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    ぽりん

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    ぽりん

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    あれファン展示SS。アレ+ファで申請しましたが限りなくアレファウに近くなってしまいました。後日Pixiv公開しますのでお時間のある時に。アーサーに髪の毛を触られそうになって色々思い出すファウストの話です。passはずしました!!読んでいただいてありがとうございました✨

    #あれファン
    thatFan

    アーサーに重なるはぱち、と乾いた音が魔法舎の外壁に反響して、反射的に手を払い除けてしまっていたことに気が付いた。
    その澄み渡った青い空を映したような瞳が今の天気のように悲しげに曇るのを、見たかったわけではなかった。
    はっきりしない空模様とは裏腹に、中庭に咲く花々は鮮やかに揺れている。

    「……すまない、つい」
    「いや、大丈夫だ。おまえの職業のことを考えれば、私が迂闊だった」

    その通りだ。呪い屋としては、髪に触れることを誰彼構わず容易に許すわけにはいかない。……信頼する相手、以外に。しかし、別にアーサーのことを信頼できないなどと思っているわけでは断じてない。
    よく、やっている。一国の王子として、賢者の魔法使いとして。中央の国ーーその名を口にするのも厭になるが、国とその現在の権威者を同一視しているわけではなく、アーサー自身のことを嫌っているわけでもない。

    ただ、どうしていいのかわからないのだ。僕のえりあしに引っかかった花びらを取ろうとして伸ばされた手の気安さに、こちらを真っ直ぐ射抜くようでいて確実にあたたかみを含んでいる親しげな目に、遠い日の面影を重ねずにいられなくて。
    それをどこからどこまで、どうやって伝えれば己と相手に誠実でいられるだろう。そうやって言葉に詰まっている間に、ついに発するタイミングを失った。

    似ていない部分を探す方がよほど難しい。その姿で箒で飛び回り、呪文を口にし、大きな力を使うこと以外に。


    「ファウスト!」

    肩越しに振り向いた在りし日の彼の幻影の、束ねた銀髪が風に舞う。日に背を向けて笑ったアレクに、眩しいと目を細めた記憶がよぎる。

    互いの生まれた日は1年も離れていなかった。
    戦乱の時代の影響もあっただろう、育った村は豊かな食環境にはなく、僕たちは肉付きの悪い体格も似ていて、身長もほぼ同じように伸びていった。
    それぞれの誕生日が近付くと連れ立って村のはずれまで駆けて行くのが二人の慣例だった。大きな蔵の外壁に積まれたレンガの数を目印に、前の年の自分と背を比べて二人にしかわからない削り跡を付けあった。伸びた、伸びたとはしゃぎながら近くに咲いた花を集めて作った冠を贈りあったりもした。一時期は、自分の方がいくらか背が高かった。あれは確か12、3の頃からの数年間だった。
    志とともに故郷を離れた頃には、一緒に過ごした年月の長さが生まれてから出会うまでのそれを越していた。互いが側にいない、ということの方が非日常だった。戯れも、学びも、希望も、全て共にして分かち合うものだと思っていた。

    だから修行で軍を離れた時が、その初めての長い非日常になった。1年もアレクと顔を合わせないことなんて、出会ってから一度もなかった。けれど、不思議と寂しいとは思わなかった。あの時までは。

    厳しい修行を積むさなか、魔力が成熟したらしかった。年齢としてはこれから男性らしく筋を大きく発達させる頃合いだったが、それが訪れるよりも早かった。今もその瞬間のことを忘れていない。朝、目を覚まして体にふと違和感を覚えたのでどうしたことかと師に問えば、肉体の成長が止まったのだろうと教えられたのだ。
    魔法で姿形を変化させることは幾らかできるが、本来の自分の姿はこのまま身長も変わらず、体毛も薄く、これから歳を重ねていっても皺のないつるりとしたハリのある肌でーー
    急に、己の長命の定めが恐ろしいものに感じた。

    軍へ戻るとアレクの目線の位置は少し高くなっていた。見上げた角度に心音がどきりとなり、言い得ぬ心細さが背筋を走った。何もそれは僕だけの感情ではなかったのだろう。徐々にその角度が大きくなる程、見下げる目が不安げな色を含んでることが多かったのも、全て過去になった今だからこそ気付けることなのかもしれない。思い返せば、生えてくる髭を伸ばすか剃るか悩んでいると相談されたこともある。どちらでも似合うんじゃないか、おまえの好きなようにすればいい、と言葉通りの意味だけに返事をして上手く取り合ってやれなかったが、それも僕を置いて老いるアレクの内心の現れだったとしたら。
    あいつに、おまえは人の心の機微に疎いところがあると指摘されたことがあった。あの頃のあいつの気持ちに寄り添ってやれなかった僕が悪かったのだろうか。

