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    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチ。主ルチが大会の優勝祝いに鰻を食べに行く話です。

    ##TF主ルチ

     デュエルディスクに手をかけると、大きく深呼吸をする。このドローに、次に場に出すカードに、僕たちの運命はかかっているのだ。これから引くカードこそが、僕たちの戦績を決めるのだから。
     精神を集中すると、カードの端を掴む。勢い良く引っ張り出すと、そこにかかれた文字を確認した。希望通りとはいかないが、悪くはないカードである。慎重に考えながら展開を広げると、ターンを終了して次に繋いだ。
     展開が終わっても、まだ気は抜けない。これから来るであろう相手の猛攻を、僕の知識で止めないといけないのだ。全神経を集中させて、くるくると頭を巡らせる。なんとかルチアーノのターンに繋ぐと、僕は大きく息を付いた。
     ルチアーノが、デュエルディスクからカードを引っ張り出す。淡々とした仕草で手札に触れると、冷静に盤面を作っていった。
     とは言え、相手もやられてばかりではない。モンスターの効果や魔法を使いながら、なんとかルチアーノの攻撃を止めようとする。相手の発動したカードを見て、ルチアーノの口元がにやりと歪んだ。
     ルチアーノが、伏せていたカードの効果を発動する。カウンタートラップの反撃を受けて、相手のトラップは動きを止めた。相手には、これ以上の抵抗はできなかったようで、ルチアーノの攻撃は真っ直ぐに相手に突き刺さった。
     相手のLPがゼロになる。ブザーが鳴り響くと同時に、実況の男が高らかな声を上げた。
    「決まった! 優勝は、チームニューワールド!」
     観客席から、賑やかな歓声が響き渡る。僕たちのチーム名を叫ぶ野太い声が、会場のあちこちから聞こえてきた。声の嵐に巻き込まれながら、僕は呆然とその場に立ち尽くす。少ししてから、自分たちが勝ったのだという実感が追い付いてきた。
    「やった!」
     デュエルディスクを畳むと、ルチアーノの元に駆け寄る。平然と佇むその身体を、横から思いっきり抱き締めた。不意を突かれて、ルチアーノの身体がゆらりと揺れる。体勢を立て直すと、彼は尖った声を上げた。
    「人前だぞ。離れろよ」
    「やったよ! 勝ったんだよ! 僕たちは勝ったんだ!」
     彼の忠告も聞かずに、僕は耳元で捲し立てる。精神が興奮して、少しも収まってくれなかった。それもそのはずだ。だって、この大会は特別なのだから。
     僕たちが出場したのは、シティの外で開かれる大規模な大会だった。以前から名の知られていた大会のひとつで、プロを目指す者の登竜門と言われているらしい。優勝賞金も百万円と高額だから、賞金狙いの参加者もいるらしい。とにかく、それなりに由緒正しい大会なのだ。
     僕たちは、その大会のタッグ部門にエントリーした。ルチアーノとのタッグなら、優勝とはいかなくても、いい成績を残せると思ったのだ。あまり期待をしすぎないようにしていたのだけれど、ルチアーノの強さは本物で、僕たちは優勝を成し遂げてしまった。
     たくさんの歓声に囲まれながら、僕たちは表彰台に上がる。一位の立ち位置はかなり高さがあって、周囲一帯が見渡せた。隣では、ルチアーノが澄ました顔で佇んでいる。横顔の見せる余裕に、人生の経験の差を見せつけられるようだった。
     慣れない形式に戸惑いながら、僕たちはなんとか表彰式終えた。賞金の百万円は、後日僕の口座に振り込まれるらしい。主催者の演説を聞きながらも、僕の心は浮き浮きとしていた。
     百万円なんて、つい最近まで学生だった僕にはものすごい大金だ。これだけのお金があれば、半年は暮らしていけるだろう。少しいいものを食べてもいいかもしれない。表彰が終わると、僕はルチアーノの方を振り返った。
    「ねえ、せっかく優勝したんだから、今度いいものを食べに行こうよ」
     弾んだ声を上げる僕を見て、彼は呆れたように口を開いた。ちらりとこちらに視線を向けると、嗜めるような声で言う。
    「何呑気なこと言ってんだよ。百万なんか、ただのはした金だろ。無駄遣いしてたらすぐ無くなるぜ」
    「そんなことないって。これからも大会に出ていれば、今までと同じように生活費は賄えるでしょ。ちょっと贅沢をしようよ」
    「その金を蓄えにしたらどうだい。賞金稼ぎの生活なんて、数ヵ月後の収入があるかも分からないんだからさ」
