Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

    文章や絵を投げます

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💕 🍇 🐥 🍣
    POIPOI 417

    流菜🍇🐥

    ☆quiet follow

    TF主ルチ。TF主くんが思い付きでひな人形を飾る話。ただ喋っているだけのテキストです。

    ##TF主ルチ
    ##季節もの

    ひな人形 スーパーに足を踏み入れると、見慣れないコーナーが視界に入った。赤い布のかけられた台の上に、似たような形のお菓子の袋が並んでいるのだ。隣にはジュースのペットボトルも置かれている。奇妙なのは、その全てがピンク色のラベルに彩られていることだった。
     少し上に視線を向けて、僕はようやくそのコーナーの意図を理解した。そこには、大きなポップで『ひなまつり』の文字が踊っていたのだ。よく見ると、並んだお菓子のパッケージにも、お内裏様とお雛様のイラストが並んでいる。隣に並ぶペットボトルは、桃のジュースで統一されていた。
     そういえば、今週末は桃の節句、俗に言うひなまつりだ。自分の生活と縁が無かったから、すっかり忘れてしまっていた。兄弟姉妹がいなかった僕の実家では、ひなまつりのひの字も出なかったのだ。姉や妹のいる友達の家に遊びに行った時に、ひな人形を見たことがある程度だった。
     棚に並ぶお菓子は、ほとんどが同じ会社から販売されているらしい。お菓子を包む袋や貼られているシールは、全て同じ形をしていた。中身はというと、菱餅にあられに金平糖と彩り豊かである。そのどれもが、緑やピンクで色がつけられていた。
     その様子を見ていると、子供の頃の思い出が蘇ってきた。小学生の頃、クラスの女の子たちはひな祭りになるとお菓子パーティーとやらを開いていたのだ。こどもの日は男の子だけのものではなくなったのに、ひな祭りだけは女の子だけがパーティーを開くなんて不公平だと、子供心に思ったものである。歳を取るにつれて忙しくなり、クラスの話題も部活や勉強に変わっていくと、徐々にそのようなイベントの話は聞かなくなった。
     目の前のお菓子を眺めながら、僕は考える。今なら、女の子がやっていたひな祭りパーティーとやらができるだろう。二人きりの空間であれば、誰かに見咎められることはない。
     それに、ひな祭りは僕にとっても未経験なのだ。ひな人形を飾ったり、お菓子をお供えしたりという文化を、僕は体験したことがない。珍しく、僕もルチアーノと同じ土俵でイベントを経験できるのだ。
     僕は、お菓子の並んだ棚に手を伸ばした。菱餅とあられの袋に手を伸ばすと、買い物カゴの中に入れる。隣に並んでいた桃のジュースや甘酒の缶も、お菓子の隣に転がした。これを持ってレジを通れば、あとはひな人形を買うだけだ。浮き浮きとした気分で、僕は催事エリアを後にした。

