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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチ。機皇帝には召喚口上が無いよねって話。召喚口上に対する個人的な解釈が含まれます。

    ##TF主ルチ

    召喚口上「ねえねえ、○○○! 今日は一人なの?」
     町を歩いていると、不意に声をかけられた。明るくて元気な、子供らしい子供の声である。その跳ねるような響きだけで、すぐに誰の声か分かった。くるりと振り返って返事をする。
    「今日は、一人だよ。一緒に遊ぶ?」
     尋ねると、龍亞は嬉しそうな笑みを浮かべた。子供らしい華やかな笑顔で、元気一杯な声を発する。
    「やったー! どこへ遊びに行くの?」
     そそくさと僕の隣に並ぶと、身体を斜めにしながら僕の顔を見上げる。ここは繁華街だし、人通りも多いから、その姿はちょっと危なっかしい。柱にぶつかりそうになる彼を、手を引いてこちらに寄せた。
    「ちゃんと前を見ないと危ないよ」
    「ごめん。久しぶりだったから、つい」
     素直に謝ってくれるところに、彼の育ちの良さを感じる。ルチアーノも育ちはいいのだろうけど、それ以上に達観してしまっているのだ。子供のような素直さというものは、当の昔に失ってしまったらしい。
     龍亞は、嬉しそうに僕の隣を歩いていた。最近の僕はルチアーノとばかりタッグを組んでいたし、ポッポタイムに顔を出すことも減っていたから、こうして一緒に行動するのは久しぶりだ。彼のたっての希望で、僕たちは町行くデュエリストとデュエルをすることになった。
    「オレ、前よりも強くなったんだ。タッグデュエルで見せてやるよ」
     楽しそうに僕を見上げながら、龍亞は自信満々にそう言った。デュエルこそしないものの、彼もチーム5D'sの一員である。僕たちがそうであるように、彼も日々特訓を繰り返しているのだろう。
    「こうしてデュエルするのも久しぶりだもんね。どれくらい強くなったのか、楽しみだな」
     笑顔で答えながら、僕はデュエルの準備をする。こういうところは、ルチアーノも龍亞も変わらないのだ。子供特有のものなのだろう。
     彼が宣言した通り、龍亞はかなり腕を上げていた。最近は疎遠になっていたこともあって、会う度に強くなっている気がする。開始早々から、彼のフィールドにはエースを出すために必要なモンスターが揃っていた。
    「世界の平和を守るため、勇気と力をドッキング!シンクロ召喚! 愛と正義の使者、パワー・ツール・ドラゴン!」
     高らかに宣言しながら、龍亞はカードをデュエルディスクに読み込ませる。ソリッドビジョンで映し出されたモンスターが、彼の声に答えるように鳴き声を上げた。そういえば、彼らは召喚口上を唱えながらモンスターを呼ぶのだ。ルチアーノは口上らしい口上を言わないから、少し新鮮な気分だった。
     僕のターンが回ってくる頃にも、盤面は優勢なままだった。龍亞に合わせるようにシンクロモンスターを召喚し、盤面を固めていく。ルチアーノはシンクロモンスターを嫌うから、こういう時にしか扱えないのだ。久しぶりのシンクロデッキを、思う存分回していった。
     その甲斐もあってか、デュエルはあっさりと終局を迎えた。相手の引きがよくなかったことも、僕たちの勝利に貢献してくれたらしい。いつだって、勝利に必要なのは実力と運なのだ。
     対戦相手にお礼を言うと、僕たちは再び歩き出す。しばらく進むと、龍亞は待ちきれないと言う態度で尋ねた。
    「ねえ、オレのデュエルどうだった? 強くなったでしょ?」
    「うん。すごく強くなってた。初めて会ったときは、パワーツールを出すだけで精一杯だったのに」
     実際、彼は格段に強くなっていた。遊星たちとの特訓が、確実に効果を出しているのだろう。エースの召喚を阻止されて泣きそうになっていた男の子とは別人のようだった。
    「昔のことは言うなよ~」
     少し不満そうな様子で、龍亞は僕の発言をなじる。本気で怒ってるわけでは無さそうだが、気に触ったのは確かなようだ。素直に謝罪の言葉を告げる。
    「ごめん」
    「いいよ。怒ってるわけじゃないから」
     今度は、少し困らせてしまった。話をするのが久しぶりだから、なかなか感覚が掴めない。龍亞もその点は同じようで、ぎこちない態度になっていた。
    「ところで、聞きたいことがあるんだけど」
     しばらくの間を置いてから、僕は質問を投げかける。龍亞は顔を上げると、くりくりとした目を僕に向けた。
    「何? どうしたの?」
    「龍亞たちは、モンスターを出すときに召喚口上を唱えるよね? ずっと気になってたんだけど、あれってどういう意味があるの?」
     それは、僕がずっと疑問に思っていたことだった。プロデュエリストや、大会に出場するデュエリストたちは、皆が召喚口上を唱えてからモンスターを出す。と言っても全てにあるわけではなくて、デッキの切り札となるモンスターだけだ。外から来た僕には、それがどんな意味を持つのか分からなかったのだ。
     僕の質問を聞くと、龍亞はにこりと笑った。彼もアカデミアの生徒だから、学校で教わったりしているのだろう。僕に教えられることが嬉しいのか、弾んだ声で口を開く。
    「そっか。○○○は知らないんだっけ。召喚口上っていうのは、モンスターのモチベーションを上げる効果があるんだよ。口上が上手ければ上手いほど、モンスターがやる気を出すんだ。アカデミアの授業では、口上の練習だってするんだぜ」
     そんなこと、全くの初耳だった。モンスターとの絆を左右するのだから、皆がこぞって唱えるわけである。龍可の話によると、デュエルモンスターズのカードには精霊の力が宿っているらしいから、やる気に影響するというのもあながち嘘では無さそうだった。
    「そうなんだ。知らなかったな……」
     感心しながら呟くと、龍亞は誇らしげに胸を張った。僕のデュエルディスクに視線を向けると、カードの辺りをじっと見つめる。
    「○○○も、召喚口上を考えてみたら? カードの精霊も、もっと頑張ってくれるかもしれないぜ」
    「そうだね。考えてみようかな」
     僕のデッキに精霊が宿っているかは分からないが、何も唱えないよりはいいだろう。彼の視線に釣られるように、僕はデッキのカードを眺めた。

