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    ginn_3331

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    ginn_3331

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    レトリン
    5年後、支援S前
    ベレトが自分だけの片思いだと思っている。生徒に手を出すことに若干の躊躇いがある。

    夜の花園あたりはすっかり闇に覆われ、静かな時間が流れている。
    見回りの当番を終え、自室へと向かう。今晩は月がはっきりと見える夜だ。

    薔薇の咲く中庭に差し掛かる。中庭はよく手入れされ、今は白い薔薇が競うように咲いている。上品な甘い香りがあたりにうっすらと漂う。この時期は気温が上がってきて優しい夜の闇はなんとも居心地が良い。

    ふと遠目で見慣れた人影が落ちていることに気づく。
    夜闇の中でも白い肌が輝いてるかのようにはっきりと見て取れる。近づいて目を凝らせばすうすうと浅い寝息と共に胸が上下していた。

    「風邪を引くよ」
    膝をつき肩をたたく。
    「ん…むぅ…」
    リンハルトはゆっくりと目を開ける。ちらりと目が合うが、そのまま目を閉じて身体を丸めてしまった。

    「こら。布団で寝なさい」

    反応がない。そういえば5年前──感覚的には数節前だが──ここを昼寝の場所として勧めたのは自分だ。暖かくなってきたとはいえ流石に夜通し外で寝れば風邪を引くだろう。

    思案に浸っていたがその間も全く起きあがる気配がない。
    呆れながらも抱きかかえようとすると不意に腕を引かれる。受け身を取ろうとするが、あまりにも至近距離で腕を引かれたので導かれるままリンハルトの胸に飛び込むこととなった。

    「先生…一緒に寝ましょうよ」
    寝起きで掠れた声が上から降ってくる。

    「冷えてる」

    頬に触れた布や装飾が思いの外冷たい。思わず眉を顰める。どれくらい夜気の中に晒されていたのか。布越しに感じる体温も僅かばかりだ。

    「じゃあ、温めてくださいよ」
    普段と変わらない飄々としたトーンで言葉が紡がれる。

    口実を、与えられている。
    リンハルトといるとそう感じることがある。本人はただ気ままに振る舞っているだけなのかもしれないが、その振る舞いがベレトにとって次第に二人でいる口実になってきてしまっている。
    どこでも寝落ちている彼が風邪をひかないようにと注意する。将来の相談に乗るためにお茶会を開く。戦場で死なないために訓練をする。自分の紋章について知るために身体を委ねる。リンハルトと関わるために、口実にのっているのはベレトのほうだ。

    躊躇いながら外套で包み込むようにリンハルトにそっと覆い被さる。リンハルトの手が背と外套の間に回る。効率的に暖が取れているようには到底思えなかったが、指摘はできなかった。

    「ふふっ、先生って僕に甘いですよね」
    「君が我儘を言うから」
    「そうですねぇ」

    ここまでしてしまって好意を悟られてしまっているだろう。彼との時間の居心地のよさに陶酔にも似た感覚を覚えてしまう。しかし、彼がどれほど本気で二人の関係を考えているのかが掴めない。ずうっと確信を持てずにいる。聞けば素直に答えられるだろうに、情けないことにこの関係を壊したくないという一心で聞けずにいるのだ。……まして戦時中だ。明日剣の露ともなりうる身で恋にかまけているべきではない。

    そう、恐らくこれは恋なのだ。今だけは、この温もりを覚えていたい。この温もりの記憶だけでも、今後どんな道を歩もうがやっていける気がした。

    「いい夜ですね」
    「そうだな」
    「気温のせいなのかな、なんだか夜の花のほうが香りが強い気がするんですよね」
    そう言うとリンハルトは深く息を吸う。ベレトも深く息を吸ったが、リンハルトの匂いがして集中できず、あまりよくわからなかった。
    「そうかもしれない」
    思考を気取られないよう咄嗟に相槌を打つ。

    ふと顔を上げるとリンハルトがこちらを見つめていた。2人の顔が近い。瞳がお互いの姿を映す。
    あまり長くそうしていると、もう戻れないような気がしてサッと身を引く。
    無表情だと言われることが多いが、今夜は頬が熱くて仕方がないように思う。自分には滅多にないことで、戸惑う。顔色に出てませんように、はやく夜気が頰を冷やしますように、彼が夜目の利かない人でありますようにと勝手に願った。

    「こんな夜がずっと続けばいいのにと思ってしまいます」
    こちらを見透かすような瞳で見つめられる。
    「そうだな」
    顔色を隠せている自信がなくて、視線を外すようにぷいと満月の方を見遣る。

    しばらくリンハルトはこちらを見つめているようだったが、ようやく体を起こした。
    「そういえば今咲いている白い薔薇なんですけど……」
    そうしていつも通りくだらない雑談をしながらそれぞれの部屋に戻る。
    パタリと扉を閉じてからも、頬の暑さと彼の匂いの記憶はなかなか鎮まることはなかった。

    ──────後日談

    「覚えてますか?先生が中庭で僕のこと起こしてくれた夜」
    ソファでくつろいでいると遠慮なくのしかかられる。

    「ああ」
    「実はあの時をきっかけにあなたに指輪を渡すことを考え始めたんです」
    リンハルトはべレトの膝を我が物顔で占有しながら、ベレトの左手に嵌る指輪を見つめる。

    「そうなのか?」
    「ええ。先生って僕のこと存外子供だと思ってますよね?」
    「……そんなことはない」
    「指輪でも渡さないと、貴方は僕の覚悟をわかってくれそうになかったから」
    「……」
    「でも渡せてよかったですよ。だからこうして一緒にいるんですし」
    「……リンハルト」
    「なんですか?」
    「指輪を渡してくれてありがとう」
    「ふふっどういたしまして」
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