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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチ。ルチが七草粥を蟹雑炊にするだけの話です。

    ##TF主ルチ
    ##季節もの

    七草粥 スーパーに入ると、プラスチックのパックが積まれているのが視界に入った。台の上には緑を基調にしたポップが飾られ、『七草粥』の文字が踊っている。隣には、商品名を強調した値札が並べられていた。
     そういえば、そろそろ七草粥の時期だった。年が明けてからはあまり買い物をしていなかったから、頭からすっぽりと抜け落ちていたのだ。去年のルチアーノの反応がよくなかったことも、忘却の一因になっていたのだろう。七草を詰めたパックや、大きな文字で商品を宣伝するポップを眺めながら、僕はしばらく思案する。
     今年の七草粥はどうしようか。僕はお粥の素朴な味も好きだけど、ルチアーノはあまり好まないようなのだ。彼にとって食事は娯楽だから、胃腸を整える目的の食事は物足りないのだろう。作ったところで、食べてもらえるとは思えなかった。
     でも、このまま何も買わずに帰るのは勿体ない気がする。せっかく思い出したのだ。普段はお粥なんて食べないし、胃を休めるいい機会だろう。僕は季節のイベントが好きだし、年末年始に食べすぎてしまった自覚があるのだ。
     しばらく悩んだ末に、七草のパックを手に取った。ルチアーノは食べないかもしれないから、一番値段の安くて少ないものを選ぶ。値段が違う以上、中にも違いはあるのだろうけど、僕にはさっぱり分からなかった。
     カゴを片手に店内へと進みながら、僕は考えていた。店頭陳列に釣られて七草を買ってしまうなんて、お店の思う壺なのだろう。ルチアーノの呆れ顔を想像して、僕は僅かに口角を上げた。

     キッチンに立つと、鍋にお湯を沸かした。刻んだ七草を入れて、しんなりするまで火を通す。すずなとすずしろには根の部分があるから、少ししっかりめに火を通した。柔らかくなったら、お湯から上げて一口サイズに切っていく。鍋のお湯を捨てると、今度はご飯と新しい水を入れて煮た。
     お米が柔らかくなってきたら、茹でた七草を入れる。先に煮てあるから、ここでは少し火を通すだけだ。塩で味をつけたら、器に盛って完成だ。
    「またあのお粥かよ。そんなに味もしないのに、よく飽きずに食べられるよな。人間は変り者だぜ」
     僕の手元を覗き込みながら、ルチアーノが呆れ声で呟く。予想通りの反応に、ちょっと嬉しくなってしまった。
    「素朴な味なのがいいんだよ。ルチアーノの分も作ったから、よかったら一緒に食べよう」
     誘うと、彼は鍋の中を覗き込んだ。にやりと口角を上げてから、からかうような声色で言う。
    「僕の分に蟹を入れてくれるなら、食べてやってもいいぜ。確か、実家での貰い物に蟹の缶詰があっただろ」
     飛んできたのは、予想外の言葉だった。荷物の片付けは全部僕がやったのに、いつの間に見ていたのだろう。驚いて口を開けてしまった。
    「ダメだよ。蟹の缶詰は特別なときに食べるんだから。七草粥に入れたら勿体ないよ」
     答えながら、僕は器を机の上に運ぶ。食器を用意してしまえば、彼も諦めると思ったのだ。しかし、そんな考えは甘かったらしい。僕と入れ替わるようにキッチンに入ると、食品棚を探り始めた。
    「そんなこと言って、いつまでも開けないつもりだろ。だったら、早いうちに食べちゃおうぜ」
     ごそごそと、食品棚を漁る音が聞こえてくる。仕舞うところまでは見ていないから大丈夫だと思っていたが、そんなことはなかった。あっという間に探り当てて、缶を片手に戻ってくる。
    「ひひっ、見つけたぜ。隠したつもりかもしれないけど、君の考えくらいお見通しなんだよ」
     にやにやと笑いながら、ルチアーノは言葉を続ける。食べてやるという決意に満ちた態度だった。こうなったら、もう説得はできないだろう。
    「別に、隠してたつもりはないけど……」
     僕の正面に座ると、嬉々とした様子で缶を開けた。中の蟹にスプーンも差すと、一気に半分を取り出してお粥の中に放り込んだ。蟹の身で満たされていくお粥を見ながら、楽しそうににやにやと笑う。
    「やっぱり、雑炊と言ったら蟹だよな」
    「雑炊じゃなくてお粥だよ。もう、仕方ないなぁ」
     このまま放っておいたら、缶詰の中身は全部食べられてしまうだろう。器ごと取り上げると、空になった鍋に中身を戻した。
    「なにするんだよ!」
     ルチアーノが抗議の声を上げるが、気にせずに鍋を火にかける。蟹に軽く火を通すと、だしを入れて味を整えた。
    「はい。できたよ」
     敷き布を取り出すと、鍋ごと運んで机の上に置く。胃を休めるための七草粥は、七草入り蟹雑炊になってしまった。
    「なんだ。雑炊にしたのか。君にしては気が効くじゃないか」
     上機嫌に笑いながら、ルチアーノは鍋の中身を掻き回す。本来の目的は果たせなかったが、これはこれでいいのかもしれないと思った。
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