雷ドォーンと雷鳴が轟く深夜。その音と激しい雨音がタケミチの眠りの邪魔をする。部屋にはタケミチ独りぼっちで、怖くてたまらない。布団をきゅっと掴んで、あふれ出てきそうな涙を必死に抑える。昼間に天気予報を見ていたら、今頃こんな思いはしていなかったはずだ。雷が鳴るなんて知っていたら、誰かと一緒に寝ようと誘っていた。怖いよ、その思いだけがタケミチの心を支配する。カーテンの隙間から一瞬光が。あっ、また鳴ると思ったときには遅く、ドオーンと響く音。タケミチは我慢できなくなって、枕をぎゅっと抱きしめ、部屋を飛び出した。
薄暗い廊下を震えながら歩き、階段を上ってお目当ての部屋に行く。ガチャっとドアを開け、そっと中を覗く。部屋の主はベッドで寝ているようだった。お邪魔します、心の中でそう思いながら枕を置いて隣に寝転がり、その少年の顔を見つめる。
「何してんだ。」
急に少年の目は開き、タケミチの心臓が一瞬止まる。
「起きてないとでも思ったのかよ、お前が部屋に入ってきた時から起きてたぜ。」
「にぃ!起きてるなら、先に言ってよ!」
「勝手に部屋に入ってきたタケミチが悪いだろ。そういう悪い奴にお仕置するのもにぃの役目だ。」
ぷくっと頬を膨らませるタケミチに、悪かったと謝ったのはイザナという少年。タケミチの血のつながらない兄である。
「どうせ、雷が怖くて寝られなかったんだろ。」
「うん…。」
ゴロゴロと再び音が聞こえ始める。雨音も先ほどより激しさを増していた。
「しょうがねぇな。こっち来い。」
イザナはタケミチを自身のほうに近づけて抱きしめる。イザナの温もりがタケミチを包み込み、安心感を与える。
「こうすれば、少しは落ち着くだろ?」
「うん、温かくて気持ちいい。」
タケミチの瞼がゆっくりと閉じられていく。ついにイザナが話しかけても全く答えなくなった。イザナはタケミチの前髪をそっと上げ、額にキスをする。タケミチの顔を見ると不安そうな表情から一転、笑顔を見せていた。
「ったく。世話のかかる弟だな。」
実はイザナ、タケミチが来るずっと前から起きていたのだった。深夜から雷を伴う激しい雨だと知っていたため、怖くて寝られなくなったタケミチが自身の部屋を訪れるのではないかと待っていたのだ。そんなことなら先に一緒に寝ないかと誘えばいいのだが、イザナはタケミチに頼ってもらいたかった。そんなことをタケミチが知れば、意地悪なにぃと言われてしまうだろう。意地悪いにぃで悪かったな、タケミチの頭を撫でながらイザナはそう思った。しばらくすると、雷の音が聞こえなくなった。そのことを確認して、イザナは眠りについた。