    過ぎた日の想いの欠片は吹きすさぶ風の速さで脳裏を駆け抜ける。現実の自分の肉体は魔法舎の中庭で茫然と佇んでいるのに、心が400年ほど旅をしてしまってなかなか帰ってこない。

    そう、アーサーの目線はほぼ同じ高さにある。
    歳の頃も、まだ村を出る前の、夜中にこっそり家を抜け出し、二人で草むらに寝そべって星を眺めながら互いの夢を熱く語り合っていた時と同じだ。だからこうも、懐かしくて、あたたかく……戦場の凄惨さやあらゆる汚れた感情を知る前の、あどけなく純粋だった、疑いなく友と呼べた、あの目を思い出す。
    アーサーの肉体は今も成長しているように見える。魔力が成熟するまでには、背丈がもう少し伸びるだろうか。
    体付きも……魔法使いであり王子であるアーサーにとって、あいつのように身体を資本に剣を振るう機会は少ないだろうが、それでも隙を見つけてはカインと共に剣術の稽古をしているのを知っている。まだまだ逞しくなるだろう。

    もし、あぁ、僕の人生がそれまでのものと全く変わってしまったあの日の年齢にアーサーが至った時、彼の背があいつと同じ高さになっていたとしたら……!
    思わず自分の体を抱き締めた。おぞましい想像をしてしまった後悔が胃袋を数センチ持ち上げる。
    今ですらアーサーとアレクを切り離すのに苦労しているのに、もしも僕の身を焼いたあの時の姿と同じ体格をしたアーサーが目の前に現れたら。
    正気でいられる気がしない。急に視界が暗くなって、地面が歪む感覚が襲う。
    今みたいに伸ばされた手を払い除けるだけで済めばいいが、脊髄からの反応のようにアーサーを傷つけたり呪ったりせずにいられないほど心が乱されることが、起こることがないと、断言できるだろうか。
    このままでは……よくない。


    「アーサー、」
    俯きがちに逸らされていた視線がこちらを捉える。
    そうだ、きみを、悲しがらせたかったわけではないのだ。
    「悪いが、きみが取ろうとしてた花びら、取ってくれないか。自分ではどこについてるかわからない」
    「いいのか?」
    ぱ、と花が咲く音が聞こえるようだった。蒼い瞳に小さく星が躍った。
    こんな些細な許しを得たことで、こうもわかりやすく表情を変えるかと、吹き出しそうになるのを何とか堪えた。
    先程までの曇天を覆っていた雲が急に途切れて光が差し込む。
    「実を言うと……ふふ、以前から、ちょっと触れてみたかったんだ。ファウストの、ふわふわした髪の毛」
    照れ臭そうに小さな告白をしながら王子は笑う。恐る恐る伸ばされた手がそろりと花弁を摘んだ後、先程の遠慮はどこへ行ったやら、欲に抗わずに僕の毛先を弄ぶ。やわらかい、猫の毛のようだ、と嬉しそうにアーサーは頬を緩めた。

    人に髪を触られるのは、相手との信頼関係があれば、心地いい。
    とうに、400年も前に、そのことは知っていたはずだったのに、ついぞ記憶の彼方へ追いやられていた。

    「誓おう。二人で、理想の国を築こう」
    掬ったひと束の癖毛に、そういって口付けを落とした過日のアレクの瞳の輝きを、眩しく思って目を細めた。
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    ぽりん

    DONEあれファン展示SS。アレ+ファで申請しましたが限りなくアレファウに近くなってしまいました。後日Pixiv公開しますのでお時間のある時に。アーサーに髪の毛を触られそうになって色々思い出すファウストの話です。passはずしました!!読んでいただいてありがとうございました✨
    アーサーに重なるはぱち、と乾いた音が魔法舎の外壁に反響して、反射的に手を払い除けてしまっていたことに気が付いた。
    その澄み渡った青い空を映したような瞳が今の天気のように悲しげに曇るのを、見たかったわけではなかった。
    はっきりしない空模様とは裏腹に、中庭に咲く花々は鮮やかに揺れている。

    「……すまない、つい」
    「いや、大丈夫だ。おまえの職業のことを考えれば、私が迂闊だった」

    その通りだ。呪い屋としては、髪に触れることを誰彼構わず容易に許すわけにはいかない。……信頼する相手、以外に。しかし、別にアーサーのことを信頼できないなどと思っているわけでは断じてない。
    よく、やっている。一国の王子として、賢者の魔法使いとして。中央の国ーーその名を口にするのも厭になるが、国とその現在の権威者を同一視しているわけではなく、アーサー自身のことを嫌っているわけでもない。
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