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    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

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    シリアスのようなほのぼののような本編軸。アポリアと神様の魂の器についての話。アポリアの合体機構が本人の希望だったらいいなっていう願望を持っています。

    ##本編軸

    憧れ 私には、子供頃の思い出と言うものが無い。
     頭の中に浮かぶのは、廃墟のようになった町の風景と、逃げ惑う人々の姿ばかりだ。空には巨大な機械が浮かんでいて、眩い光が放たれるごとに、建物が壊れ人の命が失われた。
     それ以降の記憶は、全て戦場の出来事で埋め尽くされている。後に機皇帝という名を与えられる巨大な機械と、それに立ち向かう人々の光景だ。銃火器の発砲音と、命を落とした大人たちの悲鳴だけが、私たちの耳に届く『外』の全てだった。
     それが当たり前だったのだ。私の人生は。

     目が覚めたとき、一番に手を伸ばすのは、決まってこの杖だった。衰えて重くなった身体は、支えが無くては立ち上がることすらできない。重い腰を上げて身体を起こすと、ゆっくりとした動きで寝台から立ち上がる。身体を引きずるようにして向かうのは、この廃墟の中央だった。
     この命が長くないことは、自分が一番良く理解している。身体は思うように動かないし、食事もまともに取ることができない。こうして自力で歩いているのも、ほとんど気合いによるものだ。世界が滅びようとしている時に、弱音など吐いていられない。
     メンテナンスルームには、既に神の姿があった。『神』と大層な名で呼ばれているが、その容姿は長い白衣に身を包んだ老人の姿をしている。身体は所々が機械に置き換えられていて、長い白衣の裾から武骨なパーツが覗いていた。
    「目が覚めましたか」
     ゆったりとした、それでいて力強い語調で、神は私に話しかける。私よりも歳上であるはずなのに、少しも衰えは見られなかった。出会ったときと変わらない力強さで、我々の計画の指揮を取る。この強さを知っているからこそ、仲間たちは彼に従ったのだろう。
    「もう少し、休んでいても良かったのですよ。データの採取は、脳に負担をかけますから」
     神は言うが、聞き入れることはできなかった。私に残された時間は、もうゼロに近いのだ。明日終わってしまうかもしれない命を、休息などに浪費できなかった。
    「もう、時間は残されていない。続きを進めてくれ」
     答えると、彼は黙って頷いた。手元の装置を手に取り、私の身体に接続する。本当は、彼が一番良く理解しているのだろう。我々に時間が無いことを。
     神が機械を操作すると、室内に鈍い音が響き渡った。壁際に鎮座する武骨な機械が、私の脳波データをスキャンしていく。こうして採取されたデータは、後にもう一人の私を形作るのだ。それこそが、私たちの望みなのだから。

    ──命が尽きたら、この身を貴方の駒として使ってほしい

     最初にそう語ったのは、一体誰だっただろうか。アンチノミーだったかもしれないし、我々の総意だったかもしれない。ただ、この身を神に捧げるという意思だけは、皆が共通していた。
    「本当に、機皇帝を使用するのですか? 貴方にとっては、一番のトラウマでしょう?」
     機械を操作しながら、神は私に問いかける。話題に上がっているのは、『もう一人の私』が使用するデッキについてだ。私には馴染みが薄いが、これから我々の向かう町の人々は、戦闘手段にデュエルモンスターズというカードゲームを使用するらしい。デッキを持たなかった私とパラドックスは、神に希望を聞かれることとなった。
    「だからだ。人々にモーメントの恐ろしさを伝えるには、機皇帝が適任だろう」
     私の言葉に、神が納得したような笑みを浮かべる。
    「貴方らしい答えですね」
     再び、室内には沈黙が訪れた。二人きりになってからは、特に静寂を感じることが多くなったように感じる。友として受け入れられてからも、まだ、私たちの間には壁があるのだ。
    「要望があれば、今のうちに話しておいてください。貴方の魂の器と戦いのための道具ですから、遠慮は要りませんよ」
     壁際の機械を操作すると、神は私の方を振り返った。彼の要求は分かるが、デュエルモンスターズや機械については、私は全くの素人である。要望など何もなかった。
     そのままに伝えると、彼は優しく微笑んだ。若年者を前にしたような態度だが、彼にとっての私は若年者なのだろう。
    「なんでもいいのです。若い頃の憧れや、平和な世界でなりたかった職業など、そのようなものはないのですか?」
     問いを重ねられ、私は頭を悩ませる。私には、子供の頃の思い出というものがないのだ。幼くして両親を失った私は、それまでの記憶のほとんどを失ってしまった。この身に残っているのは、深く刻まれた絶望の記憶だけなのだ。
     そんな私にも、ひとつだけ覚えていることがあった。まだ、この世界が平和だった頃の、朧気な記憶である。両親と共に暮らしていた小学生の私には、大好きなテレビ番組があったのだ。機皇帝の恐怖に塗り替えられても、それだけは忘れられなかった。
    「笑わないで聞いてほしいのだが……」
     小さな声で言うと、神は興味深そうに耳を傾けた。私の言葉を聞くのが嬉しいのだろう。
    「笑いませんよ」
    「魂の器に、合体する仕組みを入れてほしい」
     幼い頃の私は、合体ロボが好きだったのだ。機皇帝に町を破壊されても、その気持ちは変わらなかった。
     私の話を聞くと、神はにこりと微笑んだ。画面に器の設計図を表示させ、何かを書き込んでいく。
    「それは素晴らしいアイデアですね。三つの絶望を、合体によってひとつにする機構を組み入れましょう。それなら、貴方の希望は満たされるはずです」
     突飛な要求ではあったが、神は前向きに受け止めたようだ。それどころか、難しい設計を楽しんでいるようでもある。それが彼の、メカニックとしての性なのだろう。
    「貴方は、否定しないのだな。私の、子供のような要望を」
     思ったままに口にすると、神はこちらを振り返った。半分ほどが機械に覆われた顔を見せると、遠くを見るような表情で語る。
    「否定などしませんよ。仲間の、人生最後の望みですから」
     彼は、覚悟を決めているのだ。その世界の、最後の一人になることを。死後も側に仕えることができるのなら、私にこれ以上の望みはない。
     私の望みは、直に叶うのだ。別の姿に生まれ変わって、彼のためにこの命を捧げる。そんなことを考えたら、この世に思い残すことなどないように思えた。
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