Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

    文章や絵を投げます

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💕 🍇 🐥 🍣
    POIPOI 421

    流菜🍇🐥

    ☆quiet follow

    TF主ルチ。ルチがTF主くんの実家でお正月を過ごす話です。一応夏祭りの話の続きになってます。捏造しかありません。

    ##TF主ルチ
    ##季節もの

    年末年始「今年の年末年始は、実家に帰ることにしたから」
     そう言うと、ルチアーノは黙って顔を上げた。僕を見つめる瞳が、驚愕の色に染まっている。信じられないものを見たような、外見相応の反応だ。しかし、その表情も、一瞬のうちに消えていってしまった。
    「ふーん。君がそうしたいなら、帰ればいいじゃないか。一人になるくらい、寂しくもなんともないからね」
     平静を装ったような、少し上ずった声で、彼は言葉を返してくる。自分が置いていかれると思って、不安を感じているのだろう。その執着心に、少しだけ嬉しさを感じてしまう
    「実家には、ルチアーノも一緒に帰るんだよ。今度は父さんも帰ってくるみたいだから、紹介したいと思ったんだ」
     そう言うと、彼は再び表情を変える。安心と不安が混ざったような、複雑な表情だった。
    「そうかよ。そういうことなら、付いていってやらなくもないけど」
     上から目線の言葉は、強がりの表れだろう。突然の話なのだから、不安に思うのも無理はない。ただでさえ、彼は恋人としての振る舞いが苦手なのだ。
    「じゃあ、そういうつもりでよろしくね。大晦日のお昼に着くように出掛けるから、朝には家に来てくれると嬉しいな」
     そう言うと、彼は黙ったまま頷いた。素直に受け入れてもらえて、僕も安心する。そう。不安を感じていたのは、彼だけではなかったのだ。

     大晦日の電車は、人で溢れ帰っていた。ホームの入り口を覗いただけでも、スーツケースを抱えた人々が行き交っている。みんなコートやマフラーを着込んでいて、防寒はばっちりだ。着ぶくれしている分、必要とするスペースも増えてしまう。改札の中は、隙間もないほどに人が詰め込まれていた。
    「うわぁ。人がごみのようじゃないか。こんなことなら、ワープで移動すれば良かったぜ」
     ホームで電車を待つ人々を眺めながら、ルチアーノは僕の耳元で囁く。どこかで聞いたようなセリフだったが、突っ込む気力はないからスルーすることにした。大晦日なら帰省ラッシュを避けられるかと思ったが、そう上手くは行かないらしい。スーツケースと子供を見ながら人混みを抜けるのは、思っている以上に疲れるのだ。
     しばらく待っていると、特急列車がやって来た。スーツケースを持ち上げると、やっとの思いで電車に乗り込む。乗り換えを済ませるまで、必死の思いでルチアーノを庇った。
     乗り換えの駅に着くと、人混みを掻き分けて外に出た。田舎へと向かう鈍行電車は、都会よりも人が少ない。ガラガラのまま走っている電車を見て、ルチアーノがにやりと笑った。
    「こっちはガラガラなんだな。さすが田舎だ」
    「座れるんだからいいでしょ。田舎だって、それなりにいいものだよ」
     軽口に軽口で答えながら、空いている席に腰を下ろす。くたくたに疲れた身体に、柔らかい座席は染み渡った。
     ホッと息をつくと、腰につけていたポーチに手を伸ばした。袋入りの飴を取り出して、口の中に放り込む。ルチアーノの肩を叩くと、飴の袋を差し出した。
    「ルチアーノも食べる?」
    「別にいい」
     夏の再放送のような会話を終えると、窓の外に視線を向けた。半年ぶりに見る田舎の景色は、夏の時と少しも変わっていない。流れていく背の低い建物を、ルチアーノと二人で眺めていた。
    「今日は、君の父親に会うんだよな」
     しばらく揺れに身を任せていると、沈黙を破るようにルチアーノが口を開いた。彼にしては珍しい。不安の滲んだ声である。視線を向けると、視線を下に向けていた。
