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    桃原@Xfolioに移動中

    @momohara2022

    クロスフォリオに試しに移動中です。
    https://xfolio.jp/portfolio/momohara2022
    ここは練習・らくがき置き場になる予定。
    天官賜福/TGCF/花怜🦋🌸

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    POIPOI 119

    現代AU🦋🌸がホットケーキを焼いているだけのお話。
    2巻(台湾版)読んでた時に、とにかくもうストーリーとかどうでもいいから最終巻まで花城とホットケーキでも焼いててくれ😭ってなって書いたやつ。

    前ツイッターに上げたのを気になるとこだけ修正した。
    修正前→ https://twitter.com/momohara2022/status/1521317884668317698

    ホットケーキを君と「おはよう、兄さん」

    ギシ、というスプリングの音とともに、謝憐のこめかみにやわらかな感触が押しあてられた。
    カーテン越しの陽光は明るい。
    どうやら二度寝をしていたらしい。
    一人ベッドで目を覚ました謝憐のもとに、ちょうど花城がやってきたところだった。

    「三郎……おはよう」

    腕をのばして花城の首に回すと、微笑んだ花城が謝憐の唇をとらえ、軽く口づけを落とした。

    「兄さん、昨日言ってたこと、覚えてる?」
    「昨日? 何だっけ」
    「夜、寝る前に言ってたでしょ。明日は休みだから、朝はゆっくり寝て、それから……」
    「あ! ホットケーキを焼きたい!」

    花城が笑ってうなずいた。

    「兄さんさえよければ、今から焼かない?」
    「焼く! すぐ着替えるから待ってて」

    謝憐は急いでベッドから起き上がった。


    ✼ ⋈ ✼


    コポコポとコーヒーの沸く音がする。
    花城の住む高級マンションのキッチンは広く、大柄な男性二人が並んで立っても十分に余裕があった。
    ボウルを抱えてホットケーキの生地を混ぜる謝憐の横では、花城が手際よくサラダ用のレタスをちぎっていた。

    「兄さんはホットケーキが好きなの?」
    「そこまで好きなわけじゃない。ただ……」
    「ただ?」
    「……いや、パンケーキアートの特集を見て、面白そうだなと思ったんだ」
    「そう」

    花城は何かを考えるように上を向き、それなら、とつぶやいて、プラスチックの容器を取り出した。

    「生地をこれに入れて絞り出そう。その方が描きやすい」
    「三郎は用意がいいな」
    「たまたまあっただけだよ」

    二口並んだコンロの両方にフライパンを置く。
    生地入りの容器を手にコンロの前に立った謝憐は、ふむ、と考え込んだ。
    いきなり絵は難しいだろうか。まずは文字や記号からがいいだろうか。
    手にした容器は案外力加減が難しく、思わぬところで出たり出なかったりと、謝憐のフライパンにはでこぼこした線が並んだ。
    自分の分を焼きながら横目でそれを見ていた花城は、ふと謝憐の手が止まったことに気がついた。

    「兄さん、どうしたの?」

    花城がのぞきこむと、そこには不格好な横線が3本、フライパンいっぱいに大きく書かれていた。

    「…………バランスを間違えた」

    一瞬おいて、花城は吹き出した。
    書かれていたのは『三』だ。
    『三郎』と書こうとしたようだが、どうやら線を引くことに精一杯で、『郎』のスペースまで気が回らなかったらしい。
    嬉しいやらおかしいやらで笑いが止まらない花城を、謝憐がすねたような目でにらむ。

    「そんなに笑わないで」
    「ごめん。それ、僕がもらっていい?」

    涙目になりながら花城が言うと、謝憐は口をとがらせたままうなずいた。


    ✼ ⋈ ✼


    キッチンにホットケーキの焼ける甘い匂いが漂う。
    二枚目を焼き終えた謝憐に花城が声をかけた。

    「兄さん、見て」

    花城のホットケーキには、かわいらしい動物の絵が描かれていた。
    小さい頭に、まるい耳。くりくりした目と、ちょこんとした鼻。

    「すごい! オコジョだ! さすが三郎」
    「そうでもないよ。でもありがとう」
    「どうやったらそんな風に描けるんだ? コツは?」
    「コツか……」

