〇一
「君はどれが良いと思う?」
男は微笑みを浮かべながら、ネクタイを杉元佐一の首元へと宛がった。暗い青地に黒のストライプがあしらわれたそれは、杉元に気に入るか否か、という点よりも、ただ単純に、目の前で目を細める男の好き好みの問題で選り好みされているようだった。
いらない、と否定を込めて首を左右に振って見せると、男はしばしの間考え込むような仕草をしてから、ネクタイを控えていた販売員へと戻す。
今度は光沢のある赤いものと、濃い灰色のものを並べた。それから、「……いや、これは少し違うな」と独り言のように呟く。実際、独り言であったようで、杉元へ見せるでもなくネクタイを再び販売員へと戻して、別のものを手に取る。
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