    「そうだね。ルチアーノにとっては、親への挨拶になるね」
     答える声も、少し重苦しくなってしまった。僕にとっても、父さんへの挨拶は心配なのだ。父さんは、僕のことを一番に考えてくれている。優しいけど、少し厳しい人なのだ。
    「君の親は、僕のことを認めてくれるのか? 僕は、人間からしたらただの子供だろ。危ないと思われて、止められるんじゃないのか?」
     不安を隠すこともなく、ルチアーノは言葉を続ける。彼がこんなに弱気になるなんて、想像もしなかった。人間のことなんか気にしないと思っていたのに。
    「大丈夫だよ。ルチアーノが認めてもらえなかったら、僕が説得するから。真剣に交際してることを伝えたら、きっと分かってもらえるよ」
     そんな話をしているうちに、電車は目的の駅に着いた。人の少ないホームに下りると、スーツケースを引きずってバス停へと向かう。待っている間に、ぶどうジュースと温かいココアを買った。
    「そんなに心配しなくても大丈夫だよ」
     声をかけながら、ルチアーノにぶどうジュースを差し出す。さすがに気に障ったのか、彼は強い口調で言った。
    「心配なんてしてねーよ!」
     これだけの元気があれば、きっと大丈夫だろう。しっかりと手を繋いで、僕たちはバスが入ってくるのを待った。

     バスを下りると、ルチアーノは小さく息を吸った。緊張しているのか、身体が少し強ばっている。その姿を見ていると、僕まで緊張してしまった。
     チャイムを鳴らすと、すぐに足音が聞こえてきた。ドアノブを握る音が響いて、間髪入れずに扉が開く。そこには、笑顔を浮かべた母さんの姿があった。
    「よく来たね」
    「ただいま。帰ってきたよ」
     声をかけてから、家の中へと上がり込む。ルチアーノを待たせると、自分の部屋に荷物を置きに行った。キッチンからは、揚げ物の賑やかな音が聞こえてくる。確か、今日のお昼は天ぷらだと聞いていた。
    「ただいま。ばあちゃん」
     リビングに入ると、キッチンに向かって声をかけた。鍋に向かっていたばあちゃんが、僕たちに視線を向ける。
    「おかえり。ルチアーノくんも、よく来たね」
    「お邪魔します」
     小さな声で告げると、ルチアーノは困ったように僕の腕を掴んだ。恋人の実家なんて、滅多に足を踏み入れる場所ではない。緊張して当たり前だ。
     僕は、ソファに座っていた父さんに視線を向けた。ルチアーノのことが気になるのか、チラチラと視線を向けている。ソファの前に歩み寄ると、笑顔を浮かべて声をかけた。
    「ただいま。久しぶりだね」
    「久しぶりだな。元気にしてたか?」
    「元気だよ。大会でも優勝したりしてるんだ。今度は、WRGPにも出るんだよ」
    「そうか。がんばれ」
     世間話を済ませると、父さんはルチアーノに視線を向けた。本題はこっちなのだろう。真剣な声色で言う。
    「君が、ルチアーノくんか」
    「初めまして」
     ルチアーノも、同じくらい真剣な声で答えた。夏にも思ったことだが、こういう時のルチアーノは普段からは考えられないほどに謙虚なのだ。人間の前という環境がそうさせるのだろうか。少し不思議だ。
    「来てくれてありがとう。ゆっくりしていってくれ」
    「ありがとうございます」
     会話を終えると、ルチアーノはそそくさと父さんの前から下がった。間を取り持つように、母さんが僕たちに声をかける。
    「天ぷらも揚がってるわよ。一緒に食べましょう」
     母さんに案内され、僕たちは席に着いた。向かい側に、父さんと母さんが腰を下ろす。ばあちゃんは、お誕生日席に椅子を置いた。
     目の前には、炊き込みご飯と天ぷらが並べられていた。これが今日のメインらしい。相変わらず、盛大なおもてなしだ。テーブルの隅には、生野菜のサラダも置いてあった。
    「ありがとう。いただきます!」
    「いただきます」
     僕が手を合わせると、ルチアーノも同じように手を合わせた。箸を手にとって、山のように盛られた天ぷらに手を伸ばす。さつまいもや海老、かき揚げや山菜など、我が家の定番の具材が並んでいた。
