シーザーくん夢小説を狂気だけで書きました。今回、私は初めてローマに来た。
幼い頃からのローマに、1人旅するのが夢でだったのだ。イタリアへ旅行するために、お金を貯め、パスポートを購入し、頭に叩き込んだ大学の教科書をひっぱり出し、イタリア語を復習してきた。
念願のローマは思いほか暑い。だが、太陽が心地よく私を照らしてくれていた。
自分が幼い頃夢見たローマは夢以上に美しい所だった。イタリア人は、皆優しく、私に挨拶を返してくれる。
私は、奮発して買った画質のいいカメラをここぞと使っていくつかの観光地を回ったあと、私が1番行きたかった所、トレヴィの泉までついた。
大通りを抜けた先にある大きく、壮大な噴水が目に映る
私はついため息をついた。
細かく真っ白な彫刻、噴水は大きな飛沫を上げて、時には白、透明へと色をかえ多くの表情を見せた。
ここへ来たのなら、絶対に写真を撮ると決めていた。そう、あこがれのトレヴィの泉をバックに写真を撮ることが私の今回の旅の目的なのだ。
誰かに写真を撮ってもらおう。そう思って周りを見通すと。噴水のある広場のベンチで、女性と話している背の高い青年と、ぱちりと目が合った。
「あっ…」
私は気まずさ故に咄嗟に目を逸らしたが、彼は女性に手を振り別れ私の元へと近づいて来た。
ジロジロ見てしまった…怒らせてしまったのかもしれないと思い、後退りをしようとしたが、彼はすでに私の目の前にいた。
「す…すいません!!揶揄う気はなくて…!」と手を振りながら、思わず謝る。
青年は困ったように瞼を少し細め、振っていた私の手をそっと止めた。私の手を握った青年の手は大きく、優しい手だった。
「ふふ、謝らないで、シニョリーナ」
「あっ…はい…」
シニョリーナ…!!?私が!!?
急にお嬢さん呼ばわりされて、私は動揺してしまう。
生まれてこの方男性とは関わりの少なかったため、初めてお嬢さん呼ばわりされた!と喜ぶ反面、きっとイタリアの男というのは簡単に人を口説いてしまうのかもしれない。という気持ちになる。
彼は、周りのことを気にせずに私に話す。
イタリア人故なのか?
彼はとても距離が近かった。
流れるような曲線的だが、意思の強さを感じさせる眉、彼のゴールドの髪は、ローマの太陽を照り返し、時折色を変えてはプリズムのように反射している。髪飾りは個性的だか、彼の美しさの前には、まさに神がかかったように眩しい。そして美しい。まつ毛は長く、健康的な印象さえ感じさせる。彫りの深いギリシャの彫刻のように、若く逞しい青年だ。
私の手を握ったまま、私を見つながら話す。新緑の瞳は私をずっと映していた。
「ここは、初めてなんだね。」
私は少し浮き足だった気持ちになりながらも答える。
「はい…ローマの旅行自体が初めてです」
というと、彼はまた私に微笑み、私が首にかけていたカメラをそっと撫でる
「よかったら、僕が写真を撮ろうか?」
「いいんですか??」
思いがけない申し出に私は驚いたが、彼は
「さっき君を驚かせてしまったからね。これはそのお詫びだよ。」
とカメラを受け取る。
誰かにカメラをお願いすることは、今までの一人旅で良くあることだった。だが、あんな青年にカメラを託し、自分を撮ってもらうなんて、滅多にないだろう。むしろ彼が被写体になってもいいくらいだ。
そう思いつつ、カメラを渡した
「笑って」
ーパシャリ
小気味のいい音と共にシャッターが切られる。
少々写真を撮られるのは恥ずかしかったが
大好きな場所で、素敵な青年に写真を撮ってもらうなんて、貴重な経験だ。
「ありがとうございます」
すぐに現像された写真が出てくる。
私はとれた写真を確認しようと彼からカメラを受け取ろうとすると、
私の腕を彼の胸へ引き寄せられた。
おっと…まだ終わってないよ?
しなやかな指が自分の肩に触れ、逞しい胸元の感触。私は、感じたことのない羞恥と喜びの入り混じった感情に呑まれる。
「えっ…あっ…」
そのまま肩を抱き寄せられたのだ。
「ほら、もう一回笑って」
青年は、腕の中で呆気に取られている私の方へとカメラのレンズを向け、器用にシャッターを押す。自分が映っている様子は今、見ることができないが、彼と一緒に肩を並べて写真を撮っている状態だろう。
現像された写真が出てくる
私は急に肩を抱き寄せられた驚きと、初めて男の人とここまで密着した恥ずかしさで逃げたくなったが、青年から写真をもらうために踏み留まる。
「ありがとうございます!あの…写真…」
私でも笑えるくらいにしどろもどろとした言い方になってしまっている。
青年はそんな私の様子を見て
「本当に、はじめての子みたいだね。」
と揶揄うように微笑む。
私はまた赤面する。青年と会ってから、ずっと顔が沸騰するように熱い。
翡翠のような目をふと細め、
「ふふ、初心なシニョリーナ。どうだい?綺麗に撮れているだろう?」
と私の手を握り、そのまま先程撮った二枚の写真を握らせた。
そして、
「君が、安全な旅路を送れるように、おまじないをかけてあげる。」と言うと
青年は、その写真にそっと唇を落とした。
私はあまりもの衝撃と恥ずかしさに写真を握りしめながらワナワナと震える。
もうこれ以上、彼の甘く優しい言葉と彼の行動、一つ一つに惑わされるなんて、死んでしまいそうだ。
これ以上のことがあれば、私はもう耐えられない気がする。
彼は、真っ赤になった私の頬を撫で、微笑んみ、引き寄せー
私の頬にキスをした。
もう何も考えられない。頭が真っ白だ。
唇を離した青年は呆然とする私の耳元で
「これは、君へのおまじない」
と囁いた。
その優しく、酩酊してしまいそうなほどの甘い声に倒れてしまいそうになる。それ以上に、恥ずかしさに心臓が飛び上がり、早鐘を打つ。
「あ…あ…ありがとうございました!!!」
彼にお礼だけ言って、私はその場から逃げるように走り去った。
彼におまじないをかけられた、写真をしっかり握りしめたまま。
その後、私は一日を予定の通りに動いていたが、フワフワとした気持ちになってしまって、よく覚えていない。
その後の旅は、不思議と犯罪に巻き込まれることもなく自分にとって、素晴らしい旅になった。
これも彼のおまじないの効果だったりしないだろうか?
きっと、これからどこに行っても、帰国しても、この写真を見る度に、あの美しい青年のことを思い出すだろう。
まるで、おまじないのように、彼のキスを思い出すだろう。
思い出す度に、わたしの胸の鼓動は少し早まる。
また仕事を頑張って、お金を貯めよう。
そしてまた、いろんな国へ旅をしよう。
彼のおまじないがかかった写真と共に。