レモンを切る 故郷の星は、どれだけの時間を過ごしても、ずうっと景色が暗いままだった。でも、地球には朝昼晩という概念がある。
涼は地球に来てから、朝と昼の白い空気が好きになった。特に朝は心なしか少しひんやりとしていて、肺いっぱいに空気を吸い込むと気持ちがすっきりする。早起きは三文の徳という言葉があるが、こういう時に『得をしたかも』と思う。
東京の朝は札幌よりもあたたかいなぁ。とぽやぽや考えながら、寝巻きのまま自室を出る。ほんのり霞む視界がリビングを写す。うごめく人影とタイピング音を認めて、あー、と声を出した。
「おはよう、ケンケン」
ぺたぺたと廊下を歩きながら朝の挨拶をすると、ノートパソコンに向かってなにやら思案顔をしていた賢汰が顔を上げた。
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