    「君は、これを食べて育ったんだな」
     しみじみとした声で、ルチアーノが呟く。珍しそうに山菜を摘まむ姿を見て、母さんが声をかけた。
    「ルチアーノくんは、山菜は初めて?」
    「はい」
    「よかったら食べてみて。美味しいわよ」
     母さんに微笑まれ、ルチアーノは恐る恐る山菜を口に入れる。目を大きく開くと、小さな声で呟いた。
    「これが、山菜……」
    「炊き込みご飯もあるよ。どんどん食べて」
     今度は、ばあちゃんが食べ物を進めていく。二人に囲まれ、ルチアーノは次々と食事を口にした。父さんはあまり話さなかったが、元から口数が少ないから気にしない。お腹一杯になるまでご飯を頬張って、ようやく昼食が終わった。
    「じゃあ、僕たちは部屋に戻るね。ご飯の時間になったら呼んで」
     一言だけ告げてから、僕たちは二階へと上がっていく。部屋の扉を閉めると、ルチアーノが大きく息をついた。
    「君は、あんな食事を食べて育ったのか? 金持ちなんだな」
     突然の言葉に、暖房のコンセントを落としそうになった。お金持ちなんて、僕には似ても似付かない言葉だった。
    「違うよ。今日は大晦日だから、ばあちゃんが張り切ってるだけ。いつもは、こんなメニュー食べてないよ」
    「金持ちだろ。持ち家が二軒あって、両親は別居してるんだから」
    「この家はばあちゃんに譲ったから、僕たちの家じゃないよ。それに、父さんと母さんは賃貸に住んでるんだから」
    「同じようなものだろ。君の部屋は、こうしてそのまま残ってるんだから」
    「僕が泊まりに来たときのために残してくれてるんだよ。一人暮らしを始めてすぐの頃は、何度か遊びに来てたから」
    「ふーん。仲良し家族なんだな」
     気のない返事をすると、ルチアーノは押し入れの扉を開けた。おもちゃがそのまま残された収納を見て、楽しそうににやにやと笑う。わざとらしくこっちを振り向くと、意地悪な声色で言った。
    「前回は、途中までしかできなかったからな。今日こそ探らせてもらうぜ」
     からかう気満々の態度だった。子供のおもちゃだし、変なものは入っていないと思うが、家捜しをされるのは恥ずかしい。
    「あんまり、変なところは見ないでね」
    「嫌だよ。変なところが見たくて探ってるんだから」
     僕のお願いも聞かずに、ルチアーノは次々と引き出しを開けていく。中から出てくるのは、自分でも忘れていたようなおもちゃばかりだった。戦隊ヒーローの変身アイテムやアニメの主人公の武器もあれば、デュエルモンスターズ以外のアーケードゲームのカードから話題になった工作のおもちゃまであった。
    「懐かしいな。これは、僕が初めて見た戦隊ヒーローだったんだ」
    「これは、クラスで流行ってたアニメのおもちゃだよ。よく友達と遊んでたんだ」
    「これはアーケードゲームのカードだね。あの頃は、どこに行っても置いてあったな」
    「これは、通販のおもちゃだね。CMが流れてて、子供たちの憧れだったんだよ。買ってもらったけど、結局あんまり遊ばなかったんだ」
     ひとつひとつを手に取りながら、僕は思い出を語っていく。ルチアーノは興味が無いようで、気の無い返事で聞き流していた。取り出したおもちゃを置くと、次のおもちゃを探りに行く。
    「なあ、これはなんだよ」
     しばらくすると、ルチアーノが声をかけてきた。手に持っているのは、黒くて薄い機械のようなものだ。そのシルエットを見て、すぐにピンと来た。
    「それは、昔のゲーム機だよ。テレビに繋いで遊ぶタイプなんだ。たぶん、ソフトも残ってるはずだよ」
     答えると、僕は本棚に手を伸ばした。確か、ゲームのソフトはここに入れていたはずだ。パッケージの並ぶエリアを探ると、すぐに見つかった。
    「ほら」
    「ふーん。なかなかいいもんが残ってるじゃないか。遊ぼうぜ」
     引ったくるようにソフトを奪うと、手探りでコードを繋いでいく。機械には強いようで、迷うことなくテレビに接続した。
    「いいけど、ちゃんと動くかは分からないよ。ずっと仕舞い込んでたから」
