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    さめはだ

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    さめはだ

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    高校生拓2♀
    拓とモブ

    「すっすみません!」

     緊張がたっぷりのった声音に振り返る。そこには、顔を赤くも青くもした…決して紫ってわけじゃないけど…とにかく、顔色が忙しないことになってる男の子が立っていた。日に焼けた茶髪が店内の灯りでキラキラ光る。

    「はい、いかがなさいましたか」

     家が近いからと始めた薬局でのアルバイトはなかなかに大変で。時折とんでもないクレー厶…ご意見をいただくことも。だから客から声をかけられたら反射で身体が強張ってしまう。けれどそれを悟られてしまったらまたご意見に繋がるって堂々巡り。だからすぐに外行きの笑顔を貼り付けて、にっこりと柔らかく「どうされましたか」と声をかけるんだ。


    「頼まれて来たんですけど、全然わかんなくて…」
    「商品お探しなんですね」
    「…はい」

     まだ高校生ぐらいだろうか。さぞオモテになるだろう顔つきに、母性をくすぐるような仕草。店員じゃなくても、手を貸してしまいたくなる。

    「…えっ、と……せっ…」
    「…はい?」
    「せッ………せ、…せー、り…のものって……どこにありますかっ」

     最後の方を駆け足で言いながら突きつけてきたケータイの画面には、"特に多い昼が好ましい"、"26センチ以上"、"羽つき"、と箇条書きで記されていた。なるほど、この陽キャはご家族か彼女のお遣いにでも来たんだろう。微笑ましいことこの上ない。自然と綻んでしまった表情のまま「こちらでございます」と商品棚へと案内した。

     棚3つ分の展開がある陳列棚に気まずそうな顔をしながら、頭上には特大のはてなマークが浮かんで見える。思わず笑ってしまいそうだが彼の眼差しは真剣で、「もう一度、見せていただけますか?」と声をかけた。次の瞬間表情がぱあっと晴れ渡り、元気の良い「お願いしますっ」が返ってきた。

    「正直、呪文にしか見えなくて…ぜんっぜんわかんないんすよね…」
    「あはは…まあ、そうなりますよね」

     見に覚えはある。自分のお母さんからあれこれ教えてもらった10代すぐ、種類の多さに目を回したものだ。それを、自分で使うことがない男の子ってなったらなおさらだろう。

    「ご家族…いや、彼女さんでしょうか?」
    「……っす…。俺んちで急に来ちゃったみたいで、変わりに俺が…」
    「なるほど…」

     それは困っただろうし、恥ずかしかっただろうな…。なんて優しい子と、眼を細めそうになった。

    「こちらがいいかと思いますよ!一応まとめ買いがお得なんですけど、その場だけでいいと思うので1つで十分です」
    「あっ!ありがとうございますっ!」

     16個入りのナプキンを手にしながら浮かべる笑顔ではないけど、そこから彼がどれほど困り果ててたのかが見て取れる。こんな優しい子の彼女のためにひと肌脱ごうと余計なお節介まで焼いてしまった。

    「あと、もし手持ちに余裕があるようでしたらこちらのご購入もぜひに」
    「…これ、なんすか?」
    「サニタリーショーツです」
    「さにたりーしょ……ショ、ショーツ?!」

     復唱を途中で辞めてしまった男の子が、今度こそ顔を真っ赤に染め叫び声をあげた。日中のこの時間帯は比較的混雑が少ないからその声量に驚く人はいない。

    「そう、それ専用の下着ですよ」
    「下着って……ちゃんと、パンツ履いてますよ…?」
    「それじゃ不十分ですし…多分だけど、急に来たってことは…」
    「……あっ」

     ナプキンを握りながら腕を組み、うんうん唸っていた彼が私の言いたいことを察した。もしかしたら余計なお世話になる可能性もあるけど、高校生の男の子に「経血で汚れたから変わりの物を買ってきて欲しい」は言い辛いだろうなっていうお姉さんの考えです。

    「……買っていきます」
    「うん、そうしてあげてください」

     無地の物を選び手にとって、私の促すままレジへと足を向けた。専用の紙袋へその2点を詰め込んで、もう一回だけお節介を焼きたくなってしまった。

    「これ、試供品だから…よかったら食べさせてあげてください」
    「うわっ…何から何まで、ありがとうございます!」

     パウチタイプのゼリー食品は鉄分豊富と謳っていて、味に癖もないからと試供品からリピーターに繋がりやすい一品だ。するりと紙袋に滑りこませてからストアテープを貼った。

    「…ホント、お世話になりました!」
    「いいえ、お力添えできたならなによりです」
    「っと、輝ニから電話だ…あっそのカノジョです…今日は本当にありがとうございましたっ!」

