祝福写真「旅行、楽しかったですね」
「…楽しかったなぁ……うん……」
一ヵ月前。長年追っていた組織を捕らえることが出来た。達成感に浸る間もなく、迫り来たものは書類の山だった。何日目の徹夜か思い出せなくなった頃、虚ろな目でノートパソコンの画面を見ていた風見の独り言から始まった。
「…これが終わったら、旅行に行きたい…」
おでこに冷却シートを付けて、顎には髭が薄っすらと生えている風見の何の気なしに言った先の見えない休日の予定に、顎髭こそ生えていないが、目の下に毛嫌いするほど嫌いな隈を作った降谷は疲れ切った声で賛同した。
「いいな…旅行…行こう…新婚旅行だな……」
カタカタ、カタカタ、タンッと、一定のスピードで入力作業をしていた風見の指がピタッと止まった。止まった指先と画面を見つめる目はそのままに、風見は降谷が言った言葉の意味を頭の中で考えていた。
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