    少し考え込んだ花城が、おもむろに体を寄せる。
    何をするのかと問う暇もなく、謝憐は後ろから抱きすくめられる形になっていた。
    花城の右手が、容器を持った謝憐の右手にそっとそえられる。
    反対の手はしっかりと謝憐の腰を抱いていた。

    「兄さんはたぶん力を入れすぎなんだ。こうやって軽く持って、均一に生地を絞り出すといい。ゆっくり、力を抜いて、少しずつ」

    言いながら、花城の指先が謝憐の手の甲をするりと撫でる。
    謝憐が反射的に身じろぎすると、たしなめるように腰に回された花城の手に力が入り、体がさらにぴったりとくっついた。
    薄い部屋着越しに花城のたくましい体を感じ、謝憐は赤面した。

    「……三郎」
    「ん?」

    わざとやっているだろう、と目線だけで抗議するも、返ってくるのは満面の笑みだ。
    にやりと口角を上げた口元はいたずら好きの子供のようなのに、謝憐を見つめる目の奥には確かなやさしさがある。
    その目で見つめられてしまっては、謝憐には抵抗できない。
    花城の胸に体をあずけてわずかに顔をかたむけると、ほんの一瞬目を見開いた花城が、すぐにやさしく微笑んで顔を寄せた。
    唇が重なり、二人だけのキッチンに甘い空気が流れる。

    だが、口づけが深くなった瞬間、謝憐の手から力が抜け、容器がすべり落ちた。
    あわてて力を込め直した謝憐と、容器が落ちるのを防ごうとした花城の力が重なり、フライパンの上に盛大に生地が飛び出す。

    「ああ! もう、三郎!」
    「ごめん、兄さん」

    花城は笑って謝憐を解放した。


    ✼ ⋈ ✼


    日の光の差し込む食卓に、おそろいの皿と食器が並ぶ。
    花城が用意したサラダに、冷蔵庫から出してきたハム、はちみつ、バター、熱いコーヒー。
    お互いの皿には焼きたてのホットケーキが何枚も重ねられていた。

    花城が、最後に焼いていた一枚をフライパンごと持ってやってきた。

    「これは兄さんにあげる。さっきのお詫び」

    謝憐は一目見て、驚きに口を開けた。
    そこに描かれていたのは、舞い散る花びらに袖をなびかせ、片手に剣、片手に花を持ち、面をつけた美しい人――仙楽太子悦神図だ。
    線は流麗にして繊細。
    焼き加減で色の濃淡までつけてある。
    どうやって描き上げたのか、謝憐には見当もつかなかった。

    「すごい……もったいなくて食べられないよ」
    「食べてよ。大したものじゃない」

    あたふたと写真を撮ろうとする謝憐を見ながら、花城は小さく笑い、謝憐のホットケーキの一番上に最後の一枚をのせた。


    ✼ ⋈ ✼


    二人で遅い朝食をのんびりと楽しみ、食後のコーヒーを飲んでいた時、謝憐がふとつぶやいた。

    「三郎」
    「うん?」
    「本当はね、子供のころ一度だけ、両親とホットケーキを焼いたことがあるんだ。それがとても楽しかったから、君とやりたかったんだ」

    明るい光の中で、謝憐が微笑む。
    花城はまぶしさに目を細めた。

    「今朝は付き合ってくれてありがとう」
    「また焼こうよ。兄さんが望むなら、いつでも、何度でも」
    「うん、次は君の名前をちゃんと書くよ」
    「嬉しいな。じゃあ僕は兄さんの似顔絵を描く」

    二人は笑い合った。
    かすかに残るホットケーキの甘い匂いが、おだやかな時間の中に溶けていく。
    休日はまだ始まったばかりだ。
    今日は何をしようかと、二人は話に花を咲かせた。
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