家守神との約束【起】
「ボス、夏目貴志から手紙がありましたよ」
「彼はほんとに律儀ですね」
成人後、愛した田舎の土地を離れ人が行き交う賑やかな都市部に彼が旅立ったのが既に懐かしい。
今でも休みの度に育ての親とも言える夫妻のもとに帰っていると人伝に聞いていた。
「この前茶請けで七瀬が出してくれた奴、美味しかったなぁ。菓子折りで御返ししておいて貰えますか」
「返事は書かないのかい」
「えぇ」
妖力が強く優しい少年だった彼から季節の折に手紙が届くようになって暫く経つが、的場は返事をまともに返した事はない。
中身を読まなければ返事は書けない屁理屈で、実は封も切らずに引出しに溜めている。
頭首の不義理に七瀬が零した小さな溜息に気付かない振りをして眼の前の書類に視線を戻す。
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