    「その時は、別のおもちゃで遊べばいいだろ」
     答えながら、本体のスイッチを押す。機械が稼働する低い音と共に、スタート画面が表示された。テレビも本体も古いから、画質はこの世のものとは思えないくらいにガサガサだ。それが面白いのか、ルチアーノはケラケラと笑い声を上げた。
    「古いゲームっていうのは、こんなに見辛いんだな。こんなんで遊んでたなんて信じられないぜ」
    「今からしたらそうだけど、当時は最先端だったんだよ。十五年くらい前なんだから」
     軽口に答えながら、僕はソフトを押し込んだ。せっかく二人で遊ぶのだからと、複数人プレイのパーティーゲームを選んだ。心配していたが、ゲーム機は正常に起動してくれる。二つ目のコントローラーを繋ぐと、片方をルチアーノに渡した。
    「せっかくだし、勝負しようか。僕も久しぶりだから、そこまでハンデにはならないだろうし」
     そう言うと、彼は自信満々に笑みを返した。コントローラーを握りしめると、真っ直ぐに画面を見つめる。
    「いいぜ。負けても文句言うなよ」
     バトルモードを起動すると、僕たちの勝負が始まった。笑ったり叫んだり、時には悲鳴を上げながらも、全力でゲームと向き合っていく。ルチアーノは少しも手を抜かないから、僕も全力で挑まなければ勝てないのだ。必死に食らいついて、なんとか僅差で勝つことができた。
    「やった! 勝った! ルチアーノも、初めてのゲームは苦手なんだね」
    「今のは偶然だろ! もう一回だ!」
     ルチアーノにせがまれ、リトライボタンを押す。次のゲームは、ルチアーノが勝利した。自信満々に笑いながら、僕の方へと視線を向ける。
    「ほら、偶然だっただろ。僕の方が上手いんだから」
     そんなことをしていると、下から足音が聞こえてきた。振り返ると、母さんが僕の部屋を覗いている。にこりと笑うと、弾んだ声色でこう言った。
    「おやつを出したから、食べに来なさい。ケーキがあるわよ」
    「ありがとう。すぐに行くね」
     返事をすると、ルチアーノの手を引いて下へと降りた。机の上には、地元で有名なケーキ屋の箱が置かれている。蓋を開けると、人数分のケーキが入っていた。
    「好きなものを選んでいいのよ」
    「ルチアーノから選んでいいよ」
     僕たちに誘導され、ルチアーノは箱の中を覗き込んだ。クリームの少ないタルトを選ぶと、戸惑いながらもフォークで崩していく。僕は、クリームたっぷりのショートケーキを選んだ。
    「コーヒーもあるわよ。○○○とルチアーノくんは、カフェオレの方がいいかしら?」
     聞きながらも、母さんは既に動き出していた。二人分のカフェオレを注ぐと、横から机の上に差し出す。
    「ありがとう」
    「ありがとうございます」
     次から次へと提供される食べ物に、ルチアーノは困惑しているようだった。少しフォローを入れながらも、おやつの時間をやり過ごす。ようやく解放されると、ルチアーノは小さな声で言った。
    「君の家族は、食べさせたがりなんだな」
    「親っていうのは、みんなこんな感じだと思うけどね。ありがたくもらっておこうよ」
     お菓子をいくつか手に取ると、僕たちは二階へと上がった。僕にとっても、実家のゲームは久しぶりだ。まだまだ遊び足りなかったのだ。

     気がついたら、外はすっかり暗くなっていた。アナログ式の壁掛け時計は、午後の六時を指している。そろそろ夕飯の時間だった。
    「そろそろご飯だから、一度片付けようか」
     ルチアーノに声をかけると、コントローラーを机に置いた。本体の電源を落とし、コードを外して隅にまとめる。しばらく待っていると、下の階から声が聞こえてきた。
    「すき焼きの準備ができたよー!」
    「はーい!」
     大きな声で返事をしてから、ルチアーノを連れて下へと降りる。机の上にはコンロが設置され、大きな鍋が乗せられていた。
    「お肉もたくさんあるよ。いっぱい食べな」
     嬉しそうに言いながら、ばあちゃんが野菜を乗せたトレイを持ってきた。その後ろに、お肉のお皿を持った母さんが続く。席の前には、取り皿と卵が置かれていた。
