂ってきた。ジュージューと音を立てながら、ルチアーノがキッチンに立っている。珍しいことだと思いながら声をかけようとすると、彼は手を止めて振り返った。
    「ああ、帰ったのか」
     呟くと、もったいぶった仕草で僕の前へと歩み出る。その姿を見て、僕は言葉を失ってしまった。彼は、いつもの白い上下の上に、フリルの付いたエプロンを着ていたのだ。一歩足を踏み出す度に、余った裾がひらひらと揺れる。予想外の姿に呆然とする僕を見て、彼はにやりと笑った。
    「おかえり。食事にするかい? 風呂にするかい?」
     ねっとりとした声色で、定番のセリフを語る。一度言葉を切ると、僕の近くまで歩を進めた。耳元に顔を近づけると、吐息を含んだ声で囁く。
    「それとも、僕といいことをするかい?」
     誘うような甘い声に、顔が熱くなった。状況は呑み込めないのに、心臓がドクドクを音を立てる。彼は、何をしているのだろうか。少しも意図が読めなかった。
     彼はゆっくりと顔を離す。決まったとでも言いたげな表情を浮かべると、真っ直ぐに僕を見つめた。返事を待っているのは分かるが、何を答えたらいいのか分からなかった。
    「えっと…………」
     呟いてから、まじまじとルチアーノを見つめる。彼の着ているエプロンは、丸くなった裾にフリルがたくさんついているタイプだ。大人用のものを無理矢理合わせているのか、少し布が余っている。胸元に汚れがついているのは、料理をしていた形跡だろう。
    「何、してるの?」
     結局、僕の口から零れたのはそんな言葉だった。僕には、彼の目的が分からなかったのだ。今の僕に伝えられるのは、純粋な疑問だけだった。
     僕の言葉を聞くと、彼は頬を真っ赤に染めた。両目を鋭く吊り上げると、真っ直ぐに僕を睨み付ける。
    「なんだよ、その反応は。君が喜ぶと思って奉仕してやったのにさ」
    「そんなこと言われても、何を答えていいか分からなかったんだよ。どうしてそんな格好をしてるの?」
     続けて尋ねると、彼はさらに不機嫌になる。鼻を鳴らすと、持っていたお玉で頭を叩いてきた。そもそも、なんでお玉なんて持ってるんだ? 前後の繋がりが分からない。
    「なんで分からないんだよ。去年はあんなに張り切ってた癖にさ。…………今日は、いい夫婦の日なんじゃなかったのか?」
    「あっ」
     そこまで言われて、さすがの僕も解答にたどり着いた。今日、十一月二十二日は、世間ではいい夫婦の日と呼ばれているのだ。彼の奇妙な振る舞いは、夫婦の真似事なのだろう。
    「なんで忘れてるんだよ。奉仕して損したぜ。来年からはやらないからな」
    「ごめん。怒らないでよ」
     僕は必死に謝った。最近はいろいろあって、そこまで頭が回っていなかったのだ。彼は恥を忍んで僕を喜ばせようとしてくれたのに、僕は真意に気づかないままスルーしてしまった。彼にとって、それはどれだけ屈辱だっただろう。
    「なんだよ。そんなに嬉しくないんだろ。なら、もうやらなくてもいいよな」
    「嬉しいです。ありがたく受け取ります。だから、怒らないで」
     頭を下げると、彼はようやく機嫌を直してくれた。息をつくと、お玉を片手にキッチンへと帰っていく。ガシャンと音を立てながら、シンクにお玉を置いていた。
    「とりあえず、食事はできてるから。好きな時に食べな」
    「ありがとうございます」
     お礼を言ってから、僕はキッチンを覗き込んだ。鍋の中は味噌汁で満たされ、フライパンの上には厚めの肉が焼かれている。食器を取り出すと、温めた食事をお皿の上に乗せた。テーブルに移動すると、ルチアーノが冷蔵庫から何かを出してくる。
    「野菜不足は健康を害するからな。残さず食べろよ」
     差し出されたのは、サラダの入ったボウルだった。。至れり尽くせりなメニューだ。
    「いただきます」
     しっかりと両手を合わせてから、僕は食事を口に運んだ。自分の家で、こんなにしっかりとした食事を取るのは久しぶりだ。ルチアーノは料理が得意だから、味噌汁は具だくさんでお肉も柔らかい。有り難みを感じながら、僕は出された食事を口にした。
    「味はどうだよ」
     ルチアーノが、僕の向かい側に腰を掛ける。尋ねているわりには、自信満々な表情だった。それだけ自分の腕に自信があるのだろう。
    「おいしいよ。ありがとう」
     答えると、彼はにやりと笑った。平らな胸を張ると、すっかり機嫌を直した声で言う。
    「まあ、僕が作ったんだから当然だよな」
     ルチアーノの作ってくれた食事を、僕は一瞬で平らげてしまった。温かいものを食べられるのが嬉しくて、味噌汁をおかわりしてしまう。満腹になると、僕は思っていたことを口にした。
    「それにしても、ちょっと意外だったな」
    「はぁ? なんのことだよ」
     ルチアーノが、怪訝そうに眉を動かす。彼の顔を見つめながら、僕は言葉を続けた。
    「ルチアーノの想像する夫婦が、こういう典型的なイメージだったなんてさ」
     僕の言葉を聞くと、彼は呆れたような顔をした。心底分からないという表情を浮かべると、気の抜けた声で言葉を投げる。
    「何言ってるんだよ。こんなの、君を喜ばせるためのパフォーマンスに決まってるだろ。僕が毎晩食事を作るなんて面倒なことをすると思うかい?」
    「僕は、ルチアーノにご飯を作ってもらいたいな。今日の夜ご飯は、本当においしかったから」
     素直な言葉を返すと、彼は恥ずかしそうに頬を染めた。僕から視線を逸らすと、小さな声で呟く。
    「褒めても、何もしないぞ」
     夫婦というのは、こういうやり取りをするものなのだろうか。これはルチアーノのごっこ遊びだけど、いつかは本当にご飯を作ってくれる日が来るのかもしれない。そんな日が来たらいいと、微かに考えてしまう僕がいた。
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