     机の上には、黒い台座に乗ったお内裏様とお雛様が並んでいる。大きさは僕の手のひらくらいで、頭や胴から着物に至るまで、全てが布地で作られている。周りにお供えしてあるのは、買ってきたお菓子たちだ。台座を用意したからか、数千円くらいのノーブランド品にしては、それなりにちゃんとした感じを醸し出してくれている。
     ルチアーノがひな人形に気がついたのは、夕食の支度をした時だった。いつの間にか定位置になっていた、僕の向かい側の席に腰をかけた時に、彼の視界に入ったようである。机の三分の一に近いスペースを取っているから、気づかない方がおかしいくらいだ。仰々しく並べられた人形に視線を向けると、彼は不思議そうに呟いた。
    「どうしたんだよ。この人形」
    「これは、今日の買い出しで買ってきたんだよ。せっかくのひなまつりだから、机に飾ろうと思って」
     僕が答えると、彼はまじまじと人形を見つめた。それがひな人形であることを確かめると、目を細めて僕を見上げる。
    「なんでひな人形なんか飾るんだよ。もしかして、僕のことを女だと思ってるのか?」
    「それは違うよ!」
     とんでもない勘違いに、僕は慌てて否定の言葉を告げる。彼は、自分の少女のような容姿を何よりも気にしているのだ。女の子扱いしたと認識されたら、機嫌を損ねてしまう。
    「なら、なんでこんなもの飾ってるんだよ。桃の節句は女の成長を祝うんだろ。僕たちには関係ないじゃないか」
     問い詰めるような声色で、ルチアーノは僕に言葉を投げる。少し考えてから、僕は彼に言葉を返した。
    「関係ないから飾ったんだよ」
    「関係ないから?」
     怪訝そうに眉を潜めながら、ルチアーノは僕を見つめる。片方しか露出していない緑の瞳が、鋭い眼光で僕を捉えた。機嫌を損ねたら痛い目に遭いそうな、威圧感を感じる視線だった。
    「僕が経験したことがないからだよ。僕は男の子だから、ひな人形を飾ったこともなければ、ひなまつりのお祝いもしたことがないんだ。まだ知らないことがあるなら、経験してみたいと思うでしょ?」
    「そうか? 別に、どうでもいいけどな。知識として知ってれば、経験なんかなくてもいいだろ」
    「僕はそうは思わないんだよ。経験には、ただ知識をつけるだけ以上の価値があるんだから。それに、いつもルチアーノに経験を求めてるのに、僕が経験したことがないからないなんて言えないからね」
     僕の返事を聞くと、ルチアーノは呆れたように息を吐いた。退屈そうに箸を取ると、目の前に並んだ食べ物に手を伸ばす。
    「変なやつ。わざわざ女の祭りを経験したがるなんてさ」
     彼に遅れを取らないように、僕も箸に手を伸ばした。大皿に積まれた唐揚げを摘まむと、白米と一緒に口に押し込む。ルチアーノは、隣に並んだサーモンのサラダを摘まんでいた。どれも、デパ地下のお総菜屋さんで買ってきたものである。
     しばらく黙って食事をしていると。不意にルチアーノが箸を止めた。にやりと笑いながら僕を見ると、からかうような口調で言う。
    「知らないことを経験したいなんて言うけど、適当に口実めいたことを言ってるだけで、本当はイベントに便乗したかっただけなんだろ。君は、食べたり飲んだりして遊ぶのが好きだからな」
     不意打ちで図星を突かれて、僕は返す言葉を失った。今回はいい感じに口実をつけたから、これ以上は追及されないと思っていたのだ。苦笑いを浮かべると、恥ずかしさを誤魔化すように言葉を返す。
    「バレた?」
    「バレるも何も、最初からそういうことだろうと思ってたぜ。君がイベントに便乗するのは、自分が遊びたいからだからな」
     恥ずかしいけれど、全部彼の言う通りだった。ルチアーノに行事を経験してほしいなんて言うけれど、本当は僕が遊びたいだけなのだ。そう思ってしまうのも仕方ない。僕は、本来なら遊びたい盛りの学生なのだから。
    「僕が遊びたいのは否定しないよ。でも、それは僕だけのためじゃないんだ。ルチアーノと一緒に遊ぶことで、思い出を残したいと思ってるんだよ」
     素直に答えると、またもや呆れたようなため息が返ってきた。恐る恐る視線を向けると、彼は目を細目ながら言う。
    「変なやつ。わざわざ思い出を作らなくても、一緒に過ごした記憶は残るだろ。それで充分じゃないか」
    「それもそうかもね。でも、僕は特別な記憶がほしいんだよ。日常の記憶は、いつか忘れちゃうから」
     機械であるルチアーノは、一度記憶したことを忘れないのだろう。メモリーシステムに書き込めば、何度もアクセスすることができるのだから。でも、人である僕はそうはいかない。人の記憶は風化し、いずれは失われるのだ。永遠に続く思い出を残すには、記憶に残るようなことを刻まなければならない。
     ルチアーノにも、僕の真意は伝わったようだった。頬をほんのりと染めると、恥ずかしそうな声で言う。
    「そうかよ」
     その声が消え入りそうになっていることに、言い様の無い愛おしさを感じてしまう。ルチアーノは、僕が彼との日常を忘れたくないと思っていることを受け入れてくれているのだ。彼も僕と同じ気持ちでいてくれるなら、僕はすごく嬉しい。
     今年のひなまつりは、どんな一日にしようか。そう考えるだけでも、僕の心は浮き足立つのだった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭😭😭💖💖💖💕👍🎎💖💞💞
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works