     家に帰ると、ルチアーノがソファに座っていた。僕の方を振り返ると、不機嫌そうな声で言う。
    「今日は、随分遅かったな」
     彼が機嫌を損ねるのも無理はない。今日の僕は、いつもより一時間ほど帰りが遅かったのだ。外はすっかり日が沈んでいて、外からでもリビングのライトが分かるほどだ。室内が見えないように、慌てて道路側のカーテンを閉める。
    「久しぶりに会った人と遊んでたら、遅くなっちゃったんだ。心配かけてごめんね」
     素直に謝ると、ルチアーノは少し恥ずかしそうに下を向いた。
    「心配なんかしてねーよ。連絡も無しに遅帰りするなんて、上司に不誠実なんじゃないかと思ってね」
     いつもより尖った声で、彼はそんなことを言う。言ってることが滅茶苦茶なのは、照れ隠しをしているからだろう。そこまで怒っているようではないから、機嫌が治るまで謝っておく。
    「ごめんね。これからは連絡するから、許してよ」
     会話を終えると、僕は買ってきた夕食を机に広げた。ルチアーノからは自炊を進められているが、未だに僕の食事は出来合いが大半だ。正面に移動してきたルチアーノと向かい合いながら、弁当のチキンを口に運ぶ。
     そこで、ふと昼間の会話を思い出した。ルチアーノの召喚するモンスターには、口上らしい口上が存在しないのだ。攻撃名があるモンスターもいるにはいるものの、口上とは違うみたいだった。
    「あのさ、前から気になってたんだけど、ルチアーノは召喚口上を言わないの?」
     何気なく尋ねると、ルチアーノは驚いたように顔を上げた。どうしたのかと思っていると、すぐにいつもの表情に戻る。
    「口上っていうのは、シグナーが言うようなやつか。僕は言わないよ。必要がないからね」
     きっぱりとした答えだった。反論の余地もないほどの断言に、少し面食らってしまう。
    「どうして? 召喚口上は、モンスターのモチベーションを上げるんでしょう? 言った方がいいんじゃない?」
     重ねて尋ねると、彼は楽しそうに笑った。にやにやと笑みを浮かべながら、挑戦的な視線で僕を捉える。
    「機皇帝は、モーメントから生まれた破滅の機械だぜ。魂もなければ、意思と言える意思もないんだ。そんなものに、モチベーションも何も無いだろ」
     僕の言葉を否定するように、ルチアーノは言葉を続ける。彼にそう言われると、それが正しいような気がしてしまった。彼の話によると、機皇帝は未来の災厄を封じ込めたものらしいし、そういうものなのかもしれない。
    「そっか。言われてみれば、そうかも」
     僕が言うと、ルチアーノはきひひと笑い声を上げた。まだ言いたいことがあるらしく、僕の方に視線を向けている。
    「まあ、口上が無くても、機皇帝にはパーツの召喚があるからな。そっちを口上と捉えてもおかしくはないだろ」
    「そういえば、そうだね」
     僕は、ルチアーノのデュエルを思い出していた。スキエルを召喚するときには、本体を出してからパーツを出している。パーツ一つ一つを出すときの一連の口上は、召喚口上に見えなくもない。
    「それにしても、急に口上の話をするなんて、どういうことなんだよ。シグナーにでも感化されたか」
     再び食事に戻った僕に、ルチアーノはそんなことを言い出した。昼間のことを見られていたのかと思って、背筋が少し冷たくなる。
    「違うよ。ちょっと気になっただけ」
     慌てて答えると、ルチアーノは訝しそうに僕を見つめた。じっとりとした瞳で眉を寄せると、すぐにいつもの表情に戻る。
    「まあいいや。君がシグナーの真似事をしようと、僕のものであることには変わりないからね。君は、僕のパートナーなんだから」
     なぜか機嫌の良い返事が返ってきて、僕はホッと息をつく。なんとかかわせたみたいだった。龍亞はシグナーではないから、僕の言っていることも全くの嘘ではない。本当はバレているのかもしれないけど、気にしても仕方ないから考えないことにする。
     それにしても、と、僕は考える。同じデュエルモンスターズのモンスターでも、シグナーの竜は精霊の分霊で、機皇帝は災厄の使役化なのだ。そんな彼らが戦うことになるなんて、デュエルモンスターズというゲームの本質は、僕が思っているよりも深いのかもしれない。
     僕も、召喚口上を考えてみたらどうだろうか。僕のデッキに精霊がいたら、彼らは僕たちのために戦ってくれるようになるかもしれない。ゲームと直接的な関わりがなくても、モチベーションは大切だ。
     また、龍亞に聞いてみようか。ルチアーノは嫌がるだろうけど、召喚口上について尋ねられるのは彼しかいない。そんなことを考えながら、僕は夕食のおかずを口に運んだ。
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