🎈🌟 全年齢メイドさん 番外編 類司♀ これはとあるお休みの日。
自室での作業が一段落ついたので少し休憩を取ろうと、工具を机に置き、右肩をグルグルと回した。
「んー......ふぅ.....」
コキコキと音を鳴らせながら凝り固まった血管が収縮して血液がドクンドクンと身体を巡っていく感覚は気持ちが良い。
「一段落ついたから何かしないかい?」
くるりと後ろを振り返ると、可憐な少女が一人、すやすやと吐息をたてながら横たわっていた。
「おや...これは...」
「すぅ....すぅ....」
この子は僕の専属メイドの天馬司くん。
1時間ほど前に洗濯物を片付けに僕の部屋に入ってきたんだけど、作業に集中していてあまり話せなかった。作業を中断し、司くんの方を振り返ると「気にするな!静かにしているから終わったら作業を見ていても良いか?」
と言い、特に気にならないので「構わないよ。落ち着いたら何かしようか」と返したら彼女は「ああ!」と笑い、僕の側で洗濯物を畳んでいた。
その後は集中していて司くんとは何も話していなかったが、近くには洗濯物もないし、片付けた後はそのまま眠ってしまったのだろうか。
右半身を下にして、ころんと丸まるように横になり吐息を立てる姿は無防備で普段の元気な姿と正反対だ。
気持ちよさそうに眠る寝顔はまるで幼子のようで何故か庇護欲をそそられる。
「むにゃ.....んむ...くぅ....くぅ...」
学校生活と仕事で疲れが出たのだろう。
クローゼットから大きめのブランケットを取り出し、司くんの身体に被せた。
これで身体が冷えることはないだろう。
それにしてもぐっすりと眠っている。
...今なら何をしても気が付かれないのではないだろうか。
僕はゆっくりと司くんの頭に手を伸ばし、そっと髪を撫でた。指にするりと前髪を絡め、手櫛の様に梳かした。
グラデーションの入った金髪はサラサラとして手触りが良い。髪を束ねているバレッタの留め具を外した。
ふんわりとした髪から良い匂いがする。
この匂いは僕の家で愛用しているシャンプーだった。
他の使用人も同じものを使っているはずなのに、何故だか僕の色に染まっているようで、ドキドキしてしまう。
もう少しだけ撫でようと司くんの頭に手を伸ばすと、「んぅ...」声を出し、少しだけ腕を動かした。
驚いてすぐに手を離すと、再び規則正しい吐息を立て始めた。
「(起きなくてよかった....。それにしても僕の、男の部屋で眠るなんて危険って思わないのかな)」
自分のテリトリーで無防備に眠っているのは襲ってもいいですよ、と言っているようなものだ。まぁ、司くん疲れて眠っているだけで、そんなことはただの勘違いでしかないのだが。
サラサラとした髪、リップクリームで保湿されたぷるんとした唇、眠って体温が上がりほんのり紅く染まる柔らかい頬。
本人は太いことを気にしているが長いスカートから覗く柔らかな太もも...今、ほんの少し、手を伸ばしたら届く距離にあるのだ。
手を伸ばして欲を満たしたい。
だが、見つかってしまえば司くんの心や信頼を傷つけることになる。
そんな考えが頭の中をグルグルと駆け巡っていく。
気持ちよさそうな寝顔を眺めながら考え込んでいると、瞼が薄く開いた。しまった、起きてしまっただろうか。
「むにゃ.....るい?」
司くんはぼんやりとしたまま僕を見つめている。とろんとしているからまだ寝ぼけているのかな。
それなら夢で誤魔化せないかな。なんて思って
しまう。
「司くん、これはね、その...っ!?」
「ふふっ」
ぼんやりとした瞳のままふわっと微笑むとその瞬間、腕が僕に向けて伸びてきて視界は暗闇に包み込まれた。
「司くん!?何を....」
するんだい、という声はふかふかした感触にかき消された。
むにゅっ
「!?」
「ん〜...あったかい...♡むにゃ....すぅ...」
伸びてきた腕に頭から包み込まれ、モゾモゾと動かし、どうにか這い出ようとした。
豊満に育った柔らかな感触。服の上からなのに柔らかくて暖かい。
「(これって司くんの胸だよね...?って、大変だ。早く腕を解かないと....)つ、つかさく....」
「るい....すぅ....かわい....ぎゅぅ....」
起きるどころか先程よりも気持ちよさそうに眠ってしまった。
寝言から上機嫌な様子が伺える。
「(前に寝相が悪くて布団を蹴ってしまうことがあるとは聞いていたけれど、ここまでとは思わなかったな)」
緊張と興奮で息が荒くなる。
「ふぁ....くすぐったい....えっち.....」
僕の吐息がくすぐったいのかモゾモゾと動き出して足を類の上半身に絡めて、ガッチリと動けない体制を取られてしまった。
「(どちらかというとえっちなことをしているは司くんだと思うんだけどな...)」
なんて、言いたいが、声に出したら起きる可能性がある。
とくん、とくんと司の心音が小さく聞こえてきた。
「(この音は...ああ、そっか。司くんの胸が押し当てられているから一緒に心臓の鼓動が聞こえてくるんだ)」
とくん、とくん....と聞こえてくる優しい音色は先ほどまで集中していた緊張を解き、心地の良い眠気を運んでくる。
「(こんな状況なのに、急に、眠くなってきた...)」
「...一緒に、ねよう?」
きゅっと腕の力が強くなった。こんなことをされたら離れることができない。
...否、離れたくはない。
主人は愛しいメイドの腕の中で共に暗闇に落ちていく。
************
数時間後
「んっ、ふぁぁ....。よく寝たな...。....ん?何だこの感触....オレは何を抱き枕にして......
