異聞ノア 光あれ。
彼はまずそういったらしい。私は膝を抱えて表でごうごうとたちあがる高波の唸りをじいと聞いていた。船内は静まり返っているが、生き物が呼吸する音が、その心音が、じわじわと暗闇に滲んでいる。不思議と、中の誰も口を開こうとはしなかった。ただ時々何かを諦めたようなため息が、誰ともしれずにこぼれる。私は膝に顔を埋め耳を塞いだ。身動ぎをすると、隣で小さくなっていたインパラが迷惑そうに瞼を持ち上げて私を見たが私は気が付かないふりをする。
光あれとかの人はいったそうだがここに光はない。夜もずいぶん長く続いている気がする。最初はただ、スコールのように激しい雨だったが、いつの間にかこの雨は世界を覆い、大地は海になった。
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