    「ルチアーノは、すき焼きは初めてなんだっけ? お皿に卵を割って食べるんだよ」
     お手本を示すように、生卵をお皿に割る。ルチアーノも、僕と同じように卵を割った。その間に、ばあちゃんがコンロに火をつけている。野菜とお肉を放り込むと、ぐつぐつと美味しそうな音が聞こえた。
    「お肉はまだあるから、遠慮しないで食べてね」
     箸を握りしめながら、ばあちゃんは僕たちに言う。煮えた肉や野菜をつまみ上げると、僕たちのお皿に乗せていった。
    「ありがとう」
    「ありがとうございます」
     熱々に煮えたお肉を、生卵に絡ませてから口の中に押し込む。いつもは食べられないような霜降りのお肉は、とろけるようなおいしさだった。野菜を箸休めにしながら、次々と乗せられるお肉を口に入れていく。
     隣に視線を向けると、ルチアーノは野菜をつついていた。彼はあまりお肉が好きではないから、箸が進まないのだろう。
    「ルチアーノくんはあんまり食べてないみたいだけど、よそわなくても大丈夫?」
     向こう側から、母さんが声をかけてくる。困った顔をする彼の代わりに、僕が返事をした。
    「ルチアーノは、あんまりお肉が好きじゃないみたいなんだ。おやつも食べてるから、あんまりお腹も空いてないみたい」
    「あら、そうなの? 欲しかったらいつでも言ってね」
     おかわりを勧められながら、家族全員ですき焼きをつついていく。シメに投下されたうどんも、五人で食べればぺろりだった。お腹がいっぱいになると、今度はお風呂の時間だ。
    「お風呂は入ってるから、若い子から行ってきな」
     母さんに急かされ、ルチアーノからお風呂に入ることになった。着替えを取りに行くと、僕の耳元に口を近づける。
    「せっかくだから、一緒に入ってもいいんだぜ」
    「えっ?」
    「冗談だよ」
     にやにやと笑いながら、彼はお風呂へと向かっていった。半日経って、大分余裕が出てきたみたいだ。いいことなのだろうけど、少し心臓に悪い。
     ルチアーノを見送ると、僕はリビングに向かった。まだ、父さんとちゃんと話ができていなかったのだ。父さんも同じことを思っていたようで、向こうから声をかけてくれた。
    「○○○」
    「はい」
     答えると、父さんは苦笑いした。僕の緊張が伝わったのだろう。笑みを含んだ声色で言う。
    「そんなにかしこまらなくてもいい」
     そんなことを言われても、やっぱり緊張してしまう。父親に恋人を認めてもらえるかは、僕たちにとって重要なことなのだから。
    「ルチアーノくんは、いい子そうだな」
     僕の反応を探るように、父さんは言葉を続ける。迷っているような、控え目な声色だった。
    「……やっぱり、反対してる?」
    「本心を言えばな。結婚を考えるには、お前もあの子もまだ若すぎる。口約束にしかならないだろう」
    「そうだね」
     僕の返事も、少し弱々しくなってしまう。僕たちの関係は、周りから見たら子供同士の約束なのだ。反対されて当然だろう。僕が顔を下げると、父さんは困ったように笑う。
    「でも、お前は反対されたくらいじゃ諦めないんだろう? なら、後悔のないようにしなさい」
    「えっ?」
     聞き返しても、返事は返ってこなかった。父さんはわざとらしく視線を逸らして、テレビの方を見つめている。視線の先では、対して面白くもない年末特番が流れていた。
    「ありがとう」
     しばらくすると、ルチアーノがお風呂から戻ってきた。二階に引き上げると、ドライヤーで髪を乾かす。彼と入れ替わるように、今度は僕がお風呂に入った。
     一日のイベントを済ませると、やることがなくなってしまった。テレビも見るものがないから、ゲームをして時間を潰す。年越しが近づくと、ルチアーノは改まった様子でこう言った。
    「なあ、○○○」
    「どうしたの?」
     僕も、居ずまいを正してから返事をする。少し口ごもってから、彼は言葉を続けた。
    「僕と一緒にいてくれて、ありがとう」