「って類!?何して....ええぇ!?」
「すぅ....」
「うぅむ...。オレの寝相か...?オレの寝相なのか...?」
後で事情を説明して謝ろう.....。そう思い、類のの腕を伸ばし、自分とは違う硬い胸の中に潜り込んだ。
胸に耳を当てるとどくん、どくんと動く類の鼓動が聞こえてくる。
腕を自分の背中に回し、類が自分を包むように抱きしめる体制の完成だ。
普段はできない体勢にドキドキするが、これは滅多に出来ることではない。
すうすうと眠る類の顔をじっと見つめる。
「こうしていると可愛いんだがな...」
日頃から学校、類の部屋での実験、爆発、吹っ飛ばされたりと色々と類にされてきたことが脳裏を駆け巡り、背筋がゾワリとした。
「(そういえば、おはようのキス、一度だけしたことがあったな。)」
あの時は確か、朝起こしに行った時に類が起きるのを渋った時だった。
司はあの時のバタバタした朝の光景を思い出した。
あの時は自分もヤケになっていたものの、類があんなに照れるとは思っていなかった。
「(キスをした時、随分と照れていたな...。まぁ、オレも全く同じだったのだが。)」
じっ、と類の整った唇を見つめる。すう、すうと小さく吐息を立てているが、普段は『司くん』と柔らかい声で呼んでくれる。
「(それなら今は....おやすみのキス、ということになるのだろうか.....。肝心の類はもう寝ているのだが...。)」
眠っているし、こんなに近くに自分がそばにいても起きないし、少しだけ、いいだろうか.....。
司は類の頬に手を添えて、綺麗な顔にやわらかい桜色の唇をゆっくりと近づけていく。
ちゅっ
「(.....やってしまった!!類は....寝てる、よな!?)」
類がまだ起きていないことを確認すると、胸を撫で下ろし、ポスンと類の胸に飛び込んだ。
再び鼓動が聞こえて、先ほどの緊張がほぐれる。
「...ふぁぁ...また眠くなってきた....」
もう少し一眠りしてから考えよう、
ひと時の現実逃避をすることにしたメイドは主人の腕の中で意識をゆっくりと沈ませた。
「はぁ...司くん、そういうのは起きてる時にやってくれないかな...。」
「すぅ....すぅ....。」
************
おまけ
「神代家のルール?」
「司くん、そういえば、この家のルールで言ってなかったことがあるんだけど」
「おお、何だ?」
「ここでは朝起きた時と夜寝る時に僕にキスをしないといけないんだ」
「は、はぁ!?そんなこと言われたことないぞ!?」
「前までは新人さんだったから免除されていたんだよ。でもここにきてから結構経つよね?」
「う...まぁ、そうだな。で、でもキスってそ、その...」
「キスって言っても頬に軽くちゅっとするだけでいいよ。まさか、唇にしたいの?」
「そんなこと言ってないだろう!!」
「フフッ、それから、メイドがちゃんと本番でできるように主人が何回か練習として見本を見せないといけないんだけど、今やってもいいかな?」
「へ?み、見本って...本番とはなんのことだ!?きっ....きききき」
「キスの。ほら、こっちおいで」
「ふっ、ふっ!!よし!どこからでも、来いっ!!」
「フフッ、わかったよっ...ぷっ....」
「笑うな!真剣なんだぞ!!」
「ごめんごめん。それじゃあゆっくり行くね.....」
「ん......」
ちゅっ
「こんな感じかな。そっとするだけでいいからね。」
「はえ...........。」
「おや....。大丈夫かい?司くん。溶けてるよ」
「はっ!!....はっはっは!すまないな!!気にしないでくれ!」
「もう一回するかい?」
「そ、それは大丈夫だっ!!!一回でマスターしたぞ!!完璧だ!!」
「それじゃあ、早速やってみて。マスターしたんだから、今できるよね?」
「わかった!!それじゃあ類、目を閉じていろ!」
「うん」
「よし、行くぞ......。行くからな!!」
ちゅっ......ぢゅゔぅぅぅ!!
「ふっ....ふぅ、どうだ!できただろう」
「ヒルに血を吸われたかと思ったよ....。全然出来ていないじゃないか。もう一回。」
「何!?完璧じゃないか!!」
「よくみてよ。ここに跡が残るくらい吸うのはもはやキスじゃないんだよ。ちょっと痛かったし....」
「あっ...す、すまない...。気をつける....」
「大丈夫だよ。それじゃあもう一回やってみて」
「あ、ああ...」
「落ち着いて、ゆっくりでいいから、ね?」
「わかった...。それなら...んっ...」
ちゅっ.....ちゅっ...ちゅぅ....ぺろっ...
「ふぅ...今度こそ、どうだ!?類?」
「まぁ、いいんじゃないかな?それなら少し離れてもらってもいいかい?」
「あ、ああ!乗っかって悪かったな!」
「(はぁ...。司くんって1か100しかないのかな....。)」
主人の苦悩とメイドの努力はまだまだ続く。