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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチ。ルチがぶつかってくるおじさんをはね飛ばすところが見たいという妄言です。おじさんを煽るルチが見たい(願望)。

    ##TF主ルチ

    反撃 駅のコンコースは、たくさんの人で溢れていた。制服を着た高校生や、スーツ姿のサラリーマン、オフィスカジュアルな私服に身を包んだOLらしき女性など、多種多様な職種の人々が、電車に向かって歩いている。どうやら、夕方の通勤・通学ラッシュに巻き込まれてしまったらしい。普段なら電車になんて乗らないから、すっかり忘れてしまっていた。
     僕は、そっとルチアーノの手を握った。この人混みの中ではぐれたら、追いかけるのは大変だ。小柄な彼はともかく、僕にはこの人混みをすり抜けるなんて至難の技なのだ。彼のスピードになんてついていけなかった。
     改札を通り、駅の内部へと入ると、人口密度はさらに増した。気をつけて歩かないと、すれ違う人と肩がぶつかってしまいそうだ。気持ちだけでも身体を小さくしながら、前の人に続いて階段を目指した。
     その時、僕の少し前から、小さな悲鳴が聞こえてきた。視線を向けると、若い女性が靴を履き直している。近くを通っていたと思われるサラリーマンが、心配するように声をかけていた。それから少し遅れて、肩を怒らせた男性が僕の隣を通りすぎていく。何があったのかは直感的に分かった。
    「ぶつかったのか? 人間はどんくさいから、こんなのも避けられないんだな」
     隣から、ルチアーノの呑気な声が聞こえる。彼の身体を引き寄せると、囁くように否定した。
    「違うよ」
    「は?」
    「あの女の人は、わざとぶつかられたんだ。若い女性だから狙われたんだよ」
    「はぁ?」
     まるで意味が分からないと言った様子で、ルチアーノは大きく口を開ける。女性が再び歩きだしたのを見届けてから、僕は壁際のスペースに移動した。
    「今のは、世間で有名な『ぶつかってくるおじさん』なんだ。若い女性や子供を狙って、肩をぶつけてくるんだよ。…………ほら、見てて」
     そう言うと、僕は改札内に視線を向けた。階段に繋がる狭いスペースを、大勢の人が通り抜けていく。エスカレーターは登りしか設置されていないようで、人々は吸い込まれるように階段へと向かっていく。
     改札から入ってきた男の人が、人混みの中心を突っ切るように歩いている。前を歩いていた女子高生がぶつかりそうになり、友達に手を引かれて衝突を免れる。彼女たちが非難するような視線を向けた時には、男は階段へと足を踏み入れていた。登ってきた人と肩がぶつかり、苛立たしげに舌打ちをする。
     ルチアーノは、その姿を冷めた瞳で見つめていた。さけずむような冷ややかな視線は、僕は一度も向けられたことの無いものだ。どこまでも冷たくて、身体が凍えるような恐ろしさを持っている。僅かに恐怖心を感じながらも、僕は彼に声をかけた。
    「ね。見たでしょ」
    「下らないことをするやつもいるもんだな。そんなことをしたって、優位なんか示せるわけがないのに」
     ルチアーノが呆れたように言う。その冷えきった声色からは、確かな怒りが感じられた。彼が人間に対して怒りを示すなんて珍しい。人を見定める立場の彼にとって、人間同士のいさかいなど気にかける必要もないはずなのだ。
    「だから、後ろに下がっておこうよ。ルチアーノは見た目が子供だから、ぶつけられちゃうかもしれないよ」
     僕が言い終わらないうちに、ルチアーノは歩みを進めていた。僕の手を引きながら、階段の方へと向かっていく。小さな身体を見せつけるように、人混みの真ん中を歩いていた。
    「待ってよ。危ないよ」
     声をかけるが、彼は歩みを止めなかった。電車が着いたところなのか、階段の奥からは新しい人の波が近づいている。ルチアーノを避けようとに左右に分かれる様子は、まるでモーセの十戒だ。
     その中央に、大柄な男の人の姿が見えた。周囲の人々を掻き分けるようにして、我先にと前に出ている。いかにもといった態度だった。