     声をかけてきた赤くも青くもあった顔を晴れ晴れしくさせ、にこやかに笑った男の子が背中をむけた。「ありがとうございました」とマニュアル通りの挨拶とお辞儀をして、その背中を見送った。



    「もしもし?ちゃんと買えたぞっ…心配で電話したんか〜?お遣いぐらいできるってのっ!…って、おいおいおい…!なに泣いてんだよ!どうしたっ?!お腹痛い?!……えっ…シーツ、汚した…?……はぁぁ…んだけかよぉ……腹痛すぎてとかだったらどうしようって思ったぜ……そんな泣くなよ、別に洗えばいーじゃんか…ははっ!気にしいなんだからお前は……うん、うん……大丈夫だって、なんも心配すんな…うん………すぐ帰るから、もう少し待ってろよ…」



     ………今どきの高校生の包容力ってこんな凄いのかな…。

     彼氏、つくろう。そう心に決めた。


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    Replies from the creator

    さめはだ

    DONE成長拓2♀
     これが何度目のデートなんてもうわからない。ガキの頃からの付き合いだし、それこそ二人で出かけた回数なんて数えきれないぐらいだ。良く言えば居心地の良さ、悪く言えば慣れ。それだけの時間を、俺は輝二と過ごしてるんだしな。やれ記念日だやれイベントだとはしゃぎたてる性格はしていない。俺の方がテンション上がっちまって「落ち着け」と宥められる始末で、だからこそ何もないただのおデートってなりゃお互いに平坦な心持になる。

     でもさ……。

    『明日、お前が好きそうなことしようと思う。まあ、あまり期待はしないでくれ』

     ってきたら、ただの休日もハッピーでスペシャルな休日に早変わりってもんよッ!!



     待ち合わせは12時。普段の俺たちは合流してから飯食って、買い物したけりゃ付き合うし逆に付き合ってももらう流れが主流だ。映画だったり水族館だったり、行こうぜの言葉にいいなって返事が俺たちには性が合ってる。前回は輝二が気になっていたパンケーキだったから、今日は俺が行きたかったハンバーグを食べに行った。お目当てのマウンテンハンバーグを前に「ちゃんと食い切れんのか」と若干引き気味な輝二の手元にはいろんな一口ハンバーグがのった定食が。おろしポン酢がのった数個が美味そうでハンバーグ山一切れと交換し合い舌鼓を打つ。小さい口がせっせか動くさまは小動物のようで笑いが漏れ出てしまった。俺を見て、不思議そうに小首を傾げる仕草が小動物感に拍車をかけている。あーかわい。
    1780

    さめはだ

    DONEモブ目線、成長一二。
     鍵を差し込んで解錠し、ドアノブを回す音が聞こえてきた。壁を隔てた向こう側の会話の内容までは聞こえないが、笑い声混じりの話し声はこのボロアパートじゃ振動となって伝わってくる。思わずついて出た特大のため息の後、「くそがァ…」と殺気混じりの呟きがこぼれ落ちた。

     俺の入居と入れ違いで退去していった角部屋にここ最近新しい入居者が入ってきた。このご時世にわざわざ挨拶に来てくれた時、俺が無愛想だったのにも関わらずにこやかに菓子折りを渡してくれた青年に好感を持ったのが記憶に新しい。

     だが、それは幻想だったんじゃないかと思い始めるまでそんなに時間はかからなかった。


    『あッ、ああっ…んぅ…ぁっ…!』

     
    「……」

     ほーら始まった。帰宅して早々、ぱこぱこぱんぱん。今日も今日とていい加減にしてほしい。残業もなく、定時に帰れたことを祝して買った発泡酒が途端に不味くなる。…いや、嘘です。正直、めちゃくちゃ興奮してる。出会いもなく、花のない生活を送っている俺にとってこんな刺激的な出来事は他にない。漏れないように抑えた声もたまらないけど耐えきれず出た裏返った掠れた声も唆られる。あの好青年がどんな美人を連れ込んでるのかと、何度想像したことか…。
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