     僕を諭すように、淡々とルチアーノは言葉を続ける。確かに、僕は収入が不安定な生活をしている。来月の収入があるのかさえ、今の時点では予測できないのだ。でも、だからといって贅沢を控えるのは、生きていても楽しくないと思った。
    「大丈夫だって。それはその時に考えればいいんだから」
     強引に話を終わらせると、僕はルチアーノの手を引っ張る。頭の中では、優勝祝いに食べる高級食材のことを考えていた。
    「全く、どうなっても知らないぞ」
     斜め後ろから、ルチアーノの呆れた声が聞こえてくる。聞こえない振りをしながら、僕は家路へと急いだのだった。

     数日後、僕たちはシティ繁華街に来ていた。もちろん、優勝祝いの食事を取るためである。この日のためにお店を調べて、悩みに悩んで決めたのだ。期待に胸を高鳴らせながら、目的の建物の元へと足を進める。
    「こっちだよ」
     声をかけてから、僕はルチアーノの手を引いた。繁華街の人混みの中では、いつもこうして手を繋ぐのだ。もう慣れてしまったのか、彼は抵抗する素振りを見せない。
     そのお店は、デパートのレストランコーナーに入っていた。エレベーターで一気に上へと上がり、お店の前に足を運ぶ。
    入り口には紺色の暖簾がかかっていて、いかにも高級店といった出で立ちだ。少し居ずまいを正してから、思いきって店内に入る。入り口に立っていた女性が、間を開けずに声をかけてきた。
    「いらっしゃいませ。ご予約のお客様ですか?」
    「十二時から予約した○○○です」
    「かしこまりました。ただいまご案内します」
     女性に案内されて、僕たちはお店の奥へと入っていく。席は全て仕切りや壁で隔たれていて、周囲のグループが見えないようになっていた。隅にある二人がけの席で足を止めると、女性はこっちを振り返る。
    「こちらでございます」
     ルチアーノを奥に座らせると、通路側の席に腰をかけた。足元には、丁寧に荷物置きも用意されている。鞄を外して身体を軽くすると、横に立てられたメニューを手に取った。
    「ルチアーノも見る?」
     尋ねると、彼は気の無い様子で首を振った。あまり食べ物に頓着がないのか、外食はいつもこんな感じである。それなのにお寿司に対しては目を輝かせるのだから、面白い子供だと思ってしまう。
     ずっしりとしたいメニューを手に取ると、両手で机の上に広げる。そこに並んでいたのは、写真付きの鰻料理だった。鰻重や長焼きのような定番ものから、う巻きや小鉢のようなサイドメニューも並んでいる。このお店は定食やコースも充実しているようで、見開きいっぱいに写真と解説が乗っていた。
     そう、僕が選んだのは、鰻のお店だったのだ。日本人にとって、鰻はご馳走の定番である。ルチアーノはお寿司が好きだけど、鰻をリクエストしたことは一度も無い。せっかくの機会だから、彼にも食べさせてあげたいと思ったのだ。
     メニューを一通り眺めてから、僕は長焼き定食を食べることにした。隅に書かれている値段は、当たり前だが五千円を軽く越えている。普段なら到底出せない金額だが、今なら少しも怖くなかった。
    「ルチアーノは何を食べる?」
     メニューを差し出すと、彼はちらりと視線を向けた。乱暴な態度でメニュー表を受け取り、机の上に広げる。素早く一瞥すると、乱雑な仕草で元の位置に戻した。
    「君と同じものでいいよ」
     お水とおしぼりを持ってきてくれた店員さんに、二人分の注文を伝える。お店の鰻を食べるのは数年ぶりだ。期待に胸が高鳴り、落ち着かなくなってしまう。
    「何でそんなにそわそわしてるんだよ。子供みたいで恥ずかしいだろ」
     冷めた瞳で僕を見ると、ルチアーノは心底呆れた声を出す。どうして僕がこんなに楽しみにしているのかが、彼には分からないようだった。
    「だって、お店の鰻なんだよ。こんないいもの、滅多に食べられないんだから、楽しみにもなるでしょ」
    「人間って、食に対する執念が並外れてるよな。そんなんだから、鰻は絶滅危惧種になるんだよ」
    「それはそれ、これはこれだよ。おいしいものは、ありがたくいただかなきゃ」
     そんな話をしていると、一つ目の定食が運ばれてきた。既に用意されていたのか、息つく暇もないスピードである。トレイの向きを直していると、次の定食が運ばれてくる。
     トレイの中央に、大振りの鰻が横たわっていた。表面はこんがりと焼かれていて、何等分かに切り分けられている。手前には、ご飯とお吸い物、漬け物に小鉢が並んでいた。値段相応に立派な、鰻の長焼き定食である。
    「いただきます!」