     男の視線が、真っ直ぐにルチアーノを捉える。ルチアーノも、挑発するように相手を見つめた。緊迫した空気を纏いながら、二人は距離を縮めていく。その姿を、僕はひやひやしながら眺めていた。
     二つの身体は、階段の前ですれ違った。衝突音を上げながら、半身と半身がぶつかる。手のひら越しに衝撃が伝わってきて、思わず目を閉じてしまう。次に目を開いた時には、男が尻餅をついていた。
     ぽかんとした表情で、男はキョロキョロと周囲を見渡す。突然のことに、何が起きたのか分からなかったらしい。当たり前だ。自分よりも頭ひとつ小さい子供に弾き飛ばされたのだから。
     一緒に過ごしていると忘れがちだが、ルチアーノはアンドロイドなのだ。普段は内部機能で調整しているが、本来の体重は三桁を軽く越えている。成人男性であっても、体重で弾き飛ばすことは容易なのだった。
     ルチアーノはにやりと笑みを浮かべた。くすくすと笑みを漏らしながら、男の間抜けな姿を見下ろす。相手と目が合うと、挑発するような口調でこう言った。
    「大丈夫? おじさん、すごい勢いで跳ねてたよ?」
     僕たちの後ろからは、がやがやと野次馬の声が聞こえてくる。僕たちが道を塞いでいるから、通行人も通るに通れないようだった。改札に向かっていた人々も、騒ぎを聞き付けて周囲を取り囲む。あっという間に、僕たちは注目の馬とになっていた。
    「子供に撥ね飛ばされちゃうなんて、本当に恥ずかしいよな。通行人にも注目されて、顔を覚えられたかもしれないぜ。これに懲りたら、わざと他人にぶつかるのはやめるんだな」
     ルチアーノは淡々と言葉を続ける。周囲から突き刺さる視線を受けて、男はようやく状況を理解したようだった。顔を真っ赤に染めると、そそくさとその場に立ち上がる。怒り出すのではないかと心配したが、そんな様子はなかった。ただ、呆然とルチアーノの姿を見つめている。
    「えっと、その、すみません」
     控えめに謝ってから、僕はルチアーノの手を引っ張った。駆け足で階段を降り、ホームの隅まで駆け抜ける。後ろを振り返ったが、男がついてくる様子はなかった。
     僕は、隣のルチアーノに視線を向けた。彼は、不満そうな表情を浮かべている。僕が歩みを止めると、非難するように言った。
    「何するんだよ。せっかくいいところだったのにさ」
    「それはこっちのセリフだよ。急に何するの? トラブルにならないか心配したでしょ」
     僕が言い返すが、彼はけろっとした様子で僕を見ているだけだった。場合によっては大事になっていたと言うのに、少しも反省している気配はない。心配になる態度だった。
    「その時は、相手を潰せばいいだろ。人間の力なんか、僕には敵わないんだから」
    「ダメだよ。こんなところで揉め事を起こしたら、セキュリティに通報されるよ」
    「その時は揉み消せばいいだろ。僕たち治安維持局は、セキュリティのトップなんだから」
     ルチアーノはにやりと笑う。ちっとも話にならなかった。そんなことばかりしてるから、彼は敵が多いのだ。口が裂けても言えないけど、そんなことを思ってしまった。
     そんなやり取りをしていると、列車の到着を知らせるメロディが流れてきた。ガタンゴトンと表現される騒音と共に、電車がホームに滑り込んでくる。ルチアーノの手を引くと、ドアの前まで歩み寄った。
    「とりあえず、電車に乗るよ」
     開いたドアからも、たくさんの人が流れ出てくる。降りる人を待ってから、車内の中央へと乗り込んだ。扉が締まり、電車が音を立てて発車する。
    「まあ、これであいつも分かっただろうよ。見た目で判断してると、いつかは痛い目に合うってさ」
     きひひと笑い声を上げながら、ルチアーノは楽しそうに言う。彼は、見た目で判断する人間が気に入らなかったらしい。彼らしい理由だった。
    「そうかもね」
     答えながらも、僕は考えていた。彼は、このまま私刑のようなことを続けるつもりなのだろうか。トラブルを増やされたら困るなと、心の中で思うのだった。
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