     消え入りそうな、小さな声だった。これが、彼にとっての精一杯なのだろう。頬を赤く染めている姿が、愛おしくて仕方なかった。
    「お礼を言うのは僕の方だよ。一緒にいてくれてありがとう」
     答えると、勢いで口づけをした。ルチアーノは少し身体を強ばらせたが、おとなしく受け入れてくれる。唇の奥に舌を差し込んでも、抵抗はされなかった。
     唇を離した時、端末のアラームが鳴った。ついに、年が明けたのだ。ルチアーノの顔を見つめると、にこりと笑って挨拶をする。
    「あけましておめでとう」
    「…………馬鹿」
     ルチアーノは、顔を合わせてくれなかった。頬は真っ赤に染まっていて、瞳は少しだけ潤んでいる。それでも、手はしっかりと握りしめられていた。
     僕は、なんて幸せ者なのだろう。そんなことを思いながら、僕はルチアーノの手を握り返した。

     目が覚めると、部屋の中が眩しかった。窓から差した日光が、ベッドの上を直撃していたのである。光から逃れようと顔を逸らすと、ルチアーノと目が合った。
    「今日は、結構早く起きたんだな」
     そう言われて、僕は時計に視線を向けた。時刻は八時を過ぎたところで、普段の僕からしたら少し早い目覚めだった。まだ眠気は残っているが、声をかけられた以上二度寝をすることはできない。ゆっくりと身体を起こすと、簡単に身だしなみを整えた。
     ルチアーノを引き連れて、リビングへと足を踏み入れる。家族は既に起きていて、キッチンからはいい匂いが漂っていた。僕たちに気がつくと、母さんは嬉しそうに言う。
    「おはよう。あけましておめでとう」
    「あけましておめでとう」「おめでとうございます」
     挨拶を返すと、僕たちは席についた。キッチンから顔を覗かせると、ばあちゃんは大きな声を出した。
    「今からお餅を煮るから、ちょっと待っててね」
    「ありがとう」「ありがとうございます」
     机の上には、既におせちの重箱が置かれていた。箸を手に取ると、並べられた具材に手を伸ばす。
    「はい、できたよ」
     玉子を口に押し込んでいると、お雑煮が運ばれてきた。鶏肉と餅菜とお餅の入った、シンプルで美味しい実家の味だ。あまりお腹は空いていなかったけど、ぺろりと平らげてしまった。
     食事を終えると、僕は服を着替えた。元旦と言ったら初詣だ。地域の神社は人が少ないから、あまり並ばずにお参りができるのである。せっかくだから、ルチアーノを案内したいと思ったのだ。
    「せっかくだから、初詣に行こうよ。すぐそこに神社があるんだ」
    「僕はいいよ。君一人で行きな」
     案の定、ルチアーノは気のない返事だった。彼は人間が嫌いだから、外に出たくないのだろう。ここは僕の地元だから、知り合いに会うことにも抵抗があるのかもしれない。
    「そんなこと言わないでよ。僕が毎年お参りしてたところなんだよ。気にならない?」
    「別に、どうでもいいけど。どうしてもって言うなら、ついていってやってもいいぜ」
     説得すると、渋々と言った様子で了承してくれた。服を着替えると、コートを着こんでマフラーを巻く。外は寒いから、手袋をつけるのも忘れない。
    「初詣に行ってくるね」
     そう言うと、ばあちゃんは僕たちに千円札を差し出した。いつもの癖だった。
    「これで好きなものを買いなさい」
    「ありがとう」
     確か、神社の近くにコンビニがあったはずだ。せっかくだし、お土産を買っていくのもいいだろう。ありがたく受け取ると、財布の中へとしまう。
     外は、凍えるほどに冷えていた。コートの前をしっかりと閉めて、早歩きで神社を目指す。十分ほど歩くと、もくもくと煙の上がっている場所が見えた。
    「そこだよ」
     小さな神社は、地元のお年寄りの憩いの場になっていた。焚き火の周りに、おじいさんたちが集まって何かを話している。社の前には参拝客が並んでいて、鳥居まで列を作っていた。
    「結構、人がいるんだな。もっとガラガラかと思ってたぜ」
     列に並ぶと、ルチアーノは小さな声で言う。
    「地元の人はここに来るからね。年明け直後は、もっと多かったと思うよ」
