心の穴、埋めます 見慣れぬ看板に立ち止まった。
心に空いた穴、お埋めします。
緊急事態宣言のあと、ひとりでふらりとやってきた江ノ島は、観光客が少なくて、いくつかの店は閉まっていた。だらりと階段を登り、足のむくままに細い脇道を入る。ざらざらと波の音がする。
黒い猫が横切ったあとをついて行くと、そんな看板があった。
またひとつ、細道に入る。左右を建物に挟まれた、道と言うよりたぶん建物の裏口に通じていたりする通路のようにみえた。看板の矢印を辿ると、小さな駐車場――せいぜい軽自動車が停められるほどのスペースだが、そもそも車が入れるような場所ではない――に、ゴザが広げられてそこには男が座っていた。
丸いサングラスにチューリップ帽の、いかにも怪しい男だ。彼は細い顎を持ち上げて、私を見上げた。
1961