     両手を合わせて挨拶をすると、手に取った割り箸を二つに割った。目の前では、ルチアーノが同じように食前の挨拶をしている。さすがに人前では恥ずかしいのか、その声は少し小さかった。
    「いただきます……」
     彼が箸を取ったのを確認してから、一切れ目の鰻を箸で摘まむ。お茶碗の上に乗せて口元まで運ぶと、たれをつけずに口に入れた。お店の鰻は、味がしっかりと付いていて、白いご飯によく合った。外側はこんがりと焼き上げられているけれど、中はふっくらと柔らかい。一切れ目を味わうと、次はたれをお皿に出した。切り身の端にたれをつけ、ゆっくりと口の中に入れる。さっきよりもしっかりと味が付いて、いつもよりもご飯が進んでしまう。三切れ目は、たれを付けた上に山椒を振りかけた。
     半分ほど食べたところで、僕はようやく手を止めた。店員さんに声をかけると、空になったご飯のおかわりをする。届くのを待っている間に、ルチアーノに話しかけた。
    「おいしいね。鰻なんて久しぶりだから、身体に染み渡るよ」
     彼もまた、黙々と鰻を口に運んでいた。動かしていた箸を止めると、にやりと口角を上げる。
    「鰻を食べてる時の君は、面白いくらい静かだったよな。いつもはあんなにうるさいのに」
    「だって、おいしいんだもん。喋ってる暇なんてないよ」
     話をしているうちに、ご飯のおかわりが届いた。再び箸を手に取ると、黙々と鰻を口に運ぶ。お吸い物と箸休めの小鉢も、高級感があっておいしかった。
     あっという間に、僕は鰻を平らげてしまった。箸を置くと、まだ食べているルチアーノに視線を向ける。お皿の上には、まだ二切れの鰻が残っていた。
     不意に、ルチアーノが顔を上げた。取り皿の上にご飯と鰻を乗せると、僕の方へと差し出してくる。僕が呆気に取られていると、平然とした様子でこう言った。
    「この定食は、僕には量が多いからさ、君も手伝ってくれないか?」
    「いいの?」
     ついつい、そんな言葉が出てしまう。これは高級店の鰻なのだ。人に分けてしまうのは、ちょっと勿体ない。せっかくの機会なのだから、ルチアーノに食べてもらいたかったのだ。
    「いいんだよ。僕の胃は大きくないから、そんなに量は食べられないんだ」
     そう言われたら、ありがたく頂戴するしかない。お皿を引き寄せると、取り分けられた鰻を口に運んだ。
     食べ終わる頃には、だいぶお腹が膨れていた。お水を飲んで喉の渇きを潤わせると、伝票を持って席を立つ。会計の機械は、淡々と五桁の数字を映し出した。いつもなら肝を冷やすような金額だが、今の僕には少しも怖くない。
     お札を並べて会計を済ませると、暖簾をくぐってお店の外に出る。丁度ご飯時だからか、周囲はたくさんの人々で賑わっていた。ルチアーノの手をしっかりと握ると、人混みを掻き分けて移動した。
    「それにしても、君が鰻を選ぶとはな。君のことだから、ホテルのアフタヌーンティーとやらに連れて行かれるんじゃないかと思ったぜ」
     僕の隣を歩きながら、ルチアーノがポツリと呟く。確かに、普段の僕はスイーツのお店ばかり選んでいる。彼の中では、僕がお菓子のことしか考えてない人間だと思われているのだろう。
    「スイーツもいいけど、今回はご飯を食べたかったんだよ。それに、ルチアーノはお寿司が好きなのに、鰻を食べたことがないでしょ。同じ魚介類だから、食べてもらいたいと思ったんだ」
     答えると、ルチアーノは驚いたように顔を上げた。真っ直ぐに僕を見つめると、にやりと口元を歪める。
    「何言ってるんだよ。鰻くらい食べてるに決まってんだろ。僕を誰だと思ってるんだ?」
    「えっ?」
     びっくりして、ついつい素っ頓狂な声を上げてしまった。てっきり、彼は鰻など知らないのだと思っていたのだ。食べたことがあったなんて初耳だった。
    「僕は、治安維持局の長官だったんだぜ。高級店の鰻くらい、接待の場でいくらでも食べられたさ。それくらい分かるだろ?」
    「気づかなかった……」
     僕は呟く。そんなこと、少しも考え付かなかったのだ。ルチアーノがそんな役職を持っていたことすら、意識していないと忘れてしまうのだから。
    「何だよ。本気で忘れてたのか? 君って変なところで抜けてるよな」
     ルチアーノは呆れたように言う。冷めた響きが、余計に僕の心に突き刺さった。
    「その話はもういいでしょ。せっかくだから、服を見に行こうよ」
     会話を切り上げるように、僕はルチアーノの手を引っ張る。少し駆け足になりながらも、エスカレーターの方へと向かった。
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