     雑談をしていると、僕たちの番が回ってきた。お賽銭を投げ入れると、手を合わせて参拝する。願い事は、もちろんルチアーノのことだった。
     境内を出ると、今度は近くのコンビニに向かった。温かい飲み物を買うと、席に座って身体を温める。寒くて仕方がなかったから、肉まんまで買ってしまった。
    「あんなに食べたのに、まだ食べるのかよ」
     隣から、ルチアーノの呆れたような声が飛んでくる。半分割って差し出すと、呆れながらも受け取ってくれた。
    「お正月は、何を食べてもいいんだよ。お祝いの日なんだから」
     お腹が落ち着くと、来た道を歩いて家へと帰る。ルチアーノは心配していたようだが、知り合いには会わなかった。高校生だし、都会の大きな神社に行っているのだろうか。
     家に帰ると、父さんが出かけていた。どうやら、近所の付き合いがあるらしい。よく分からないが、団地の付き合いは大変そうだ。
     手を洗って身体を温めると、すぐにお昼ご飯の時間になった。さすがにご馳走はおしまいのようで、メニューはおせちの残りと白ご飯だ。大晦日からたくさん食べているから、あまり食べられなかった。
     お昼を済ませると、アイスクリームを見ながらテレビを見た。お腹はいっぱいだったが、アイスは別腹だ。ルチアーノとソファに座っていると、ばあちゃんが近づいてきた。
    「これ、お年玉。ルチアーノくんの分もあるよ」
     視線を向けると、可愛らしい柄のポチ袋が差し出されていた。一応、自分の稼ぎで生計を立てているから、お年玉をもらうのは少し申し訳ない。
    「いいの?」
    「いつもがんばってるからね。もらっておきな」
    「ありがとう」
     ポチ袋を受け取ると、鞄の奥にしまった。ルチアーノは鞄を持っていないから、一緒にしまうことにする。自分で紹介しておきながら、すっかり家族の扱いになっていたことにびっくりした。
     帰りは、日が暮れる前に出かけることにした。夕方になると、シティの交通機関は混むだろう。人の少ないうちに帰りたかったのだ。
     夏と同じように、鞄はお土産でパンパンになっている。入りきらなかった分は、紙袋に詰めて腕から下げた。大荷物を持つ僕を見て、ルチアーノが袋を持ってくれる。
    「また、いつでも来ていいからね」
     見送りに来てくれたばあちゃんが、玄関の前で手を振ってくれる。少し早い後で、母さんも手を振っていた。
    「今度は、ゴールデンウィークに遊びに来るね。ルチアーノも連れてくるから」
    「ありがとうございました」
     スーツケースを引きずりながら、僕たちはバス停を目指す。並べられたベンチに腰を下ろすと、ルチアーノは大きく息をついた。
    「相変わらず、賑やかな家だったな」
     噛み締めるような声で、ルチアーノは呟く。その横顔を眺めながら、僕は言葉を返した。
    「でも、楽しかったでしょう」
     隣から、返事は返ってこなかった。重苦しい沈黙が、冷えきったバス停に雪のように降り積もる。口を開こうとすると、先にルチアーノが言葉を返した。
    「君の家の人たちは、僕を家族として迎えてくれてるみたいだったな。本当に、変わった人たちだよ」
    「家族として迎えてるんだよ。ルチアーノは、僕の恋人なんだから」
     遠くから、バスの走ってくる音が聞こえる。乗り込んだ車内は、暖房でポカポカと暖かかった。一番奥の座席に座ると、ルチアーノが消え入りそうな声で言う。
    「次の帰省も、ついていっていいかい」
    「もちろんだよ。一緒に帰ろう」
     エンジン音を響かせながら、バスは駅へ向かって走り出した。これから、僕たちは帰るのだ。忙しくて、冷たい都会の日常に。
     実家での経験は、ルチアーノにとって心休まるものだっただろうか。少しでも、その孤独を癒してくれたらいいと、僕は思うのだ。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🎍💞💞💖💖🙏💗
    Let's send reactions!
    Replies from the creator